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ベゴニア   作者: ニャンボ
第1章 杉崎編
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第10話 親父①

回想入りまーす

 中学に入ってからは父の言葉を借りてからかそれはもうやりたい放題であった。

 小学校から付き合いがある健ちゃんが上級生の悪い噂の立つ人たちと絡み始めた。それに流されるまま付いていき、俺はグレていった。

 特別悪いことをしてはいなかったが、この頃から俺は反抗することに格好良さを見出すようになっていた。

 子どもの頃に植え付けられた倫理観ーー正義が悪を一方的に蹂躙していくことに反感を覚えた。

 ちっちゃな悪が巨大な正義を倒そうとする方がよっぽど共感することができた。

 そもそもに一方が正義で一方が悪なんて図式はこの世の中存在しないと思うのだが……

 ただそんな反抗心をどこに向けるかにおいて、学校は恰好の的だった。

 自分の反抗が果ては世の中を変えるのかもしれない、そんな浅はかな思い違いまで生まれていたのだからこの頃の俺は傍目から見て相当に馬鹿だったのだろう。

 曲がった偽善心から俺は誤った道へと進んでいった。

 

 父は俺の反抗期には特別何も言わなかった。

 俺も父に対しては反抗することはなかった。

 家の中ではいつも通りの会話、いつも通りの食卓、いつも通りの生活をしていた。


 ただ一度だけ父は俺を殴ってまで叱ったことがあった。

 つるんでいた先輩からタバコをもらった日だった。

 俺自身はタバコを吸うことに興味は無かったが、周りの雰囲気からして断ることはできず、仕方なく鞄の中に忍ばせておいた。

 父に見つかったのは本当に偶然の出来事だった。

 父は俺の鞄からタバコを取り出し、平手で顔をぶった。

「お前は、何をしているんだ!! 何でこんなものを持ってる!?」

 まさしく鬼の形相だった。

「俺はお前のやりたいようにやれと言った! だがなんだこれは! 未成年がタバコを吸ってカッコつけることがお前のやりたいことなのか!?」

 俺の胸ぐらを掴んで激しく怒鳴り散らす父は泣きそうな目をしていた。

 俺がもらっただけで吸っていないことを伝えると、父はゆっくりと落ち着きを取り戻した。

「熱くなったとはいえお前を殴ってしまった。俺は父親失格だな……」

 最後に消え入りそうな声で父は言った。

 俺は何も返すことができなかった。

 

 父は以前はタバコを吸っていたらしい。

 母と付き合いだして結婚して、妊娠がわかったとき禁煙を決意したそうだ。生まれてくる子の健康に害がないように。

 その話を母から聞いたとき、自分が情けなくて涙が出た。

 あの人は……人のことを本気で思って本気で叱ってくれる人なんだと思った。

 

 次の日、俺は健ちゃんにグループを抜けることを告げに言った。

 健ちゃんは反対した。抜けたら報復がくると脅してきた。

 事実、先輩達とつるまなくなってから数回、見覚えのある顔が俺を抜けさせまいと脅してきた。

 断ると何度も殴られた。

 それでも意志は曲がることはなかった。

 だんだんと俺のことは興味がなくなったようで報復はされなくなった。

 

 それから俺は悪行からは足を洗い、必死で勉強して、公立の頭のいい高校に入学した。

 そして高校2年の冬、父は突然倒れた。

 

 

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