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68話 自動小銃の王様vs鮮血の皇帝 【中編】




「ッ!」


 息ができない。


 正面、小さな塀の裏にはZirknik。

 右方向、遮蔽物の無い空き地にスモークを焚いて、詰めてきているのはSintaro。

 そしておそらく彼らの後方、建物のどこかでBellkが音を聞いている。


 俺のヘルメットはZirknikの奇襲によって削られ、HPバーは短く真っ赤になっていた。


「クソが!」


 吐きづらい息を、怒号とともに体外へ押し出す。

 秒針が進むごとに脳内をどす黒い感情が支配していく。


 ……VoVエース候補のこのgrime()が……! 極東のe sports後進国、それもプロですらない雑魚に撃ち負ける……!?

 ……そんなこと、あってはならない! あっていいはずがない!


「おい! Sintaroを抑えておけ! Zirknikは俺が殺すッ!」


 医療用キットを使用しながら味方二人にオーダーを飛ばす。腐ってもVoV、相手がSintaroとはいえ足止めくらいには使えるはずだ。


 戦況は芳しくない。けれど、そんなの問題にならないくらい俺とZirknikには実力差がある。

 Zirknikの反動制御(リコイルコントロール)のレベルは確かに高い。けれど奴にはそれを活かす脳みそが無い。

 オーダー兼アタッカーである俺が、あんな射線を交えるしか能の無い能無しに、立ち回りを含めた撃ち合いで負けるわけがないのだ。


 正面、15メートルほど離れた塀の裏。そこにいるZirknikと射線を交えようと、建物二階から顔を覗かせようとしたその瞬間。

 味方の困惑した声が聞こえた。


「grimeッ! 敵! 大量にスモークを焚いています!」

「スモーク……?」


 Sintaroがいるであろう屋外、空き地に視線を向けると、彼自身と味方二人を包み込むように白煙が立ち込めていた。

 あれだけスモークを焚けば、撃ち合いなんて成立しない。敵も自分も、視界すべてを白煙に覆われるだろう。


 一見意味不明な行動に見えるが、あの抜け目ない世界最強がそんなヌーブをするはずが無い。


 ……目的は、おそらく時間稼ぎ。Sintaroがスモークで敵の注意を引いている隙に、後ろに控えていたBellkがZirknikに合流。というのが彼の狙いだろう。

 さすがの俺でも、あの索敵チートが相手にいるとなれば立ち回りで勝ち切れるとは断言できない。そもそも数的不利になってしまう時点でかなり痛い。


 Sintaroの周りにいる味方二人に、逃げの一手を選択させるような巧妙なオーダー。


『ウチのアタッカーに最強のアタッチメントつけちゃうけどいいの?』


 そう耳元でささやかれているようだった。

 ……ここで熱くなって、単独でZirknikとBellkを相手にするのは愚策中の愚策。

 いったん冷静になって、数的有利を作り出すのがbetter(最良)。 


「慎重に煙に隠れながら距離をとってこっちによって来るんだ。時間稼ぎに付き合っている暇はない、もう一人が合流する前にZirknikの方を落とす」


 ZirknikとBellkを三人で囲んで殺す。

 Sintaroは自身のスモークによって、味方二人のこちらに寄ってくる動きをとらえられないはずだ。

 並みのオーダーなら、彼の時間稼ぎに付き合ってしまい、形勢を不利にしてしまうところだが、皇帝にそんな小細工は通用しない。


 自分が出したスモークが、結果、彼を苦しめることになる。

 自分の出したオーダーは最善。


 そう確信した瞬間。


 鈍い銃声が、白煙の中から聞こえてきた。


SG(ショットガン)……ッ!?」


 銃声と同時に、味方一人が気絶する。


「不用意に煙からでるな!」


 味方が煙からはみ出したところをSintaroに狩られたのだろう。

 そう予想したけれど、気絶した味方がそれを否定する。


「いいえ……出てません……! 煙の中で仕留められました……!?」

「は……?」


 適当に撃ったのがたまたま当たったのか……? そんな運任せのムーブ彼がするはずが……。


 困惑。


 それを解消するため、すぐさまキルログを見る。


「そんな……馬鹿な……!」


 キルログに表示されていたのは、SMGを構えながらスモークを焚いてこちらに接近し、白煙の中で味方一人を殺した相手。


 Unbreakable最大の脅威、Sintaro。




 ()()()()


 そもそも前線にいるとさえ想定していなかった斥候(スカウト)


 『Bellk』だった。


「はめられたッ!!」


 一瞬で理解する。

 SMGを持っている。たったそれだけの理由でBellkをSintaroだと錯覚させられていたのだ。


 ゲーム開始直後の衝撃的なキルログを思い出す。

 ヨーロッパ最強のプロゲーミングチーム『GGG』を壊滅させた『Bellk』

 撃ち合いが強くない彼女がどうやってエイム特化のあのチームに勝ったのか?

 まき散らされた煙がヒントとなり、その謎がようやく解ける。


 スモークの中、SGを命中させたのは決して偶然じゃなかった。


 当たるべくして当たったのだ。


 彼女の人外級の索敵によって。


「煙から出て撃ち合え! 殺されるぞッ!」


 そうオーダーを飛ばすけれど、もう遅い。

 生き残って俺の壁になるはずだった仲間が、BellkのSG(ショットガン)によって殺される。


「クソ……! クソ……ッ!!」


 最初からBellkが詰めてきていると気付ければ、二人ではなく一人で対応できた。

 煙の意図に気付くことができた。

 二人一気に削られるようなことにはならなかった。


 たった一丁のサブマシンガンによって、偽装装備(ブラフ)によって、すべてが狂わされたのだ。


 最小のリスクで最大のリターンを得る。細い勝ち筋を確定的なものに変える、小さな針に糸を通すような正確無比の一手。


 まさにオーダーの理想形。


 浅い部分でパチャパチャと水遊びしている俺とは比べ物にならないほど、Sintaroは深く読んでいた。


「……けれど、まだ負けてない……」


 萎えかけた戦意を奮い立たせる。

 Bellkが空き地の煙の中にいるのならば、Zirknikのカバーに入るのはSintaro。


 速攻で距離を詰めてエイムの暴力で形勢を逆転させればいい。美しいムーブとはいえないけれど、もうそれしかない。Zirknikと俺には、それを可能にできるほどの実力差がある。

 二対一という数的不利はあるけれど、ここを乗り切れないようじゃ、韓国を下し、世界の頂に立つなんて夢のまた夢。


「行くぞ」


 HPは全快。

 距離を詰めるべく、Zirknikが隠れている塀裏からの射線を切りながら、建物内を通って左に迂回する。

 塀と塀が対面で位置するようなポジションをとれば、手榴弾の軌道もみえるし、何より裏を取られづらくなる。


 ある程度近づくと、慌ただしくこちらの様子をうかがっているようなそんな足音がきこえた。


 俺の接近に気付いたということは、奴が次に打つ一手は、おそらく後退。

 Sintaroがカバーに入るまで、撃ち合いは避けるはずだ。


「させるか」


 望んでいたポジションを確保。

 そしてZirknikが後退すると踏んで、隠れていた塀から頭を出して撃ち合いに行く。

 

 けれどそこには、待ってましたと言わんばかりに、俺と同じく頭を出したZirknikがいた。


「ッ!!」


 面食らってすぐさま射線を切る。

 AKMのフルオートが肩を掠めた。 


 数的有利を確保しないまま撃ち合う強気のムーブ。

 相手のムーブの(ことごと)くが予想外。本当に嫌になる。


「ちょっとgrime」


 チームの半分が落ちても全く声を上げなかった彼女、rulerが声を上げる。


「どうした、2Nか? 悪いけどそっちは一人で乗り切ってくれ」


 絶体絶命の状況。余裕がない俺は早口でそう告げる。

 対してrulerは、ひどく落ち着いた様子で返答する。


「足音がきこえる」

「は?」


 あり得ない情報に、思わず食い気味に、間抜けな声をだした。


「あり得ない、こっちにはSintaroとZirknikがいる! Bellkも2Nもこの短時間で接近できる距離にいないはずだ!」


 味方二人がやられてからまだ30秒もたってない。

 俺のかなり後方にいるrulerの位置まで味方二人を殺したBellkが詰めるのは距離的に不可能。


 Bellkに味方二人を削られる前、俺たちは裏を取られないよう3人で中央市街地の両端をしっかりケアしていた。

 長距離専門の2Nが、戦線に穴が開いた30秒の間にそこを掻い潜って、わざわざrulerに近距離戦を挑んだ? ……現実的じゃない。時間的にも厳しいし、そもそもそんなスキル彼女にはない。


「この足音は……2Nでも、Bellkでもない……」

「じゃあ……一体……?」

「……まだわからないの?」


 呆れたような声を上げるruler。


「戦線が崩れた瞬間からわずか24秒の間、grimeの索敵を掻い潜って私に接近できるプレイヤーなんて、初めから一人しかいない」

「まさか……」


 なぜか自慢げに、彼女は答える。


「そう、Sintaro」

「……」


 Sintaroは俺を二人がかりで落そうとしなかった。

 一瞬たりとも迷わず、自分と相性の悪いrulerの方へ寄ったのだ。


 Zirknikを俺の目の前に、たった一人でおいて。


 そのムーブの意味は、言われなくとも簡単に理解できる。

 はらわたが茹だち、煮えくり返るほどの怒りを覚えた。


「この鮮血の皇帝を、あのZirknik(雑魚)が、一対一で殺せると……そう言いたいのか……?」


 怒りのあまり声が震える。


「さっさとそこにいるやつ殺して。Sintaro相手じゃ、勝てるかどうかわからない」

「……あぁ、すぐに血祭りにあげてやる」


 珍しくカバーを求めるrulerに対して短く返事をする。


 その場にあったヘルメットをかぶって、目の前の敵と射線を交えた。








 


 

長いこと敵視点でごめんなさい。

次話は主人公視点です。

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