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44話 泥酔した世界最強【前編】










「奈月、お前可愛すぎるだろぉ……っ!」


 幼馴染の言葉に、私は鳩が豆鉄砲をくらったような顔になる。

 頬が熱い。

 自慢じゃないけど、私は可愛いとよく言われる方だと思う。だから、異性が発するそういった言葉には慣れていると思っていた。

 けれど、その憶測は、シンタローによって瓦解された。

 同じ台詞でも、言う人間が違えば、こうも威力が変わるのか。

 言霊の真意について私が真剣に考えていると、目が据わった幼馴染はさらに爆弾を投下する。


「なんなんだよ……! 隣の幼馴染が超絶美少女とかどこのラノベだよ……勘違いしちゃうだろ……ふざけんな……っ!」

「べ……別に、そんな可愛くないし……!」

「はぁ!? お前が可愛くないなら全人類超ド級のブサイクだわ! ふざけんな! お前の可愛いところ今から100個余裕で言えるくらい可愛いわ! 萌えの集合体すぎるわ! 俺の幼馴染が世界ランク2位の凄腕スナイパーでツンデレ美少女とか臭すぎるなろう小説かよ……! 最高……!」

「べ……ベル子! スマホの録音ってどうやるんだっけ!?」

「奈月さん落ち着いてください」


 私の可愛いところを羅列し始めるシンタロー。これ以上は心臓が破裂して死に至る可能性があるので、ベル子と一緒にシンタローを拘束しにかかる。


「奈月……俺とお前ってさぁ、昔、結婚の約束してたよな……」

「えっ……」


 昔、たしかに私とシンタローは結婚の約束をしていた。子供ながらに、婚姻届を自作して、赤いインクで拇印まで押してある。その婚姻届は、今もママが大切に保管している。もしもシンタローが別の女とくっつきそうなものなら、ママが出るところに出るらしい。心強い。


「奈月さん手を緩めないでください」


 腐っても、シンタローは男。

 女である私の拘束なんて、いともたやすくすり抜けてみせる。

 ……勘違いしてはいけない。

 今、シンタローは酔っ払っている。

 コイツは自称敏感系天然ジゴロの鈍感ラノベ主人公なのだ。歯の浮くような台詞を平気で吐いて捨てるのだ。

 むしろ強気で言い返すくらいの気概がないとダメだ。


「結婚の約束、あれってまだ有効だよな?」

「もちろんよ」

「奈月さん、ツンデレキャラ忘れてますよ」


 シンタローの真剣な声に魔法でも込められているんじゃないかってくらい抵抗できなかった。口惜しい。


「あ、いや違くて!」

「違うのか……? そうだよな……奈月みたいな美少女が、俺みたいなクソ芋プレイヤーなんかのことを好きになるわけないよな、ごめん」

「なんでそうなるのよ……!」

「やっぱベル子にするわ」

「ちょっ! こっちにこないでください!」

「ベル子かわいいよベル子」

「ぎゃーっ!」


 ベル子にルパンダイブを決めようとするシンタローを拘束する。


「えっ……ちょっ……痛いんだけど……腕折れそうなんですけど……!」


 おかしい、さっきまでまったくシンタローに力で敵わなかったはずなのに、今ならこのクソラノベ主人公の腕をへし折れそうな気がする。


Sintaro(クイーン)、さっきから聞いていれば、俺を差し置いて結婚だと? ふざけるな! 俺とお前は一生を共にする仲だろう……!? それを蔑ろにして他の輩に浮気など……! 重罪だぞ!」


 珍しく熱くなるジル。

 この変態は熱くなるばかりでシンタローを拘束しようとはしない。本当に役立たずである。


「はぁ……ジル、お前は何もわかってねぇな」


 熱くなるジルに、シンタローが反応する。


「俺とお前が一生を共にする? 何を今更当たり前のこと抜かしてんだよ、馬鹿かてめぇ? 俺の親友はお前だけだよ、一生一緒に決まってんだろ、出直してこい」

Sintaro(ワイフ)……」


 ジルの瞳が、まるで恋する乙女のようにキラリと輝く。

 ダメだ。シンタローを酔わせてはダメだ。

 今確信した。

 油断していた隙に、シンタローは私の拘束を抜けて、ベル子に覆いかぶさる。


「酒臭いです! 離れろです……っ!」

「ベル子……俺はお前がいなきゃただの芋プレイヤーなんだよ……お前の索敵がなきゃ、敵と満足に撃ち合えない体になっちまった……責任とって俺と一緒のチームに入ってくれ」


 とんでもないことを抜かす私の幼馴染。

 こいつ、さっきまでは私に歯の浮くようなセリフを吐いていたくせに……ベル子の返答次第では立ち回りを変更する必要がある。


「……子供を養うには、やはりお金が要ります。まぁ、タロイモくんの稼ぎ次第ですね」

「シンタロー退いて、そいつ殺せない」

「……冗談ですよ奈月さん、こんなタロイモこっちから願い下げです、だからその右手に持っているガスガンしまってください。それ人に向けちゃダメなんですよ?」


 私は見逃さなかった。

 酔っているシンタローとはいえ、ベル子はまんざらでもなさそうな態度、雰囲気だった。女の勘というやつかもしれない。ベル子の濡れたような態度に、私の勘はけたたましく警笛を鳴らしたのだ。


「奈月さん、とりあえずタロイモくんを拘束しましょう。ジルも手伝ってください。こんな状態を大会関係者に見られたら大変ですからね」

「……たしかにそうね」


 ベル子の提案により、一時休戦する。

 ホテルで飲酒事件など、大会失格どころか学校に連絡がいくまである。


「任せろ、シンタローを組み伏せるのは得意中の得意だ」


 ジルを主導に、シンタローをベッドに拘束する。なぜかジルが持っていた拘束具やらを駆使したので、楽に捕まえることができた。


「これで一安心です」

「……この光景を見られただけでも十分やばそうね」

「ベッドに磔にされたシンタロー、悪くない」


 ガッチガチに拘束されたうちのリーダーを、三人で放心状態になりながら見つめていると、背後からガチャリと扉が開く音がした。


「しんたろ、かった、ので、ほめてもらいにきた」


 真っ白な永遠の宿敵、diamond rulerがそこにいた。













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