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20話 春名奈月の新たな決意。そして裸エプロン。









 奈月の、部屋から飛び出し大泣き案件(ツンデレ幼馴染は泣きながら部屋を飛び出しがち)を終え、紅白戦全パターンも終えた頃には、日も朱くなり、時計の長針は午後5時を回っていた。


「そろそろご飯にしませんか?」


 ベル子のそんな一言により、次の合宿のプログラムは少し早めの夕ご飯になった。

 料理に自信のあるベル子とジルが調理班。消し炭しか生み出せない奈月と、人並みにしか料理ができない俺は材料調達班。


 二手に分かれて俺たちは行動を開始した。



 海岸線、歩道、夕日に照らされながら、俺と奈月は近くのスーパーに向かって歩みを進める。


 肩が触れるか触れないかの距離で、借りてきた猫のように静かな幼馴染は、ぽしょりと呟いた。


「あのさ……」

「……?」

「私、言ったでしょ。アンタより、強くなりたいって」

「……あぁ、言ってたな」

「今もその気持ちは変わらないんだけど、なんだか……こう……上手く、言葉にできないけど……」


 奈月は少し俯いて、言葉を紡ぐ。


「今は、アンタの為だけじゃなくて、ベル子や、ジルの為にも、もっと強くなりたい……とか、思っちゃったりしてる……感じ……です」


 初めて出来た同性のゲーム友達、ベル子。


 誰よりも仲間想いのガチホモ、ジル。


 そんな二人に出会って、俺も奈月も、少しは大人になったのかもしれない。


 恥ずかしそうに、眉毛を吊り上げながらそんなことを言う彼女を見て、俺は、成長した娘を見るような、そんなほんわかとした気持ちになっていた。


「あぁ、強くなろう。みんなで」

「……うん」

「俺たちは4人なら、きっととんでもない高みまでいける。そんな気がするんだ」

「……私達をおいていかないでね?」

「仲間なんだからおいて行くわけないだろ」

「……じゃ、約束して」


 小指を差し出す奈月。

 俺はその小指に、ノータイムで自分の小指を絡ませる。


「俺たちはずっと一緒だ」

「うん」


 なんか恥ずかしいような、もにょい空気になったので、話題を無理矢理変える。


「それに、チームでいると色々と得だしな、今回だって、料理が出来るジルとベル子のおかげでうまい夕ご飯にありつけるんだから」

「言っとくけど、私だって本気だせば、料理くらいできるんだからね」

「……お前毎回そう言ってダークマター錬成するじゃん」


 奈月は幼い頃から料理が苦手だ。

 小学生の頃から事あるごとに暗黒物質を錬成し、おままごとと称して俺に無理やり食べさせていた。

 こいつが料理すると、どんな高級食材もたちまち真っ黒になるのだ。


「ダークマターとは何よ! 五年前に比べたら……ちょっとくらいは成長してるんだから……?」

「語尾が疑問形になる時点でかなり疑わしいな」

「うっさい!」

「料理くらいできるようになった方がいいんじゃないか? ホラ、料理できる女子ってモテるじゃん」


 何の気なしにそんなことを言うと、奈月は眉をひそめて、こちらを窺うように、語気を弱めた。


「……! シンタローは、料理できる女の子の方が好きなの?」

「なんで俺の話になるんだよ……」

「いいから答えなさいよ!」

「……まぁ、できるに越したことはないんじゃないか?」

「ふーん……」


 何か思案を巡らせているのか、奈月はアゴに手を当てながら口をちょこんと前に突き出している。

 昔からの奈月の癖。

 勉強している時や、普段やらないようなことに挑戦する時、自分の経験の薄いことをしようとする時には決まって唇を尖らせる。


「きょ、今日は料理に挑戦しなくてもいいんじゃないか……?」

「………まだ何も言ってないんですけど」


 不満げにこちらをジト目でにらむ奈月。

 俺はなんとか誤魔化す為に、前方に見えた目的地を指差す。


「スーパー見えたぞ、ほら、ベル子とジルも待ってる。さっさと済ませるぞ」

「……まぁいいわ」


 誤魔化されてくれた奈月に感謝しながら、冷房が効いているであろうスーパーに向かった。




* * *




「あぁ〜重たかった〜〜……」

「アンタそれでも世界最強? 情けないわね」


 重たい買い物袋を持ったまま、徒歩5分ほどの道のりを歩いた俺は、すでに気絶寸前だった。

 毎日冷房の効いた部屋でゲームばかりしているようなモヤシゲーマーなら当然の帰結だ。


「早く部屋に入ろうぜ」


 すでに汗だくな俺は奈月に玄関を開けてもらい、中に転がり込む。


「ふわぁ〜やっぱ屋内安心するわ〜」


 冷房の効いたリビングに一刻も早く芋らなければならない。

 俺はそう固く決意して、靴を脱ごうとする。


 けれど。視界の端に何かがうつる。

 視線をそちらに飛ばす。瞬間。


 息が止まった。



「おかえり、シンタロー。お風呂にする?ご飯にする?それとも……ジ・ル・ク・ニ・フ?」



 裸エプロンを装備した変態が、廊下で仁王立ちしていた。


「ご飯で」


 俺はノータイムでそう答える。

 こう言うタイプの変態にツッコミを入れるとかえって調子に乗らせてしまうからな、あえて冷静に接する必要がある。


「……おかえり、シンタロー。お風呂にする?ご飯にする?それとも……ジ・ル・ク・ニ・フ?」


 忘れていた。


 こいつは諦めが悪いタイプの変態だった。


 背後に目配せすると、奈月は無表情で靴を脱いで、無表情でジルの隣を歩いてリビングに向かった。


 あいつ……あれだけ熱く仲間について語っておきながら速攻で俺を見捨てやがった…!


「……ジル、後ろを向いてくれ」

「ん? こうか?」


 ひらりとエプロンをくゆらせてダンサーのように一回転するジルクニフ。

 毛ひとつ生えてない、まるで美術館にあるとんでもなく高価な彫刻のような、美しい生尻がそこにあった。


 この変態。パンツを装備していない。


 正真正銘の裸エプロン。


 もう逆に尊敬するわ。


「奈月ーっ! ベル子ーっ! 変態がここにいるんだけどカバー頼めませんかー!?」


 仲間に助けを求める。


「……」


 静寂が訪れる。


 裸エプロンの変態と、汗だくのモヤシゲーマー。


 そして静寂。


 ねぇ、これどうやってオチをつければいいの?



「……ジル、お前はなんで裸なんだ?」

「裸ではない、エプロンを着ているだろう」

「エプロンの下は全裸だろうが、四捨五入すれば裸だ。服を着ろ」

「……おっとすまない。シンタローは着衣プレイがお好きだったのかな?」

「お前マジで頭湧いてんのか?」


 数時間前まではこいつのこと、ちょっとかっこいいかもとか思ってた俺を今すぐに殴りたい。


「頼む! 誰か助けてくれ! この変態を撃退した奴の言うことを俺はなんでも聞くぞ! マジでなんでもだ!」


 リビングにいるチームメイトに魂の叫びをぶつける。


 けれど、静寂が訪れるだけだった。


「さぁシンタロー、お風呂に行こう」

「きゃぁーーっ! 誰かぁーーっ!」


 最後の抵抗、大声で叫び散らかす。

 けれどやはり、静寂が訪れるだけだった。


 モヤシゲーマーの俺が裸エプロンの変態に力で敵うはずもなく、お風呂に連行された。












ふえぇぇ……ノクターンノベルズ行きになっちゃうよぉ……。



明日は休みなので、できれば2話投稿しましゅ。作者はメンヘラなので、ブクマ評価ポイントを入れてくれると馬車馬のように更新します。是非調教してください。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジルくんよくも助詞がいるところで全ラになれるよな 勇気が凄い!
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