第4話 答えのない問いと赤い花
いつもありがとうございます!
「大人になるってどういうことですか?」
と問われた"俺"の答えは!?
“大人になるってどういうことですか?”
突然の彼女の問いに俺は戸惑うしかなかった。
若菜は尚も俺を見つめて問いている。
「うーん……難しいなあ。どうして急にそんなことを?」
「単純な好奇心ですよ。私より年上の人が大人をどう考えているのか知りたくなったんです」
今年で21になる俺は歳では確かに成人として扱われるだろう。
それでもたかだか21年だ。
俺の人生でそんなことを考える時間など一度もなかった。
まあ彼女が真剣なんだ。こっちもちゃんと答えないと申し訳がない。
「えっと……例えば自分の力量をよく理解した上で物事について冷静に考えられるようになるとか?」
頭を捻りだして出た答えは我ながら月並みだったが、まあ18歳の子くらいは納得させられるだろうと思った。
すると彼女は、
「そうですか」とだけ答えて立ち上がった。
「なんだ。帰るの?」
「はい。もう晴れましたしね。それに今日は塾に行こうかと。このままサボってばっかじゃいられませんしね!!」といつもの調子で彼女は言った。
「そう……」
「今日は色々と話を聞いてもらってありがとうございました!」
ペコリと彼女はお辞儀をした。
「あっそうだ。ここに来る途中に綺麗な花があったんですよ」
「花?」
「そう。すっごく綺麗な赤い花! 名前はわかんないですけど後で見てみてくださいよ!」
「うんわかった。それにしても花を愛でるなんてかわいい趣味もあったんだな」
「もう! からかわないでください!!」
頬をぷくっと膨らまして彼女は足早に駆けていった。
跳ねた水溜まりの雫が陽に反射して眩しかった。
時刻は五時を過ぎたあたり。
そろそろバイトの時間になるしと俺もこの場を去ることにした。
石畳を歩きながら考えていた。
俺は何か間違ったことを言ったんだろうか。
彼女は真剣に俺の意見を聞こうとしていた。だから俺も即興ながらも真摯になって答えたつもりだ。
でも答えを聞いた瞬間の彼女の顔は曇っているように見えた。
まあ年頃の女の子なんて皆難しいもんだ。
次会う時にはいつものように笑ってるだろうと考えるのをやめた。
道端に赤い花が咲いていた。
きっと彼女が言ってた花だろう。
鮮やかな赤色が目を引かせる。
ちっちゃな花弁がたくさんついていて可愛らしい。
こんな閑散とした道で寂しく咲いてるよりかは家の中で植木鉢に入れられて世話される方が似合ってるだろうな。
ふと若菜はこんな感じだと頭の中でよぎった。
混ざりっ気のない真紅は彼女の明るさに似ているような気がした。
でもなんで赤なんだろう。
明るさって言えば普通は黄色とかオレンジの方がしっくりくる。
彼女のそれは少し暗いくらいの赤が似合う。
ああ……そうだ。
俺が彼女に抱いていた違和感はこれだ。
彼女の明るさにはどこか翳りがある。