第6話 大人は優しい嘘をつく
回想終わります
それから一週間、俺は父と先生の二人の大人との約束を守るため一生懸命努力することにした。
努力といっても何をすればもいいかわからなかったため、とりあえずは以前父に買ってもらった宇宙の本を読むことにした。
子どもの吸収は早いもので隅から隅まで本の内容を覚えていた。
ある日、いつもつるんでいたグループのリーダー格の健ちゃんが帰り際に話しかけてきた。
「勇斗、最近は全然俺たちと遊ばないじゃん。付き合い悪いぞ」
トレードマークの野球帽をクイッと上げて言う。
「ごめん。でも先生と約束したんだ。夢を叶えるために努力するって」
「夢ってあれか? 宇宙飛行士。母ちゃんが言ってたぞ。宇宙飛行士は本当にすごい人がなるもんだって。お前天才じゃないじゃん」
「でも先生は努力したらなれるって言ってた」
健ちゃんは笑って、
「大人は嘘つきなんだよ。証拠ならあるぜ。母ちゃんがいつも父ちゃんを嘘つき呼ばわりしてるもん」
「それなら健ちゃんも野球選手なんて無理じゃん」
考えつく最高の皮肉を口にした……が、
「バーカ、俺は天才だからなれるの! まあこんな話はいいや。とにかく明日遊ばなきゃ絶交だからな!」
そういって俺はこれから野球だからと健ちゃんは去っていった。
俺は焦った。
自分の夢と友情どちらを選ぶべきかと迷った。
迷った挙げ句、父に相談することにした。
父は風呂上がりのビールを飲んでいて顔が猿みたいだった。
酔ってるようだったが、俺の話は真剣に聞いてくれた。
「でね、健ちゃんが明日遊ばないと絶交だって言うんだよ」
「んなもん一緒に遊べばいいじゃないか。なんだ、健ちゃんが嫌いなのか?」
「そうじゃないよ! ただね、樋口先生が夢を叶えたければ努力しろって言うから遊ぶの我慢してるの」
「なるほどな……勇斗、これは父ちゃんの意見だがな、努力したとしても夢は叶わないことの方が多い」
「じゃあ先生が嘘つきなの? 健ちゃんが大人は嘘つきだって言ってた!」
「そうだな。大人は嘘つきかもな。ただ先生の話はお前を思ってのことだろうしな。優しい嘘つきなのかもな」
ガッハッハと大口を開けて笑う。
「とにかくな勇斗、父ちゃんが言いたいのは子どもがそんな難しいことで悩まなくていいってこった! 遊びたいなら遊べ! 子どものうちは楽しいことをやるのが一番だからな!」
「そうなの?」
「そうだ!」
父はしっかりと俺の目を見て言った。
「わかった! 明日からは我慢しないで健ちゃんたちと遊ぶ!」
こうして少年のいじらしい努力は一週間も満たずに終わった。
一ヶ月後には宇宙飛行士になることなんて頭の中から完全に抜けていた。
子どもは今目の前で起きていることを現実とする。
大人は子どもが成熟するまではでき得る限り視野を狭ませることで現実を見せないようにする。
そのために大人は優しい嘘をつく。
子どもの頃に見ていた世界は一種のワンダーランドなのかもしれない。
この頃から俺は大人が自分たちとは違う生き物だと意識し始めた。




