32話 練習の成果
公式大会のスケジュールなんですけど、結構詰めすぎて無理があったので、二泊三日に変更しました。すみませんでした。
ゲームがはじまる。
俺はすぐさまマップを開き、飛行機の航路を確認する。
今回のラウンドは、通常マップを西から東へ横一文字に横切る航路だ。
「パターンC、作戦通り中央市街地から少し離れた監視塔付近の車を拾って、航路から離れた北東の街に行くぞ」
仲間たちの返事を聞いたのち、俺はすぐさま飛行機から飛び降りる。
今回のグループ予選において重要なことは、なるべく長く生き残ること。
キルを獲ることももちろん重要なんだけれど、最後の1人に残ればキル数関係なく、500ポイントも手に入るのだ。
これはキルポイントに換算すると、25キル分のポイント。猛者が集まるこの大会で、二桁キル取りにいくリスクは冒せない。リスクを冒せば、それだけ交戦回数が増え自分達がやられる可能性も高くなる。
25キル獲るより、1キルでも最後まで生き残った方がポイントが高いのだ。
人が多い激戦区に降りれば、物資が不足したまま敵と撃ち合うことになる。それはあまりにも運要素が強く、俺が好きなプレイングじゃない。
このゲームを勝ち抜くコツは、常に数的優位を保ちつつ、自分達が有利な場所で、交戦するという事。
確実に、堅実に、有利な状況で、試合を運ぶ。
飛行機から飛び降り、速攻で車を拾って、人がいない街まで向かい、比較的安全な状態で物資を拾い装備を整える。
端的に言えば、今回の序盤の試合運びの予定はこんな具合だ。
パラシュートが開き、目的地である監視塔付近の車庫が視界に映る。
まだ車は見えない。
車の種類はランダムである為、まだ油断はできない。2人しか乗れない二輪バイクである可能性もあるのだ。
「半径200メートルに敵はいません。中央市街地方面は、視認できる限り、4パーティほど降りてます」
ベル子が周りを索敵しながらパラシュートを開く。
中央市街地に4パーティか、結構多いな。
俺は車庫に降り立つ前に、指示をだす。
「四輪ならベル子が運転で予定通り全員で移動、バイクなら俺が運転でベル子が後ろ。奈月とジルは俺達が車を探すまで近場の廃屋で物資を漁ってくれ」
「了解」
「ok」
パラシュートを外し、地面に着地する。
すぐさま車庫を確認。
運良く、予定通り車は車庫にポップしていた。
「良し、予定通り作戦を進めるぞ」
「運転します、乗ってください」
ベル子がすぐさま運転席に乗り、俺たちも急いで乗り込む。
ここからは時間との勝負。
物資が多く、建物の多い北東の街は、プレイヤーに人気が高い。
今回の航路とはかなり離れている為、パラシュートで直接降り立つチームはいないだろうけど、俺たちと同じように車に乗って向かうチームがいる可能性も十分にあるのだ。
「俺は左を警戒、ベル子は正面、ジルは右、奈月は後ろを警戒してくれ」
短い返事を交わす。
並走するような車があれば、言わずもがな危険だ。
小さな情報でも、すぐさまオーダーに伝え、作戦を少しづつ変化させていく。柔軟に、敵に合わせてポジションも変える。俺たちのチームは弱点や強点が露骨な分、そういった連携は必須になる。
4人でいれば向かうところ敵なし、けれど1人でも欠ければ、弱点が露骨なチーム。
ジルがいなければ中距離の火力が不足、撃ち合いが弱くなるし、奈月がいなければ遠距離の火力不足、逆に敵から狙撃され放題になる。ベル子がいなければ全体の戦力そのものが大きく目減りするだろう。
野良マッチなら削れた人数でも勝負になる。
けれどここは世界各国の猛者が集まる公式大会。油断も甘えも許されない。
そうこうしているうちに、運良く接敵せず北東の街に着いた。北東の街の一番北側、マンションが立ち並ぶ区画に車を止める。ここなら車を割られることもないし、後から来たパーティに後ろをとられることもない。
「ベル子」
「近くに敵はいません。全くの無音です」
名前を呼ぶだけで意図を汲んでくれるウチのスカウトが優秀すぎる件について。まぁ最速降りして車も最速で見つけてここまで来たんだ。敵がいる方がおかしい。
「練習通り、なるべく早く装備を整えるぞ」
仲間たちは短い返事をして、すぐさまマンションに飛び込んだ。
20秒もしないうちに、報告が飛び交う。
「UMP余り」
「こちら2レベバッグ余り」
「kar見つけた。奈月に持っていく」
「了解、ARコンペンとAKM拾ったから交換で」
「レベ3バッグ拾ったのでアタッチメントと回復アイテムひたすら拾っていきます。後で足りないものあったら教えてください。武器はSG持ってます」
「オーケー、最優先でジルと俺を撃ち合える装備にしてくれ」
「了解、SMGアタッチメントと、ARの拡マガ拾っておきます」
「ここにレベ2ベスト、マップピン立てておいたから」
「了解、ジルは装備が整い次第拾ってくれ」
「OK」
幾度となく繰り返して来た練習。
これはその内のひとつ。
仲間の得意武器を把握し、お互いにそれを補って、なるべく早く戦える装備にする連携。
ジルはAR
奈月はSR
ベル子はSG
俺はSMG
武器のポップはランダムである為、すぐにお目当ての武器を拾えるとは限らないけれど、なるべく有利に試合を運べるよう工夫して物資を回す。
個という概念を捨て、群という概念を持って、行動する。
接敵回数の多いジルに、なるべくレベルの高いヘルメットや防具を渡し、遠距離において化け物級の強さを誇る奈月に、なるべくスコープを回す。
ベル子は居るだけで強いので、物資は後回しになる。その分、接敵した場合は俺がすぐさまカバーに入る手筈になっている。
1分かそこらで、俺たちはある程度戦える装備にまで整えた。
ここからは4人で固まり、建物を一つずつ探索していく。
ジルがまず入って、その後を俺がついていく。奈月とベル子は2人で隣の建物で待機して、建物をクリアリングした後、こちらに移ってくる。
常に周りを警戒しながら、それの繰り返し。
必要な物資を、必要な場所に供給。
敵の奇襲にも対応できるよう、数的優位を保ちつつ、石橋を叩きに叩いて行動する。
勝つ為には不必要なリスクは負わない。
リスクを負う場合は勝つ為に必要な事だけ。
俺が口を酸っぱくしてみんなに言い続けた甲斐もあって、この手の連携は完璧に近いと言っていいほどとれるようになった。
「止まってください」
急にベル子が声を上げる。
「S方向、車の音が微かに聞こえました。今は止まってます。足音はまだ聞こえません」
やはり来たか。
それもそのはず、今回の安全地帯はマップの北側によっている。
当然、俺達がいるこの街も、安地の中に入っている。
物資が豊富なこの街に、敵がやってこない道理は無いのだ。
「練習して来たシチュエーションそのものだ」
俺がニヤリと笑って呟く。
「それでは、手筈通り行きましょう」
「任せろ。奴らをポイントに変えてやる」
「先走らないでよ?」
自信満々なジルとベル子、それをジト目でにらむ奈月。
練習は何度もやった。絶対に大丈夫。
俺はそう自分に言い聞かせて、指示をだす。
「ポジションを変える、俺とジルがアタッカー、奈月がバックアップ。ベル子がオーダー兼スカウト」
「了解しました」
「了解」
「俺とSintaroのコンビっぷりを全世界に配信する時が来たようだな」
「……油断すんなよ」
地形や敵の数によってポジションを変え、得意を押し付ける戦法。
これが俺達の最大の切り札と言ってもいい。
今回の場合は道路を挟んだ中近距離の屋内戦。それに最適化されたポジションにする。
少し息を吐いて、ベル子は俺達に指示を飛ばす。
「それではタロイモくんとジルは道路手前の三階建て、二階と一階に待機、奈月さんはその後ろのピンク色の屋根の建物に待機、私は足音を聞かれる前に道路向こうの3階建てに芋ります。万が一、私のいる建物に人が入ろうとした場合は奈月さんとタロイモくんが攻撃してください」
「了解」
「分かった」
「御意」
今回の立ち回りを端的に説明するならば。
人間レーダーのベル子を向こうに芋らせて、俺たちは道路手前の屋内で待ち伏せ、ベル子が足音を聞いて、敵が無防備に道路を渡ろうとした瞬間、俺たちは立ち上がり敵を蜂の巣にする。
敵のわずかな車の音を聞き、粗方の場所を俺達が把握していて、尚且つ、それに対して対策を練っている時点で、もうすでにかなり有利なのだ。
視界が本人視点のFPSにおいてこの状況はほぼ勝ち確を意味している。
俺達が伏せていて、足音を立てなければ、当然敵は俺たちを視認できない。
対して俺たちは、敵よりはるかに優れたスカウトが敵の居場所を事細かに教えてくれる。
確実に無防備な状態で、敵に奇襲を仕掛けることができるのだ。
「足音、わずかに聞こえます。ここから先は絶対に動かないでください」
ベル子の指示に従い、動きを止める。
「距離、ゆっくり近づいてます。数は4、少しずつ建物を漁ってきています。道路にはまだ近づいていません」
ベル子の声に緊張が滲んでいる。
当たり前だ。オーダーの指示は、チームの結果にそのまま直結する。
練習に練習を重ねたとはいえ、緊張しない方がおかしい。
「ベル子、信じてるぞ」
隣を見て、俺がそう告げると、ベル子は少しだけ笑みを浮かべた。
「距離20、3人はまだ後方。1人が道路付近の水色の屋根の平屋で、道路向こうを窺っています。同じ位置で足音がぐるぐる回ってます。タロイモくんとジルは、S方向195に体の向きを合わせてください」
細心の注意を払って、視点だけわずかにそちらに向ける。
わずかに、コトコトと音が聞こえた。けれど、正確な場所まではわからない。相変わらずウチのチームの索敵は反則スレスレだ。
「敵、1人、扉からでて道路に出ます。撃ってください」
すぐさま立ち上がり、索敵。
ベル子のオーダー通り、195方向を敵が中腰でこちらに向かっていた。
「流石すぎるぜ」
俺とジルはそう呟いて、引き金を引いた。
無防備な敵は為すすべもなく溶ける。
キルログに、ジルの名前が入った。
「流石に王様は格が違ったな」
「ナイスだジル。だから早く頭隠せ」
「ジルに1キル。敵の名前はkeirc、所属チームは『四国連合』日本のチームよ。多分そんなに上手くない」
ログ管理(キルログを確認して、敵の名前や、使用武器、誰が何人キルをとったかを把握する仕事)の奈月が確認する。
ちなみに奈月は、敵の名前と所属チームは全て暗記しているらしい。奈月の勝利への執念は良い意味で異常だ……。
「場所バレしたのでタロイモくん達はすぐに私の方へ来てください。敵、他の3人はまだ後方にいます」
「オーケー、ポジションを変える。ジル、俺、奈月、ベル子、全員アタッカーだ。オーダーは俺に変更」
4対3、こちらには撃ち合い最強のジルと反則スレスレのベル子がいる。負ける要素は限りなくゼロに近い。
「そっちに寄る、ベル子は逐一敵の情報を流してくれ」
「了解です」
敵は道路向かいにいた俺たちを警戒して、すぐさま道路前の建物まで詰めてくるだろう。
その前に道路を渡りきって、ベル子がいる建物を囲むように芋る。
「w方向の3階建ての屋上、視認しました。奈月さん抜いてください。ヘッドワンパンでお願いします」
「言われなくても分かってるわよ」
3秒と経たず、スコープを覗き、レティクルを敵の頭に合わせて一発で抜く。
ズドンと重たい音が街中に響いた。
キルログに敵の名前が表示される。
「ナイスだ奈月」
「私が正確な場所を教えてあげたんです。これくらい当然です」
「相変わらずの変態エイムだな」
「ジル、アンタにだけは言われたくない」
気絶なしのオーバーキル。
相変わらずとんでもないエイム力だ。
「残りは2人、ポジションを変えるぞ。俺とジルと奈月がアタッカー。ベル子がバックアップ。オーダーは俺」
「残り2人は、奈月さんがヘッドを抜いた敵の奥にある二階建てにおそらくいると思います。足音が微かに聞こえます、遠くて詳細な場所までは分かりません」
「充分すぎるぜ。行くぞ、ベル子ばっかにいい格好はさせられないからな」
ジルを先頭に、俺と奈月は敵がいるであろう建物につめる。
「グレ入れるぞ」
手榴弾のピンを抜いて、屋内に投げ入れる。時間を計算して、投げ入れた直後に爆発するよう調整した。
窓ガラスを割ると同時に、手榴弾は大きな音を立てて爆ぜる。
「キルログ確認、敵1人ダウン」
奈月の声を聞いた瞬間に、すぐさま指示をだす。
「ジル、突るぞ」
「OK、Sintaro」
敵が1人なら俺とジル2人で撃ち合えば確実に殺れる。
窓ガラスを割って入って速攻で詰める。二階まで駆け上がると、窓に手をかけて建物から飛び降りようとする敵の背中が見えた。
「悪いな」
背中にフルオートで弾丸を叩き込んだ。
手榴弾でダメージが入っていたのか、すぐさま敵は死体になる。
「キルログ確認、確殺入った」
「やりました! ナイスですタロイモくん!」
「流石はシンタローだ、見事、逃げる敵の背中を蜂の巣にしたな」
「……それすげぇ人聞き悪いんだけど」
緩む気持ちをすぐさま引き締めて、チームに指示をだす。
「……とりあえず、これで1パーティ殺った。敵の死体をすぐに漁って、街の北側に戻るぞ。銃声やキルログ見られて俺たちの方に寄ってくるチームがいるかもしれない」
「……噂をすればなんとやらです。車の音がします。街の東方向です」
ベル子の報告を聞いた俺は、すぐさまマップを開き、安全地帯確認する。
「ど真ん中じゃねぇか……!」
良くも悪くも、安地は俺達がいる街を中心に表示されていた。
「……すぐに装備を整えるぞ、戦闘が続くことになるかもしれん」
「望むところよ」
「キルポイントが増えるな」
「私達ならきっとやれます!」
頼もしい仲間達の声を背に、俺はマガジンを入れ替えた。
戦闘描写が単調ですみません。次回は流れに変化が出ると思います。