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65話 接近

賞の発表が近いこともあって少しナーバスになっていたんですけど、脳筋薄着さんの神レビューにメンタルを救われました。感謝します(スタヌ感)




「し……死ぬかと思った……」


 ガソリンスタンドで合計8人をキルした俺たちは、毒ガスに背中を焼かれながらも何とか安地内である丘陵のくぼ地に身を隠していた。


「ぎりぎりの戦いでしたね……」

「あぁ……最終決戦ばりに緊張感のある戦いだった」


 オーダーをジルに変更。

 真正面からの撃ち合い。決死のキルムーブ。

 本来であればそんなリスクの高いムーブは避けるんだけど、安地や敵の半ばチーミングのような動きに対してそうせざるを得なかったのだ。


「そうか? 案外楽勝だったようにも思えたが」

「そうね、敵もそこまで撃ち合い強くなかったし」


 うちの火力コンビは先ほどの激戦を、むしろ物足りないくらいの感覚で語る。


「「これだからエイムゴリラ党は……」」


 生粋のイモインキャ党である俺とベル子は口を揃えてそう言った。

 全く違うタイプの四人だからこそ様々な状況に対応できる。それが俺たち『Unbreakable』の強み。

 けれど先ほどの『敵の目の前に躍り出て、射線が合った瞬間に撃ち勝つ』というジルの脳筋オーダーにはさすがに肝を冷やした。


all(オール)-or(オア)-nothing(ナッシング) とにかく勝ったんだ。よって俺たちはすべてを得た。何も問題は無い」

「ほんと、お前のそのメンタルは尊敬するよ」


 俺なら絶対に出せないオーダーだからこそ、結果的に敵の裏を掻けたのかもしれない。


 ジルの言うとおり、とにかく俺たちはあの圧倒的不利な状況から勝利したのだ。そのおかげで物資も潤沢。


 ……残るは最終安地の可能性が濃厚な中央市街地に、王者の如く君臨している『VoV』を倒すだけ。


 文字通り最終局面。

 すべてが中央市街地で決まる。

 けれど俺たちは、もうすぐ安地収縮が始まろうというのに、安地外れのくぼ地で思うように動けずにいた。


 ここから中央市街地までふきっさらしの野原。

 もちろん徒歩で行くなんて論外。

 かといって、車で行けば北米最強のスナイパーに無防備に頭を晒すことになる。


 ガソリンスタンドでの銃撃音、キルログ、そして車の音。

 抜け目のない鮮血の皇帝がそれらの情報を見逃すはずがない。

 

 俺たちが中央市街地めがけて移動を開始すれば、勝負が始まる前に終わる。

 さしものジルと奈月でも、車上でdiamond ruler、grimeを相手にするのは無理がある。


「タロイモくん……流石に移動しないとまずいんじゃ……」

「まぁ待てベル子。そろそろだ……そろそろ来るはずなんだ……」


 慌てるベル子を制す。


 俺は待っていた。


 予選で何度も手を焼いた、電波で中二病で俺の自称弟が絶対王者の前に立ちふさがる瞬間を。


「シンタロー! キルログ!」

「……ようやくか」


 奈月の一言ですべてを察する。

 俺はすぐさまキルログを確認した。


 『cross flare』


 予想通りの名前がキルログに表示された。

 もちろん殺された側じゃなく、殺した側。

 ベル子に聞かなくても分かる。銃声からして場所は中央市街地。

 そこに芋っていたチームの片割れをcross flareがサブマシンガンでハチの巣にしたのだ。


「タロイモくん、車の準備できてます!」

「よし、移動するぞ」

「「了解」」


 車によって移動を開始する。

 ログ管理によって、cross flareが俺たちとは反対方向の北側にいたのは知っていた。


 だから待った。


 絶対王者と、今大会のダークホースである彼女がかち合う瞬間を。

 VoVとはいえ、うざすぎる俺の自称弟を相手にしながらでは警戒レベルを落とさざるを得ないはずだ。


 生き残るためには、最終決戦の地に赴くには、絶対にこのタイミングしかない。


 どちらが勝っても俺たちがつけ込む隙になる。

 漁夫の利こそ、このゲームの必勝法。


「いいか? 練習した通りに事を進めるぞ」


 中央市街地が最終安地になるとは予想していたわけじゃない。

 けれど、大きな市街地が最終安地にかぶった場合に行う戦術は嫌になるくらい練習してきた。

 ここに至るまでイレギュラーはあったけれど、大きな市街地がかぶる今回のラウンドの最終安地は願ってもない状況というわけだ。


 俺たちのすべてを『VoV』にぶつけることができる。


「grimeにはジルを、rulerには奈月をあてる。そのほかは俺とベル子で抑える。……プレッシャーをかけるようで悪いけど、この作戦はお前たちが奴らに撃ち勝てるかどうかですべてが決まる……頼んだぞ」


 『Unbreakabl(俺たち)e』の最高火力を、『VoV』の最高火力にぶつける。

 今回の作戦はそういう作戦。

 まぁ……ある程度有利になるように立ち回るけれど、あの化け物たちと射線を交えるということはそれなりにリスクを伴う。

 ジルと奈月が撃ち負ければ、一人欠ければ、絶妙なバランスで保っていたチームの連携は簡単に瓦解するのだ。


「安心しろSintaro(クイーン)王様(キング)に敗北は無い。ましてやあのまがい物の皇帝なんぞにおくれをとってたまるか。……あいつが、俺たちのチームを『お遊び』といったツケをきっちり払わせてやる」


 いつも以上に感情的になるジル。

 人一倍チーム愛が深い彼のことだ、俺たちのことを馬鹿にされたのが本当に悔しかったのだろう。……それは俺も、いや俺たちも一緒だ。


「お前が通る道は俺が用意する。暴れて来い」

「……The Princess's(姫の頼みとあらば) Request」


 いつものよくわからん英語も今回ばかりは頼もしく聞こえる。

 ジルのメンタルはオリハルコン級に固い。いつも通り実力を発揮してくれるだろう。

 ……問題は。


「……心配しないで」


 俺の心を読んだかのように返事をする奈月、仲が悪すぎるとはいえやはり幼馴染……いや、2Nさんであれば俺の考えていることを読むなんて造作も無いことか……。


「私は勝つ。北米最強のスナイパーに、diamond rulerに勝つ」


 語気を荒げるわけでもなく、淡々と続ける。


「……あいつに勝たなきゃ、世界最強なんて夢のまた夢なのよ」


 奈月の声音が暗くなる。


 2Nさん……いや、奈月の目的は世界ランキング一位。


 つまり俺を超える、俺より強くなることを彼女は目的としている。


 純粋なFPSゲーマーであれば、強さを追い求めることに対して深い理由なんかないけれど、奈月に関してはそれは当てはまらない。

 劣等感からの脱却。

 俺が考えるに、奈月が強さを追い求める理由はそれだ。

 俺が過去に与えた幻影、強くならなければ捨てられる。その幻影に今も彼女は囚われているのだ。

 仲間だ。離れることなんて絶対にない。そう俺が甘言を漏らそうとも彼女は納得しないだろう。


 勝たなきゃ、強くならなきゃ、変われない。


 奈月の気持ちは痛いほどわかる。かつては俺もそうだった。

 親を失った悲しみを、すべてFPSにぶつけていた。無力な自分を忘れ去りたいがために強さだけを追い求めた。

 その原動力はまぎれもない劣等感。

 今の奈月は過去の俺に、強くならなければすべてを失うという恐怖に駆られながらFPSをしていた俺によく似ている。

 だからこそ、奈月が味わうであろう強さの果てにある感情も俺は予測できる。


 たった一人の強さの果てにあるもの、それは、耐え難い孤独感と虚しさ。


 人は強さ単体を追い求めているわけではない。強さに付随する賞賛、羨望、嫉妬。認められたいという気持ち、承認欲求を満たすため。自分以外の誰かを守るため、認められたいがために強さを追い求めるのだ。


 よって、自己完結で、一人で強くなったって心は満たされない。どんどん上がるキルレートを見たって永遠に満たされることはない。

 強さという底なしのテーマに精神を蝕まれ続け、満たされることのないまま延々とスコープを覗き続けるのだ。

 実際に俺はそうだった。

 負けたくないから必死に頭を回して、常に最善を求め続ける。そこにFPSをプレイする楽しさなんて介入していない。あるのは背中をじりじりと焼き続ける劣等感と、それから逃れたいと思う感情だけ。


 ……奈月には、そうなってほしくはない。


 奈月が……2Nさんが、俺をその地獄から救ってくれたように。

 俺も彼女を救いたい。


 ジルやベル子がいるこのチームなら、強さのその先にある大切なものを奈月に伝えられるはずだ。


「世界最強と戦えるまたとない機会だ。めいっぱい楽しもうぜ」


「…………当然でしょ」


 すこしおどけてそう言うと、奈月の声音が少しだけやわらかくなったような気がした。







 

今回は薄味でごめんなさい、次話は濃くなるかと思います。

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