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74話 仲が悪すぎる幼馴染は、大会後も変わらない。

奈月のセリフがキツすぎたので若干修正しています。



「はぁ……はぁ……ッ!」  


 息が詰まる。

 汗で体に服が張り付く。

 この焦燥感、緊張感は、三日前に終えた公式大会をも凌ぐ。


「くっそ……! どうすりゃいいんだよ……!」


 日本……いや、世界中の高校生の中で最も『RLR』が強いチーム『Unbreakable』の頭脳(オーダー)である俺をもってしても、この状況の打開策を見つけることはできなかった。


「手止めないで、さっさと書きなさい」


 俺のベッドで、ゲーム雑誌を読みながらアイスを食べる幼馴染。

 だらだらここに極まれりといった具合だ。


「……幼馴染がこんなに苦しんでるっていうのに……アイスなんてぺろぺろしやがって……お前人間じゃねぇよ!」

「夏休みの課題をちゃんと終わらせてないあんたが悪いんでしょ。サボらないよう見張ってあげてるだけありがたいと思いなさい」

「くっそ……! なんでだよ……! 俺たちあの熾烈極める全国大会で優勝したんだぞ!? 世界大会がかかった日本リーグも控えてるってのに……課題なんてしてる場合じゃ……!」


 俺たちは日本開催なのになぜか各国のトップチームが集まる全国大会を勝ち抜き、優勝を収めた。

 それにより、かねて真田さんと約束していた『RLR JAPAN SERIES』通称、『RJS』に参加することが決まったのだ。

 先日の高校生限定大会とは比べ物にならないくらいにレベルが高い、正真正銘のプロゲーマーが集まる日本リーグ。

 毎週日曜、およそ一か月にわたり、総勢三十二チームがしのぎを削り、正真正銘日本最強を決める戦い。


 たった一チームしか、世界大会に出場することは許されない。

 高校生全国大会を軽くしのぐほどの激戦が、俺たちを待ち受けているのだ。


「学生の本分は勉学よ。テストもゴミみたいな点数しかだせないくせに、提出物も出さないなんて……もう一年高校生やりたいの?」

「うぅ……!」


 奈月の厳しい言葉に半泣きになる俺。

 大会を終えてちょっとは仲良くなれたと思ったのに、あいも変わらず俺たちは仲が悪い。


「そ! そういやお前! rulerに勝ったら俺と一対一やりたいって言ってたよな! 今やろうぜ!」


 決勝ラウンドの前に、奈月とした約束を思い出す。

 この地獄から逃れるためには、俺は手段を選ばない。


「……あんな勝ち方で納得できると思ってんの?」

「ひっ!」


 鬼の形相を浮かべる奈月。

 怖すぎて思わず女の子みたいな声が出ちゃったよ。


「私が求めてるのは完膚なきまでの勝利。あんな勝ち方じゃ納得できない。……最多キル賞もとられたし」


 北米最強のスナイパーに撃ち勝っておきながら納得できないとは……。さすがは執念だけで世界ランク二位まで上り詰めただけのことはある。


「……でも奈月さん、ベストタレット賞を獲られてたじゃないですか……」


 大会が終わり、記録が集計され、それぞれ優秀な戦績を収めた選手にトロフィーが贈呈された。

 ちなみにジルは最多ダメージ賞。ベル子はベストエンタメ賞を獲った。


「……あら嫌味かしら? キルレ13.5の最優秀選手様?」


 机の上においてあるごついトロフィーを眺めながら、彼女はジト目でそう言う。


「た……たまたまだろ……! さて、課題やろーっと!」


 なおもジト目で俺をにらみつける奈月。

 若干下がるこうげきりょく。

 俺はこれ以上奈月を怒らせないように課題に取り掛かった。


「……あのさぁ」


 そんな俺を逃がさないと言わんばかりに、奈月は言葉を続ける。


「rulerとは……まだ連絡とってるの?」


 先ほどとは打って変わって、少し不安げな声音。


「はぁ? なんでいまrulerの話になるんだよ……」

「い……いいから答えなさいよ!」

「……別に連絡とってねぇよ。大会終わった後、あいつ表彰式にも出てなかったみたいだし」

「……そ。……cross flareとは?」

「とってない。あいつも速攻で帰ったしな」


 決勝ラウンドが終わった後、あれだけしつこかった二人がなんのリアクションも起こさず静かに帰ったことに、俺は若干の違和感を覚えた。

 まぁ……負けた後だしな、相当落ち込んでいたんだろう。


「……じゃあ、大会で知り合って連絡を取り合っている人は誰もいないのね?」

「いねぇよ」

「ふーん」


 彼女の声が、若干うわずる。

 こいつ、俺に友達がいないのがそんなにうれしいのか?


「ねぇ、課題手伝ってあげようか?」

「ふぁっ!? マジで!」

「どっちみち、アンタが課題をまじめにやったって、テストでいい点数取れるわけないしね」

「ありがてぇ……っ!」 


 俺がどれだけ頼んでも『課題は自分のためにやるものでしょ』と取り付く島もなかった奈月、いったいどんな心境の変化があったんだろう。とにかく、手数が増えれば、数的有利を保てば、勝つ確率も上がる。


「そうだ! ベル子とジルも誘おうぜ! 多いほうが早く終わるだろ!」


 我ながら神ムーブ。三人でやれば今の倍以上の速さで課題は終わるだろう。

 ジルは馬鹿だけど課題はもう終わらせてるっていってたし、ベル子は勉強もできるといっていたので言わずもがな即戦力だ。


 俺の提案に対して、奈月は可愛らしい唇を開く。


「だめ」

「えっ……なんで……?」

「それは……アレよ……あんたの課題の為だけに呼ぶのは流石にかわいそうよ」

「……たしかにそうだな」


 いつも迷惑かけているメンバーに、課題まで手伝わせるのは流石に酷だったな。

 何故かほっと胸を撫で下ろす奈月を尻目に、静かに手伝ってもらう分の課題を準備する。


「うわ……ほとんど終わってないじゃない……夏休み何やってたの?」

「えっ、FPS」

「……あんたって、FPS強くなかったら人生終わってたわね」

「ちょっと言いすぎじゃない?」

「じゃあFPS以外何か得意なことあるの?」

「……そりゃ……あれだろ、人を思いやる気持ちとか……あと……世界平和を願う心とか……優しさが俺の最大の長所……的な?」

「クソの役にも立たないわね」

「やっばお前」


 人の心を思いやる心や、世界平和を願う心とか、優しさが長所の人たちすべてを敵に回した俺の幼馴染は、散らばった課題をまとめて、ちゃぶ台で課題をしている俺の隣に座った。


「何よ」

「……いや、ちょっと近くない?」

「しょ! しょうがないでしょ! ここでしか書けないんだから! それとも床で書けっての!?」

「ひっ……!」


 肩が当たるほど近くに座った彼女。

 童貞レベルの低いやつはここで。『こいつ俺のことほんとは好きなんじゃね?』とか勘違いするだろう。


 だが俺は違う。


 考えてみてほしい。

 恋する乙女が好きな人に対してクソとかそういう発言をするだろうか。

 いいやしない。

 恋する乙女は『クソの役にも立たないわね』とか冷たい声で言うはずが無い。

 もっとこう。

『ほわわぁ~っ! わたしがてつだってあげるっていってるのにぃ! うわきはらめれすぅ~っ!』

 みたいな感じだと思う。恋する乙女はね。たぶん。


「なぁ」

「何?」

「『ほわわぁ~っ! わたしがてつだってあげるっていってるのにぃ! うわきはらめれすぅ~っ!』って言ってみてくんない?」

「…………」

「……無視はよくないだろ」

「じゃあ消えて」

「じゃあってなんだよ。お前の選択肢、無視か消えての二択しかなかったの? 乙女ゲーだったら速攻でフラグ折れてたよ?」


 しょーもない会話を続けていると、微かに玄関が開く音が聞こえた。


「だれ……(メス)……よんだの…………?」


 片言で殺気を発する幼馴染。


「いや違いますって! 鍵開けるってことはたぶん姉ちゃんだと思う! だから拳をおろしてっ! 暴力系嫉妬ツンデレヒロインなんて流行らないわっ!」



「べ……別に嫉妬なんてしてないんだからっ! 勘違いしたらヘッショだからねっ!」

「テンプレから外れるのはいいけど勘違いだけで頭貫くとか理不尽が過ぎませんかね?」


 さすがは七百メートル強の狙撃を成功させるスナイパーである。理不尽が過ぎる。


「いいからさっさと出迎えに行くわよ!」

「えっ、お前はここにいればいいじゃん」

「そういうわけにはいかないでしょ……その……彼氏彼女だと思われたりしたら……アンタも……こ……困るでしょ?」

「確かにそうだな」

「……は?」

「なんでそこでキレるんだよっ!」

「べつにキレてないしっ! ほら行くわよ!」


 家主である俺を放っておいて、そそくさと姉ちゃんを出迎えに行く奈月。



 俺はまだ知らない。



 姉ちゃんのせいで、全国大会をしのぐほどの激戦が、この家で繰り広げられることになろうとは、この時の俺は知る由もなかったのだ。











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[良い点] しんたろうくんはツンデレってやつを知らないのか(笑) ブラコン姉登場かな
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