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47話 ベル子がYouTuberになったわけ 1










「やべぇ……マジでエイムクソなんだけど……」


 2日目の予選の入場を終え、俺はPCをセッティングした後、練習モードで今日の調子を確認していた。

 結果は見ての通りのガバガバエイム。本調子が100だとするならば、今の状態は10くらい。絶不調も下回る勢いで、調子が悪い。


「すまん……今日の俺は撃ち合いクソ雑魚だ……」


 後ろから俺のPC画面を眺めていた仲間たちに告げる。


「しょ……しょうがないわよ。誰しもそういう時はあるわ」


 奈月は額に汗を浮かべながらそう答える。

 おかしい。いつもの奈月なら「体調管理もできないなんて、アンタほんとにタロイモね」くらい言ってくるはずなのに。今日は何故かしおらしい。


「安心しろSintaro(クイーン)。撃ち合いは俺が担当するし、オーダーはベル子に任せればいい。いつも俺たちの為に無理してくれてるんだ。今日くらいはゆっくり休んでくれ」

「むしろナイス体調不良です。今大会はタロイモくんは目立ち過ぎです。今日は私が目立つちょうどいい機会というやつですね!」


 もじもじしている奈月とは真逆に、自信あり気に胸をそらすジルとベル子。

 ベル子のバインバイン揺れるマウントベルコに観客や観戦記者、選手達は釘付けだった。もちろん俺も例外じゃない。


「……なら、お言葉に甘えて、ベル子にオーダーを任せる。俺は今日はスカウトに専念させてもらう」

「任せてください。タロイモくん以上の結果を見せつけてやります!」


 腰に手を当ててふんぞり返るベル子。

 またもやマウントベルコが今にも噴火しそうな勢いでバインバインと活性化していた。


「頼んだぜ」


 俺がそう告げると、ベル子は嬉しそうにはにかんだ。


 このチームなら、俺が撃ち合いに参加しなくても大丈夫だろう。

 前日には1.2ラウンドとも一位をとり、さらにはキルポイントもかなり多く稼いでいる。

 仮に、今日のラウンドの戦績があまり振るわなくても、予選を突破できるほどだ。

 まぁ、予選3.4ラウンドを連続最下位とかなら欠落もあり得るけれど、ウチのチームに限ってそんなことはないはずだ。


「それじゃあ、ベル子がオーダーだと仮定して、作戦の最終確認に……って、ベル子?」


 作戦の最終確認に移行しようと、ベル子に声をかけたけれど、ベル子は俺とは違う明後日の方向を見つめていた。

 ベル子の視線をたどる。奈月もジルも、不思議に思ったのか、俺と同じ行動をとっていた。


 ベル子が見ていた先は、選手でも、カメラでもない。

 なんの変哲もない。ただの観客席だった。


「っ!」


「おい!? どこ行くんだよベル子!?」


 観客席をぼーっと眺めたかと思うと、急に走り出すベル子。螺旋状の選手席から降りて、簡易的な柵で区切られている観客席の方へ向かっているようだ。

 制止を促す俺の声も、全く耳に入らないほど、彼女は興奮しているようだった。

 もうすぐラウンドが始まるというのに、最終のミーティングまですっぽかして何処かへ行くなんて、いつも冷静で常識的なベル子とは思えない行動だ。


「ちょっと追いかけてくる」

「っ……試合開始までには絶対戻って来なさいよ」

「了解」


 頭痛を堪えて立ち上がり、ベル子の方に向かう。

 幸い、彼女はあまり遠くへは行かず。選手席と観客席の間の柵あたりでウロウロとしていた。


 頭を押さえながらトロトロと走って、ようやくベル子に追いついた頃には、すでに彼女は落ち着いた様子だった。


「おい……べ……」


 声をかけようとするけれど、反射的にやめてしまう。

 ベル子の普段の明るい声とは似ても似つかない、とても悲しそうな声が聞こえたからだ。


「そんなわけ……ないよね……」


 その台詞の真意を、俺はこの場で聞こうか少し迷ったけれど、簡単に踏み込んでいいような問題じゃないような気がして、ベル子にかける言葉を変えた。


「ベル子、もうじき試合がはじまるぞ」


 少し間を空けて、彼女は振り向く。


「……はい、ごめんなさい。戻ります」


 ベル子はいつもの人懐っこい笑みを浮かべていた。

 けれど、さっきの悲しそうな声を聞いた後だからか、その笑顔の裏に何かとてつもなく大きなものを背負っているような気がして、心配になる。


「……心配しないでください! 今日のラウンドMVP予定である超絶美少女YouTuberの私を、観客達にアピールしに来ただけですから!」


 俺の表情から、いろいろと察したのか、彼女は気丈に振る舞う。

 ベル子が話さないのであれば、俺が無闇に踏み込むべき問題じゃないのだろう。

 彼女の趣味嗜好は、少し子供っぽいところがあるけれど、考え方や立ち振る舞いは誰よりも大人だ。


「あぁ、みんな度肝を抜かれるだろうな。ベル子のオーダーに」

「当たり前です、タロイモくん、足引っ張っちゃダメですよ?」

「任せろ。斥候(スカウト)は、元々俺が一番得意なポジションだからな」


 軽口を交わし合いながら選手席へともどる。


 心配そうにしていたジルと奈月も、ベル子の笑顔を見てからは、いつものペースを取り戻していた。


 今日で予選突破の20チームが決まる。

 世界大会への大きな足がかりを得る為、今大会は、なんとしてでも優勝しなければいけない。


「さぁ、しまっていきましょう」


 最終ミーティングを終えた後、ベル子は自信ありげにそう呟いた。


 波乱のDAY2。

 第3ラウンドが始まる。








* * *








 ベル子のオーダーに従って、試合を進めていく俺たち。


 DAY2は砂漠マップ。遠距離戦特化の奈月を、いかにうまく立ち回らせるかが勝負の鍵になる。


 最初の降下地点は、あまり人気が無い南東の廃墟群。


 物資の量も、建物の雰囲気も悪くないはずなのに、地図上ではあまり目立たないせいか、降下する人数はあまり多くない。

 俺たちは一刻も早く、奈月にSR(スナイパーライフル)を持たせる為、物資を漁る。

 

 ベル子率いる俺たちは、最も警戒すべきcross flareと接敵することもなく、かといってキルポイントを深追いすることもなく、確実に予選突破を目的とした堅実なムーブで動いていた。



 はずだった。



「ベル子! やばいぞ囲まれてる!」


 ジルの報告に驚く。


 先ほどまでは、俺は敵と撃ち合わないよう細心の注意を払って、一人で廃墟群に敵がいないか索敵していた。

 ベル子、奈月、ジルは、俺の後ろからついてくるようなムーブだ。


 今現在は、俺の索敵範囲外から運悪く敵が接敵した状況なのだろう。


 それにしても、おかしい。


 足音が聞こえるほど近くに敵が接近しているのに、索敵チートであるベル子が気付かない訳がないのだ。


「ベル子、敵の位置は? 指示をちょうだい」

「この状況でも、まだ俺たちなら撃ち勝てる、頼んだぞベル子!」


 ジルと奈月が叫ぶ。

 俺は急いでベル子の方へとカバーに向かう。撃ち合い雑魚とはいえ、いないよりはマシなはずだ。


 結構なピンチだけれど、ベル子の索敵があれば、オーダーがあれば、なんなく切り抜けられるだろう。


「あれ……なんで……っ!?」


 そう思ったのもつかの間、ベル子の不安げな声が聞こえる。




「足音が……聞こえない……っ!」




 ベル子の声は、今まで聞いたこともないくらい、震えていた。











 

仕事したくないでごわす!


というわけでベル子編に突入しました。全中後編くらいになると思います。できるだけ……できるだけ毎日投稿したい……! とは言いつつも、体が追いつかないのが現状です…ごめんなさい! 遅くなっても2日以上は間を空けないので、ご安心ください。長々と言い訳してごめんなさい!ベル子編にはかなり力を入れるので楽しみにしていただけると幸いです。

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