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39話 cross flareの正体










「……っ?」


 突然の韓国語に、一瞬、息が止まる。


 理解できない言葉を発した彼女を、俺は見つめていた。


 髪型は黒髪ベリーショートで、少しつり目。中性的な顔立ちは、可愛らしくも、凛々しくもあり、万人ウケしそうな見た目だ。

 そんな紛れも無い美少女は、あまり見覚えのないダブダブのユニフォームを着ていた。


「……すみません、日本語で喋らないとですよね……」


 流暢な日本語が聞こえてきた。

 ダブダブのユニフォームの裾を恥ずかしそうにぎゅっと掴んで、彼女は伏し目がちに自己紹介をはじめる。


「僕のハンドルネームはcross flare、久しぶりですねお兄さん」


 cross flare、公式大会予選での最大の脅威。俺たちを全滅にまで追い込んだ根っからのキルマシーン。

 それがこんな美少女であるという情報よりも、数段理解不能な情報に、俺は思わず間抜けな声をあげて聞き返す。


「お……お兄さん?」

「はい、貴方は僕のお兄さんです。約束通り迎えに来ましたよ。さぁ、こんな雑魚ども放っておいて、また僕といっしょに暮らしましょう?」


 憂いを帯びた瞳で、俺を見つめる彼女は、まるで舞踏会のような華麗なステップで、俺の懐に飛び込む。

 美少女に抱きつかれるなんて最高のシチュエーションなんだけれど、今はただ、恐怖しか感じない。


「ちょっと待ちなさいよアンタ」


 黙っていられないとばかりに、奈月が、俺と彼女を引き剥がす。


「さっきからなんなの……? シンタローの兄弟は冴子さんしかいないはずよ、妹はいないわ」


 俺が彼女に告げようとした事実を、奈月が代わりに告げる。


「……今世では、そうみたいですね」

「こ……今世?」

「僕とお兄さんは、生まれるずっと前、正確には百年ほど前の日本で、兄弟だったんです」


 俺たち四人は呆気にとられる。

 彼女の言葉を何一つ理解できない。


「うわぁ……」


 奈月は、何か可哀想なものを見る目で、よくわからないことを言う彼女を見つめていた。


「悲しいことに、今世は、僕は韓国で生まれて、兄さんは日本で生まれた。けれど、このゲームが、僕たちを引き合わせてくれた。動画サイトで兄さんのプレイ動画を見たとき、僕は前世の記憶を取り戻したんです。縦横無尽に戦場を駆け抜ける姿は、僕が前世で見ていた兄の背中と同じだった……戦争で生き別れた2人は、ようやく、今世で、巡り会えたというわけなんです」


 まるで聖母に祈りを捧げるが如く、胸の前で手をくんで語りだす彼女。


「どうしよう、キャラが濃すぎて胃もたれしそうなんだけど……」

「タロイモくん、良かったじゃないですか、こんなに可愛い妹ができて」

「良くねぇよ」


 こういうの、厨二病だとか、電波っていうんだっけ……? とにかく、ジルを軽く凌駕するレベルで扱いづらい事は確かだ。


 俺が大きなため息を吐くと、件の彼女は、眉間にしわを寄せて、衝撃の事実を口にする。


「……何を勘違いしているんですか? 僕は兄さんの妹じゃありません。弟です」


「ん……?」


「僕は男ですよ?」


「……は?」


 放心状態の俺に代わって、ベル子が状況を整理する。


「……えーと、厨二病で電波でガチホモで男の娘ですか、すごいですね。キャラの大渋滞です」


 ベル子は珍しいシチュエーションにYouTuberの本能が掻き立てられたのか、鼻息を荒くして、自称、俺の弟を観察していた。

 こいつ……他人事だと思って……!


「黙って聞いていれば……ふざけるのも大概にしろよ……」


 ガタンと音を立てて、椅子から立ち上がるジル。

 もう嫌な予感しかしない。


「前世だのなんだの妄想を垂れ流し、独りよがりな気持ちをシンタローに押し付けるとは……貴様、愛の意味を履き違えているようだな」

「いやお前が言うなよ」

「シンタロー、止めてくれるな。こいつが男だと分かった以上、引くわけにはいかない」

「ちょっ、マジでやめて、話がややこしくなるから……! 取っ散らかるから……!」


 ジルの尊大な態度が鼻についたのか、自称俺の弟であるcross flare……くん? も、にらみをきかせて呟く。


「日本の自動小銃の王様(ARキング)ですか……僕と兄さんの絆にケチをつける気ですか? ぶち殺しますよ?」

「兄弟の絆など、問題にならないくらいに俺とシンタローは深く繋がりあっているのだ。わかったならさっさと部屋から出て行くんだな」


 男だとわかった途端目の色を変えてバッチバチに張り合うジルを尻目に、俺はなるべく優しい声音で、彼に話しかける。


「と……とりあえず、く……cross flare……くんでいいよな? 今日の所は帰ってくれ、君も、ラウンド2の準備があるだろ?」

「兄さんに会えたんだ、もうこの大会に出る意味なんて……ちょっ!」

「はいはい、出口はあっちですよー」


 俺は強引に、彼を押し出そうとする。

 彼の胸に手を当てると、予想だにしない感触が、右手を襲う。


「ひゃっ!」

「は……? なんか柔らかかったんだけど……」


 男にはあるはずのない、柔らかな感触。

 彼は……いや、彼女は、目に少し涙をためて、可愛らしく、ジト目で俺をにらむ。


「兄さんのえっち……」

「シンタロー……殺されたいの?」


 cross flareと同時に、なぜかブチギレる奈月。


「いや……違うんですよ奈月さん……!」


 俺はただ怯える事しか出来なかった。


「……ちょっとチェックしますね」


 ベル子は、cross flareのユニフォームの首元から手を突っ込んでまさぐりはじめる。


「……ぁ…っん!」


 妖艶な声をあげる俺の自称弟。

 じっと見つめていると、奈月に足を思いっきり踏まれた。


「な! 何をする痴女め……!!」

「ベル子、報告を」


 恐る恐る、ウチのチートすれすれスカウトに、指示を飛ばす。


「……奈月さんとおんなじくらいでしたね」

「馬っ鹿お前、それじゃ比較対象にならんだろ」

「アンタ達、どうやら本当に死にたいらしいわね」


 奈月に2、3発ほど、重たいボディーブローをもらって悶絶した後、俺は自称弟に質問する。


「……く…cross flareくん……君は男の子なんだよね……?」

「前世では、筋骨隆々の日本男児だったぞ! 兄さん!」

「……今世は?」

「……男だ!」

「もう個性が強すぎてどう扱えばいいかわっかんねぇんだけど」

「僕は兄さんにどう扱われても嬉しい、けれど、もし要望が通るのであれば、粗雑に扱ってもらえるとなおの事嬉しいぞ」

「オマケにドMとかとんでもないレベルの変態だな」

「っ……! 早速ご褒美とは、さすがは兄さんだな!」

「誰か助けて……」


 性別不詳で、自称弟に、髪の毛が真っ白になるレベルでストレスを感じていると、開けっ放しの扉の方から、聞き覚えのある声が聞こえる。



「しんたろ……うわき……?」



 試合直前で、PCをセッティングしているはずのdiamond rulerこと、ルナが、瞳のハイライトをキャストオフして、俺を見つめていた。



***



 そして訪れる混沌。


 ツンツンを通り越し、視線で相手を刺し殺す勢いのジャックナイフウーマン、奈月。


 性別不詳の厨二病、オマケに電波でドMで自称弟、キャラの濃さでは他の追随を許さないcross flare。


 俺に対して狂気的なまでの執着をみせる白銀の美少女、diamond ruler。


 俺はもう、この状況にどうしていいか分からず、ベル子と一緒にオセロをしていた。


「何してんの?」

「あっ、すみません」


 奈月にぶち殺すぞと言わんばかりににらまれたのでオセロを片付ける。

 ベル子が「あっ! 勝ち逃げずるいです!」なんて叫んでいるけれど、手を止めない。俺だってこの若さでまだ死にたくはないのだ。


「しんたろ、だれ、そのおんな」


 目から光が消え失せた白銀の美少女。diamond rulerさん。

 俺は怖くて一瞬で目をそらす。

 綺麗な洋人形に無機質に見つめられた時ってすっげえ怖いじゃん、あの感じ。


「やっぱり、うわき」

「違うんだルナ、こいつが勝手に控え室に乗り込んできたんだ」

「まったく兄さんは照れ屋だな、隠さずとも良いのに、私と兄さんは前世で穴をほじくりあった仲じゃないか」

「お前マジで黙れ」

「聞き捨てならんな」

「ジル、お前も黙れ」


 荒ぶる彼らとそんなやりとりをしていると、今度はウチの砲台(タレット)が死ぬほど不機嫌になる。


「シンタロー、アンタはウチのチームよね? 敵である白いのや黒いのとなんで仲良くするの? アンタやっぱり、強い女だったら誰でもいいの?」

「いや、別にそういうわけでは……」

「濁さないではっきり答えて」


 俺がまごついていると、またもやキャラの大渋滞こと、cross flareさんが胸をそらして自信満々に答える。


「当たり前だろう! 兄さんは前世から強い奴が大好きだったからな! つまり! 兄さんが大好きなのはこの場で最も強い僕ということになる!」


 彼? のセリフに、一気に空気がヒリつく。

 ベル子は巻き込まれたくないからか、ジルと一緒にジェンガをしていた。あいつ……大事な公式大会にまでパーティグッズを持ってきやがって……!


「……は? 寝言は寝て言えば?」

「2N、cross flare、ぬーぶ。つよい、わたし」

「世界ランキング一番高いの私なんだけど、木っ端共は黙りなさい」

「やれやれ……兄さんにおんぶに抱っこの寄生スナイパーがよく言うよ……」

「しんたろ、わたしえらんで」

「シンタロー、裏切ったらどうなるかわかってるでしょうね?」

「兄さん、僕なら兄さんのスタイルにきっちりぴったり合わせられますよ? スナイパーなんて必要ないですよ、だってこのゲームは最終的にはすべて近距離戦なんですから!」


 もう胃に穴が空きそう。

 俺のユニフォームにしがみついてフガフガする北米最強のスナイパーを引き剥がしながら、俺はこの状況を打開する為、発言する。



「やっぱ組むならベル子かなぁ〜」



 背後でジェンガが崩れる音がした。

 


「な……っ! ななななな何を言いだすんですかこのタロイモはっ! 私を殺す気ですか!?」


 ベル子が慌てて弁明に入るけれど、時すでに遅し。

 間違いなく世界トップレベルであろう三人は、目を血走らせてベル子をにらみつけていた。


「安心しろベル子、死ぬときは一緒だ」

「タロイモとなんてごめんです!」


 お前だけストレスから逃れようなんて許さん。やっぱりチームだからさ、負担は平等に分配するべきだよな。


「ベル子、まだ時間あったわよね? いまから紅白戦やらない?」

「2N、わたしもやる」

「しょうがないので僕も参戦しましょう。兄さんが選ぶほどの強者ならば、僕たち三人を相手にしても問題ないでしょう」

「ひぇぇっ……!」


 この三人を相手にソロで挑んで勝利するなんて公式大会優勝するよりむずいんじゃないだろうか。


 嫌がるベル子を無理矢理部屋から連れ出そうとする三人。


 けれど、その蛮行は、部屋に訪れた大会スタッフとgrimeによって阻止された。


 diamond rulerこと、ルナは、以前俺の家に凸スナしてきた時のように、grime達に連行されていく。ついでにcross flareも大会スタッフに頼み込んで連行してもらった。彼のヤバすぎる言動を聞いてからのスタッフの動きは迅速だった。有難い。


「……しんたろ」


 どこかの秘密結社に捕獲された宇宙人のような格好で、ルナはいつもの抑揚のない平坦な声をあげる。


「……わたしをみてて、そしたら、きがかわるから」


 ルナの意味深な発言。

 言われなくとも、優勝候補筆頭のVoVの試合はチェックする。


「……頑張れよ」


 そう告げると、白銀の美少女は、嬉しそうにはにかんだ。






 




cross flareのキャラ設定を大幅に改変しております。

キャラ大渋滞設定はそのままに、実は普通の女の子でした設定を消しています。


書いたときはおもしろいと思ったんですけど、休みの翌日、冷静な頭で読み直してみると、とんでもない御都合主義になっていたので、大幅な改変に踏み切らせていただきました。


ごめんなさい!!!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 渋滞しすぎてて好き笑笑 とりあえずルナちゃん仲間になってほしい
[良い点] 男装系中性のお前女だったのか!?は男の娘であってるんだよなぁ… 何故か誤用が一般的になってるんですが(困惑) 女装系中性のお前男だったのか!?は乙男(おとめん)だったのにどうしてこうなった…
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