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61話 ベル子無双 【前編】








 ラウンド開始を告げるブザーが鳴り響く。決勝にコマを進めた25チームは戦場に降り立つための飛行機に転送される。

 それと同時に俺はすぐさまマップを確認した。航路を確認するためだ。

 決勝のマップは最もポピュラーな通常マップ、そのマップを西から東へ真っ二つに切るように今回の航路は設定されていた。


「どこに降りる?」

「……当初の予定通り、シコクにある軍事基地に降りよう」


 シコクとは、通常マップ南に位置する大きな島の通称である。そのまんまだけれど形と位置が日本の四国に似ていることからほとんどのプレイヤーにそう呼ばれている。

 今回俺たちがランドマークに選んだのは、そのシコクにある南の中規模軍事基地。物資の量は悪くないけれど周りが海に囲まれているシコクに位置しているため、安地次第では検問の餌食になりやすいという大きな特徴がある。

 野良サーバーでは激戦区である中央市街地についで人が集まりやすい区域ではあるけれど、公式戦ではやはり検問されやすいという大きなディスアドバンテージがある為、あまりプレイヤーが集まらない。


 今回はその隙につけこむ。


 確かに検問は脅威だ。一人称視点であるRLRにおいて車に乗っている最中は反撃のしにくい最も危険な状態。


 けれど。


 ウチには車に乗っていようが乗っていまいが関係なく敵を撃ちぬいてしまう変態がいる。


「どうしたSintaro(クイーン)? 告白か?」

「お前歪みねぇな」


 ゲーム内だとしてもちらりとジルの方を向くときっちり反応する。

 日本最速の反応速度という噂は本当かもしれない。


「ほら、馬鹿やってないでそろそろ降下地点よ」


 奈月に呆れられながらもつつがなく最速降下を決める。


「敵、2パーティだ」

「すぐに接敵はしない距離だ、速攻で装備を整えるぞ」

「了解」


 軍事基地に降りたのは俺たちの他にも2パーティ。

 けれど想定内。俺たちは軍事基地のはずれにあるマンションに降下した。

 対して他の2パーティは軍事拠点、管制塔付近に降下している。

 理想の流れは、その2パが潰しあって弱ったところを俺たちが狩る。


 俺の想定している理想をみんなも察したのか、いつもよりもさらに物資を漁るスピードを上げている。

 相手より常に優位に立てるように立ち回る。

 物資、特に防具を充実させるのは必須。

 レベルの高い防具を最も接敵数の多いジルに回し、スコープやSR(スナイパーライフル)は奈月に回す。

 合宿でもそうだったけれど、その後の練習でもこの流れの効率、スピードをあげる意識を続けてきた。

 今やジルとベル子も、従来の俺と奈月と同じレベルで物資だけなら無言でも回せるようになっていた。


「ベル子……どうだ?」


 俺は今回のラウンドの懸念事項であるベル子の調子について尋ねる。


「……」


 けれど、返ってきたのは無言。

 ……やはりだめだったか。幾人ものスポーツ選手を苦しめてきたイップス。ゴルファー、野球選手、その道のプロを引退にまで追い込む難病。それはゲーマーだって例外じゃない。


 そう簡単に完治するものじゃない。


 ベル子に励ましの言葉を、ポジションの交代を告げようとした。


 その瞬間。


 鈍い銃声が虚空に響き渡る。

 どうやら管制塔付近に降りた2パーティが戦闘を始めたらしい。


「……タロイモくん」


 銃声が轟いてすぐ、ベル子がようやく口を開く。



「s方向、管制塔左から2番目の窓、3名が撃ち合っています」


 ミリ単位で敵の居場所を暴き出す世界最高の索敵。


「聞こえてるならさっさと言えよな……!」

「ごめんなさい、聞こえすぎてぼーっとしちゃいました」


 頼もしすぎるその一言に、震える。


「みくると約束しちゃいましたからね……日本一FPSの強いYouTuberになるって」


 肉親のためなら、難病だって乗り越えられる。

 強いベル子にそしてそれを支えるみくるちゃんという存在を、少しうらやましく思いながら俺は告げる。


「……日本一どころか、ベル子なら世界一にだってなれるよ」

「連れってってくださいね、世界の頂に」

「まかせろ。……ってことで奈月」

「わかってる」


 俺が名前を呼んだ瞬間。奈月のkar98kが火を噴く。


 キルログに敵の名前が表示される。問答無用のヘッドショット、気絶なしのワンパンだ。

 奈月のキルにより数的有利を崩されたからか、先ほどより多くの発砲音が響き渡る。


「……シンタロー、ログ」


 奈月の一言によりログを確認する。

 奈月がキルをとったチームとは別のパーティがキルを量産していた。


 GGG_Mongra。GGG_Rudolf。GGG_YKYK。GGG_charlotte。


 頭文字のチームを示す三文字のアルファベット。それはヨーロッパ最強のプロゲーミングチーム、GGG Proに在籍していることの証明。


「しょっぱなからヨーロッパ最強とかち合うとはついてねぇなぁ。……気を引き締めていくぞ」

「……ほ、本物」

「トップチームとは言え、同じ高校生よ。気負う必要はないわ」

「奈月の言うとおりだ。王様(キング)の前ではみな等しく一般people(ピーポー)。……おっと、Sintaro(クイーン)は特別だぞ?」

「いや俺も一般ピーポーでいいっす」

「ツンデレめ」


 GGGとの戦闘は想定していた。

 遠距離特化でエイム重視の立ち回り、それが目標の得意であるならば全く逆を押し付けるのみ。


「ポジションを変える。前衛(アタッカー)に俺とベル子とジル、後衛(バックアップ)を奈月。向こうが平地に出る前に管制塔に詰めるぞ」

「「了解」」


 合宿の演習通り、エイム力という向こうの強点を潰すため屋内戦でゴリ押す。

 ベル子の索敵が復活した今、足音が絡む戦闘じゃ俺たちは負けなしだ。


「……本当に私がアタッカーで大丈夫でしょうか……?」

「大丈夫だ。後ろには奈月がいるし、隣には俺とジルもいる。それにお前の索敵があればSG(ショットガン)構えときゃどうにでもなる」


 心配そうに俺の後ろをついてくるベル子。

 俺も大概だけど、こいつも相当ネガティブだよな。

 まぁそういう性格のほうが屋内戦には向いてるんだけど……。


 これは何の根拠もない持論なんだが、FPSプレイヤーは大きく分けて二つの党に分かれる。


 一つはエイムゴリラ党。もう一つはイモインキャ党。


 この二つの党はFPSというゲームジャンルが確立されてから、きのこたけのこ戦争ばりに激しく長くいがみ合ってきた。


『この芋野郎が! こんなとこでガン待ちしてんじゃねぇよチキン!』

『なんだこの変態エイム!? 理不尽すぎるだろ! 無心で芋ってた時間返せよ!』


 といった具合だ。

 エイム力ゴリ押しのゴリラプレイが好きなやつは大抵ポジティブで自信家、戦闘民族で天然まっすぐ自己中心的。そしてオープン変態が多い。

 逆に、ガン待ち引きこもり芋プレイが好きなやつは大抵ネガティブで消極的、ひねくれ者でずる賢くて冷静。そしてむっつりが多い。


 ジルはもちろん前者で、俺とベル子は後者。奈月は半々といったところだ。

 例えば世界一ゴリラプレイがうまいrulerなんかとんでもないオープン変態だ。変態通り過ぎて猟奇的である。

 ジルやrulerのような自分の行動を信じて疑わないポジティブな変態が一番厄介。エイムの乱れは心の乱れとはよく言ったものだ。あいつらが動揺したとこ見たことねぇもん。


 逆に俺やベル子は自分の行動を疑って疑って疑いまくるタイプだ。

 心が乱れまくるし邪念や猜疑心に支配されるだろう。

 だからこそ、最悪な状況を想定して行動できる。プライドなんてないから勝ちに徹することができる。立ち回りで優位に立つことができる。


 エイムゴリラ党には前衛(アタッカー)砲台(タレット)が多くて、イモインキャ党には後衛(バックアップ)斥候(スカウト)が多い。

 性格で好きなムーブも変わってくるのだ。おもしれぇよな。


「タロイモくん? どうかしました?」

「……いや、何でもない」


 しょうもないことを考えていたらいつの間にか管制塔まで詰めていた。

 考え事をしていたといっても、スモークを焚きながら詰めたので被弾はしていない。


「ベル子敵は?」

「一階の一番東の部屋に2人、三階の管制室に1人、もう1人は屋上で私たちとは反対方向の南側を向いています」


 何度も言うけれど、控えめに言ってチートである。


「奈月、ベル子の後ろについてくれ。GGGも奈月のキルで流れたログで俺たちを把握しているだろう。……俺が敵の立場なら、一番うれしい状況はキルした相手がたまたまベル子だったって状況だ」

「ならなおさら私が前にでるのは……」

「GGGは強敵だ、数的不利になるような状況はできるだけ避けたい」


 銃口の数は多いほうがいい。奈月は外からでも狙えるけどベル子はそうはいかないだろう。


「合宿から必死こいて練習してきた撃ち合いを披露するチャンスじゃないの。死ぬ気でやりなさい」

「……そ、そうですよね……! みくるも見てますしね……! かっこいいとこ見せないと……!」


 出鼻からヨーロッパ最強チームとはなかなか胃もたれする展開だけれど、仕方がない。


 目の前に立ちはだかるなら正面から撃ち合う……ような真似はせず。火炎瓶と手榴弾をしこたまなげて背後から奇襲する。


「その意気だ、さぁ行くぞ」



 ヨーロッパ最強との戦いが、始まる。












 


作者はイモインキャ党です。

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