8話 勝つ為の条件
「奈月、ベル子、ジル。悪いけど状況が変わった、カバー頼む」
「了解」
「rulerが相手なんて最高の動画のネタになりそうですね……!」
「シンタローのバックはとらせんぞ!」
各々自分の席に戻り、速攻でマンションに詰める。
味方がマンションに詰めている間、俺はrulerに殺されず、時間を稼ぐ必要がある。
スナイパー相手に屋内戦でビビりまくる奴が世界最強なんて笑われるかもしれない。
けれど、このRLRはキルをとればとるほど勝ちってゲームじゃない。
最後まで死ななければ勝ちのゲームなのだ。
「悪いけど、数で押しつぶさせてもらうぜ」
牽制の為に、二階から腰ダメ(スコープを覗かずに撃つこと)で弾をばら撒く。
rulerは窓を割ってマンション一階に転がり込む。
流石の北米最強も、俺を相手にしながら2N達の接近をカバーする余裕はないだろう。
そう思った瞬間。
ズゴンと鈍い音が響きわたる。
「へっ……?」
可愛らしいけれど、少し間抜けな、雰囲気のベル子の声が聞こえた。
そしてキルログに、ベル子の死亡を告げるメッセージが流れる。
「ッ……超高速Aim……!」
奈月が呟いたその一言で、何が起きたか俺は察した。
クイックショット。
スコープを覗いた瞬間に、高速でエイムして狙撃する技術。
言葉にすると大したことのない技術のように聞こえるかもしれないけれど、狙って、息を止めて銃口を固定し、撃たなければなかなか当たらないはずのスナイパーライフルで、そんなことをやってのけるなんて本当に異常なのだ。
ADS(スコープを覗くこと)した時、どこにレティクル(覗いた時に見える十時線)がくるかが体に染み付いていなければできない芸当。
しかもヘッドでオーバーダメージ。気絶なしの一撃。
とにかく異常。
動画で見たまんまのクイックショットを決められて、一瞬頭が真っ白になるけれど、すぐに冷静になる。
「ベル子すまん! 仇はとる!」
「ふわぁぁ……rulerのクイックショット! ちゃんと録画できてるかなぁ!?」
あの腹黒ベル子ちゃんが子供のようにはしゃいでいる。まぁ北米最強に狙撃されるなんて、しかもQSでキルをとられるなんて普通は嬉しいよな。
俺も一応……世界総合ランキング1位なんですけどね……。普通にタロイモって呼ばれちゃいましたよね……俺とruler何が違うんだろう。悲しい。
「シンタロー! カバー! 敵がスコープ覗いてる!」
「おっとすまんすまん」
急いで二階から飛び降りて、一階窓にへばりついているであろうrulerに決め撃ち(敵がいる位置を予測して先に射撃を開始しながら撃ち合う技術)する。
一発二発当たったけれど、すぐに死角に隠れられる。
「タロイモくんの決め撃ちって、正確無比の最速攻撃とか呼ばれてますけど、なんか地味ですよね」
「そんなこと言うな……! 気にしてるんだから……!」
クイックショットと比べると華が無いかもしれないけれど、決め撃ちが俺の生命線なのだ。
FPSという一人称ゲームにおいて、決め撃ちとは最強の撃ち合い方法である。
決め撃ち側は見える前に撃ち始めているのに対し、待っている側は視認してから撃ち始める。
よって、反応速度がどれだけ早い人でもまず勝てない。
決め撃ちされた側からすると、敵が見えたか見えないかくらいで死ぬ。ARの胴体撃ちの場合、被ダメによる画面ブレなんかを考えても、一発返せれば上等くらいの段階で死ぬ。
この理論は、先見え後見え理論とかいうよくわからんやつを理解しなきゃ難しい話なんだけど、まぁ簡単に言えば。
敵の場所を予測して、敵より先に撃ってた方が速いし強いよね。ってことだ。
「決め撃ちで一発二発当てるのが限界とか……やっぱとんでもねぇな」
先に撃ち出したはずなのに、エイムも乱れてなかったはずなのに、当たった瞬間とほぼ同時に回避行動に移られた。
とんでもない反応速度だ。
いや、たぶんそれだけじゃ無い。
予測していたんだろう。
俺が窓から飛び降りる瞬間の音を聞いて。
「ジルがマンションに詰めるまでの時間を稼ぐわ、二対一で負けないでよね」
「任せろ」
奈月はそう言うと、側にあった木の裏に隠れて、SRを構える。
「世界最強の狙撃手だかなんだか知らないけど、私はそんな奴に躓いてる暇は無いのよ。……もっと強いのが上にいるんだから」
ボイチャが拾うか拾わないかの小さな声。俺は不思議と、その小さな声がはっきりと聞こえた。
「ジル、早く来い、奈月を援護するぞ」
「I'm hurrying!」
北米最強の狙撃手vsアジア最強の狙撃手。
勝負の結果をゆっくり眺めていたいけれどそうもいかない。
奈月とのSR早撃ち勝負。
rulerとはいえ、隙ができないわけがない。
「頭出せ、頭出せ、頭出せ」
呪詛の様に念じる奈月。
すでにチラ見(木から一瞬だけ頭を出して敵の位置を把握する技術)でrulerの位置を把握しているのだろう。
あとは覗き合い。
スコープを覗いて、相手より速く、正確にヘッドを抜いた方の勝ち。
本当はジルとマンションに突るまで待って欲しいけれど、安地収縮が始まって、背後からじわりじわりと毒ガスが迫ってきている状況でそれは不可能だった。
「来たッ!」
奈月が短く言葉を発した瞬間、大きな銃声二つが、野山に轟く。
その勝負行く末を、俺は隣にいた奈月の画面から確認していた。
「………そんな……ありえない」
奈月の画面は暗転、そしてリザルト画面が表示されている。
その暗転は、リザルト画面は、奈月がヘッドを抜かれた、撃ち合いでは敗北したという証明でもあった。
「私が……撃ち負けるなんて……これじゃ、いつまでたってもシンタローに……」
茫然自失していた奈月に、俺は告げる。
「ナイスだ、奈月」
「……っ! 何!? 馬鹿にしてるの!? 私は負けたのよ!? クイックショットで情なくなるくらい綺麗に頭を抜かれたの!」
「お前が負けても、負けじゃない」
「……っ!」
「俺たちがrulerを蜂の巣にすれば、なんの問題も無いんだよ。……それに、奈月の完全敗北って訳でもない」
「ぇ……?」
「肩に当たってたよ、お前の弾、銃が相手と同じ条件だったなら相討ちだったはずだ」
奈月の狙撃銃が、rulerと同じM24であれば、kar98kでなければ、勝負は違う結果になっていただろう。
勝負の前に、俺はrulerに一、二発当てている。その状態で肩にスナイパーの弾が一発入ったのだ。
奴はすでに瀕死。
「なぁジル」
「なんだい親友」
「俺たちの狙撃手に初陣で黒星をつけさせる訳にはいかないよな」
「当然だ」
ようやく到着したジルと共に、マンションに突撃する。
微かに包帯を巻く音が聞こえた。
奴は瀕死。
俺とジルで撃ち合えば確実にぶっ殺せる。
「いいか奈月、このゲームは、最後にチームの誰かが生き残れば勝ちなんだ。お前はまだ負けてない」
奈月の渾身の一弾が、奴に回復というタイムロス、隙を生んだ。
これだけのアドバンテージをもらって、負けていいはずがない。
手榴弾をそこら中にばら撒き、爆音で足音を消す。
「……だったらさっさと決めなさいよ!」
奈月の言葉と同時に、rulerが立てこもっていた三階の扉が開く。
rulerはすでに銃を持ち替え、ARを構えている。
けれど、rulerが銃口を向けた先には、誰もいない。
正確には扉を開けただけのジルが隠れているだけだ。
「さっきのお返しだ」
三階の外窓から、SMG vectorの弾丸がrulerの腹部を貫く。
屋上から飛び降りての空中狙撃。
スナイパーライフルでやってのけたrulerとは比べものにならないほど難易度は低いし、腰ダメで当てただけだけれど、しっかり借りは返せたはずだ。
rulerは純白の軍服に、鮮血のマーブル模様を描いて、そして死んだ。
「俺たちの勝ちだ」
「4対1なのに、半分以上削られちゃいましたけどね」
「……それを言うなよ」
ベル子の的確なツッコミに雰囲気をぶち壊しにされた俺たちは、1位のリザルト画面を見ることもなく今回のゲームの反省会を始める。
俺が数分後に確認するであろうリザルト画面の端には、ダイレクトメールの通知が表示されていた。
『Let's meet at a national convention in Japan. I'm looking forward to it』(また日本の公式大会で会いましょう。楽しみにしてます)
こうして、俺たちの記念すべき初陣は、勝利という結果に終わった。
あれ?これってラブコメだよね?
長らく戦闘描写が続いて申し訳ありませんでした。次回はちゃんと、奈月とジルとラブコメします。
ブクマと評価をしてくれるととっても嬉しいです。皆さんのお力でどうか、僕を日間総合ランキング5位以内にヨイショしてください……!
どうぞよろしくお願いします……!