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22話 美少女Youtuberは頑張りたい










「「いただきます」」


 俺達はカレーを食べていた。

 テーブルを4人で囲んで、ベル子と奈月が作った、カレーを食べていた。


 お風呂での記憶は無い。

 何も覚えていない。

 そういうことにしておこう。その方が、みんな幸せなのだ。


「甘美なひと時だったな、シンタロー」

「やめろ! 思い出させるな!」

「今日は赤飯にした方が良かったですかね?」

「ベル子落ち着け。俺はまだ処女だ、童貞を失う前に処女を失うなんてリスキーな生き方(プレイング)はしていない」

「シンタロー……童貞なんだ……」


 ジルは微笑み、奈月は何故か顔を赤くし、ベル子は生暖かい視線をこちらに向けている。

 俺は話題を変えるべく、今現在の夕食についてふれる。


「それにしてもこのカレー美味いな、ベル子が作ったのか?」

「はい、奈月さんにも手伝ってもらいました」

「ふぁっ!? 奈月が手伝ったのか!?」


 衝撃の事実に、俺は目を丸くする。


「何よ、悪い?」


 バツが悪そうに、奈月はもじもじとしている。ありえない……ダークマター製造機の奈月が、まともに料理を作れるようになるなんて……。


「いや……でも、誰も倒れてないぞ……? 時間差でクるタイプの食中毒か……?」

「……私の五感をフル活用して奈月さんを監視していました。けれど、安全かどうかはまだ分かりません。皆さん、体調に変化があればすぐに救急車を呼んでくださいね」

「no problem. ベル子の索敵ならば安心だ」

「アンタ達、私のことなんだと思ってるの?」


 奈月の料理下手エピソードを肴に、俺たちはお腹の具合を気にしながらスプーンを進める。


 食中毒の恐怖と、純粋な食欲のせめぎ合いは、ベル子の美味しいカレーにより、食欲の方へ軍配が上がり、なんだかんだで俺もジルも三杯くらいお代わりしてしまった。



「ふひぃ〜食った食った……!」

「お粗末さまでした」


 俺とジルで洗い物を終え、リビングのでっかいソファーでくつろぐ。

 隣でベル子がちょこんと座って、スマホを眺めていた。


「何見てんの?」

「タロイモくんのプレイ動画です」

「……なんだよ、やめろよ……なんかもにょもにょするだろ……」


 ベル子は件の44キル動画を見ていた。現在の再生回数は823万回再生。このままのペースでいけば本当に1000万回再生突破してしまう。まったくベル子の索敵は恐ろしいぜ。


「なぁ? 俺変なムーブしてない? 大丈夫?」

「うっせぇです。集中できないのであっち行ってください」

「そんなこと言うなよ……ほら、俺たちチームだろ、やっぱり褒め合いっことかさ、必要だと思うんだよな」

「うぜぇ……」

「ベル子さん、敬語キャラ迷子ですよ?」

「こほん、失礼しました。うざいです。あっちいけです」


 隣で自分のプレイ動画を見られると言うのは、家庭訪問の時のような独特の恥ずかしさがある。

 俺が隣で鼻の穴をふくらませながらベル子の方をチラチラ見ていると、シャワーを浴び終えた奈月が、ガンガン足音を立てながらこちらにやってきた。


 そして隣に座る。


「シンタロー、私の髪を乾かしなさい」

「はぁ? それくらい自分でやれよ」

「いいからやって」

「しゃーねぇなぁ……女の子の髪とか乾かした事ねぇから下手でも知らんからな」


 奈月は俺の股の間に座ると、後ろ手でドライヤー押し付けてくる。

 俺は奈月の髪の毛を乾かしながら、ベル子の方をチラチラと見ていた。


 やはり気になる。


「なぁ、どうして今更そんな動画なんて見てんだ?」


 俺は褒められたいが為にベル子に絡む。

 ベル子は少し俯いて、口を開ける。


「……少しでも立ち回りの勉強したいんです。このチームで一番足手まといなのは、間違いなく私ですから」


 声の抑揚は平坦。表情もいつも通り。

 けれど、俺は、ベル子が何処と無く不安気な表情をしているように見えた。

 キッチンに座って読書をしていたジルが急に立ち上がる。


「ベル子、誰にでも得意不得意はある。ベル子は索敵という得意で、俺たちの不得意を補ってくれているだろう? 気に病む必要は無い」

「……だけど一番、成長の余地があるのは、やっぱり私です……今日の紅白戦でも、一回だってキルを獲れてません……たぶん、大会に出るような強者に対して、戦闘面では私は全くの無力です……」


 確かに、ベル子がキルを獲れるようになれば、チームは大幅にパワーアップするだろう。

 けれど、正味ベル子は、毎試合0キルだったとしても、あまりあるほどのメリットを、チームにもたらしてくれている。それほどまでにベル子の索敵は有用なのだ。

 ジルの言うように、まったく気に病む必要など無い。


 俺がジルの言葉を肯定しようとすると、俺の股の間に座っていた奈月が、ドライヤーを俺の手から取り上げて、呟く。


「そうね、アンタは無力よ。直接の戦闘面では足手まといと言ってもいいくらいだわ」


 厳しい言葉に、俺とジルは顔をしかめる。


「おい、そこまで言わなくても」

「シンタロー、ジル、アンタ達がベル子の立場だったらどうなのよ? 戦闘は苦手だろうから足音だけ聞いててくれ。そんな事言われて納得できるの? 悔しくないの?」

「……っ」


 俺も、ジルも、全く反論できなかった。


「このウサギ女は正真正銘、私達のチームの一員よ。仲良しこよしは結構だけど、勝つ為に、みんなで最善の手を打つべきよ。現にウサギ女は、索敵だけの雑魚から卒業しようとしている、新たな武器を模索している。それを手伝う義務はあっても、とめる権利は私達には無いわ」

 

 ……確かにその通りだ。


 俺は、チームリーダーでありながら、ベル子の気持ちを全く考えていなかった。


 索敵ばかりを押し付けて、ベル子のチームを想う気持ちを蔑ろにしていたのだ。


「言ってくれますね。この芋スナは……」

「索敵だけの雑魚ってのは結構的を射ていると思わない?」

「……まぁ、いいです。今回は私の気持ちを代弁してくれたお駄賃として特別に許してあげます」

「あら、ありがとう。とりあえずさっさとキルとれるようになってから生意気な口を利くことね」

「奈月さんも屋内戦雑魚すぎるんですから、足音をまともに聞けるようになってから生意気な口を利くようにした方がいいですよ?」

「は?」

「あ?」


 恒例の口喧嘩が始まる。


 こいつら、やっぱりなんだかんだで仲良いんだよなぁ。


「すまんベル子、俺はチームリーダー失格だった。お前の気持ちにも気付かず、身勝手な事を言った。謝るよ」

「俺もだBell girl……すまない」

「……タロイモくんは近距離の立ち回り方を、ジルは反動制御のコツを教えてください。それでおあいこにしましょう」


 ベル子は笑顔でそう答えた。


「おう、なんでも聞いてくれ! 今からみんなで特訓だ!」

「おー!」


 リビングのソファーのまわりで大声をあげるベル子と俺。こいつがこんなに向上心の塊だったとは思いもしなかったぜ。


 ジルが本をパタンと閉じて喋り出す。


「ふっ……合宿に来たと言うのに、ゲームばかりしているな。まったく、俺たちらしい……一応、肝試しできるよう裏山にいろいろとセッティングしていたのだけれど、無駄になってしまったようだな」

「行きましょう肝試し」


 ジルの肝試しというワードを聞いた瞬間、ベル子は雷の如きスピードで手のひらを返した。


「へ?」


 俺は思わず間の抜けた声をあげる。


「立ち回りの練習も反動制御の練習も、明日からでも出来ます。でも、高校三年生の夏、今日この青春を謳歌できるのは今日しかないんですよ!?」

「お前さっきのやる気どこ行ったんだよ……」

「実を言うと、私、同性に嫌われるタイプの女でして、友達が全然いないんですよね……だから、こういうイベント事は消化しておきたいんです……」

「おぅふっ」

 

 思わぬ重ためのエピソードに胃もたれする。ベル子くらい可愛くてあざといと、そういった標的になってしまうのかもしれない。

 奈月は俺にドライヤーをまた押し付けて、気持ちよさそうに温風を浴びながら呟く。


「確かにそうね、現に私がそうだもの」

「うるせぇです」


 やいのやいのと口喧嘩を始める二人を尻目に、俺は大きな溜息を吐く。


「……ったく、しょうがねぇなぁ。1時間くらいしたら帰るからな」

「チームの団結を深めるという意味ではいい演習になるだろう」

「肝試しなんて何年振りかしら」

「さ! 早く行きましょう!」


 思いの外やる気に満ち溢れているチームメイトに、俺は内心驚きつつ、外出の準備をする。


「肝試し終わったら速攻で練習だかんな!」



 パーカーを羽織って玄関を出る。








 この時の俺たちは知る由も無かった。



 これから行う肝試しが、俺たちの命を脅かすような試練になるという事を。









次話

本物の命を賭けた戦い。





作者「オラにブクマと評価ポイントをわけてくれぇっ!」

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