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幕間 親友のガチホモイケメンに、二人きりでサウナに誘われた件について。




 合宿から一週間ほどたった日曜日。

 俺は重たい体を引きずって、学生達で賑わう駅前に来ていた。

 駅からでて少し左にある広場、そこにあるよくわからんモニュメントの前で、額ににじむ汗をぬぐいつつスマホで時刻を確認する。

 もうそろそろ、こんな蒸し風呂のような外界に、俺を呼び出した自称王様が来るはずだ。


「クイーン、待たせたな」

「おせぇよ、ジル」


 金髪金眼のイケメンが、うだるような暑さの中、汗ひとつかかず爽やかな笑みを浮かべていた。

 真っ白なTシャツになんだか高そうなデニム。

 ジルの服装は、自らのスタイルの良さを引き立てるようなシンプルな装いだった。


「……お前ってなんだかんだでイケメンだよな」

「告白か?」

「いやポジティブすぎるだろ」


 前向きすぎるガチホモを嗜めつつ、俺はジルの後をのそりのそりとついて行く。


「で、大事な用ってなんだよ」


 俺みたいな陰キャゲーマーが、マウスをほっぽり出して外界に出てきたのにはもちろん理由がある。

 いつもウザいくらいに元気でマイペースなジルが、物凄く重苦しい声音で『大事な用がある』と、俺を電話で呼び出したのだ。

 チームのムードメイカーであり滅多なことじゃへこまない鋼メンタルの彼が、稀に見せる暗い雰囲気……リーダーとして見過ごすわけにはいかない。

 何かしら相談があるのだろうと踏んで、エアコンの効いた快適な部屋から急いで飛び出してきた次第だ。


「これを見てくれ」


 そんな俺の思いもつゆ知らず、ジルは朗らかに笑って二枚の紙切れを俺に見せる。


「……サウナの無料券?」

「母上からもらったんだ。駅の近くに新しくオープンしたばかりで、かなり本格的なサウナらしいぞ」

「…………なぁジル? 俺を電話で呼び出す時、死ぬほど重たい空気出してたよな? 俺が来なきゃ崖から飛び降りる勢いで落ち込んでたよな? それで来てみれば大事な用がサウナ……?」


 眉間にしわを寄せて問いただすと、彼はまったく悪びれもせずに続ける。


「はぁ……世界最強であるはずのクイーンでさえ、キングのムーブの意図が読めないとは……弘法も筆の誤りとはまさにこのことだな」

「ほう……じゃあ聞かせてもらおうか、今回俺を騙してサウナに引きずり込もうとするそのムーブの意図とやらを」

「いいか……? クイーンは先日の合宿、海で遊んだり山で遭難しかけたり、挙げ句の果てには十時間以上パソコンに向かってゲームをしていた。疲労が溜まるに決まっている」


 人差し指を立てて力説するガチホモ。ちょっと……! 顔が近いって……!


「その疲労を残した状態で、eスポーツ高校選手権大会を戦い抜けるのか? 良い結果を収められるのか? ……答えは否。合宿での疲れを全て癒し、万全な状態で勝負にのぞまなければ強豪集まる公式大会で勝利することは厳しいだろう」


 FPS、電子競技はかなり繊細なスポーツだ。

 体に残る疲労や少ない睡眠時間は、もろにパフォーマンスに影響する。


「……まぁ、たしかに。でも、俺を騙す必要があったのか? 普通に誘えばよかっただろ」


 俺だって、ジルに誘われれば話くらいは聞く。……行くかどうかは別として。


「現実でも芋プレイヤーのクイーンに、サウナに行こうと誘っても断られると思ったんだ」

「……」

「いつもチームの為に頑張っているリーダーをねぎらいたいと思っての(ブラフ)だ、すまない。許してくれ」

「ジル……っ、お前……」


 芋プレイヤーのあたりで一発殴ってやろうかと思ったけど、後の彼の優しい一言によって踏みとどまる。

 なんだかんだでこいついいやつなんだよなぁ。


「納得したならさぁ行こう! すぐに行こう! まだ早い時間だからきっと空いているぞ!」

「お、おう!」


 ジルの勢いに押されるがまま、俺は背中に毒ガスを背負い安置内に逃げ込むプレイヤーの如く、サウナに向かった。


***


「クイーン……どうだ気持ちいいか……」

「あ、あぁ……すっごく熱いよ……っ」

「お互いびしょびしょだな……」

「ジル……俺もうそろそろ限界かも……っ!」

「落ち着けクイーン! まだイクには早いぞ! イク時は一緒にイこう!」

「…………なぁ、今サウナを出るか出ないかの話をしてるんだよな?」


 日本によくある最もポピュラーなフィンランド式サウナ。真新しいヒノキと、熱を発する大きな石。ジルが熱々の石に度々水をかけるせいで、俺は体がびしょびしょになるくらい汗をかいていた。


「……ねぇ、距離近くない?」


 広いサウナ、二人しかいないのに、ジルは俺と肩があたるくらい近くにいる。


「同じチームのメンバーじゃないか、親睦を深める為に物理的に距離を縮めることも必要だろう? クイーンは嫌なのか?」

「……別に嫌ってわけじゃないけど、ただでさえ熱いのにお前が隣にいると5度くらい温度が上がった気がするんだよ」

「仕方ないだろ? キングのハートはいつもクイーンへの愛で燃え滾っているからな」

「お前暑さで頭やられてんのか?」

「やられていないさ。むしろヤられたい、いいやヤりたい」

「やっぱやられてるわ」


 そんないつものやりとりをしていると、何故だか自然と笑みが溢れる。


「ジル、ありがとな。お前のおかげで、なんとかチームが形になりそうだよ」


 チーム四人が出会った最初の日から今日まで、いつもジルが主張の強い俺たち四人の仲を取り持ってくれた。

 合宿中での、奈月と俺のすれ違いの時もそうだ。

 彼は誰よりも仲間思いで、チームのことを一番に気遣ってくれる。


「……お礼を言うのは俺の方だ……。俺みたいな変わり者にシンタローは居場所をくれた。自分の好きなものを好きだと言えない弱い俺を、シンタローは肯定してくれた」


 ……ジルは昔から主張の強いオープンな変態だったわけじゃない。俺と知り合った当初は、周りの目を気にして、あまり自分を主張しない、今の彼からは考えられないような控えめな性格だったのだ。


「奈月もベル子も本当にいい奴で、みんなと……シンタローとゲームする時間が今本当に楽しいんだ。俺はみんなで、もっと上に行きたい。誰一人欠けることなく、もっと高みへ」


 そんな控えめな性格だった彼は、俺や、そして奈月やベル子……本当の自分を受け止めてくれる仲間と出会って、変わった。

 彼にとって今の|UnbreakaBullチームは、本当の自分をさらけ出せるキッカケになった場所なのだろう。


「……そうか、俺もお前と一緒にいられて嬉しいよ」


 ジルの優しい表情に、思わず素直な気持ちがこぼれる。


「……告白か?」

「ずっとチームにいてほしいって意味なら、告白かもな」

「く……クイーン!」


 ジルはいつものガチホモモードになり、頬を紅潮させ、俺の尻を揉みしだく。


「ちょっ! くっつくな! 変なところさわんな! あ、そこはっ! アーーーッ!」


 疲れをとるはずのサウナで、逆に疲れが溜まったような気もするけど、不思議と、心は前よりも晴れやかな気分になっていた。



仲が悪すぎる幼馴染が、俺が5年以上ハマっているFPSゲームのフレンドだった件について。

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