30話 仲間の想い
休日だと思って調子乗ってゲームしてたら一話しか書けませんでした…ごめんなさい。
いつの間にか、俺たちの周りは数々のギャラリーと記者たちで埋め尽くされていた。
grimeは言うまでもなく有名だし、ジルも、ゲーム以外にも読モやら活動は多岐にわたる。
王様と皇帝。彼らの二つ名も相まって、彼らの会合は、イベントと呼べるくらいに盛り上がっていた。
「貴様、grimeとか言ったな。俺のシンタローから話は聞いたぞ。誰の許可を得て、ウチのリーダーを引き抜こうとしているんだ?」
まるで自分が本物の王様であるが如く、尊大に、ジルは物申す。
そのジルの言葉を、通訳が翻訳して、grimeに伝える。
今日の通訳さんはこの前の通訳さんと違って、女性だった。パリッとしたスーツを着こなしている如何にも仕事できそうな雰囲気だ。
その通訳さんは、grimeの英語を聞いて、何故か恍惚の笑みを浮かべて、翻訳する。
「……許可も何も、私は提案しただけです。その提案は、今も間違っているとは思っていません。彼は、私のモノになるべきだ。貴方では、彼を幸せにできない」
通訳さんの言葉を聞いたギャラリーや記者達は「おおっ…!」っと声をあげる。
……ちょっと待って通訳さん。なんか脚色してない?
そんな通訳さんも御構い無しに、熱くなったジルは矢継ぎ早に言葉を続ける。
「言っておくが、俺とシンタローはもうすでに一晩を共にした仲だ。貴様なんぞが介入しようと、揺るぎない愛で結ばれているのだ。理解したならさっさと消えろ。王様の逆鱗に触れるまえにな」
「いや普通に合宿で寝ただけだからね! なにも無いからね!?」
ジルのセリフに反論するも、ギャラリー(主に腐った女性ゲーマー)の黄色い歓声によって掻き消される。
その黄色い歓声に後押しされてか、頬を上気させて、通訳さんは熱く、grimeのセリフを翻訳する。
「ふっ……まったく、自分が満足するだけで、相手の事を考えない輩はこれだから嫌いなんだ。もう一度言いましょう。彼に気持ちよくプレイさせることができるのは、私だけです。貴方の自分本位のプレイじゃ、彼は満足しない。むしろ不満を募らせているでしょう」
確信した。今日の通訳は完全に腐ってやがる……ッ!
反論しようにも、ギャラリーの歓声により俺の言葉は一片たりとも届かない。
「貴様、それ以上妄言をたれるのであれば、尻の穴が増えることになるぞ?」
いや妄言たれてんのはお前だよ。ジル。
「上等です。どちらが彼に相応しいか、この大会で決着を着けましょう」
ジルの妄言に対して、熱く返答する通訳さん。……てかgrimeまだ喋ってなかったんだけど、通訳さん絶対勝手にアフレコしたよね?
grimeは目に見えて困惑していた。そりゃそうだ。
腐りきってる通訳さんにいつの間にかガチホモに仕立てあげられたんだから。可哀想に……。だけど、二人のガチホモに狙われている設定になってしまった俺はもっと可哀想。
俺が取り返しのつかないレッテルに絶望していると、ギャラリーの波を押しのけて、奈月とrulerが俺の目の前におどり出る。その後ろをベル子がやれやれと言った感じでひょっこりついてくる。
ギャラリー達(男共)は、突然現れた美少女3人に野太い歓喜の声をあげる。そりゃそうだよな。ガチホモよりこっちの方が百倍花があるよな。
「シンタロー! 写真続き!」
「2N、ぬーぶ、しんたろ、わたしとしゃしん」
話がどうこんがらがったのか分からないけれど、奈月は自撮り棒を、rulerはゴツいカメラを持って写真を催促してくる。
rulerの言葉を聞いたギャラリーは驚嘆の声をあげる。
2Nが、まさか女だとは、そしてこれほどまでの美少女だとは誰も予想していなかったんだろう。
安心してくれ。
俺も、仲が悪すぎる幼馴染が俺が5年以上ハマっているFPSゲームのフレンドだったとは思わなかった。
「シンタロー……どっちと写真撮るのよ……怒らないから、正直に言ってみなさい……?」
私を選ばなかったら殺すと言わんばかりの視線で俺をにらみつける奈月。
俺はそんな奈月の視線よりも、周りの視線やひそひそと聞こえる言葉の方が痛かった。
「あれがあのタロイモと2N……」
「まさかあの白銀美少女がdiamond rulerなのか……!?」
「ベル子様じゃ飽き足らず、あんな美少女達まで……もうぶっ○すしかねぇな」
「タロイモ爆発しろ」
「ベル子かわいいよベル子」
「ジルクニフくんは意外と誘い受けで、シンタローくんは攻めだと思うのよね、異論は認めないわ」
ガチホモ二人に狙われて、美少女二人に狙われているとギャラリーに盛大に勘違いされてしまった俺。
違うんだよ。奈月もrulerも、お互い負けたくないから俺との写真でも勝負のネタにしてるだけなんだよ。この行動に恋愛感情的なモノはないはずだ。
だって現に奈月は俺の足をかかとで穴があきそうなくらいグリグリしてるもん。眉間にマリアナ海溝ばりのシワをつくってにらみつけてるもん。こんな事してるのに俺のこと好きとかありえない。もしそうだとしたらツンデレ拗らせすぎ。
ごちゃごちゃしている空気の中、ベル子が、まぁまぁ、と、場の空気を落ち着かせ、そして発言する。
「とにかく、私達の大切なリーダーをくれてやるわけにはいきません。正々堂々と決勝で叩き潰してやるので、覚悟しておいてくださいね?」
ベル子はかっこかわいくビシッとキメると、ギャラリー達から野太い歓声があがる。そのギャラリーの中に明らかに選手でも大会関係者でもないおじさんが何故か混じっていたので、警備の人に連れていかれた。ベル子のファン層はやはり過激派が多いな。
そんなことより、俺は普段、お腹真っ黒の彼女が発した言葉とは思えないほど情のこもったセリフに、めちゃくちゃ感動していた。
「ベル子……お前……っ!」
俺がベル子のセリフに打ち震えていると、聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で、彼女はボソッと呟く。
「……まだまだタロイモくんには再生数を稼いでもらわないとですし」
「……」
ほんと良い性格してるよコイツ。
俺の感動返せよ。
「そうよ、シンタローは誰にも渡さない」
奈月はVoVメンバー、というよりrulerをにらみつけて、そう告げる。
「 childhood friend always loses.」
対してrulerは、流暢な英語でそれに対抗した。
奈月が通訳さんに目配せすると、通訳さんが快く翻訳してくれた。
「お……幼馴染みは、負け属性……との事です」
「このクソガキ絶対にぶち殺す」
奈月は髪が金髪になりそうなくらいブチギレている。rulerも不機嫌そうにほっぺを膨らませていた。そんな二人を、俺とgrimeはなだめて、なんとか落ち着かせる。
「……お互い、良い勝負にしようぜ」
目があったgrimeに、俺はそう伝える。
通訳さんの翻訳を手で制して、彼は日本語でこう答えた。
「楽しみにしています」
リーダー同士、そんな会話をしていると、ジルが珍しく不機嫌そうに俺の手を掴む。
「行くぞシンタロー、控え室で作戦会議だ」
「ちょっ! まだ誤解が解けてないんですけど!」
ジルは俺の手を引いてギャラリー達の波を搔きわける。その後ろから奈月やベル子もついてきた。
ギャラリーは俺たちの関係性についてひそひそと話しているし、記者に至っては「今日の記事はコレで決まりだな!」とかほざき散らかしている。俺がネットのおもちゃにされるのはもうすでに確定してしまったようだ。
そのマイナスを差し引いても、俺の心はプラスの感情で浮き足立っていた。
当たり前だ。
みんなで作ったこのチームで、世界屈指の強豪チームと思う存分戦えるんだ。
嬉しくないわけがない。
「絶対に勝とうぜ」
「当たり前でしょ、あの女のヘッドに風穴開けるまで私は負けないわ」
「俺もだ。あの勘違い赤髪男の尻に新しい穴を開けてやらねば」
「ふふっ! ……これだけ話題性があれば再生数500万はかたいです……! タロイモくん、魅せプレイよろしくです!」
俺のセリフに対して、思い思いの感情を吐露する仲間達。若干殺意高めで腹黒いのはご愛嬌だ。
あと1時間後にはグループaの試合がはじまる。
俺たちは作戦を再度確認する為、控え室の扉を開いた。
次話からいよいよ本格的な戦いがはじまります。
シンタロー達をどうか応援してやってください。