表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/104

幕間 世界最強の芋が、ダイアモンドルーラー、そして2Nと出会う話。


 この物語は、雨川真太郎が、2N、ベル子、ジルクニフと出会う前の物語。


 * * *


 乾いた空気。

 暗い部屋。

 充血した瞳。

 ヘッドセットから聞こえてくる銃声を頼りに、意識を覚醒させ、青白い光を放つディスプレイを見つめる。


「……っ」


 ゲーム内、鬱蒼と茂る密林。慌ただしく動く敵の足音。

 それらすべてを聞き、場所を把握。

 一人一人背中をとり、半ば機械的にエイムを合わせ殺していく。

 もう何十時間、そうしていただろう……。

 寝る間も惜しんで、向かい来る敵を殺し続けてきたけれど、それでも、心は満たされない。


「もっと……もっと、強くならなきゃ」


 FPSが上手くなっても、どれだけ強くなっても、父さんと母さんは戻ってこないし、自分の弱さが変わるわけじゃない。

 そんなことはわかりきっている。

 けれどもう、どうしようもないのだ。

 この気持ちを、罪悪感を、何かに昇華しなければ、どうにかなりそうだった。


「…………」


 勝利を告げるリザルト画面を、無言で見つめる。


「……弱い。弱すぎる」


 アジアサーバーじゃもう負ける気がしない。

 ……どいつもこいつも、銃口を置いていれば自分から殺されにくる下手くそばかり……。


「ナメてんのか……」


 苛立ち。滞り。その悪感情は眠気を吹き飛ばし、俺の意識をさらに覚醒させる。


「もっと……もっとだ」


 強さを実感させてくれる相手を、自分より強い格上を殺さなきゃいけない。

 じゃなきゃ嫌になる。なにも守れなかった自分を、殺したくなる。


「…………」


 ゲームを一旦閉じて、SNSで1on1の募集がないか検索する。

 しばらくすると、戦績が若干自分より良いプレイヤーを見つけた。


「…………俺より、強い」


 心臓が、ドクンドクンと脈打つ。

 相手の名前なんか見えない、見えるのは、戦績上では俺より強いという明確な事実だけ。


「もっと、強くなれる」


 瞳をうつろにして、ゆっくりそう呟きながら、1on1の申請を送った。


 * * *


「ルナ、今日も部屋でおとなしくしているのよ」


 優しい音、母親の声。


「……はい、ママ」


 私は、小さな子供部屋で、ベッドテーブルに置かれたパソコンのディスプレイを見つめながら答える。


「…………」


 部屋の入り口にある姿見を見つめると、病弱そうで、特異な容姿の少女がいた。

 ……私だ。

 真っ白な髪、真っ白な肌、そして真紅の瞳。

 三万人に一人の確率で発症する、先天的な病。いわゆるアルビノというやつだ。

 人と違うこの容姿、周りから天使みたいだとかエルフみたいだとか言われるけれど、私にとってはこの容姿も病弱な体も、呪いのようにしか感じなかった。

 この病のせいで外にも出られないし、友達をつくることもできない。


「……はぁ」


 大きくため息を吐きながら、マウスを動かし、最近ハマっているFPSゲーム『RLR』を起動する。

 体の弱い私が唯一、体格差や運動能力に関係なく、いろんな人たちと勝負できるモノ。

 それがFPS。eスポーツだった。


「……」


 けれどそれも、だんだんと飽きてきた。毎日毎日、ベッドの上でゲームをする日々。それだけやっていれば馬鹿でも上手くなる。

 北米の野良サーバーの敵じゃ弱すぎて相手にならないので、プロのeスポーツチームに最近入ってみたりもしたが、心躍らされるプレイヤーはいなかった。

 現実と同様に感じる孤独感。

 私は強すぎたのだ。

 ……どのプレイヤーも、ただの的当てゲームなのに、照準を合わせる(エイム)スピードが遅すぎる。


「退屈……」


 もうそろそろこのゲームも引退かな。

 そう、諦めかけていた時。


「……ん?」


 1on1の申請に、気になる名前が表示される。


「ASサーバー……Sintaro……」


 私は、この名前を何度か聞いたことがあった。

 まだどこのチームにも属していない、ソロ専門のRLRプレイヤー。銃を使って撃ち合うRLRでは珍しい、投げ物ムーブが得意らしい。

 チームメイトとのボイスチャットはいつも適当に話を聞いていたので、あまり覚えていないけれど、この……しんたろ? と、撃ち合うと、それまで積み上げてきたプレイング、ムーブを、根底から覆されてしまう……らしい。


「こんなのただの的当てゲームでしょ」


 いかに速く、相手の頭に照準(エイム)を合わせ、そして引き金を引くかの勝負。

 速く、そして繊細な方が勝つ。

 FPSとは、RLRとは、そういうモノなのだ。


「……お手並拝見」


 並いるプロゲーマーに、プレイングやムーブを覆されると言わしめた腕前がどんなものなのか。

 私は少しだけ、胸を高鳴らせながら、申請を受諾した。


 * * *


「……はぁ……はぁ……っ」


 きれる息。

 たれる汗。

 赤くなる頬。

 ディスプレイ内に広がる戦場、廃墟群にこれでもかというほど意識を集中させる。


「お、おかしい! おかしすぎる!」


 視界は敵の発煙弾により、真っ白でなにも見えない。

 今警戒すべきは背後からの奇襲、私はすぐさま振り向き、警戒する。

 けれど……。


「ッ!?」


 目の前に、手榴弾がカチンと音を立てて転がる。

 雷管を抜き、着弾と同時に起爆するよう調整されていたであろう手榴弾は、砂塵を巻き上げて爆ぜた。


「……これで、九連敗……っ!」


 ギリッ、と音が鳴るくらい奥歯を噛み締める。


「今度こそっ!」


 勝負は十本先取、先に十回敵を倒したら勝ち。それなのに、私は未だ、しんたろを一度も倒せていない。

 ……FPSは、RLRは、ただの的当てゲーム。

 いかに速く敵の頭にエイムを合わせるかの勝負。

 そんな私のプレイング、ムーブは、しんたろによって根底から覆される。


「……一度も……ただの一度も、撃ち合えない……っ!」


 銃を使って勝負するRLRで、エリアの狭いはずの1on1専用のマップで、まともに撃ち合えない。

 未来予知とも呼べるべき索敵、戦略と、正確無比の投擲能力で、私が最も得意とするところのエイム勝負、早撃ち勝負をさせてもらえない。

 ことごとく、手榴弾や火炎瓶で焼かれ、殺される。


「……強すぎる……っ」


 完全敗北。

 その二文字が脳裏をよぎる。

 ……いや、まだ諦めるには早い。

 エイムで勝負できれば、私にだってチャンスはあるはずだ。

 投げ物で勝負しようとするということは、彼は撃ち合いがあまり得意じゃないと考えるのが自然。


「私の位置がバレているのは、勝負を焦り、彼を探し回って大きく足音を立ててしまっているのが原因……なら……」


 私はゆっくり歩きながら、背中をとられない強いポジションに身を隠す。

 こんなプレイングはじめてだけど、彼に勝つためには仕方がない。


「勝つ……なんとしてでも……っ!」


 心臓が、強く、脈打つ。

 病弱で、冷たい私の体を、熱くする。

 いた……私より、何十倍も強いバケモノが……っ!

 自然の吊り上がる口角を抑えて、意識を集中させる。


「足音はたててない……絶対にエイム勝負になる、撃ち合いになる……!」


 息を止め、耳を済ませる。

 彼の足音が聞こえた。

 このまま彼が進めば、中央にある大きな道路で私とかち合う。


「さぁ、どちらが速いか勝負よ……」


 そう呟いた刹那。

 閃光弾が、目の前で爆ぜる。


「な、なんで!? 位置はバレていないはずっ!」


 慌てて身をひるがえし、物陰に隠れようとする。が、視界は閃光弾によって眩み、なにも見えない。

 なぜ!? どうして!? 絶対に位置バレはしていなかったはず!


 情報は全く与えていなかったのに、閃光弾を喰らわされてしまった。


「……っ!」


 面食らってたたらを踏んでいると、彼の意図、閃光弾の意味にようやく気づく。

 彼は読んだのだ。

 足音がしないという情報を逆手にとり、ポジションを限定。

 このマップで最も強いと呼ばれる道路に横たわるトラック裏に、閃光弾を投げ込み、様子を伺ったのだ。

 それに私は引っかかり、まんまと足音をさせてしまった。


「くそ……くそくそくそ!!」


 視界が開けると同時に、ヤケになってスコープを覗く。

 しかし、そこに彼はいない。いるはずがない。


「っ!!」


 視界を、鮮血が覆う。

 体を見ると、真っ白な軍服が真っ赤に染まっていた。


「……背後から、ナイフで……?」


 銃を使って戦うはずのFPSで、近接武器で、殺された。


「…………」


 完全敗北。


 言い逃れようも無い敗北。


「……しんたろ、わすれない」


 いつか必ずこの借りは返す。高鳴る左胸を押さえて、静かにそう呟いた。


 * * *


「はぁ……期待外れだな」


 期待していた1on1に裏切られ、俺は相手プレイヤーの名前を覚えることもせず、ロビー画面に戻る。

 戦績上はとんでもない強さだったけど、立ち回りが甘すぎて話にならない。

 大方、いままで単純なエイム力で勝負してきたんだろう。

 沈む気持ちを噛み殺して、俺はまたアジアサーバーに戻り、マッチングを開始する。


「……チッ」


 なかなか接続しないマッチに少しイラついていると、画面右端、フレンドリクエストのアイコンが赤く光っていた。


「……フレンド申請……2N?」


 戦績は普通、名前を聞いたこともない。もちろん一緒にプレイしたこともない。

 けれど……何故か、初対面じゃないような……言葉にはできないけれど、とにかく無視しちゃいけないような、そんな不思議な感覚がした。


「まぁ……いいか」


 フレンド申請を受諾し、一緒にチームに入りマッチングを開始する。


 寝ぼけ眼をこすりながら、俺は今日何度目かわからない戦場に、飛行機から降下した。




仲が悪すぎる幼馴染が、俺が5年以上ハマっているFPSゲームのフレンドだった件について。

10月25日 書籍第二巻発売です!


新作のラブコメ小説

『暴力系ツンデレ幼馴染をこっぴどく振ったら。~あまりの精神的ダメージにツンデレ幼馴染から依存系ヤンデレ幼馴染にジョブチェンジした件について~』https://ncode.syosetu.com/n9072gn/

も、よろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ