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63話 意図していない禁止行為






「とんでもないな」


 思わず舌を巻く。

 管理席から見た彼らの戦いぶりは高校生を逸脱していた。

 発煙弾を使っての奇襲戦法、一撃必殺で決める高度なエイム力、予選で見せた撃ち合いの力強さ。どれをとってもレベルが高い。

 特にあのオーダー。

 Sintaro(雨川君)が繰り出すオーダーは、マップを俯瞰で見ているように正確で、敵の最も痛いところを突く。彼の持ち味である忍者のような投げ物戦法、世界最速の決め打ち。それを補い無敵にする立ち回り。

 世界にあの怪物を解き放ったらいったいどうなるのだろう?

 考えるだけで武者震いする。


「真田さん、あの子たち本当にRJSにエントリーさせるつもりですか?」


 隣で見ていた『Recipro Gaming Gray』オーダーのMatukazeが怪訝そうに聞いてくる。

 自分たちより圧倒的にレベルの低い彼らに、私が目をかけているのが気に食わない様子だ。

 それに、Sintaro(雨川君)が世界大会選抜メンバーに選ばれれば、補欠に回るのは同じポジションである彼なのだ。

 顔の一つもしかめたくなるだろう。


「……この大会を勝ち抜けるなら、エントリーさせるつもりだ」

「この程度の大会を勝ち抜いたところで……」

「VoVもいる、優勝すれば実績としては十分だろう」


 世界大会で何度も苦渋をなめさせられているVoVの名前を聞かされた途端、彼の顔はさらに渋くなる。

 確かに『Unbreakable』は欠陥だらけのチームだ。

 個々の得意分野に関しては目を見張るものがあるが、そのほかの部分が大きく欠如している。

 彼らの弱点がつけないようなアマチュアが集まる今大会なら通用する。


 けれど、正真正銘本物のプロゲーマーが集うRJSでは絶対に通用しない。


「今は上手くいってます。けれどあいつらは、()()()()()()()を知らない」

 

 Matukazeは、自分のなめてきた辛酸の味を思い出すように重苦しくつぶやく。


「わかってはいるんだけどなぁ……」


 『Unbreakable』の弱点。世界最強(雨川君)の致命的な弱点。

 それをを理解したうえで、それでも期待してしまう何かが彼らにはあった。


「簡単につぶれてくれるなよ」


 淡い期待に似た感情で胸を膨らませつつ、彼らのプレイモニターを見つめた。


 


***




 フェーズ1の安地収縮が終わり、フェーズ2の安地が決まった。


 結果は中の下。

 シコクに安地は寄らず、本島中央付近に設定された。

 物資は潤沢なものの、橋を渡るというリスクを冒さなければならなくなったのだ。


「まぁそんなうまいこと行くわけないよな」

「どうするの? 海を渡ってもいいと思うけど」


 奈月の提案に首を振る。

 ボートで渡るのも悪くはないけれど、安地が少しばかり遠い今では速さに欠ける。


「……いや、いつも通り橋を渡る」


 定石はずれの選択。


「了解」

Sintaro(クイーン)に従おう」

「車持ってきました!」


 一見リスキーに見える作戦だけれど、文句ひとつ言わず迅速に動く仲間たち。

 合宿中に懇々と公式大会でのムーブ、プランを説明したのでその影響もあるだろう。


 橋を選択したのには理由がある。


 決勝ラウンドは予選ラウンドとは違い、たった一度の勝負ですべてが決まる。不用意な一手は簡単にチームの敗北を招く。


 それこそが、今大会の最も大きなポイント。


 キルポイントに比べ、順位ポイントが圧倒的に高い配点。

 キルを狙うより、生き残らなければ上位入賞はありえないのだ。

 イモインキャ党が多い日本において、キルを優先して検問するよりも順位ポイントを狙うのは当然の帰結。


 よって、検問している確率は限りなく低い。

 と、俺は見ている。


 軍事拠点管制塔付近から車を調達し、俺たち『Unbreakable』は車に乗って次のポジションへと移動を開始する。

 素早い行動が結果を左右する。

 数秒でさえ無駄にできない。


「検問されてたら頼むぞ、ジル、奈月」


 可能性は低いとはいえ、FPSに絶対はない。

 もしもの可能性を考慮し、ウチの火力コンビに声をかける。


「任せろ」

「わかってる」


 うるさいエンジン音を縫って聞こえてきた頼もしいセリフ。

 今後のプランを説明しようとしたその瞬間。

 キルログに無視できない名前が表示される。


「Diamond ruler……!」


 奈月の怒気を孕んだ声を聴けば、rulerが死亡したログではないことは理解できるだろう。

 アジアトップレベルのプロゲーミングチーム『team heaven』をruler含め、VoVの面々が全滅させたようだ。


「……銃声は?」

「聞こえませんでした」


 車の騒音にかき消されたのか、キルログが流れた時点で俺には銃声は聞こえなかった。

 ベル子の並外れた聴力でも聞き取れなかったようなので、おそらくVoVは近くにはいないだろう。


 今大会最強の敵。

 『GGG』を倒したことによって浮つきかけていた気持ちがグッと地面に押さえつけられるようだった。


「勝つぞ」


 そうつぶやくと、各々小さな返事を返す。

 北米最強のチーム『VoV』

 一年後に開催される世界大会。

 五年後に開催されるe sports協議認定初のオリンピック。

 幾度となく戦うことになるであろう宿敵。

 今大会はその前哨戦。

 e sports後進国と馬鹿にされる日本に忍者や侍がいると言うことを世界に証明するチャンス。


 橋が見えて来た。

 リスクを背負うのはここが最初で最後。この橋を渡りさえすれば、潤沢な物資というアドバンテージを活かして有利に立ち回れる。


「奈月、橋奥警戒。ジル、敵見えたら殺せ」

「「了解」」


 短くオーダーをとばす。

 彼らの集中力を少しでも削ぎたくなかった。

 車体が小さく揺れ、橋に突入する。


 最高速度を維持。攻撃はまだない。


 橋中央付近、攻撃はまだない。


「敵、見えない。車もない」


 奈月からの情報、俺は無言でうなずく。

 俺自身が目視した結果と同じ結論。やはり検問されている可能性は限りなく低い。


「よし、このまま橋を突っ切るぞ」


 そう指示を飛ばす。


 たった数秒だったけれど、橋を渡っている最中の時間は何倍にも感じた。


 それほどまでに通常ならリスクの高いムーブなのだ。


「橋抜けました!」


 ベル子の報告に安堵する。

 検問するうえで最も強いとされるポジションに敵はいない。やはり当初の予想通り、公式大会で検問をされる可能性は限りなく低かった。


「予定通り、橋から離れて小屋に芋るぞ。そこで安地収縮を待つ」


 俺はこの時、自分のオーダーすべてが完璧だと思っていた。

 なぜなら、その時の状況に合わせた最善手を常にうち続けていたからだ。


 次の立ち回りを確認しようと、視線をマップに映した瞬間。

 ベル子の叫び声が俺を現実に引き戻す。


「真正面! 敵ですっ!」

「はぁ!?」


 真正面、敵。その単語の意味を、マップから顔上げるまで全く理解できなかった。


 目視できるだけでも、およそ6人。


 その6人が、真正面にあるガソリンスタンドでこちらに銃口を突きつけていた。


 俺は慌てて指示を変える。


「ベル子! 右に逃げるぞ!」

「わかりましたっ!」


 検問するべきである橋の出口の強ポジとはまったく無縁の少し外れにあるガソリンスタンド。

 検問を警戒しすぎて、最善手から外れた場所を無警戒だった。


 そこで4人組戦闘(スクワッド)であるにも関わらず、6人以上の敵がこちらに銃口を向けている。


 その理由をすぐさま考えるけれど、答えは出なかった。


「撃たれてる! 撃ち返すぞッ!」

「頼むッ!」


 無数の弾丸が車体を襲う。ジルの反撃も虚しく、みんなのHPがどんどん削れていく。

 

「まさかチーミング……ッ!?」


 禁止行為である同盟行為。そうとられてもおかしくない状況を打開する為、俺は必死に脳みそを回していた。









 


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