第15話 晴天の霹靂
久々に相田さんが出ます!
僕の好きなキャラ!
午後6時、若菜が予備校へと向かった後、俺もバイトをするために駅前へと歩いていた。
予備校のような勉強する場の多い駅前は同時にゲームセンターやカラオケ、ボーリングなど、遊ぶ類いの場も少なくはない。
だから俺の横を通り過ぎていくのは奇抜な格好をキメた若者やまだ化粧慣れしてない女子高生が多い気がした。
まばらな人だかりを抜けてコンビニの裏口から店に入ってゆく。
相田さんが既にレジ打ちをしていた。
「よう、今日もあれか? 若菜ちゃんと雨宿りか? なんか密会みたいな関係だな、お前らって」
「からかわないでください。こっちもなかなか大変なんですから」
「大変って何がだよ? また何かややこしいことにーーいらっしゃいませー!!」
自動ドアが開き、入店してきた客に相田さんが即座に挨拶をする。
こういうのをメリハリが有るって言うんだろうな。俺も見習わなければならないことだ。
「で、また何かあったのか? ついに告られたか!?」
面白そうに顔を近づけてくるのをのかして俺は言った。
「違いますよ。悩みの方です。やっぱり何かしらあるみたいで。どうも彼女の父親が昔、彼女と母親を置いて蒸発しちゃったみたいで」
「おいおいそりゃあまた思ってたのよりだいぶ重そうだな」
「そうなんですよ。でも彼女に問いただすわけにもいかないし。聞いたところで俺に何ができるかもわからないし」
「ん、まあそうだわな。そんなものは金があっても愛があっても解決できる問題じゃない」
「何もしない方がいいんでしょうか」
「いやいや、そういう事をちょっとでもお前に言うってことは誰かに聞いて欲しいってことだろ。てかお前、そこまで踏み込んでんなら責任はちゃんと持てよ。多分お前だけだろ、そんなことを知ってるのは」
「責任って……アホですか。彼女がそんなこと望んでるわけないじゃないですか」
「バーカ! お前それは脈有りだろ! もうお前がーーはい! エイトスターを2箱ですね! かしこまりましたー!!」
そう言って後ろの棚から迅速にタバコを取り出す相田さんを少し格好良く思ってしまった。
多分お客さんにこの会話は筒抜けなんだろうなぁ。だいぶ大きな声で喋っているから。
コーヒーひと缶だけをがんと置いてちゃんと仕事しろよという目で見てくる禿げたサラリーマンにちょっとイラッとした。
こっちだって今大事な話をしてるんです。
なんでコーヒー1缶の客に気を配らないといけないんだ。
……いかんな、そういえば今は仕事中だった。
その点は相田さんをやっぱり見習わなきゃな。相変わらず笑顔で接客している。
「それで、お前はどうしたいんだよ。自分のこともあるんだろ? 他人のことばかり気にしてたら身がもたんぞ」
「まあそれはそうなんですが……それを言うなら相田さんだってそうでしょ? お節介焼きだし」
図星なのか頬をポリポリ掻きながら相田さんは困った顔をする。
「確かに俺はお前らのことが気になってるが、いつまでもここに居るわけじゃないしなぁ」
「え?」
「そういやお前には言ってなかったっけか。俺は今週限りでこのバイト辞めるんだよ。んで実家戻って家業を継ぐわ」
「バイト辞めるって、そんな急な」
「いや、急ってこともないぜ。このことは前から店長と話し合ってたし」
そう言われて相田さんが休憩室で店長と2人きりで話していたことを思い出した。
「相田さんたしか実家東北の方でしたよね? じゃあ帰郷するってことですか?」
「そう、俺は宮城から上京してきたからな。親父に無理言ってなんとかやってきたんだけどな」
「えっ、でも夢があるんじゃないですか。ほら、メジャーデビューするって。有名になってテレビにも出てやるって、俺に言ってくれたじゃないですか!」
あまりに突然のことだから俺はつい責め立てるように言ってしまった。
「そうだな。そう思って10年は仲間と頑張ってきたよ。でもさ、もう俺も26だぜ!? 夢見る頃はとっくに終わってたんだよ」
「そんな……」
「それにな、これは元から決まってたことなんだ。次のCDが注目されなきゃ諦めようって。で、結果はこの通りさ」
「それじゃあ僕はーー」
どうすればいいんですかと言いそうになった。
今まで鬱陶しいたさえ思っていたこの人のお節介がなくなるとわかった途端に不安で押しつぶされそうになる。
客のいなくなったコンビニには沈黙だけが流れていた。
……はい。