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24話 Battle with bear

やりすぎたなと反省しております







 5時間くらいだろうか。

 俺たちが古びた神社の本殿の中に逃げ込んでから、それくらいの時間がたっていた。

 本殿の中は、8畳ほどの狭い空間。神棚には何も供えていない。

 木造建築の狭い部屋。そう表現するのが一番適切だろう。


「ねぇどうするの? 熊、全然どっか行く気配ないけど」


 奈月が心配そうに小声で呟く。

 本殿の扉の前で、俺とジルが座り、中央に懐中電灯を明かりにして、ベル子と奈月が座っていた。


 みんな憔悴している。

 当たり前だ、常に外から熊の威嚇音や壁を引っ掻く音が聞こえているのだ。

 精神が疲弊しないわけがない。


「熊ってこんなに人間に執着するもんなの?」

「いや、普通はここまで執拗に追いかけることはないはずだ……まぁ個体差があるのだろうけど、今回の熊に限っては、何故か俺たちに執着している」


 博学なジルは熊の生態について語り始める。

 本来、本州に生息するツキノワグマは臆病な性格で、人間を襲うようなことは滅多に無い。

 俺たちが本堂のなかに逃げ込んだ時点で、逃げるタイミングを得たツキノワグマも普通は逃げるらしい。


「もしかすると、熊が興味を惹くような何かを、誰かが持っているのかもしれないな」


 ジルがそう呟くと、ベル子の体がびくんと震える。


 嫌な予感がする……。


「ベル子、お前何か心当たりがあるのか?」

「……何の事ですか?」


 滝のような汗を流すベル子は、背中に背負っていたリュックサックを大事そうに抱えている。

 そういやこいつのリュックだけ、何故か俺らより2倍くらいデカイんだよな……。


「ベル子、お前熊さんがワクワクするようなもん持ってるんじゃねぇのか?」

「……そんなの持ってません。たぶん」

「目がびっくりするぐらい泳いでるけど」

「泳いでません、気のせいです」


 ジルと奈月と目を合わせる。

 この二人と視線を交えればわかる。俺とどうやら同意見らしい。


 ベル子は黒だ。


「奈月、ヤツの身包み全部剥げ」

「了解」

「ちょっ! いやぁっ! えっち!」


 ベル子の抵抗も虚しく、奈月によって怪しげなリュックの中身は白昼の元へ晒される事となった。


 奈月が順番にリュックの中身を出していく。


「……何これ」

「サンドイッチです」

「……これは?」

「レモンの蜂蜜漬けです、あ、それはおかずボックスです。ハンバーグも唐揚げもエビフライもありますよ!」


 自慢げにお料理の数々をランチョンマットの上に並べていくベル子。

 お料理の他にも、花火セットやら、たくさんのおもちゃが出てきた。


 奈月は顔を真っ青にして告げる。


「………シンタロー、こいつ真っ黒よ」

「肝試し行く前になんかいそいそと準備してると思ったら……! ピクニックじゃねぇんだぞ……!」

「じゃあタロイモくんは食べなくていいです」

「…………食べる…!」


 四人で仲良くサンドイッチを食べながら、俺は大きな溜息を吐く。


「肝試ししてたら熊に襲われるってツイてなさすぎだろ……不幸だ……」

「逆にラッキーですよ! これは青春ポイントかなり高いです!」

「こんな命懸けな青春ポイントいらねーよ」


 ベル子は目を輝かせてサンドイッチを頬張る。

 けれど、目の下には大きなクマができていた。今は深夜3時、疲れて当たり前だ。

 みんなに気を使うためにからげんきを出しているのだろう。


 この状況を打破する為に、俺はジルに質問する。


「じゃああの熊は、ベル子の弁当につられてるってことでいいんだな?」


 腕を組みながらジルは答える。


「おそらく、人の食べ物の味を知っている熊に出くわしたのだろう。最近は食べ物を求めて人里に降りる熊も珍しくないと聞く。ヤツがベル子の弁当の匂いにつられているのは間違いないはずだ」


 ジルの博識っぷりに感心しつつ、俺は質問を重ねる。


「じゃあ、この弁当を熊さんに献上すれば俺たちは見逃してもらえるのか?」

「……それについては、何とも言えんな。あくまで俺の推測だけれど、あの巨体がこの弁当で満足するとは到底思えない。弁当を差し出した後で、俺たちを追ってくる可能性は充分高いだろう」

「熊さんが弁当を食べている間に走って逃げるってのは?」

「熊は大体、100メートルを10秒ほどで走る足の速い獣だ。すぐに追いつかれるだろうな」

「なるほど」


 アゴに手を当てて思案をめぐらせる。熊が俺たちに飽きるまでどれくらい時間がかかるかわからない以上、この現状を打破する一手を打たなければならない。


「どうすんの、リーダー」


 奈月の心配そうな声が聞こえる。

 ベル子も、ジルも、同様に俺に視線を集める。


「ベル子、どこまでなら熊の足音を聞くことができる?」

「……この神社から半径15メートル以内ならいけると思います」

「……相変わらずのチートだぜ、その索敵スキル」


 ベル子の索敵があれば、たぶんいける。

 自分の作戦に穴がないかゆっくり確認した後、俺は頼れる仲間たちに向けて、ボソリと呟く。



「……よし、熊捕まえるか」




 慌てて口々に反対するチームメイトに、俺はゆっくりと今回の作戦を説明した。






* * *






「本当に上手くいくの?」

「上手くいかなきゃ、まぁ俺が熊さんに食べられちゃうだろうな」

「……やはり俺とシンタローのポジションを代えるべきだ」

「何度も言わせるなジル、もう決まったことだ。今回に限っては奈月とジルはサポートに徹してもらう」


 ブーツの靴紐を締め直し、準備万端。


「ベル子、危険な役割を任せて悪いけど、頼むぜ」

「大丈夫です。どーせこの前みたいにタロイモくんが守ってくれるって信じてますから」

「ゲームじゃないからそんなに期待すんな……と言いたい所だけど、絶対失敗はしない。なんせ自分の命がかかってるからな」


 作戦なんて大仰な名前をつけているけれど、そんなに難しい事じゃない。


 焦ってミスりさえしなければ、熊さんを簡単に捕まえることができる。……はずだ。


「いいか、この作戦はボイチャで連携もとれないし、失敗も許されない。各自の判断が結果に直接作用する。もし俺がミスったら、俺をおいてすぐに山をおりること、これだけは約束してくれ」


 語気を強める。


「私たちは、シンタローが来るまで山をおりないわ」


 けれど、ノータイムで奈月はそう答えた。


「アンタは負けないわ。たとえ熊だろうとね」


 いや普通に負けると思います。


 ……とは、言えず、俺は目一杯のドヤ顔をして仲間達に宣言する。



「世界最強の屋内戦闘ってやつを見せてやんよ」





 戦いがはじまる。







熊 vs 世界最強トップランカー

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