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93話 漁夫の利





 乾いた風が、砂塵を巻き上げ戦場を駆け抜ける。


 南の大陸、通称『シコク』の東端にある大きな街。

 俺たちUnbreakaBullは、プロゲーマーにランドマークを無理やり被されるというスクリムTier2の洗礼を受けていた。


「六割戦闘(ファイト)になる。覚悟しろよ」

「「「了解」」」


 けれど、戦意は萎えていない。

 これでも俺たちは、海外の強豪プロゲーミングチームを撃ち倒し、U-18全国大会を優勝したのだ。


 相手は格上。その可能性が高い。


 それでも、まったく歯が立たないわけじゃない。


 一対一なら、他チームが干渉しないタイマンなら、チャンスはあるはずだ。


「足音聞こえました。方向は北西、コンテナ群、距離は五十三メートル、敵チームはどうやらそこで物資を漁っているようですね」

「了解、物資を漁り次第、南の廃墟群に移動するぞ。そこならコンテナ郡からこちらに移動するのに中央の空き地を通らなきゃいけないはずだ」


 いつも通りのベル子の索敵チートを駆使して、敵チームの情報を把握。

 そして、その位置に応じて適切な作戦を立てる。


 中央の空き地前、塀裏にはジル、三階建廃墟には奈月を待機させれば、一気に壊滅させられることはないはずだ。


 これがチーム対チーム。

 タイマンじゃ負けない根拠の一つ。

 敵チームが単体であれば、裏どりされる心配も少ないし、動きが予想しやすい。

 この状態であれば、広範囲索敵チートのベル子がいる俺たちが有利。


「クイーン、物資は揃った、戦えるぞ」

「私も」


 ジルと奈月の報告を聞いて、すぐさまマップを開く。

 幸い、安地は俺たちの現在地『シコク』に寄っていた。


「オーケー、安地も寄ったことだし、ランドマークかぶせてきたチームと戦うぞ」

「了解です。このまま音を聴いてますね」

「頼んだ」


 俺も得意武器のvectorのカスタムを確認して、投げ物を装備する。


 スクリムは『RLR JAPAN SERIES』のルールとほぼ同じ、四人チームのスクワッドが十六組、合計六十四名で戦う。

 大会は物資のわきが通常の三倍。

 よって、相手の物資不足を期待することはできない。


 正真正銘、力と力のぶつかり合い。


「ジルは空き地前塀裏待機、奈月は三階建廃墟の屋上で待機、ベル子はコンテナ群にギリギリまで接近してくれ、細かい判断は任せる」

「「「了解」」」


 ランドマークから近いこともあって、このシコク東端の街での立ち回り練習は比較的多めにこなしている。

 連携ミスはまず起こらない。


 ……わざわざランドマークをかぶせてきたんだ。どのチームかはわからないけど、自分たちの腕によっぽど自信があるんだろう。


「さぁ……どう動く……?」


 スクリム一戦目だというのに、汗でTシャツが体にはりつく。


「タロイモくん、足音聞こえました。四人、およそ五メートルの等間隔でコンテナ群から少しこちらに近づいてきてます」

「ベル子、自分の足音は聞かれてるか?」

「いえ、聞かれてないです。距離は四十、ここから足音を聞けるのはたぶんわたしだけのはずです」

「了解、そのまま情報をとってくれ」

「わかりました」


 俺は今いる廃墟群から西へ離れる。


 敵はコンテナ群からこちらを警戒するそぶりは見せているが、一向に突貫してくる気配は無い。

 俺たちが高校生チームとはいえ、さすがにエイムごりごりで勝負はしてこないか……。


 それなら好都合。


「ちょっとシンタロー、どこ行くの?」

「グレネード入れる」


 奈月にそういうと、裏手の車庫にあるバイクに乗り込む。


「た、タロイモくん? そのあたりから敵の位置まで百五十メートル以上あるんですよ? グレネードなんて届くはずが……」

「そうよ、せいぜい空き地前で爆発して自分たちの位置を晒すのがオチよ。やめておきなさい」


 訝しげな声をあげるベル子と奈月。

 当然の疑問だ。


「俺だって、奈月やジルやベル子みたいに、このスクリムまで自分の強みを活かす特訓してきたんだ。いいから俺を信じてくれ」


 たしかにグレネードはどんなに助走をつけて投げても、百メートルが限界。

 けれどとある方法、RLRというゲームの抜け道のようなシステムを使えば、可能なのだ。


「クイーンの決意、しかと聞いた。もし位置がバレて敵が突貫してこようものなら、このキングが蜂の巣にしてやろう」

「ありがとうジル。頼んだぜ」


 大きく息を吐いて、投擲反復練習のデータを頭の中に駆け巡らせる。


「ベル子、敵の位置は?」

「た、タロイモくんからの距離、およそ百六十メートルのコンテナ群、小さな鉄塔が立っているあたりです!」

「オーケー、グレネードを入れる」


 バイクのエンジンをかける。

 低い音が廃墟群に響き渡った。


 時間はかけられない、一撃で確実に削る。


「行くぞ……ッ!」


 アクセルを入れ急発進。

 廃墟の入り組んだ道。その中で唯一、目標までまっすぐ通っている小道を、時速105kmで駆け抜ける。


 グレネードを百メートル以上に飛ばす。


 距離の調節は少し難しいけど、方法は至極シンプル。


 投擲時のスピードを、あげればいいのだ。


 バイクのハンドルから片手を離し、グレネードを腰から手に取って、雷管を口で抜く。


「このあたりだ……ろッ!」


 方向、角度を調節し、グレネードを目一杯力を込めて投げる。


 RLRでは、どんな姿勢でも投擲時のキャラクターの肩の強さは変わらない。

 投げた時のスピードによって、投擲距離に違いがでる。


 つまり、バイクに乗りながらグレネードを投げれば。


「お、おおお、お! なんか黒い点がすっごい高いところを飛んでます!」


 投擲距離は百メートルの限界を超える。


 空気が震えた。


 グレネードが爆ぜ、土埃がコンテナ群に舞う。


 キルログに、敵チームの一人が気絶を示すログが表示された。


「ちょっ……本当に一人とんでるんだけど……」

「撃ち合いが化け物すぎるプロゲーマーに勝つ作戦その一。射線を合わせないでグレネードで戦う、だ!」

「…………芋をこじらせるって、怖いわね」

「ひ、一人削れたんだからいいだろ! ベル子! 気絶(ダウン)した敵の位置にもう一発グレネード入れてくれ!」

「了解です!」


 ベル子がグレネードを入れると、気絶(きぜつ)した敵に確殺(完全にキルが入り、蘇生できない状態のこと)が入る。


「敵、慌ただしく動いてます! 奈月さん、頭晒すかもです!」

「今見えた」


 廃墟、三階建て屋上から、kar98kの轟音が響き渡る。


 それと同時に、キルログに気絶(ダウン)無しの即死ログが流れた。


「流石は2Nさん! これで四対二、数的有利が確保された。あとはわかるなジル!」

「もちろんだクイーン。俺たちのコンビっぷりを見せつける時がきたようだな」


 幾度となく練習してきた。

 敵が予想外の奇襲で動揺し、尚且つ数的有利を確保した状況なら、この変態とベル子と一緒に近距離戦をおしつけるだけで勝てる。


「奈月、カバーは頼んだ! 三人で突っ込む!」

「了解」


 キルログを確認したところ、敵チーム名はBlack Serpentia。

 紛れもなくRLRプロリーグ『RJS』で活躍しているトップチームだ。


 通用する……!

 俺たちの練習の成果が、プロゲーマーに通用する……っ!


 コンテナ群にジルと共に突っ込み、足音を聞く。

 ……無音。半径三十メートルに敵はいない。


「ベル子! こっちまでよってきてくれ! 三人である程度かたまるぞ!」

「わかりました!」


 奈月の射線の通る場所で、ベル子の索敵を駆使し、そしてジルと俺で撃ち合う。


 コンテナ群ならどこでもグレネードを入れられるし、おまけに数的有利、かなり俺たちに有利な状況だ。


 いける。絶対にいける!


 そう、確信した刹那。


 遠くで何かが爆ぜる音が聞こえた。



「えっ……?」



 キルログに、ベル子の即死を告げるログが、流れる。


「ど、どこからやられた!?」


 聞いても返答はない。

 RLRのシステム上、キルされた味方はボイチャによる通信を遮断される。


「シンタロー! 山上っ!」


 奈月の言葉にすぐさま反応し、東方向にある大きな山を見る。

 太陽光にきらりと光る何か。


 おそらく、スコープのレンズが反射した光。


「くっそ……! 漁夫のスピード速すぎるだろ!」


 流れたキルログ、銃声で、俺たちUnbreakaBullがBlack Serpentiaと交戦していると知った別チームが、漁夫の利を得ようと攻撃してきたのだ。


「ジル! いったん引くぞ! 奈月、カバー頼む!」

「「了解!」」


 やっぱ一筋縄じゃいかないか……。


 俺は次の立ち回りに頭を悩ませながら、スモークを焚いた。













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― 新着の感想 ―
[一言] グレネードと奈月の狙撃で二人倒したから四対三じゃなくて四対二ですよね?
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