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46話 波乱の公式戦2日目





* * *




「……っ」


 頭が痛い……。


 目を開けると、ボヤけた天井が見える。

 たしか……俺は、ファンにもらったチョコを食べて……それで……。


 体を起こそうとする。


「……は?」


 ジャラリと音がなった。

 視線を音のなる方へ向ける。


 皮のリストバンドに、重たそうな鎖がついた拘束具が、俺の手首に装着されていた。


「なんじゃこりゃぁ……っ!」


 無理矢理体を起こそうにも、足も手も、鎖がジャラジャラ音をたてるだけで、まったく動かない。


「俺が気を失っている間に一体何が……まさか、過激派のファンが俺を拉致しようとして……!」


 パニックを起こしそうになる。

 俺は動く首だけをなんとかおこして、あたりを見渡す。


「ふぇ……?」


 信じられないようなものが視界にうつった。


 奈月がうつ伏せで、俺のお腹の上に寝そべっていたのだ。


 俺が驚いた理由はそれだけじゃない。起きている現象自体は、それ以上でもそれ以下でもないのだけれど、問題だったのは、そのうつ伏せになっている彼女の格好だった。


「ぶ……ブラの紐が……!」


 ヨレヨレになったTシャツに、かなり丈の短いホットパンツ。

 Tシャツの首元からブラジャーの紐がチラリズムしていた。

 かなり際どい格好にもかかわらず、奈月は可愛らしい寝息をたてている。

 まずい、これじゃ奈月の胸が俺にあたってしまう……! というか現在進行形であたって……ないな……。

 あたっているには、あたっているのだろうけど、これといって特別な感触はしなかった。南無三。


「…………」


 俺は今一度、状況を頭の中で整理する。


 ……よくわからんけど……奈月が起きたらたぶん殺されるな……。

 際どい寝間着のような格好。さらによく見ると、彼女は右手にガスガンを握っていた。


 ガスガンを握りながら、拘束されて身動きとれない俺の上で寝る幼馴染。


 マジでわけわからん。


 なぜこんな状況になっているかはともかく、奈月の機嫌をそこねれば、俺は抵抗することもできないまま八つ裂きにされるだろう。それだけはなんとしてでも避けなければならない。


「な……奈月さん……朝ですよ……?」


 なるべく優しく声をかける。

 けれど、奈月は微動だにしない。

 次はどう立ち回ろうか悩んでいると、部屋の扉が静かに開いた。


 まずい……こんな状況を第三者に見られれば、恥ずかしいどころの騒ぎじゃない……大会失格だってありうるぞ……!


 扉から入ってくるであろう誰かに対しての言い訳を、必死に考えていると、今まで微動だにしなかった幼馴染が、ピクリと鼻を揺らす。


「奈月……! 良かった! 俺たちはうぐぁっ!?」


 そこまでしか、俺は言葉を発することができなかった。


 鼻がピクリと動いた瞬間、扉の開く音が聞こえた瞬間、奈月は俺の腹から飛び起きたのだ。

 そして、まるで訓練された特殊部隊のように、扉の方へとガスガンを向ける。

 真剣な彼女の表情を見るに、飛び起きた反動で、俺の股間を蹴り上げたことは知る由もないだろう。

 やばい、死ぬほど痛い……!


「誰?  ruler、もしくはcross flareであれば問答無用で射殺するわよ」


 とんでもなく物騒なことを抜かす俺の幼馴染。

 俺はその台詞の真意を確かめたいと思ったけれど、痛みのあまり口が思うように動かなかった。


「奈月さん……私です、ベル子です……」


 聞きなれた猫なで声が聞こえる。

 部屋に入ってきたのは、rulerでもcross flareでもなく、どうやらベル子だったらしい。


「なんだ、ベル子か……驚かせないでよ」

「……それはこっちのセリフだ……っ!」

「あらシンタロー、ようやく起きたのね」


 不機嫌モードではあるけれど、どうやら俺に対して敵意は無いらしい。

 痛みをこらえて、状況説明を奈月に求める。


「とりあえず……何が起きたのか教えてくれ……」

「……やっぱり何も覚えてないのね」


 ジト目で俺をにらむ奈月。

 またオレ何かやっちゃいましたか……?


「まぁいいわ……」


 ため息を吐きながら、俺の拘束を外す奈月。

 奈月の服装に関して何か指摘した方がいいか迷っていると、ベル子がにやにやしながら口を開く。


「奈月さん、その格好はナニかあったんですか?」

「へっ……? あっ……!」


 ベル子の指摘に、一瞬で顔が真っ赤になる奈月。

 ナニがあったのか説明してもらいたいのは俺の方なんだけどな。


「シンタローのえっち……」


 すそを恥ずかしそうに押さえながらボソリと呟く幼馴染。

 すこし機嫌がいいのか、ぶん殴るというコマンドを奈月は選択しなかったようだ。僥倖……っ!


「えっちでもなんでもいいけど……とにかく説明してくれ……」


 俺がそういうと、奈月は拘束を外しながらいそいそと説明しはじめた。





* * *





「というわけよ」

「……なるほどな」


 拘束を外して部屋を見渡す。ジルが床で眠りこけていた。

 ジルが着ている軍服っぽいコスプレや、装備しているガスガンを見れば、俺が気を失っている間に起きたことの壮絶さを少しだけうかがい知ることができた。


 奈月から聞いた、俺が気を失っている間に起きたことを端的に説明すると。


 ファンからのプレゼントであるチョコレートを食し、酔っ払って眠りこけた俺。

 そんな無防備な俺を性的な意味で襲おうとするrulerとcross flare。

 夜中だろうが、扉に鍵がかかっていようが、御構い無しに突ってくる彼女らに対して、奈月とジルは、俺を守るべく、この部屋で、さながら公式大会決勝戦のような激戦を繰り広げたようだ。


 奈月やジルは、その途中で、寝落ちしてしまったらしい。


「ほんと大変だったんだから! ……言っとくけど、アンタの上で寝てたのは、たまたまだからねっ? たまたま寝落ちたのがアンタのお腹の上であって、別に、匂いを嗅いだら安心して眠くなっちゃったわけじゃないんだからねっ!?」


 あわあわと説明する奈月。

 それに対して、冷静にベル子がツッコミを入れる。


「奈月さん、寝起きでさらにポンコツになってますよ」

「うっさいわようさぎ女!」

「とにかく、そろそろ準備しないと試合に間に合いませんよ? ほら、ジルも起きろです」


 ジルの尻を蹴り上げつつ、時計を確認するベル子。こいつって何だかんだチームで一番しっかりしてるよな。

 色々あったみたいだけど、大事な公式戦2日目がもうすぐはじまる。気持ちを切り替えなければいけない。


「うし……2日目も頑張るか……」


 そう言いながら、俺はベットから立ち上がろうとする。


 けれど、視界がぐらりと逆さまになった。


 そのまま俺はベットに転がる。

 頭がズキズキと痛んだ。


「やばい……体が思うように動かないんだけど……」


「……まさかタロイモくん……二日酔いってやつですか……?」




 波乱の公式戦、DAY2が開幕した。





 





 


 



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