21話 はじめての友達
*奈月視点になります
「無事逝きました……」
「そのようね……」
ベル子は、リアルでも健在の索敵スキルを発動させて、ジルの足音を確認する。
私とベル子はキッチンに芋っていた。
あの変態に接触する勇気は私達には無い。
シンタローには悪いけれど、犠牲になってもらおう。それに、男同士、裸の付き合いとか良く言うし、案外仲良くなってでてくるかもしれない。色んな意味で。
「それじゃあさっさとはじめましょうか」
買ってきた食材をテキパキと取り出しているベル子。
やはり手馴れている。
私たちと同じ歳で、妹の為に家事全てをこなしているとシンタローから聞いていたけれど、本当らしい。
「そういやアンタ、妹いるって聞いたけど、大丈夫なの?」
純粋な疑問を、ベル子にぶつける。
3日も家を空けるのは大変だろう。
「ちょうど私と同じ3日間、友達の家でお泊まり会をするそうです」
優しい顔をして、ベル子はそう言った
「……できた妹ね」
「えぇ、私には勿体無いくらいの優しい妹です。……だから、みくるが作ってくれたこの時間を、この合宿を、私は目一杯楽しみたいんです」
柔らかな笑みを浮かべながら、じゃがいもやにんじんを綺麗に洗って、器用にピューラーで皮を剥いていくベル子。
あまりにもテキパキと進めるので、私はあたふたとしていることしかできなかった。
「わ……私も何か手伝おうか……?」
「あ、じゃあお米を炊いておいてください。早炊きでお願いします」
「お、お米ね、了解」
自分が料理下手なのは理解している。
けれど、お米くらいは炊ける。
釜にお米を入れて、お米を洗って、炊飯器にセットするだけ。
私は釜に四合ぶんのお米を入れて、水を入れる。よし、これでお米を綺麗に洗えば……!
「奈月さん、何を手に持ってるんですか……?」
「へ……? 何って、洗剤だけど……」
「まさか……洗剤で洗う気ですか?」
「洗剤使わなきゃ綺麗にならないでしょ?」
「この女マジか……」
ベル子の歪んだ表情を見て、自分が間違った方法でお米を洗っている事に気がつく。
「ごめんごめん、漂白剤も入れなきゃだよね」
「私達を殺す気ですか?」
顔面蒼白になったベル子に、私はお米のとぎ方を教えてもらう。
洗剤使った方が綺麗になると思うけど、料理ができるベル子が言うなら、洗剤は使わない方がいいのだろう。
「これでいい?」
しばらくお米をしゃりしゃりして、水を3回ほど入れ替えた。
ベル子に確認してもらう。
「うん、綺麗になりましたね」
どうやら上手くいったらしい。
今晩のメニューはカレー。
料理の半分を構成するお米を完璧に炊いたのであれば、これはもう料理ができるといっても過言ではない気がする。
けれど、このカレーはシンタローも食べる。それならやはり、完璧のさらにその先を目指すべきだろう。
「それじゃあ、隠し味に」
「ちょっと待ってください」
「……?」
「その手に持っているものはなんですか?」
「砂糖だけど」
「……一応聞きましょうか、何故砂糖をお米に入れようとしたんですか?」
「美味しいものは、脂肪と糖で出来ているって、CMでしてたから」
「なるほど、やめてください」
「じゃあ豚肉は?」
「ダメです」
「けち」
砂糖と豚肉をとりあげられる。
やってみなきゃわからないのに、ベル子は慎重すぎる。
その後の指示通り、私は炊飯器にご飯をセットして、早炊きボタンを押した。
ベル子は私を横目でチラチラ見ながらカレーをグツグツ煮込んでいる。まだルーは入れていないみたい。
「ねぇベル子、私、ルーを入れたい」
「……いいですけど……その手に持っているものはなんですか?」
「これ? カレーに入れる具材だけど?」
「私にはそれ、チョコレートに見えるんですけど……」
「アンタ知らないの? カレーにチョコレートを入れると深みが増すのよ?」
「でた〜料理出来ない人あるある〜、身の丈に合わない事をしようとする奴〜」
ベル子は腰に手をあてて、大きくため息をつく。
「しょうがないですね……私が一から教えますから、奈月さんは私の言う通りにしてください、わかりましたか?」
お姉ちゃん風を急に吹かせてきたベル子。まぁ仕方がない。料理という分野においては私は初心者。いう事を聞く他ない。
「任せなさい」
「何故そんなに自信満々になれるんですか……」
私が腕まくりをして手を洗い直していると、後ろからぽそりと声が聞こえる。
「……その代わりと言っちゃなんですけど、後で私に遠距離の立ち回りを教えてください」
エプロンの裾を掴みながら恥ずかしそうにベル子は呟く。
「……いいわよ、別に」
恥ずかしそうにする彼女を見て、何故か私まで恥ずかしくなる。こういうむず痒いのは苦手だ。
こいつと私は、軽口を言い合う仲で丁度いい。
「ま、私の立ち回りができるほど、アンタにエイム力があるとは思えないけどね」
「お米に洗剤入れるような非常識女に言われたくないです」
「は?」
「あ?」
いつものやりとり。
「「ぷっ!」」
不思議と笑みがこぼれた。
二人でクスクス笑っていると、脱衣所の方から叫び声が聞こえた。
どうやらふたりともお風呂から上がったらしい。
私とベル子は大急ぎで食事の支度をした。
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