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7話 世界最強の男








 マンションに入った俺は、扉の隣で足を止めて、耳を澄ませる。


「……屋上に1人、三階に2人、二階に1人だな」


 ベル子ほどじゃないけれど、俺も足音を聞くのは得意な方だ。屋内限定だけど。


「………」


 物音を立てずにじっと聞き耳を立てる。敵はまだ、奈月達が潜伏している場所を警戒しているようだ。同じ場所で足音がずっと鳴っている。


「うし、ここまでアドバンテージがあれば、全員殺れるな」

「……アドバンテージ? まだ敵は1人も減ってないですよ?」


 ベル子の声がヘッドホン越しに微かに聞こえたので、返答する。


「敵が全員上の階に居て、下にいる敵に無警戒な状態なら簡単に連携をぶっ壊せるって事だ」


 俺は、一階の部屋の隅、丁度ドアの隣に中腰で待機する。

 そのままインベントリを開いて、投げナイフを装備する。


「投げナイフなんてネタ武器、何に使うんですか……」

「いいから黙って見てなさい」

「ここからがシンタローの真骨頂というやつだ」


 後ろで仲間達が珍しく俺をヨイショしてくれているので、失敗は許されない。

 投げナイフで正面にあるガラスを割る。


 パリィン! と大きな音がなった。


 上の階で慌ただしく足音が鳴りはじめる。

 敵は外から奈月達に狙い撃ちされていると意識しているはず。だから二階から外へ飛び降りて一階まで来ることはおそらくない。


 おそらく、敵は九割方、階段から一階まで降りて来るはず。

 そしてこのドアを、銃を構えながらゆっくりと開けるはずだ。


 トン、トン、トン、と、階段をゆっくり降りてくる音が聞こえる。

 足音の数は1人。敵パーティーはなかなか慎重派。とりあえず1人を確認に寄越して、残り3人は屋上と三階で外を警戒しているのだろう。


「けれど、今回はその慎重さの所為で全滅することになる」


 どんな最強のプレイヤーでも、ちょっとうまい相手と一対二で撃ち合えば必ず負ける。当たり前だ。弾の数が、ダメージが二倍になるのだ。勝てるわけがない。

 だから、射線が一つになるよう。一対一になるよう立ち回る。まぁ今回は相手自ら一対一(タイマン)を望んでくれているのだからありがたい。


 一度死んだら終わりのゲームで、どちらか片方死んでもいいから突撃するというのは中々勇気がいることなのだ。


 俺はインベントリを開いて、最強の近接武器、フライパンを装備する。


 ドアがゆっくりと開いた。


 俺は計算通り、一歩も動かず、開いたドアの死角に隠れる。ドア待ちという戦法だ。


 そして、ショットガンの先端が見えた瞬間、ドアを飛び越えて、空中から最強の近接武器で襲いかかる。


 パコンっ! と小さく間抜けな音がする。


 敵がこちらに気付く暇もなく、フライパンでヘッドを殴って一発で仕留めた。

 オーバーダメージで、敵はダウンせず即死。

 これはRLR七不思議の一つ、スナイパーライフルの銃弾一発と、フライパンの一撃の威力は何故か同じ。を利用したキルだ。


「ふ……フライパンでヘッドショット決めた人、現実(リアル)で初めて見ました……」


 ベル子が驚いているのを見て、俺は少し得意気になるけれど、すぐに気を引き締める。


「最初のひとりは、殺せて当然。次は、慌てて2人で突っ込んでくる可能性が高い。数的不利を覆す為にはまた布石をうたなきゃいけない」


 インベントリを開いて、大量の投擲物(とうてきぶつ)を準備する。手榴弾や閃光弾や発煙弾、投げナイフなどだ。


「うわっ……なんで手榴弾13個も持ってるんですか……」

「回復アイテムや武器そっちのけで投げ物を拾いまくるシンタローの悪癖(あくへき)よ」

「だからSMG(サブマシンガン)一丁しか装備していないんですね……気持ち悪っ」

「気持ち悪くねーし!? 手榴弾めちゃくちゃ使えるんだからな!」


 手榴弾の為なら大切な弾薬を捨てるほど俺は手榴弾を愛している。

 時間差で起爆するこいつは、攻撃の手数を何倍にも増やすことができるからだ。

 それに、もっと別の使い方もできるしな。


 耳を澄ませると、上の階で2つの足音が慌ただしく、二階、踊り場のあたりで右往左往している。

 どうやら、下の階からの攻撃は予想外だったみたいだな。


 敵がこれだけ慌てているのには理由がある。

 RLRの珍しいシステムのひとつで、ダウンする暇もなく、即死キルされた時は、一瞬で画面が切り替わり、味方のプレイ画面になる。キルログにも、死んだことは書かれるけど、殺された武器の種類は書かれない。


 つまり背後から音もなく即死キルをとられた場合は、自分がどうやって殺されたのかもわからないのだ。


 今頃二階では『サプレッサー持ちのスナイパーに、音も聞こえないくらいの長距離で抜かれた!』なーんてやりとりをしているに違いない。こんな近接武器でやられることなんて滅多に無いからな。


 そのまごついている時間が俺の勝率をさらに引き上げる。


 開いた扉から一階の階段の手すりに向かって手榴弾を2つ、発煙弾1つを投げる。

 手すりから壁へ、そして二階へと手榴弾と発煙弾は転がっていく。


「上手いこと投げますね……ピタ○ラスイッチみたいです」

「私もそれずっと思ってた」

「シンタローはテクニシャンだな」


 まずはじめに、起動までの時間が短い発煙弾からスモークが焚かれ始め、二階踊り場を真っ白にする。


 敵は何か投擲物が飛んできた時点で、二階の隣の部屋に待避している。

 俺は急いで、煙で真っ白な階段を駆け上がり、三階まで一気に到達する。

 俺が走った後を丁度手榴弾が爆発する。ダメージは少し食らったけど、自分の足音のほとんどを爆音で消すことに成功した。

 一番ヤバいのはまだ動きをあまり見せていない屋上にいた敵が、三階の階段で芋っている場合なんだけど、2N(奈月)Zirknik(ジル)のさっきの狙撃に首ったけで、下に降りてくる気配が無い。屋上にいるやつは3人とは別で、野良で混じった人なのかも知れない。連携をまったくとっていない。


 ともあれ、敵に知られることなく、三階の小部屋に到達。


「まったく敵に情報を与えず、チームを完璧に撹乱(かくらん)してますね……」

「この忍者みたいなプレイスタイルで殺された相手は、まぁまずはじめにチートを疑うわね。手榴弾を手すりに当てて二階まで飛ばしたり、フライパンで即死キルなんて並大抵のプレイヤーじゃ不可能よ」


 背後から聞こえるベル子と奈月の珍しい褒め褒めタイムを俺は鼻の穴を膨らませて聞いていた。

 そういやチートを疑われすぎて2回くらいアカウントBANされたこともあったな……泣きながら運営側に電話してなんとか誤解を解いて復活させてもらったけど……。


「こっからは簡単なお仕事だぜ」


 敵が無警戒の三階に到達した時点で、下にいる二人は死んだも同然。

 俺は数少ない回復アイテムを使いながら、敵の足音を聞く。

 下の敵二人は味方の死体の方へ行き、屋上にいた敵は手榴弾の音を聞いて流石に不味いと思ったのか、屋上から下へ降りてきている。


 俺はさっきの爆風で割れた扉から、外へ飛び降りる。


「3階から!? だいぶダメージくらいますよ!?」

「安心しろ、ギリギリ死なない計算だ」


 HPバーが短く真っ赤になるけれど、なんとか持ちこたえる。


 そのまま一歩も動かずに、マンション外の一階の窓から、リーンで室内を覗く。

 予想通り敵二人は味方の死体を調べていたので、SMGで一気に奇襲する。


 パパパパパンッ! と、小気味良い音が鳴り響く。

 伏せていた敵のヘッドにフルオートで弾丸をお見舞いした。

 SMG vector(ベクター) フルカスタムのフルオートに耐えられる防具なんてあるはずもなく、一瞬で溶ける。

 もちろん即死キル。

 すかさず窓から部屋に入り、敵の死体から回復アイテムを奪い、小部屋に潜伏、そして回復。


 後は三階にいる敵との一対一だ。まぁ外から手榴弾投げまくって慌てた所をサクッと狩れば問題ないだろう。


「う……うわぁ……」

「味方で本当に良かったと心の底から思えるほどのエグいプレイングね。流石は近距離戦特殊攻撃最強プレイヤー。計算されすぎて逆に気持ち悪いわ」

sadistic(サディスティック)なシンタロー。フゥン。悪くない」

「お前ら褒めたいのか(けな)したいのかどっちだよ」


 悪態をつかれながらも俺は外に回って手榴弾を上の階から順々に投げ入れていく。これで敵が死んでくれればラッキー。慌てて下の階まで降りてきてくれても良い。さすがに屋内戦や近距離戦で野良プレイヤーに後れをとるほど俺も鈍っちゃいない。


「初陣からLast(最後の)winner(勝利者)なんて縁起がいいぜ」




 そう呟いた瞬間。




 肩を撃ち抜かれる。




「は?」



 一瞬、頭が真っ白になる。


「シンタロー! 上!」


 奈月の声で正気をとりもどし、反射的に空を見上げる。


 マンションの屋上から飛び降りたであろう敵が、空中でスコープを覗きながらこちらを狙っている。


「M24の空中狙撃とか無茶苦茶だろ……!」


 屋上から地面に着地すれば、体力ゲージ満タンでも相当ダメージを喰らうはずだ。

 SR(スナイパーライフル)SMG(サブマシンガン)なら撃ち勝てる。


 撃ち勝てるはずなのに。


「し……シンタロー……あのスキン、あの赤い目……まさか…!」


 奈月の驚いた様な、怯えた様な声が聞こえる。


「……やべぇ……なんでこいつがこんな所にいるんだよ……!」


 俺はすぐにマンションの中に逃げ込む。


 真っ白な軍服に、真っ白な銃スキン、純白のM24。

 空中狙撃をいとも容易く行えるエイム力。


 そして真っ赤な瞳。


 俺はそのプレイヤーを見たことがあった。


 動画サイトに投稿されたプレイ動画は死ぬほど人気で、海外の公式大会でも必ずと言っていいほど名前がランキングに乗る。

 俺も彼のプレイングを何度も参考にした。


 率直な疑問が、緊張のあまり閉めていた喉をこじ開けて、漏れる。


「なんでAS(アジア)サーバーの野良マッチに、NA(北米)サーバー最強の狙撃手がいるんだよ……!」



 FPSの本場、北米で、最も優れた狙撃手と名高い、世界最強のキルマシーン。


 Diamond(ダイアモンド) ruler(ルーラー)


 そんなとんでもない怪物と、どうやら俺は野良マッチで遭遇してしまった様だ。


 



読者に嫌われるだろうなぁと思って書いたジルが、とても好評でびっくりです。


ジルがいいなと思った人は是非、評価ボタンをポチッとしてくれると嬉しいです。

ここまできたら総合日間5位以内に入りたいんじゃ…!どうぞよろしくお願いします。


次回は、北米最強狙撃手 対 世界最強の芋です。お楽しみに…!

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