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83話 芽生える感情





「こ、これは違う……事故なんだ……っ! だから引き金から手を引いてくれ……!」


 奈月に銃口を突きつけられた俺の第一声は、そんな情けない命乞いだった。


「……何が違うの? キス、したわよね?」


 俺の全力の命乞いをまったく意に介さず、奈月は冷淡にそう言う。


 ……たしかにキスはあった。


 しかしマウストゥーマウスではなく、不慮の事故によって生み出されたほっぺにキスなのだ。

 俺が故意にしたならまだしも、事故であるならば仕方がないだろう。

 けれど、今の奈月さんにそんな正論をぶつけても意味はない。


 そろりと背後に視線をとばす。


 彼女は無表情。目は黒く淀んでいて、額に青筋を浮かべている。

 奈月は、十年以上幼馴染をやってる俺でさえ見たこともないような表情をしていた。


 間違いなく過去最高にブチ切れていらっしゃる……っ!


「いやだからマジで事故なんだって! だろ!? ルーラー!」


 一縷の望みに懸けて、俺はルーラーに話をふった。


 彼女さえ否定してくれれば、奈月やベル子からロリコンのレッテルを貼られるだけで終わるはずだ。……いやそれもちょっと嫌だけど……背に腹は変えられない……!


「…………」

「……る、ルーラーさん?」

「…………っ」

「な、何か言ってくださいよぉっ……!」


 ルーラーは頬を赤く染めて、うつむいていた。


 俺が何かしらアクションを起こせば一つ残らず拾いつつ勢い余って曲解しまくる彼女が、口を真一文字に結んでダンマリを決め込んでいる。


「こ、この反応……何やら嫌な雰囲気ですね」


 ベル子が、奈月の肩からひょっこりと顔をだして、うずくまるルーラーを見つめながら手をあごにあてて訝しげな声をあげた。

 ジルや姉ちゃんも不思議そうに見つめている。


「アンタもそう思う?」

「ええ、今まで傍若無人なまでのマイペースっぷりだったルーラーさんが、ほっぺにキスされた程度でこの反応……」


 ベル子は俺をジト目で見つめながら、ため息まじりに続けた。


「タロイモくん、まさかまたラノベ主人公したんですか?」

「なんだよその動詞は……! 俺はなんもしてねぇよ!」

「は? ほっぺにキスしたわよね? なにもしてないわけないわよね?」


 銃口と目が合う。


「あっ、はい、すんません」


 俺は速攻で土下座をかます。

 見なくてもわかる……後頭部にとんでもない圧を感じる。

 流石は『2N』さん……とんでもないプレッシャーだ。理不尽な悪魔と称されるだけのことはある。


「なぁルーラー……頼むから奈月達になんとか言ってやってくれ……このままじゃマジで殺される……!」


 土下座ついでにうずくまるルーラーに耳打ちした。

 すると彼女は、真っ赤な顔をさらに赤くして、猫のようにピョンっとはねて俺から距離をとった。


「し……しんたろ、ち、ちかい」

「さっきまでお前を抱っこしてただろ……? いまさら何言ってんだよ」

「ち、ちかい……っ!」


 またじわりと距離をつめる。

 するとルーラーは、同じように距離をとる。


 何があろうとも離れようとしなかった先ほどとは打って変わって、ルーラーは借りてきた猫のようにしおらしくなっていた。


「えっ……まさか俺嫌われた?」

「ち、ちがっ、きらいに、なってない」

「ならなんで距離とるんだよ……なんかちょっと寂しいだろ!」

「うぅっ……」


 壁際に手をつく彼女。

 俺は少しづつ距離をつめる。

 彼女は胸を抑えて、何やら少し苦しそうだ。


「まさかお前! 体調が悪いのか!?」

「いや、そ、そんなことない」

「でも顔真っ赤だぞ!」


 熱をはかる為、ルーラーの額にそっと手をあてる。


「きゅ……きゅう……っ!」

「お、おい! ルーラー! 大丈夫かっ!?」


 俺が手をあてた瞬間、彼女は顔から湯気をだしてパタリと倒れた。


 先ほどのルーラーのセリフが、脳内を閃光のように駆ける。


『からだ、よわくて』


 日々のポジション争いによって鍛え上げられた俺の脳味噌は、最悪の結末を瞬時に予測した。


「ひぃぃぃっ! ね、姉ちゃん! びょ、病院にディスコード送ってっ!」

「落ち着きなさいシンタロー」

「あがっ!」


 テンパリまくる俺にビンタをかます姉。


「けど姉ちゃん! ルーラーがっ!」

「安心して、ルナちゃんは病気なんかじゃないわ」

「で、でもこんなに苦しそうに……!」


 腕の中でぐったりしている彼女を見つめる。


 真っ白な肌がピンク色に染まり、真紅の瞳はトロンとしている。


「どうみても……発熱っ!」

「アンタ救いようがないほど鈍感ね」


 姉は無駄にでかい胸を持ち上げて、尊大に腕を組み、声高らかに宣言する。


「これは……間違いなく恋……そう、恋煩いよっ!!」

「こ、恋ッ!?」

「そう、恋。ラブよ」


 姉の言葉を聞いた瞬間、腕の中のルーラーがモゾモゾと動く。


 ルーラーが着ている俺のTシャツのすそを引っ張って、すっぽりと服の中に隠れてしまった。

 中から小動物の鳴き声のようなうめき声も聞こえる。


「今までの感情は、あくまで羨望。タロイモくんのFPSの腕前に惚れこんでいただけ。けれど、今回の嫁度対決で、タロイモくん自身にも好意を抱くようになってしまった……ということでよろしいですかお姉さん?」

「ナイス解説よ! ベル子ちゃん!」


 ルーラーが、俺に恋心を抱く……?


 その一文を脳内で二、三度反芻する。


「……っ!」


 頬が熱い。


「何赤くなってんの?」

「ひいっ!」


 後頭部に冷たい何かがあたる。

 俺の熱った頬は一瞬で冷めた。


「奈月、こっちに来なさい」

「ちょっ! 冴子さん!?」


 kar98kをゴトリと床に落として、奈月は姉に拉致される。リビングの扉を手際よく開いて、廊下の角に消えていった。


 俺に姉の意図を推察する余裕は無い。

 超近距離でヘッショを決められなくてよかったと安堵するばかりだ。


「そ、その、ルーラー……」

「ううっ……」

「気を遣えなくて、ごめんな。そろそろ離れるから……」


 ルーラーから手を離して立ち上がろうとする。

 けれど、Tシャツの裾からのびてきた小さな手がそのムーブを制止する。


「し、しんたろ……ぬーぶ……このままでいい」


 濡れる真紅の瞳。


 その瞳を見つめるだけで、彼女のオーダーから逃れることは出来なかった。


「ジル、ブラックコーヒー入れてください。砂糖吐きそうです」

「奇遇だな。俺もだ」


 二人の呆れた声が聞こえるけれど、俺は真紅の瞳から目を逸らすことは出来なかった。

次話は奈月さん視点になります!

かわいいです!!


なるはやで更新します!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 病院にディスコード。 流石世界一のゲーマー。
[良い点] なんだ…… [気になる点] なんだこれは…… [一言] なんなんだこれは…………(褒めてる)(吐きそう)(ライブお疲れ様です)
[良い点] ブラックコーヒーが砂糖の基本的対策。 [気になる点] 惚れ込んでただけで地下室... ルーラー怖い... [一言] なるはやじゃなく光速で!
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