未知のもの
裂けた空間から不気味な笑い声が響いて、青白く細い指、そして頭が半分。その光景に立ち竦む私達を置いてどんどん空間を裂いて現れる。
「見いつけた」
まるで今にも踊り出しそうな楽しげな声。
ヒュウ、と空気になってしまった喉の音に、ミユの身体が動き出す。
いつのまにか手に握っていた短剣で既に出た頭の目を狙って斬りかかった!
「逃げて! 」
「い、嫌! 一緒に逃げよう! 」
何が何だかいよいよわからない。けれど、ミユが私を逃がそうと自分を犠牲にしようとしていることはわかった。赤色の雫を垂らす短剣を持つ両手を引っ張る。
「あぁああああ!! よくも、目を! 逃がさない逃がさない逃がさない!! 」
「今のうちに! 」
街の方に逆戻りだ。上半身どころか下半身まで勢いよく裂け目から出た何者かは、まるでピエロのような格好で、斬り付けられた目から滴る血でホラー映画さながらのモンスターのようだった。
「セリナ、これ持ってて」
「えっ、何!? 剣の入れる方っ? 」
「短剣の鞘! 落とさないでね! 」
逃げる為、校門に向かって走りながら渡されたそれは黒い鞘。力を込めて落とさないように握りしめた。
「あぁああああ!!!!」
怒り狂っているピエロはがむしゃらにこちらに向かってくる。ミユは短剣を構えた。ーーそして。ピエロの懐に入り、腹部を刺す。短剣を引き抜くまで、一瞬のように感じた。ピエロから距離を取ったミユは短剣の血を振り払う。
「ああ、所詮は失敗作。仕事が遅い」
新しい人の声がした。
「スカーレット様……! アァアアア!! 」
ピエロの悲鳴。頭を抱えてうずくまっている。
いつのまにか私の隣に人が立っている。ヨーロッパ貴族のような服装の、腰に剣を装備している男は、私を見て、それから現れた男に気付いたミユを見た。
「どちらか一方が……。ふむ」
ほんの一瞬。私は地面に身体を付けていた。血が出ている。痛い。何故。ああ、あの男にやられたんだ。思考が追いつかない。
「セリナ!! 」
「そちらは武器を持っているな。僅かに力を感じる。こちらはただの人間か? 」
ミユが危ない。助けなきゃ。立ち上がらないと。震える手足に力を込める。
「ミユ!! 」
顔を上げる。男はミユに接近し、ミユの首に手を掛けていた。
「あ……ああ……! 」
ミユが死んでしまう。殺されてしまう。駄目だ。動け。動け。必死に手を伸ばす。空気を掠める。
「にげ、て……!」
「美しい友情だ。さて、お前が人外で間違いないな? 」
「……ない」
何を言っているのだろう、ミユは。男は。ミユは抵抗を止めてぐったりとしている。
「任務を達成した。帰るぞ。そいつはこのままなら空間に巻き込まれでもして勝手に死ぬだろう」
「ミユ、ミユ…!やめて!! 」
男は腰から引き抜いた剣で空間を裂いた。ミユを掴んだまま、頭を抑え続けるピエロを蹴りで破れた空間に入れる。
ミユが訳の分からない奴らに連れていかれる。
手を伸ばす。届かないのはわかっている。それでも届けと手を伸ばす。すると、キラリと光る『何か』がひゅんと空を切り、閉じ行く空間へと向かって行った。『何か』が何かを貫いた。そんな感覚があった。
ーーそして私は目を閉じた。