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ベゴニア   作者: ニャンボ
第1章 杉崎編
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第2話 大人になるってどういうことですか?

いつもありがとうございます!

2話目です。

今回の小説は男目線と女目線の二つの視点から描いていこうかと思いますのでよろしくお願いします。

 梅雨時期にしてはか細い雨だった。

 今年の梅雨入りは七月に入ってからと遅めで、湿気と暑さで蒸した夜が続いた。

 

 大学からの帰り道には大きな公園がある。

 大きな公園といっても特別賑やかなわけではない。子ども達がはしゃいで遊ぶのは住宅街に面した遊具がたくさんある方で俺が通学に使っているこの道は、それこそ雨の日なんて人が通ることが珍しいくらいだ。

 

 一つその通りに何か特徴を述べるとしたら三角屋根の時計台だろう。

 時計台といっても雨宿りのための休憩所に時計をつけただけのもので俺が勝手にそう呼んでるだけだ。

 その屋根の下に木製のベンチが申し訳程度に置かれている。

 

 雨の日にはそんな時計台の下で雨宿りをする。

 ひんやりとした空気と落ち着いた雰囲気がとても心地よかった。

 誰もいないところでボーっとするのが一つの習慣になっていた。

 

 今まではこの場所を一人占めできていたのだが、ここ最近雨の日には俺と同じように雨宿りをする子がいる。

 吉野若菜(よしのわかな)という女の子だ。

 長い黒髪がよく似合う愛嬌(あいきょう)のある子で、俺のしょうもない話にもよく笑ってくれる。

 いつも制服を着ているからこの近くの高校に通ってるんだろう。


 雨の日にはほとんど会って話すものだからもう親しい間柄と言える。

 ただこんな見ず知らずの男と雨宿りをして話すなんて酔狂な子だなとも思っていた。

 こんなことをするくらいなら部活をするとか友達と遊んだりしたらいいのに。こんなとこで時間をつぶすなんてそれこそ青春の無駄遣いだ。


「こんにちは杉崎さん!!」

溌剌(はつらつ)な声がした。

 走ってきたのか若菜は息を切らしていた。

 それからそのまま無遠慮に俺の隣に座った。

 見ると彼女は雨に濡れていた。

 黒髪を伝う雫が妙に艶っぽいななんて思ったのを慌ててかき消した。

「なんだびしょ濡れじゃないか。傘さしてこなかったのか?」

「忘れたんですよ。天気予報見てなかったし」


 うっかりしてるなぁと俺は笑った。

「ほらタオル。まだ使ってないから。そんなんじゃ風邪ひくよ」

「ありがとう!」とタオルを受け取って若菜は笑った。


「ところで若菜ちゃんは部活とかしてないの? 俺ん時は高校生ってもっと忙しいもんだったけどなぁ」

 ある程度の雑談をしてから、俺は気になっていたことを尋ねてみた。

「部活はしてません。でも予備校には通ってますよ。ほら、駅前にあるでしょ? あそこです」

 髪をふきながら彼女は言う。

 体のラインが浮き彫りになってて変に意識してしまう。

 ……てかエロいな。

「ああ、あそこなら知ってるよ。俺も近くでバイトしてるし。結構すごい結果出してるとこだっけ。すごいな、頭いいんだ」

「そんな大層なものじゃないですよ」

 照れるでも謙遜するでもなく彼女は言った。

「……それに最近はあまり行ってませんしね。サボり魔なんです、私」

「そっか。まあそんな時もあるよ。やりたくない時には無理にやらなくてもいいんじゃないか?」


 彼女にも何かしら事情があるのだろう。俺みたいな赤の他人が彼女にとやかく言えるわけもなく、できるだけ優しく振る舞った。


「……そーいうものですか?」

「そーいうもんだよ」

 しばらく自身で考えて振り切ったようだ。彼女は決心したように言った。

「……うん、わかりました! 私もやりたい時だけやるようにします! すっきりしました! ありがとう杉崎さん!」

 嬉しそうに若菜は笑った。

 でもなんとなくだけど彼女は怒って欲しかったんじゃないかな。

 そんな考えが頭に浮かんだ。

 彼女にしてはこんな風な歯がゆいというか何かつまったような返事は珍しい。いつもはもっと単純だ。


「ねえ、杉崎さん」

 ちょいちょいと服の裾を引っ張って若菜は俺を見据える。

 彼女の距離感が近いせいか相変わらず目のやり場に困る。

「すっきりついでにもひとつ聞きたいんだけど……」


 一拍おいてから吉野若菜は尋ねた。

「大人になるってどういうことだと思います?」

 

 

 

 

 

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