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62話 ベル子無双 【後編】







 シコク、軍事基地、管制塔。

 ヨーロッパ最強チームGGGとの決戦の舞台は横槍の入らない屋内戦だった。


「じわじわ詰めるぞ、射線を外すなよ」


 日本で最もポピュラーな戦争ゲーム『将棋』では、駒の利きが重なるように囲い、そして攻める。


 FPSでもそれは同じ。


 常にお互いの射線を重ね、接敵したとしても数的有利を崩さず撃ち合いで勝てるように立ち回る。

 どれだけ連射速度が速い武器でも、銃口の数で負ければ勝ち目はない。


「……敵、おそらく二人一組で動いてます。一組は屋上で索敵、もう一組はこちらに接近。現在は二階北側階段付近です」


 当然、俺たちが寄ってきていることに敵は気づいている。

 しかしこちらには人間エネミーセンサーのベル子がいる。

 足音が聞ける範囲かつ撃ち合いにならない屋内。向こうが手探りで俺たちの居場所を探しているのに対して、こちらはミリ単位で敵の居場所を知ることができる。


 この状況はまさに俺たちの得意(どひょう)


 情報さえあれば迷う時間は短縮され、動き(ムーブ)に速さが生まれる。

 速さが生まれれば敵の予想外を突くことが可能になり。

 予想外が生まれれば敵に狙い(エイム)の乱れが生まれる。


 (へい)拙速(せっそく)(たっと)ぶ。

 少々まずい作戦でも素早く行動することが大事だと昔の軍師が説いたように、速さは戦いにおいてかなり重要な要素。


「まずは二人削る。奈月は一階の中央通路で北側階段方向を警戒しててくれ。決めきれなかった場合、そっちに逃げるからな」

「了解」


 管制塔での立ち回りは何度も練習した。

 二階にいる敵を削るべく、俺とジルとベル子は敵が待っている北側階段とは反対の南側階段に向かった。


「敵の位置は?」

「……未だ変わりません。二階で撃ち合う気でしょうね」

「なるほどな、よほど射撃精度(エイム)に自信があるらしい」


 エイムに自信があるのは結構なことだけれど、それならもっと早くに勝負を仕掛けるべきだったな。

 殺した敵の物資にかまけていたせいで俺たちがスモークを使って詰めてくるその時に攻撃することができなかった。屋内に侵入を許してしまった。

 怠慢プレイとまではいかないけれど、形勢を悪くするかすかな淀み。

 国内じゃ敵無しになるくらいのエイム力がかえって彼らの立ち回りを鈍らせる。


「ベル子、ジル。SGモク作戦で行くぞ」

「えっ……あれ公式戦でやるんですか……?」

「当り前だろ、そのために練習してきたんだ」


 このSG(ショットガン)モク作戦を可能にするためにこの数か月間、俺とベル子は一対一で泥沼の接近戦を死ぬほどこなしてきた。

 作戦などと大仰な名前をつけているが、俺とジルはスモークを敵に投げるだけで後は何もしない。あくまで実行するのはベル子。

 その作戦、戦術は、限定された状況下にのみ行うことのできるベル子にしかできない超近距離戦闘。俺たちがいれば逆に邪魔になる。


「じゃ、始めるぞ」

「健闘を祈る、ベル子」


 俺の合図と同時に、ジルは発煙弾を敵のいるであろう北側階段に投げ込む。

 カランコロンと音を立てて、一気に白煙をまき散らした。


「やられても文句言わないでくださいね!」


 白煙の中に勢いよく飛び込むベル子。

 彼女のスキルを知らない人が見れば、何も見えない中敵陣に飛び込むヌーブプレイヤーに見えるだろう。

 けれど何も見えないというこの状況は、ことベル子においては凄まじいアドバンテージへと変貌を遂げる。


 オーダーは出さない。

 ジルも、奈月も、一言もしゃべらない。

 連携が必須のこのゲームで、情報の共有できない無言の時間はトロールと罵られても仕方がない行為だ。

 けれど、それでいい。


 この沈黙はベル子が()()ために必要な時間。



「……視えました」




 SGの爆ぜる音が聞こえた。


 それと同時に、キルログに敵の気絶が表示される。


「一人ダウンです! 煙幕追加お願いします!」

「了解」


 あわただしく足音が動き回る。

 お互い姿がほとんど見えないのに、なぜベル子の弾だけが敵にあたるのか?

 答えは至極シンプル。

 彼女は目で見ていない。


 耳で敵の位置を()()いるのだ。


 言葉にすれば馬鹿みたいにシンプルだけど、やられた敵はたまったもんじゃない。

 こちらは全く敵の姿が見えないのに、なぜか気絶を取られた。

 俺も初見なら何が何だかわからないだろう。


 最序盤、お互い防具がレベルの低いままでの撃ち合い。敵は簡単に溶ける。

 いや、撃ち合いと呼べるような平等な戦いじゃない。


 ベル子の天賦とも呼べる才能が可能にした一方的な蹂躙。


 SGの弾が気絶した敵の体に風穴を開ける。

 それでも、もう一方の敵は一歩も引かない。ベル子の人外級の索敵スキルを知らないのだ。


 追加された白煙によってさらに視界は悪くなる。


「ジル、ベル子のカバーに回るぞ。そろそろ屋上から敵が降りてきてる」


 足音は俺には聞きとれないけど、さすがに一人やられたんだからカバーに回るだろう。

 行動を開始した瞬間、ズガンと、ベル子のダブルバレルが轟音をあげる。また一人、墓標に名前が刻まれた。


 白煙の中鮮血が舞い散る。


 赤と白のコントラストに、震えた。


 こんな状況に追い込まれれば俺だって勝てない。


 何万人と観戦している今大会、世界は震撼する。

 全く異質のFPSプレイヤーが現れたことに。

 耳で視る、不可避の超近距離奇襲戦術に。


 日本の可愛すぎるYouTuber、『BellK』に驚愕しているだろう。


 彼女の名前が売れれば売れるほど、俺たちは強くなる。

 敵は屋内戦を避けるようになり、強ポジがとりやすくなる。そればかりか手榴弾でもなんでもない発煙弾におびえるようになるのだ。

 発煙弾で敵が屋外に飛び出したり引くようになれば、ジルと奈月のキル数も上がるし、俺の投げ物戦術にも幅が広がり、なおかつ生存率もあがる。

 選択視が一気に増えれば、単純な戦術でさえも意識外の奇襲になる可能性も出てくる。


 これがベル子の理想形。


 いるだけで敵が怯え、チームの底力が一気に上がる最強の斥候。


「ふぁっ! 敵!」


 またもや鈍い発砲音が管制塔に響き渡る。

 階段から降りてきた敵にベル子が鉛玉をぶち込んだのだろう。


「や……やっつけました!?」

「なんでお前が驚いてるんだよ」


 不用意に近づいてきた敵であれば、いくら撃ち合いが苦手なベル子であろうと簡単に仕留められる。

 白煙の中、わけもわからず二人削られたのだ。そりゃ慌てるよな。


「GGGを三人も……! 今日はツイてます!」

「運なんかじゃない。正真正銘、お前の力だよ。ベル子」


 ヨーロッパ最強を壊滅させるほどの斥候。特定の状況であれば絶大な火力を発揮する。

 GGG期待の新人たちには同情せざるを得ない。初見でこの戦術に対応しろというほうが無理だ。

 

「ラスト一人、みくるちゃんにかっこいいところ見せるんでしょ。さっさと突っ込みなさい」


 淡々と告げる奈月、一見冷めたいように見えるけれど、GGG相手に撃ち合いして来いなんてベル子のことをよっぽど信用しているのだろう。


「ベル子、背中は任せろ」

「安心しろ、王様がついてる」


 勝負に徹して、ベル子を前に出す。

 ベル子を撃てばウチの脳筋火力コンビにハチの巣にされ、後ろにいる奈月たちを狙えばベル子のSGの餌食になる。


 数的有利を勝ち取った時点で、この勝負は必勝。


「決めてこい、ベル子」

「はいっ!」


 階段を駆け上がるベル子。その後ろを三人でカバーする。

 足並みを合わせることを忘れない。

 彼女は足音で敵の呼吸さえ視ているのだ。


 敵が屋上で引いて、射線が切れるその刹那。


 距離を詰める。



「私はなる! 世界で一番強いYouTuberにっ!」



 SGが、GGG最後の敵に風穴を開ける。



 ヨーロッパ最強のチームを、ベル子はたった一人で全滅させた。








 

ベル子TUEEEEEEE!!!!!!!!

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