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17話 紅白戦









 別荘の一室。


 高校生大会で使われるPCが4台、壁際に設置されている。


 PCが置いてあるデスクに、ジル、奈月、俺、ベル子の順番で座っていた。


 部屋の隅には黒いソファーと小さな冷蔵庫がある。それ以外は真っ白な壁にカレンダーがかけてあるだけ。

 本当にゲームをするためだけの部屋だ。


「で、どうするの? いつも通りASサーバーに潜るの?」


 奈月は新調したヘッドセットのマイクをいじりながら、目配せをする。


「いや、今日は潜らない。状況が変わったからな……rulerクラスのプレイヤーがひしめき合う大会なら、普通にやったって勝てない」


 チームの雰囲気が一瞬暗くなる。

 奈月は訝しげに口を開いた。


「じゃあどうするのよ?」


 奈月の質問に対して、俺はここ数週間考え続けていたプランを提言する。


「一対一で負けるなら、四対四で勝てるようにすればいい。元々は、弱点を潰す合宿にしようと思ってたけど、いまさら自分達の不得意分野を補ったって、rulerクラスには敵わない。必要なのは、俺たちの得意分野に無理矢理相手を引っ張り込むことだ」


 他のチームの特徴は大体把握している。


 北米サーバー、ヨーロッパサーバーのプレイヤーは、エイムを重視する傾向にあるし、アジアサーバーのプレイヤーは殺意が高めで屋内戦での突撃が上手い。


 北米サーバーを拠点にしている『VoV』や『GGG』も例に漏れず、エイムに重きを置いている。どれだけ立ち回りが下手でも、結果的に撃ち勝てば、最後に残るのは俺たちだろ? というような考え方だ。


 もちろん、VoVやGGGのプレイヤーとなれば、立ち回りも一流だし、全ての能力がまんべんなく高レベルでまとまっているだろう。


 けれど、索敵ではベル子の方が圧倒的に上手いし、自分で言うのもなんだけれど、近距離立ち回りという一点においては俺はVoVに負ける気がしない。


 逆に。


 アジアサーバーを拠点とする『team heaven』は立ち回りが上手いチームだ。俺と同じくらい屋内戦が得意なプレイヤーやベル子に迫るくらいの索敵が上手いプレイヤーもザラにいるだろう。


 けれど、遠距離戦、エイムなら奈月の方が圧倒的に上だし、反動制御や車内からの狙撃、平地での撃ち合いはジルの方が上手い。


 長くなったけど、結局は『自分たちの得意に相手を引きずり込めば、勝機はある』ということだ。


「奈月は砂漠マップでの超遠距離、クイックショットの強化。ジルは全ての武器の反動制御、リーン撃ちのスピード、集弾率強化。ベル子は索敵、そして全てのマップの強ポジ把握、SGを使いこなす特訓」


 ひとりひとりに目を合わせながら、強化項目を指定していくと、ベル子が不安げに俺の袖を掴む。


「その……練習しなきゃいけない所はわかったんですけど、サーバーに潜らずにどうやって練習するんですか?」


 当然の疑問だ。

 俺は用意していた解答を口にする。


「クラン戦、いわゆる紅白戦だな。

『VoV』戦を想定する場合は、主力となるベル子と俺、そして敵側に奈月とジル。

『GGG』戦を想定する場合は、主力となる奈月と俺、そして敵側にジルとベル子。

『heaven』戦を想定する場合は、主力となる奈月とジル、敵側にベル子と俺を配置する」


 RLRには、クラン戦というシステムが搭載されており、クラン内のメンバー同士であれば、いつでも戦績に関係なく戦闘を行うことができる。サーバーに潜る前のアップや、新武器の確認、調整、練習など、そういった事に主に使われる。


 簡単に言えば、全マップ、すべての場所を使用できる練習用サーバーのようなものだ。


「みんなで強点を伸ばして、みんなで弱点を補う、足し算じゃ無く、掛け算で。そういうプランで行こう」


 まだ結成して1ヶ月と少ししか経っていないチームで、この辺りが立てられるプランの限界だ。

 良くも悪くも、個の強点と弱点の差が激しいチームだ。場所や特定の条件下での爆発力は他のチームの比じゃないだろう。


 ……逆に言えば、弱点を突かれれば一瞬でチームが崩壊するということでもあるんだけど……。


 その弱点について、俺はみんなに告げようか迷ったけれど、タダでさえ不安要素の多いこの状態で、状況を悲観してしまうような要素をこれ以上出すのは(はばか)られた。


「……ま、悪くないんじゃない?」

「足音聞くだけなら楽でいいです」

「シンタローの尻は俺が守る」


 チームのみんなも納得してくれたらしい。

 普段は全くいう事聞かない癖に、ゲームに関してはすっごい聞き分けいいのは何でなんだろう。


「じゃ、はじめるぞ」


 ゲーム画面を開いて、クランの画面にとんだ。




 

* * *






 マップは砂漠。

 広大な平地に、点々と廃墟が立ち並ぶ。

 砂漠というだけあって、遮蔽物が極端に少なくスナイパー有利のマップだ。


 指定の位置にスポーンした俺とベル子は、あらかじめ用意されていた武器を拾って装備を整える。


 このクラン戦。練習用サーバーは、指定したマップの、指定した範囲、半径1kmで、戦闘を行う。

 武器も指定した場所にしか湧かない。


「ベル子、準備はいいか?」

「オーケーです」


 この紅白戦は、VoV戦、対diamond rulerを想定した戦いだ。


 遠距離戦、エイム力に特化した奈月をrulerに見立てて、俺とベル子が得意の接近戦を押し付ける練習。


 俺たちはすぐさま射線が切れる廃墟に芋る。

 安地収縮は紅白戦にもある。

 安全地帯が狭まれば狭まるほど、敵との距離は近くなり、俺たちがどんどん有利になっていく。


 だだっ広い砂漠に廃墟が2軒ほどポツンと建っているこんな場所で、わざわざ危険を冒す必要はない。


 はじめに立てておいた作戦通り、俺たちは時間経過を待った。


「ベル子、足音を聞いておけよ、いつ敵が突ってくるかわからんからな」


 通常マップや密林マップと違って、砂漠マップの地面は砂地。足音が普段より聞き辛い。

 システム的にも、足音が聞こえる範囲はかなり狭まっているのだ。


「了解です。ま、タロイモくん相手に近距離を挑もうなんて、あの女ならしなさそうですけど」

「だろうな……。とにかく、俺たちが奈月に対してできることはただ一つ、安地が収縮して俺たちが得意な距離になるまで待つことだ」

「……最終安地が遮蔽物のない砂漠になったらどうするんですか?」

「……発煙弾を投げて煙の中で芋る。んでもって手榴弾やら火炎瓶なんかで揉みくちゃにする」

「……タロイモくんらしいですね……」

「砂漠は不利だからな、相手の嫌がることならなんだってするさ」


 安地収縮が始まるまでまだ時間がある。


 奈月達は今頃俺たちを血眼で探していることだろう。

 奈月は自分たちに時間が味方しないことを理解しているだろうからな。


 まぁ流石にあと5分くらいは時間が稼げるはずだ。


 そんな俺の予想を裏切って、ベル子は声を荒げる。



「……っ! W方向から足音! ピンを抜く音も聞こえました!」

「手榴弾か! あいつらどうやって俺達の場所を……!?」

「すぐに移動しましょう!」


 目の前の窓が割れる。手榴弾が屋内に投げ込まれた。


 ベル子は音の聞こえた西側とは反対の方向、東側の窓に向かう。


「待てベル子ッ! 外に出るなッ!」


 俺ならきっと、なんの準備も無しに手榴弾を単発で家に投げ入れるような真似はしない。


 この奇襲は、おそらく陽動。


 ruler戦のあと、俺が奈月に教えた戦法の一つ。屋内戦闘の基本だ。


「くっ! もうキャンセルできません!」


 もうすでに窓から飛び降りるムーブに入っていたベル子は、キャンセルできずに二階から廃墟の外に飛び降りる。


 次の瞬間。


 パシュンッ、と、だだっ広い砂漠に掠れた音が響きわたった。


「そんな……嘘でしょ……?」


 隣の画面を見ると、ベル子はすでにリザルト画面に強制移動させられていた。


 ヘッドを抜かれたのだ。たった1発で。


 世界2位の、最強スナイパーに。



「くっそ! 足音が聞こえねぇッ!」



 手榴弾のダメージのせいで、上手く音が聞こえない。耳を澄ませても、キーンと、耳鳴りのような音が聞こえるだけだ。


 手榴弾で足音を消して、敵に突る。

 俺の十八番(オハコ)だ。


 ベル子とは逆の窓から飛び降りる。

 こっちからなら奈月の射線から外れるはずだ。


 だだっ広い砂漠に、廃墟がたった2軒あるだけ。

 狙撃できる場所はたくさんある。大体の方向はわかるけど、射撃音から察するに、奈月はSRに消音器をつけていた。

 ベル子がいたとしても正確な位置までは割り出せるかどうかわからない。


 東側の廃墟の周りで伏せながら耳の回復を待っていると、徐々に機能が回復していく。


 真上。

 廃墟の二階から、足音が聞こえた。


「くっそ!」


 急いで、廃墟の一階に転がり込む。

 けれど、若干遅くなったせいで、ジルが二階から撃ち下ろした弾が肩に当たる。

 HPバーはすでに真っ赤になっていた。


「……敵にするととんでもねぇな、二人とも……」


 認めなきゃいけない。俺は完全に油断していた。


 現在の安地内で、廃墟は数えるほどしかない。その廃墟の中で、地形に凹凸があり、一番狙撃されにくい場所。


 俺はそれを理由に、この場所を潜伏先に選んだ。


 それを逆手に取られたのだ。


 奈月は総合世界ランキング2位のスナイパーであり、何年も一緒に組んできた相棒。

 俺が考える最善手だからこそ、完璧に読まれた。


 場所がわかれば後は簡単。

 ジルに手榴弾を持たせて、奇襲を仕掛ける。


 慌てたところを奈月が仕留める。


 文字にすれば簡単だけど、逃げる敵を遠距離から1発で仕留めるなんて、尋常じゃないエイム力がなきゃ出来ない芸当だ。


 けれどそれを、あいつらはやってのけた。


「………やべぇどうしよう」


 回復アイテムを使おうとするけれど、ジルが追いかけてくる足音が聞こえるせいで、逃げの一手しか打てない。

 あいつの、敵の(バック)を追いかけるムーブは死ぬほど強い。そして怖い。

 このHP差で、屋内戦といえど、撃ち合い最強のジルとやり合えば間違いなく負ける。


 俺は反撃の糸口を探すべく、時間を稼ぐため発煙弾をそこら中に投げた。



「そう簡単には負けてやらねぇからな……!」




 久々の強者に武者震いしながら、俺は勝つための最善手(ムーブ)を考えはじめる。







尻をジルに追いかけられるシンタロー。


ベル子の頭の容赦無く撃ち抜く奈月。

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