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23話 大きくて茶色いフレンズ








 暗い林道。

 時刻は午後10時。

 ちゃんと整備されてないような細い道。道の両脇には、広葉樹がひしめきあっている。

 ひんやりとした空気、腐葉土の香りが、恐怖を助長させる。


「ねぇ、やっぱりやめない? 猪とかめっちゃ出そうなんですけど……」


 マジで真夜中に入っていいような山じゃない気がする。あと妖怪とかめっちゃ出そう。


「ここまで来てやめられるわけないです! 肝を試すまでは帰りませんよ!」

「私は別に楽しんでないわよ、けど、ここまで来てやめるのは流石にアレだなと思って、仕方なく付き合ってあげてるだけだから」


 ご丁寧にヘルメットやリュックサック、でっかい懐中電灯、山登り用のブーツを装備したベル子と奈月が目をキラキラ輝かせて暗い林道を指差す。まるでサバゲーをするような格好だ。

 ちなみに、俺とジルも同じ装備を着ている。ジル曰く、装備をゲーム内と同じ環境にすることにより、チームの団結力を高める目的らしい。訳がわからん。


「安心しろ、この辺りに猪はほとんど出ない」

「ほとんどって……ちょっとは出てるじゃねぇか……!」


 ジルの言葉に恐怖でおののきつつも、先導するベル子隊長の後に続く。


 暗くてジメジメした林道。


 たまーに道の脇なんかにお地蔵さんやら、廃墟やら、井戸やらが見えて、俺の恐怖をさらに助長させた。


「みんな、一回止まってくれ……」

「何よ」


 奈月が眉をひそめてこちらをにらむ。

 真っ暗な林道で、奈月の怖さも倍増しているけれど、ここで引くわけにはいかない。


「やっぱり、フォーメーションって大事だと思うんだよ」

「フォーメーション?」

「俺が真ん中、ベル子が先頭、ジルが一番後ろで、奈月は俺の隣。やっぱ俺がチームリーダーだからさ、俺が一番安全な位置にいなきゃいけないと思うんだよ。分かるだろ?」

「何言ってるんですかこのタロイモは」


 ベル子があきれた声をあげる。


「ま、まぁいいんじゃない? まったくしょうがないわねシンタローは……私がいなきゃ何もできないんだから」


 反対に、奈月はどこか嬉しそうにしていた。

 こいつ、俺が出来ないことを見つけると昔からすっげぇ喜ぶんだよな。性格の悪いヤツだぜ。


「安心しろ、シンタローの尻は俺が守るからな」

「あ、やっぱりベル子とジルの場所交代で 」


 結局、俺が指定したフォーメーションになり、山道を進む。


「この先に古い小さな神社があるんだ。そこから折り返しにしよう」

「ジル……! お前なんでそんな所を折り返し地点に設定したんだよ! もし呪われたらどうする気だ!?」

「呪いなど存在しない、この世界に在るのは愛だけだ」

「何言ってんだお前……!」


 この変態マジで怖いもの知らずすぎる。

 だからRLRでもすぐ死ぬんだよ! 

 やっぱり、恐怖って身を守る上で大切な感情なんですね。


「見てください! あんな所にお墓がありますよ!」

「ぴぇっ!」


 ベル子が指差した方向には、文字通り古びたお墓があった。

 俺はたまらず奈月に抱きつく。


「……ふぅん……悪くないわね……」


 何がだよ!

 恐怖で顔を引攣らせる俺を見て、奈月はニヤニヤしながら懐中電灯でお墓を照らす。


「やめろ! 呪われたらどうすんだ!」

「ふふっ、大丈夫よ。シンタローは相変わらずビビリね」



 奈月やベル子にビビらされながらも、俺たちはなんとか、件の古びたお寺の前までやってきた。


「うわぁ……雰囲気すっご……」


 落ち葉を被った小さな神社が、鬱蒼とした森林の中、静かに佇んでいた。


「ザ、肝試しって雰囲気ですね」


 ベル子は懐中電灯であたりを照らしながら、呑気にそう呟いた。


「お前こういうの怖くないの……?」

「幽霊より怖いものを知っていますから」

「……?」

「人間ですよ」

「お前のその考え方が一番怖いわ」


 ベル子に突っ込みを入れつつ、俺たちは鳥居をくぐり、じりじりと神社に近づく。


「なぁ、もういいだろ。引き返そうぜ」


 隣にいた奈月に小声で告げる。正確には、大きい声を出そうとしたんだけど、掠れて小さな声しかでなかった。というのが正しいだろう。


「神社にタッチしてから引き返すらしいわよ」

「あぶないって! マジで呪われるって!」

「そんなに怖いなら……その……手握っててあげるから、ほら、おいで」


 奈月は細くて白い手を、俺に差し出す。

 この歳になって手を繋いでもらいながら肝試しするなんて情けない事この上ないけれど、背に腹は変えられない。

 俺は奈月の手を掴んだ。


「うぅ……」

「シンタロー、俺も尻を握ってやるから安心しろ」

「お前はもう呪われろぉ……っ!」


 そんなことをやりとりしながら、ゆっくりと、じわりじわりと、廃神社に近づいていく。


 俺は目をつむりながら、奈月に手を引かれて進んでいく。




「みんな、少し止まってくれ」


 ジルが急に真面目な声をだした。


「なんだよ……!」

「静かに……」


 奈月もベル子も、先ほどの姦しい雰囲気はどこ吹く風で、だんまりをキメ込んでいた。


「きゅ……急に黙るのやめろよな……」


 俺はゆっくり目を開いて、神社の方を見つめる。


 何もいない。


 あるのは先ほどと同様の、おどろおどろしい雰囲気の廃神社だけだった。


「なんだよ何もいねぇじゃねぇかよ……驚かせんなよな」


 そう言いながら奈月の方を見ると、奈月は目を見開いて、俺たちが来た方向、神社とは反対側の獣道を見つめていた。ベル子もジルも、同様にだ。


 おいおい背後にいましたパターンかよ……マジでやめてくれよ……っ!


 恐怖心と好奇心がないまぜになったような不思議な感覚が体を支配する。


 ダメだ……後ろを振り向いてしまう……!




「……っ?」



 振り向いて、目を凝らす。


 赤い二つの光。


 茶色い大きな体躯。


 よだれを垂らしながら威嚇音を発する口。






 大きな熊さんがいた。






 熊との距離は20メートルほどしかない。


 俺は人生の終わりを察知して、ぼそりと呟いた。


「これなんてクソゲー?」

「シンタロー……静かに、熊から目をそらすな……ベル子も奈月もだ……」

「了解です……」

「シンタロー、こっちに来て……っ!」


 身を呈して俺を庇おうとする奈月。


 ある日、森の中、熊さんに出会ってしまった俺たち。

 文字通り蛇ににらまれた蛙のように動けなくなっていた。


「熊は背中を見せれば本能的に襲ってくるらしい……だから、背中は見せずに、そのまま後ろの神社に入るぞ……」

「まじかよ……!」

「タロイモくん……近距離最強なんですよね? ……これあげます……」


 ベル子は腰につけていたハンドガン(エアガン)を笑顔で俺に渡す。


「お前無茶言うなって……!」


 熊は、グルルと威嚇音を発しながら、じわりじわりとこちらに近づいてくる。

 やばい、マジでシャレにならない。

 けものはいてものけものはいない、本当の愛はここにあるはず。熊さんが俺たちを襲わないことを信じて、廃神社に芋るしかねぇ……!


 俺たちは、クマの歩幅に合わせて、ゆっくりと廃神社の方へ近づく、3分くらいして、ようやく本殿の前まで来た。


「せーので入るぞ……?」


 コクリと頷く一同。


「せーのっ!」


 俺が合図して、ジルが扉を開き、俺たちはすぐさま本殿の中に入った。


 ジルとふたりで扉を抑える。


 すぐ近くでクマの威嚇音が聞こえた。


「まさか、こんな所でruler以上の強者に出会うことになるとはな……恐ろしい……」

「こんな危機的状況でそんな洒落を言えるお前の方が恐ろしいわ」


 ジルとそんな軽口を交わし合いながら、背中を扉にあずけてその場に座る。


「……ベル子、熊の位置は?」


 ベル子は目を閉じて、耳を澄ませる。


「……神社のまわりをぐるぐる歩き回っています」

「まじかよ……こりゃ警察かどっかに電話した方がいいな」

「そのことなんだけど……これ見て」


 奈月は俺にスマホを見せる。


 スマホには圏外のふた文字が表示されていた。


「マジでここ神奈川かよ、ふざけんな……!」


 俺たちは大きな溜息を吐く。


 肝試しは中止。


 そして、熊さんとの近距離立ち回り演習が、奇しくも始まってしまったのである。










屋内戦闘ガチ

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