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27話 とっぷらんかーのおしごと。






 眉間にしわをよせてベッドに座る幼馴染、無表情で俺のゲーミングチェアに座る謎の美少女。

 自分の部屋をカオスな空間にしてしまった自分のムーブに、若干の後悔を抱きながら、空気を変えようと俺は行動を開始する。


「……とりあえず、麦茶でも飲む?」


 麦茶を片手に持った俺のジェスチャーで意図を汲んだのか、コクリと頷く真っ白な美少女。

 彼女の目の前に、コップをおいて、俺は冷蔵庫から持ってきたキンキンに冷えた麦茶を注ぐ。

 奈月と俺の分もついでに注いだ。


 まじまじとコップを見つめたあと、彼女は小さな手でそれを持って、ちびちびと飲み始めた。


「シンタロー、こんな礼儀知らずのガキに優しくする必要ないわよ。とっとと親の元に強制送還するべきだわ」


 麦茶を可愛らしく飲む彼女に相変わらずツンツンし続ける奈月。いつも以上にツンの割合が多い気がする。彼女に対して何か琴線に触れる部分があったのかもしれない。


「……麦茶くらい飲ませてやってもいいだろ」


 麦茶を飲み干して、俺はそう答える。

 数少ない俺のファンを無下にすることはできない。塩対応すれば、SNSに悪口を書かれまくるかもしれないからな。別にすげぇ美少女だからとかそういうのはまったく関係ない。あくまでファンサービスだ。人類皆平等。


「アンタ、こういうストーカー気質の女に優しくすると、後々後悔することになるわよ?」

「……まだ中学生くらいだろ? ちょっぴり冒険したい年頃なんだよ」

「ちょっぴり冒険で、アンタの住所も私の正体も割り出してアメリカからわざわざ突ってくるなんて大した中学生ね」


 文字にするとたしかにやばい。

 麦茶を飲み干した件の彼女の方に視線をやると、彼女は何を思ったのか、麦茶を飲み干して空になった俺のコップを、いそいそとリュックにしまい始める。


「えっ、持って帰っちゃダメだよ?」


 真っ白な彼女は俺と視線を2秒ほど合わせる。そして、


「……おみやげ」


 とだけ呟いて、コップをしまいきった。


「ほらね、ヤバイでしょ?」

「……たしかにヤバイな、てかコップなんて何に使うんだろう」

「はぁ? 何にだって使えるでしょ?」

「何にって、飲み物飲むとき以外にどうやって使うんだよ」

「………うっさい死ね! 変態!」


 奈月に理不尽な罵声を浴びせられながら、俺は件の彼女の方へ視線をやる。

 すると、コップをしまってご満悦な彼女は、コップの代わりに色紙とマジックをリュックから取り出す。


「しんたろ、さいん」


 無表情で、俺の胸元に色紙とマジックを押し付ける彼女。


「……サインとかしたことねーけど、しゃーねぇなぁ」


 サインねだられるなんて人生で初めてだし、悪い気はしなかった。

 ジト目の奈月と視線を合わせない様に気を付けながら、有名人になった様な気持ちで、俺は彼女から預かった色紙にサインをする。


「……かっこいい」


 俺のサインを見て、真っ白な彼女は感嘆の声をもらす。

 へへっ、中学生の頃にサインの練習しといてよかったぜ。


「なにこのミミズみたいなの?」

「ミミズじゃねぇよ! かっちょいい俺のサインだよ!」

「センスなさすぎ」

「うっせぇ!」

「……2N、ほっとく、しんたろ、これも」


 俺のサインを可愛らしいリュックにしまった彼女は、代わりに、分厚い書類の様なものを取り出す。


「ついでに、さいん」


 びっしりと英語でかかれた契約書な様なものを、笑顔で見せられる。


「なにこれ?」

「……さいんして」

「いやでもこれは……流石に……」


 読めない英語で書かれた契約書に、二つ返事でサインしてしまうほど俺もバカじゃない。


「……Please make a contract. I won't regret it.」


 俺が断ろうとすると、涙目になって英語を話す真っ白な彼女。


 ダイアモンドのような涙に、俺は吸い込まれそうになる。


 うん……こんな美少女が悪い人間なわけないよな。

 マジックを手にとる。


「何サインしようとしてるのよ、このロリコン!」

「痛っ!」


 後頭部をペシンと奈月に叩かれて、我に帰る。


「……2N、うざい」

「どさくさに紛れて契約書にサインさせようとするあんたの方が圧倒的にウザいわよ」


 バチバチと目の前で火花を散らす彼女達。

 お腹痛い……。

 俺はこのヒリついた空気を変える為、謎多き彼女に質問する。


「ところで君、名前は?」


 スマホの翻訳アプリを使いながら彼女は俺に返答する。どうやら日本語はある程度聞き取れるらしい。


「………どっちの?」

「どっちのって……君自身の名前だよ」

「……Luna」

「ルナか、綺麗な名前だな」

「……ありがとう、ござます」


 俺が名前を褒めると、真っ白な彼女、もといルナは、頬をピンク色に染めた。

 それと同時に、背後からとてつもない怒りのオーラを感じる。


「ねぇ、ス○ブラでもしない? いまちょうどすっごいむしゃくしゃしてるのよね」


 テレビに繋いであるゲーム機を奈月は笑顔で指差す。口元は笑っているけれど、目は笑ってない。ルナはキョトンとしている。

 ……はるばるアメリカから来た彼女をすぐさま帰すのは忍びないので、俺は奈月の提案を受け入れた。


「奈月、あんまりやりすぎるなよ」

「わかってるって」


 奈月、もとい2Nさんとは別ゲーでもたまーに遊んでいた。スマ○ラもそのゲームのひとつだ。

 そのス○ブラで、俺は奈月に一度も勝ったことがない。

 FPS以外のゲームは人並みにしかできない俺なんかじゃ、比較対象にもならないかもしれない。そう感じてしまうほど、素人目から見ても、奈月はめちゃくちゃ強いのだ。

 

「ほら、コントローラー。あんたもシンタローなんかのファンを名乗ってるくらいだから、この手のゲームのやり方くらいは分かるでしょ?」


 なんかとはなんだ! なんかとは!

 奈月はぶっきらぼうに、コントローラーをルナに渡す。

 ルナは無言でコントローラーを見つめて、ぽしょりと呟く。


「……ぬーぶ、2N、ぶっころす」

「……やってみなさいよクソガキ」


 胃が痛い。穴が空いちゃいそう。

 俺はお腹をさすりながらゲーム機のスイッチを入れる。

 頼むから何事もなく終わってくれよ……!


 そう願いながら空になったコップに麦茶を入れ直して、二人の対戦を見守った。







* * *





 結論から言おう。


 奈月のボロ負けだった。


「嘘でしょ……」

「2N、ぬーぶ、ざこ」


 奈月の操るピ○チュウはルナの操るガ○ンドロフにメッタメタにされたのだ。


「も、もう一戦!」

「……むだ、2N、わたしにかてない」


 俺も驚いていた、けれど、奈月の方がもっと驚いていた。

 当たり前だ。自分のメインのゲームでは無いとはいえ、3つ以上離れた女の子と10戦以上戦って一度も勝てなかったのだ。ショックに決まっている。


 放心状態の奈月を無視して、ルナは俺の膝の上にちょこんと座る。


「……しんたろ、2Nよわい。わたしのちーむくるべき」

「……ま、まぁ奈月のメインゲームはRLRだしな、ス○ブラは今日は調子が悪かったんだと思うぜ」

「………RLRなら、2Nは、もっとわたしにかてない」

「……へ?」


 意味深な言葉を吐いたルナに、言葉の真意を問いただそうとするけれど、

その行動は、今日二回目の玄関のチャイムによって遮られた。


「今度こそ密林さんかな?」


 チャイムの音を聞いたルナは、飛び跳ねるようにして俺の膝から離れ、俺のベッドに潜り込む。


「しんたろ、わたし、いない」


 お尻の部分だけ丸出しにして、ルナは布団にくるまりながらじっと芋っている。


 この怯えよう……もしかすると、ルナのお迎えかもしれない。


「お迎えならちゃんと帰らなきゃだめだぞ」

「………」


 無言で抵抗するルナを尻目に、俺は何度も鳴るチャイムを止めるべく、玄関に向かい、そして開けた。


「お待たせしてすみま……せ……」



 俺は目の前の光景に言葉を失う。



 まず目に飛び込んできたのは家の前にとまっている黒塗りの高級車。

 そして、玄関前に立っていた日本人離れした顔立ちの男3人。

 特筆すべきは、その男達3人が着ていたユニフォーム。


 俺はそのユニフォームを、そのロゴを、何度も動画で見たことがあった。


「VoV gaming……!」


 5日後の公式大会で戦うであろう最大のライバルが、目の前に立っていた。





 




 


 

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