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9話 春名奈月の憂鬱。そして勘違い。

下がっていくランキングに恐怖していた所、Dさんの神レビューにメンタルを救われました…!ありがとうございます!






 反省会が終わり、太陽の光がオレンジ色になった頃。

 俺と奈月は、ガラガラの電車に乗って、帰路に就いていた。


 奈月は俺の隣に座っている。

 隣といっても、3人分くらい隙間が空いているけれど……。


「……どうしたんだよ」

「……何が?」

「何がって、なんか機嫌悪いだろお前」

「……そんなことないし」

「そんなことあるだろ」


 超敏感系男子である俺は、女の子のそういった感情の動きを読むのが得意なのだ。

 たぶん、奈月は、そうだな……トイレにでも行きたいんじゃないだろうか。


「話せよ、チームだろ」


 チームリーダーは、そういうところまで気を使わなければいけないのだ。

 まったく、手のかかる幼馴染だぜ。俺が気が使える男で良かったな。


「……………私、rulerに負けた」


 奈月はぽしょりと、そんなことを呟いた。

 そ……そういうパターンね、なるほど。


「負けてねーよ、勝っただろ」

「rulerに勝ったのはシンタローでしょ! 私は負けたの!」

「俺とお前は同じチームだ、最後に生き残ったのは俺とジルだけど、お前の狙撃や、ベル子の索敵が無かったら、rulerと戦り合う前に死んでたかもしれねーだろ」


 実際に、奈月の狙撃にもベル子の索敵にも今日はたくさん助けられた。rulerとのマッチング以降も何度か潜ったけれど、奈月が足手まといになることなんて一瞬たりとも無かった。


「あのチームがなんで機能しているか分かる?」


 少しだけ水気を帯びた瞳をこちらに向けて、奈月はか細い声でそう言った。


「……遠距離、中距離、近距離、索敵、全近距離射撃範囲で耳の良すぎる観測手が揃ってるからだろ」


 俺は思っていることを告げる。


「違うわ、大外れも良いところね」


 奈月は視線を落として、何故か少し笑みを浮かべながらそう答える。


「あのチームは、アンタが無理矢理機能させているのよ。そうでしょ?」

「………」


 俺は何も答えられなかった。


「あのチームで必要な能力は、今の所あのウサギ女の索敵だけよ。私は近距離雑魚で反動制御下手すぎるし、ジルは索敵も立ち回りも甘くてシンタローが見てなきゃすぐに死ぬ。ウサギ女に至っては索敵以外の能力はその辺のプレイヤーより劣っているわ。あの欠陥だらけのチームが何故機能しているか、アンタが一番理解しているでしょ?」


 ………奈月の言っていることは確かに正しい。奈月の狙撃をカバーして、ジルに指示を出して、ベル子が接敵するのを避ける。俺の仕事量はチームの中じゃ、少し……いや、かなり多い。


「……誰しも欠点はあるだろ、俺だって砂漠マップじゃ雑魚だ。遠距離苦手だしな」


 遮蔽物(しゃへいぶつ)や建物が少ない砂漠マップでは遠距離攻撃が生命線となる。近距離で投げ物特化の俺にはかなり戦いにくいフィールドだ。


「嘘ね。じゃあ砂漠マップでの勝率は? 通常マップとの差はどれくらい?」


 痛いところを的確についてくる幼馴染に対して、俺は真実を告げることしかできなかった。


「………たぶん、差はそんなに無い…」

「でしょうね。砂漠だとしてもアンタは誰にも負けないわ。だって時間が経てば経つほど、安全地帯は狭まって、最終局面に近づけば近づくほど、敵の距離も近くなる。砂漠でもアンタはしぶとく生き延びて、最終的に近距離で決着をつける」


 それができる。

 強いから。

 と、奈月は悲しそうに呟いた。


「お前も、ベル子も、ジルも、お前が思っているほど弱くねぇよ。むしろ強い方だ」

「確かにその通りね、むしろ野良マッチじゃ普通に無双できるくらいの実力はあるわ」

「なら、そこまで悲観すること「じゃあrulerと同じレベルの強者が集まる公式大会でも、私たちの実力で通用するの?」

「………」


 奈月が俺の言葉を遮ってまで発した言葉に対して、俺はまたしても、何も返答できなかった。


「私は、嫌なのよ。強くなったって勘違いするのが、シンタローと近くなったって、騙されるのが嫌なの」

「……お前は強いだろ。現にランキングがそれを証明している」

「私に限って、あんなランキングあてにならない」

「………」

「私は世界で一番恵まれているプレイヤーよ、何故なら毎回、世界最強のプレイヤーが味方にいるんだから。そんなの雑魚でもランキングが上がるわよ。だって世界最強は死なないから、私が死んでも死なないから。勝ってしまうから」


 キルレートは、キル数とデス数の割合。最後まで生き残れば、死ななければ、必然とキルレートは上がる。

 RLRでは、自分が死んだとしても、チームメイトが最後まで生き残れば、死んだことにはならない。


「なんでそこまで強さにこだわるんだよ……」


 俺が言ったら嫌味になるかもしれない。

 そんな言葉を、思わず口にしてしまう。



「……だって、強くないと、シンタローは私と遊んでくれないでしょ……?」




 小さく呟いたその言葉に、ギリギリ聞こえたその言葉に、俺は返答するかどうか迷ったふりをして、聞こえないふりをした。


 2Nさんのメッセージと、奈月の言葉が重なる。


 彼女が病的なまでに強さを求める理由は、おそらく俺と彼女がまだ幼い頃、俺が奈月に与えたトラウマが原因なんだろう。


『弱いお前と遊んでも楽しくない』


 そんなクソみたいなセリフを幾度となく、俺は奈月に吐いてきた。


 ……だからこそ、簡単に返答しちゃいけないような気がしたのだ。


『奈月が弱くても、ずっと一緒だ』

 なんて、甘い言葉は、吐いちゃいけないと思ったのだ。


 俺は強くなりたい。世界で一番、強くなりたい。

 誰も俺に追いつけないくらい。


 けれど、俺に追いつこうとする2Nとも、ゲームをしたい。


 そんな矛盾を抱えた願望を、夢物語を、叶える方法を。




 俺はひとつしか知らなかった。




「奈月、今晩、お前の部屋に泊まっていいか?」


「………ぇ?」



 彼女は何故か顔を真っ赤にして、俯いて、前髪で顔を隠して、そして呟く。



「べ……別にいいけど」






* * *






 俺は奈月の部屋で、ベッドに座っていた。


 部屋に奈月はいない。

 俺が奈月の家を訪れると、今回のお泊まりの意図を伝える間も無く、すぐにシャワーを浴びに行ってしまったのだ。


「ゲームするだけなのにシャワー浴びにいくとか潔癖な奴だなぁ」


 手持ち無沙汰でぼーっとしていると、ガチャリと扉が開く。

 奈月のお母さん。皐月さんが、ニヤニヤしながら扉の隙間からこちらを覗いている。


「さ……皐月さん、どうしたんですか?」

「シンタローくん、ひとつ、ママからアドバイスよ」

「……アドバイス?」

「奈月はね、ツンツンして強がっているけれど、押しや自分の予期せぬ展開にとても弱いわ。それに、無理矢理されるのもたぶん嫌いじゃないわよ。頑張ってね!」

「……たしかにあいつはそうですね、ありがとうございます。頑張ります」


 皐月さんは終始ニヤケ顔を浮かべながら扉をゆっくり閉めた。リズミカルな足音が遠ざかる。


 やはり奈月の母親だ。奈月の弱点をよく知っている。


 奈月は近距離戦にどうしようもなく弱い。


 スナイプしようとしている最中や潜伏している最中に、いきなり背後から襲われると、八割方何もできずに負けてしまう。まぁ誰でもいきなり襲われればそうなるんだけど、そうならない為に対策を講じなければ強くなんてなれない。


 プライドの高いあいつのことだ。

 俺が近距離の立ち回りを教えてやると言ったらツンツン怒り出すかもしれない。けれどそこは皐月さんのアドバイス通り無理矢理攻めるとしよう。


 ゲーマーの悩みなんて、強くなりさえすれば九割型解決するのだ。


 お金が無い! 強くなれ!

 彼女ができない! 強くなれ!

 仕事がない! 強くなれ!


 ……いやちょっと二つ目は無理かもしれんな。

 まぁ奈月も、俺やrulerと互角に戦えるようになりさえすれば後ろめたさもなくなるだろう。


 ガチャリと扉が開く音が聞こえる。

 髪を綺麗に乾かして、少し透け気味のネグリジェを着ている奈月が部屋にそろそろと入ってきた。相変わらず頬を真っ赤に染めている。


 胸から溢れてくる感情が、喉を通って口からこぼれた。


「なんか綺麗だなお前」

「……っ! ……ありがと」


 奈月はさらに顔を赤くした。

 これからゲームをするというのに、奈月はなんかオシャレでエロいパジャマみたいなのを着ている。女子高校生の流行りの部屋着的な物なのだろう。知らんけど。


「お……お待たせ、アンタもシャワー浴びてきなさいよ」

「えっ、なんで?」

「なんでって……まぁ、別に嫌じゃないからいいけど……」


 まるで借りてきた猫のようにおとなしい奈月に違和感を覚えつつ、俺はPCが置いてある机の方を指差して、着席を促す。


「そこに座れよ」

「へっ!? 椅子の上で!?」

「椅子に座らずどこでやるんだよ」

「えっ……いや普通はベッドでするんじゃ……」

「いやベッドの上でできるわけないだろ」

「そうなの!?」

「そうだ、普通は椅子に座ってするもんだ」

「そ……そうなんだ、ま……まぁ、シンタローがそっちの方がいいって言うなら、別にいいけど……」


 奈月は椅子に座って、部屋を少し暗くする。

 どうやら部屋を暗くしてゲームするのが好きらしい。気持ちはわかる。


「なんでお前、目つぶってんの?」


 ネグリジェにしわがよるくらい、キュッと太ももの上を掴んで、プルプルと震えている奈月。


「べ……別にいいでしょ! さっさとしなさいよ!」


 ツンツンし始めた奈月の背後から、俺はPCの電源を入れようと、奈月の肩に手をおく。


「ひゃっ!?」

「なんだよ変な声出すなよ」

「だ……だって、急に触るから……」

「下の方に手が届かないだろ」

「下!? 下からいくの!?」

「そこを押さなきゃはじまらないだろ」

「押すの!?」

「そりゃ押すだろ」

「………や…優しくしてね……」


 何言ってんだこいつ。


 俺は再度、奈月の肩に手を置いて、前かがみになる。

 耳元ではぁはぁと、奈月が妖艶な呼吸音をあげている。


「そんなに緊張すんなよ、奈月が毎日やってることだろ?」

「な……なんで知ってるの!?」

「なんでって……そりゃ毎日一緒にしてたから」

「た、タイミングを合わせてするなんて、アンタすごいわね……」


 さっきからどうにも会話が噛み合ってない気がする……。

 俺は相変わらず目をつむっている奈月を尻目に、PCの電源を入れた。


 ブォーンという重低音が静かな部屋に響く。


「………なんでPCの電源いれたの?」


 奈月の声が急に冷たくなる。


「なんでって、ゲームする為だろ? お前に近距離の立ち回り方を教えてや……ろうと……な、奈月さん?」


 奈月の眉がどんどんつり上がっていく。心なしか部屋の温度も上がっているような気がする。

 俺は身の危険を感じて、とっさに距離をとろうとするけれど、奈月に胸ぐらを捕まれる。


「PCの角に頭を思いっきりぶつければ、記憶ってなくなると思うのよね」

「お前展開がワンパターンだぞ……! 考え直せ……!!」

「うるさい! アンタを殺して私も死ぬっ!」






 この後、激昂する奈月をなんとか説得して、めちゃくちゃFPSした。








 

 





「ママ、シンタローがお泊まりしたいらしいんだけど……これってそういうことよね……?」

「避◯具はある?」


戦犯 皐月さん。


***


奈月効果でブクマや評価数が上がらなかった場合は、本作のメインヒロインの一角を担うジルクニフくんに登場してもらうしかないなぁ(脅迫)

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