29話 混ぜるな危険
※esportなど実在の競技名や施設などが作中で出てきますが、作品の都合上、かなり規模を大きくしております。ご了承ください。
「すげぇ……」
感嘆の声を漏らす。
公式大会当日。
朝10時からはじまる開会式に向け、俺たちはユニフォームを着て2時間ほど早く会場入りしていた。
場所は、コミケなど、様々なイベントを行う東京ビッ○サイト。
会場中央には巨大な立方体の多面型モニターが天井から吊るされ、そのモニターを囲うように、選手達がゲームをプレイするPCが準備されていた。もちろん、覗き見できないようにチームのデスクごとに簡易的な壁が作られている。その壁にも、チームのロゴや、選手名などが記入されていた。
中央の巨大なモニターを観覧できるように、モニター、選手のデスク、それらを囲うようにすり鉢状の観客席まで準備されている。ちなみに席のチケットは即完売。RLRの底なしの人気が窺える。
初日と2日目、4グループ、各4ラウンドでの予選。
最終日、各グループ上位6チームと敗者復活枠1チームで、1ラウンドのみの決勝。
ゲームをするだけの為に、これほどの施設を用意して、なおかつ、億単位の人がそのゲームを観覧するのだ。
本来であれば、日本勢中心の、高校生日本最強決める大会であったはずなのに、VoVを始め、数多くの海外のトップチームが参加を希望した為、現在は、U18世界大会の様な盛り上がりを見せている。
通常なら日本のサーバー予選を勝ち抜いて出場枠を獲るのが筋なんだけど、大会的にも、海外勢が参加してくれた方が観覧数や動くお金も大きくなるので、そこはネームバリューや実力を加味して、特別に参加を許可している。
サーバー予選を死ぬ気で勝ち抜いた俺たちからすると「は?」って感じなんだけど、まぁしょうがない。
自分たちが予選で座るであろう席を確認し、観覧席と選手席の間でそわそわしていると、隣から元気な猫撫で声が聞こえてきた。
「はいどうもー! 美少女ストリーマーのBellKです!」
黒と水色を基調としたうさ耳チームパーカーを着たベル子が元気よく、自撮り棒とやらを使って動画を撮っていた。
生放送らしい。
まぁこれほどの施設、しかもその大会の選手に選ばれたんだから、動画にしない手はないよな。
「ベル子たくさん頑張るから、みんなも応援(投げ銭)よろしくね?」
おっきなお胸をばいんばいんさせながら画面に向かってウインクする彼女。いろいろな意味でたくましいやつだ。
「それじゃあ! ベル子が所属するチームのメンバーを紹介するよ!」
「またせたな、民達。俺がZirknikだ。好きなものはシンタロー、どうぞよろしく」
ベル子の動画にジルが映る。
ちなみに「……俺も出た方がいい?」とそわそわしながらベル子に聞いたら「タロイモくんは映えないのでいいです」と丁重にお断りされた。
そりゃジルの方がイケメンだけどさ、俺リーダーじゃん? なんかもうちょっとあるじゃん? 言い方とかさ?
俺がしょぼんとしながらひとりで会場を記念撮影していると、後ろから肩をトントンと叩かれる。
「シンタロー、写真」
奈月がなぜかいつものツンツンモードで自撮り棒を持ってこちらをにらみつけている。
あれか? お前もタロイモはインスタ映えしないからどっかいってろってか?
「はいはい、リーダーは隅っこの方で小さくなってますよ……」
「ちょっ、何勘違いしてんのよ。その……写真、記念に一緒に撮ってあげるって言ってるの……!」
「…………奈月……!」
俺の奈月への好感度がぐぐっと上がる。流石は幼馴染、俺が落ち込んでいるのを察して気を使ってくれたんだな。ありがてぇ。
「ほら、はやく」
「お、おう……!」
奈月に腕を引かれる。なんか妙に距離が近いな。
パシャリと音がした。
その瞬間、目の前を白い何かが遮る。
「………rulerッ!」
奈月のドスの利いた声で状況を把握する。
目の前に真っ白な美少女が現れた。
白と赤を基調とした、VoVのユニフォームを着ていた彼女は自慢げに奈月の自撮り棒を指差す。
「しゃしん、あとでちょうだい?」
写真を撮った瞬間、どこからともなくやってきたrulerが横槍をぶちかましたのだ。
写真はおかげで、rulerと俺のツーショットになっている。
「削除ッ削除ッ削除ッ!」
「だめっ!」
奈月はどこぞの死のノートを手に入れた狂信者のような声をあげて写真を削除した。
周りをよく見ると、他のチームも、続々と会場入りしている。みんな自分たちのデスクを確認するのを忘れて、一同に奈月やrulerやベル子に釘付けだ。
気持ちはわかる、みんな見た目だけは綺麗だからな。
5日前に出会った他のVoVメンバー3人もいた。あの赤髪も一緒だ。
「……ベル子、すまん、用事ができた」
「えっ、あっ! ちょっと!」
ベル子の生放送に参加していたジルが、急にこちらの方へズカズカとやってきた。
ジルは俺の横をスルリと通り抜けて、VoVメンバー、赤髪のところへ向かう。
嫌な予感しかしない。
「ジル待て!」
制止の声は、ジルには届かない。
ジルや奈月、ベル子は知っている。VoVに負ければ、赤髪やrulerに、俺がVoVに所属するという約束をしているということを。
会合してしまう。赤髪と金髪。
「おい、貴様」
「……?」
大会の運営にインタビューを受けていた赤髪。
もとい、VoV、U18のリーダー。
『grime_E』にジルは不躾に声をかける。
「おいおい怖いもの知らず過ぎだろ……!」
俺は恐怖のあまり目を覆う。
『grime_E』
まだ18歳にも関わらず、海外の公式大会でかなりの好成績を収めているVoVの期待の新人。
彼において特筆すべきは、チートを疑われるほどの反動制御。
相手のヘッドに何発も銃弾を浴びせ、血飛沫を派手に撒き散らすことから、RLRゲーマーの間で『鮮血の皇帝』と畏怖されている。
現に、フルオートでの撃ち合いに関しては北米ランカーでもトップクラス。もちろん撃ち合いだけじゃない。立ち回りや索敵、エイム力、軒並み能力が高い万能型の選手なのだ。
北米代表、世界大会のメンバーに抜擢されること間違いなしの本物の実力者に対して、ジルの行動はあまりにも無作法だった。
「君は……たしかシンタローのチームの……」
「俺のことは王様と呼べ」
通訳を介して、鮮血の皇帝と会話するARの王様。
grimeを取材していた記者は、ここぞとばかりに録音機をジルに向ける。
まさに、混ぜるな危険の二人が混ざり合ってしまう。
俺は、やいのやいのと言い合いをするrulerと奈月に挟まれながら、二人の会話に耳を傾けていた。
明日は休みなので、できれば二話投稿したい。次くらいに試合はじまります。