第17話 光
いつもありがとうございます!
今回は前の話の続きです。
相田さんの最後のお節介が始まりますね。
誰もいない路地裏に2人の会話は小さく響いていた。
繁華街になりそこねた街のネオンが目障りで、早く朝になって欲しいと思った。
「ありがとな、杉崎」
憑きものが落ちたようにスッキリとした様子で相田さんはもう一度礼を言う。
「いえ、俺こそ今までありがとうございました。お世話になりました」
そう言って俺はこの場を去る。
これでこの人とはもう会うことは無くなるのかもしれない。
連絡先がわかっていても携帯電話が遠い距離を精算してくれるわけでもない。
たまに昔のことを思い出して懐かしんだりするのも悪くない。
ただそんな淡い思い出も時間と共に忘れ去られてゆくのが少し寂しいだけだ。
テレビで最近見るようになったバンドが(人生は出会いと別れでできている)って言ってたから。
あんな年端のいかない他人の歌のどこに説得力があるのかもわからないけどとりあえずは乗り越えて行くしかないんだろうなぁ、生きてるうちは。
さようなら、相田さん。
「おいおい、帰んのか?」
肩をグイッと引き寄せて相田さんが言う。
「いやだって、もう満足でしょう?」
「まあそうな。俺の方はもう言いたいこと言わせてもらって万々歳だ。あとはそうだなぁ、お前らがどうなんのかだけ気になるんだよなぁ」
「はい?」
「お前らの関係中途半端なままじゃんかよ。これは見届けないとなぁって。で、お前はいつ告るんだ?」
「そう言っても相田さん。すぐに実家に帰って手伝いするって」
「そんなんよりお前らのことの方が気になるだろ。いいんだよ、後で親父に言っとけば」
なんだろうか、この……さっきの寂しさを返して欲しい。
「それはよくないですよ! 早く帰ってあげないと!」
早く帰ってください。
「あぁ、じゃあわかった。もう俺が帰る今週中には決着つけろ。そんで俺に報告しろ。好きなんだろ、若菜ちゃんのこと」
「はあ? そもそも俺は若菜のこと何とも思ってませんし!」
必死で否定しようとする。
「……ガキかお前は」
……何か今猛烈に哀れまれてる気がする。
「まああれです。ちょっとその……カワイイとは思ってますけど……そうです! あれです、前に相田さんが言ってた守ってあげたくなるとかそんな感じ!」
「ふーん」と顔を近くづけてくる。
酒が臭い。どんだけ飲んでんだよこの人は。
「悩みもあるそうだし、ほっとけないなぁってそれだけですから!」
「ふーん、そう」
「わかってくれました?」
「わかった。お前は若菜ちゃんにゾッコンだ。今すぐデートにでも誘ってこい!!」
……この人は人の話を聞かない。
「えっと……その気が向いたら」
「何だそりゃ」
……何か今猛烈に呆れられてる気がする。
こんなやりとりを繰り返し繰り返し、ついに俺が折れることになった。
「わかりましたよ。一回だけですよ」
「おういいぞ! おもしろ……上手くいくといいな!」
「今面白くなってきたとか言いませんでした?」
「いいや?」
相田さんが首を振る。
本当面倒くさい人だな。
実際、この人のせいで今ちょっと若菜を意識してしまっている。
いや、実はもっと前から意識はしてたのかもしれない。
それでもなんだか腑に落ちない。
この人に急かされて決めてるからか。
少し若菜のことを考えてみる。
いつも明るくて笑っていて、たまーにものすごく辛そうな顔をする。あとスタイルがいい。スラっとしてて控え目でとても俺好みで……
これ以上考えると自分がどんどん下衆になっていきそうなのでやめることにした。
「なあ杉崎、俺にとってこれが最後のお節介だ」
突然相田さんが真剣な顔で語り始める。
「はあ……」
「俺は自分の夢を諦めることになったけどさ。それをお前が気にしてモチベーション下げてないかって思ってさ」
「どうでしょうね、俺自身まだ決めきれてないですし」
「ああ、それでいいんだよ。しっかり悩め。早く答えを出さなきゃいけないわけじゃない。お前はお前でモノを考えて決めていくんだ」
辺りが少しずつ明るくなってきた。
飲み屋にいたのが長かったのか、ここでした話が長かったのかまあそんなことはどうでもよかった。
「俺もさ、さっきは散々文句言ってたけど案外実家の手伝いをして生活するのも悪くないなって思えんだ」
「はい」
「俺も新しい生活を頑張るからさ、お前も頑張れよ若僧!」
すぐさま答えが出るわけではない。
新しい生活を受け入れようと努力する目の前の人と、路地の奥から漏れ出る朝日があまりにも鮮やかだったから。
能天気かと言われるかもしれないが今はすごく清々しい気分でいられる。
暗い道の先に少し光明が見えた気がして、俺は光の方にそっと手を伸ばしてみた。
第一章も佳境となってまいりました。
これからもよろしくお願いします。