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幕間 仲が悪すぎる幼馴染が、俺を催眠術で言いなりにさせようとしてくるんですけど……!

 

 奈月と、男を思い通りにできる催眠術。



 皮膚を焼く熱線をカーテンで遮り、エアコンをガンガンにかけ、真っ昼間だというのに薄暗い部屋に芋る。


 そんないつも通りの昼下がり、事件は起きる。

「し、シンタロー! いる!?」

「うぉっ!? な、なんだよ奈月……ノックくらいしろよ……っ」

 

 勢いよくドアを開けて、俺と仲が悪すぎる幼馴染、奈月が部屋に飛び込んでくる。


「あ、ご、ごめん……じゃなくて、いま暇……?」

「えっ……今ゲームしてる最中だけど」

「なら暇なのね! 話があるからちょっとこっちに来なさい!」

「お、おい! ちょっと!」


 強引に腕を引っ張られ、リビングまで連行される。


「……で、なんだよ。話って」


 白いソファーに腰掛けながら、俺は目の前で恥ずかしそうにもじもじする幼馴染にそう言う。


「まぁその……大したことじゃないんだけど……」


 申し訳なさそうに、奈月は偏差値三十くらいの蛍光ピンクの雑誌を、テーブルの上に置いた。


「なにそれ……」

「こ、これは最近女子の間で流行ってる、催眠術の本。結構初心者でもかけやすいらしくて、買ってみたんだけど」

「……まさかお前、その催眠術とやらを俺にかけるわけじゃないだろうな?」

「…………」

「…………」


 訪れる静寂。

 奈月は催眠術の本を床におくと、ポケットからなにやら糸のようなものを取り出した。


「シンタロー、黙ってこの五円玉を見なさいっ!」

「いやうさんくさっ! てか五円玉ってなんだよ! ベタすぎるんだよ!」

「うっさいわね! そういう文句はこの本の著者に言いなさい! とにかくアンタは私の実験台になればいいの、早くしなさいよっ!」

「いやだよ! 誰が好き好んで催眠術にかけられようとすんだよ!」


 揺らす五円玉を無理やり俺に見せようとする奈月。

 こいつ……そこまでして俺に嫌がらせをしたいのか……! 合宿で少しくらい仲良くなれたと思ったのに……!

 仲が悪すぎる幼馴染は強引に俺の腕を払いのけようとするけれど、もやしゲーマーとはいえ仮にも俺は男、流石に力では負けない。


 奈月は思い届かずと言った具合で、ぐぬぬと、こちらをにらみつける。


「そんな顔したってダメだからな。俺はそういうオカルト系は苦手なんだ、お前だって知ってるだろ」


 乱れた呼吸を整えつつ、横目で奈月を見ると、なにやら悪巧みを思いついたような、意味深な笑みを浮かべていた。


「……そういや、シンタローってまだ数学の課題終わらせてなかったわよね……? 私もう終わらせてるから答え見せてあげてもいいけど?」

「喜んで催眠術にかからせていただきます」

「ふ、ふんっ! はじめからそうすればいいのよ!」


 魅力的すぎる相談を前に、俺は意見を百八十度変えてソファーに座り直すのであった。


 * * *


「それじゃあ行くわよ……」

「お、おう」


 ソファーに座る二人。奈月は至極真剣な顔で、五円玉を構える。


「あなたはだんだん眠くなーる。あなたはだんだん眠くなーる」

「ぶ、ぶふっ!」

「ちょっと! 何笑ってんのよ!」

「いや……あまりにも催眠術の王道パターンだったからつい……」

「いい! 真面目にやりなさいっ! ちゃんと催眠術にかからなかったらヘッショだからねっ!」

「へいへい」


 催眠術にかからなかったらヘッドショットかぁ。流石は2Nさん、理不尽な悪魔と異名をつけられるだけはある。


「あなたはだんだん意識がなくなーる。あなたは私のいいなりになーる……えいっ!」


 棒読みすぎるセリフにまたもや吹き出しそうになるけど、どうにか堪える。ここで笑えばヘッショだからな。それだけは避けねばなるまい。


「どう……かかった?」


 不安そうに、俺に聞く奈月。

 いや正直これっぽっちも催眠術にかかってないですね。はい。

 ……でも、奈月が俺にどんな催眠術をかけるか興味はあるな……。


「……カカリマシタ」

「やっ! やった! 催眠術成功したわっ!」


 俺のクソみたいな演技にひっかかるポンコツ幼馴染。こいつ詐欺とか普通に引っかかりそうで怖いな……。


「え、えーと、本に書いてある通りなら、ここから命令すればどんなことでもいうことを聞くのよね……ふふっ!」


 キャピキャピはしゃぎながら、ポケットから引くぐらい長いカンペを取り出す奈月。

 えっ……まさかそこに書かれてること全部俺にやらせる気じゃないだろうな……?


「こ、こほん。まず最初は……わ、私をお姫様だっこしなさいっ!」

「お、お姫様だっこ……?」

「そうよ!」

「そ、それが、お前が俺にさせたいことなのか?」

「そ、そうよ! 早くしなさい!」


 年頃の女の子はやっぱりそういうお姫様に憧れるのだろうか……。俺はジルによくそういう扱いをされるが、全く嬉しくないけどな。


「よっ! ほらよ」

「……っ!」


 年中ひきこもりの陰キャゲーマーとはいえ、腐っても男、奈月のように細身の女の子をお姫様抱っこするくらいわけなかった。


 ……と思ったんだけど、結構キツイ……正直あと一分も持たない。


「ど、どうだ? これでいいか?」


 息切れを堪えながらなんとか体勢を維持する。

 奈月は顔を真っ赤にして、俺の首に手を回した。


「じ、ジルみたいなセリフ言って……」

「へっ……?」

「俺は、クイーンを愛している……みたいなそういうセリフを言ってっ!」


 こ、こいつ! 俺を殺す気か!? 

 たしかに、ジルみたいなイケメンから言い寄られたいと、女の子なら誰しも思うのかもしれない。

 けれど今の俺に、お姫様抱っこで腕をプルプルさせている俺に、あのガチホモみたいな頭おかしいセリフをアドリブで言えだって……!?


 ……はっ!?

 この女……さては俺が催眠術にかかったフリをしていると気付いているなっ!? 


 くっそぉ〜してやられた!


 いくら奈月といえども、催眠術なんかを本気で信じてしまうほどピュアじゃないはずだ!

 すべては俺に好き勝手命令できる口実を作るため! しかも催眠術にかかってなかったとしても俺を攻撃できる二段構え……!

 流石は仲が悪すぎる幼馴染っ! この状況じゃ、俺は奈月の命令を断れない……っ! 良いように嫌がらせされてしまう!


「は、早く言ってよ……」


 物欲しそうに、瞳をうるうるさせて、奈月は急かす。

 ええいままよ!


「さ、最強の隣にいることが許されるのは、2N……お前だけだ」


「……っ!」


 ぐああああああああ!! 死にてぇぇぇええええええ!!

 俺の無駄に低い声に、頬をぽっと染めて奈月は「かっこいい……」と呟く。本当は俺が催眠術にかかったフリをしていると知っているのに……! 白々しい奴め……っ!


「ねぇシンタロー……こ、ここからベッドに連れて行って……」

「えっ……」

「はやくぅ……っ」


 辛抱たまらんといった表情を浮かべて、仲が悪すぎるはずの幼馴染は命令を続ける。

 こいつなんて命令だしやがるんだっ!

 もうすでにお姫様だっこで筋肉が悲鳴をあげている俺に、階段を登れだと!? 殺す気か!?


「……りょ、了解しました」


 しかしながら断るわけにはいかない。ここで断れば奈月が俺に物理攻撃を仕掛ける大義名分ができてしまう。催眠術にかかったフリをしてしまった時点で、俺の負けは確定しているのだ……!


「ぐぉおおおおっ!」


 無い筋力を振り絞り、階段をのぼる。

 ふとももからプチプチと嫌な音が聞こえた。


「シンタロー……こんなに熱くなって……期待しちゃってるのね……この変態……っ!」


 お前のせいだよ! お前の理不尽な命令のせいでこんなに汗だくになってんだよ!

 怒りをパワーに変え、一歩一歩を階段をのぼる。


「くっはぁ……っ!」


 そして、ついに最終段をのぼり切り、廊下に倒れ込む。


「ちょっ、ちょっとシンタロー! 廊下でなんてそんな! 私たちにはまだレベルが高すぎるわよ……!」

「はぁ……はぁ……」

「し、シンタロー……?」

 俺はそのまま、意識を失った。


 **×


 催眠術かかったフリ事件の翌日、RLRのゲーム内ボイスチャットで、俺は奈月に昨日のことを問い詰められてた。


「ねぇ……本当に覚えてないんでしょうね」

「だから、覚えてないって言ってるだろ?」

「ほんとにほんと?」

「あぁ、綺麗さっぱり覚えてないよ」

「そ、そう……なら良いわ」


 そっと、ない胸を撫で下ろしているであろう奈月。

 まぁくっきりハッキリ覚えてるんですけどね。


「さぁ! 今日も全国大会に向けて練習するわよ!」

「……おう」


 仲が悪すぎる幼馴染め……この借りはいつか必ず返してやるからな……っ!


い いらない

 俺はそう心に誓って、ゲームスタートのボタンをクリックした。

仲が悪すぎる幼馴染が、俺が5年以上ハマっているFPSゲームのフレンドだった件について。

10月25日 書籍第二巻発売です!


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も、よろしくお願いいたします!!

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