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13話 チーターVS世界最高の観測手







「ベル子、すまん起こしてくれ……!」

「わかりました!」


 ベル子が俺の元に駆け寄り、復活させる。

 不幸中の幸いか、レベル3ヘルメットを装備していたおかげで、即死は免れた。


「ここまで来てチーターとかふざけんなよ……!」


 俺がそう吐き捨てると、ベル子は申し訳なさそうにヘッドセットを外しながら呟く。


「43キル出来ただけ奇跡ですよ……まぁ、チーターにやられて終わるのも動画的にはアリっていうか、悪くないオチなんじゃないですか?」


 気を利かせているのだろう。ベル子は声に悔しさを滲ませてそう答える。


 インターバルをすぎて、俺は復活した。


 回復アイテムを速攻で使って、敵の位置を確認する。距離はまだ100mほど空いている。


「ベル子、ヘッドセット、つけろ」

「……え?」

「まだ負けてない」

「……相手は腰ダメで正確にヘッドを撃ち抜いてくるんですよ? 明らかに完全自動照準(オートエイム)でしょう……勝てるわけありません。頭を相手に見せた時点で負けなんですから……」

「だからって、諦め切れるのか? 悔しくないのか?」

「……」


 唇を噛み締めて、ベル子はうつむいていた。

 当然だ、悔しくないわけがない。今までの努力を、大好きな物を、踏みにじられるようなことをされて、怒らないわけがない。


「俺は嫌だ。何千時間とこのゲームをやってきたんだ。真剣勝負で負けるならともかく、不正行為なんかに死んでも負けたくない」


 俺はRLRが大好きだ。愛していると言ってもいい。

 だからこそ、それを汚す害悪に負けるなんて、絶対に嫌だ。


「ベル子、手を貸してくれ。俺はあいつの死体に鉛玉フルオートでぶち込まなきゃ気が済まないんだ」


 俺がそう告げると、微かにあきらめがまじった鈴の音のような声が、ヘッドセットから聞こえる。


「……まぁ、このまま抵抗せずにやられるのも癪ですし……いいですけど」


 ヘッドセットをつけたベル子。

 それを確認した俺は、頭を死ぬ気で回転させて、奴を殺る為の作戦を考える。


 装備を整えろ。

 敵に頭を見せた時点で負け。

 射線を交えずに敵を殺るなんて、とんでもない縛りプレイだけれど、やるしかない。


「すごいですね、タロイモくんは」

「……何がだ?」

「こんな状況でも、まったく勝ちを諦めてないなんて……普通のゲーマーならもうとっくにマウスを投げてますよ」

「……そりゃ人生かかってるからな、勝てなきゃ、ロリコンの汚名を背負って生きていかなきゃいけないだろ?」


 危うく忘れそうになっていた。

 44キル獲らなきゃ豚箱行きだったわ。


「それに、人生かかってるっていう意味じゃ、ベル子だって一緒だ」

「…………はい」


 ベル子が背負っているものについて、俺はまだ何も知らない。

 けれど、未成年なのに、親の借金を肩代わりして、妹の為に死ぬほど頑張っているという事実だけは理解しているつもりだ。


「いいか、いまから作戦の内容を説明する。あのチーターを倒すにはお前の力がなきゃ絶対に勝てない」

「……わかりました、やれるだけのことは、やってみます」



***




 手短に、ベル子に作戦の内容を伝えると、彼女は少し驚いて、そして小さく頷いた。



「本当、ダーティープレイでタロイモくんの右に出るものはいませんよ」

「……褒め言葉として受け取っておく、さぁ、はじめるぞ」

「……了解」


 短い合図を交わして、俺たちは屋内から窓ガラスを割って外に出る。

 敵と射線を合わせないよう、丁寧に木や岩に隠れながら、安全地帯の真ん中を目指す。


「足音はどうだ? 聞こえるか……?」

「……聞こえません。おそらく、私たちがいた小屋あたりを漁っていると思います」

「俺たちが割ったガラスの音を聞き逃してたみたいだな。動きも能力も完全に初心者な癖して、エイムだけは化け物クラス、油断はするなよ」

「わかってます」


 そう言いながら、俺たちは作戦実行のポイント、少し高くなった小高い丘に伏せる。

 小高い丘といっても、通常マップのような何もない吹きさらしの野山じゃない。

 ジャングルにあるような背の高い植物がそこら中に生えている。


 FPSでは、本人視点の為、植物に隠れれば俺たちも敵の位置は目視できない。

 視界を真っ青な植物達が覆っている。何も視えない。


「……敵の足音、確認しました」


 けれど、視えている。


 ベル子には、敵の位置がはっきりと、視えている。


 撃ち合えば、射線を合わせれば、負ける。

 ならば、意識外の奇襲攻撃。

 相手がこちらに気付く前に、銃を向ける前に、背後からSMGフルオートで全弾叩き込んで、一気にケリをつける。

 それしか、奴に勝利する方法はない。

 

「……俺も微かに聞こえる、正確な場所は分かるか……?」


 この作戦を遂行するには、敵の詳細な位置を、攻撃する俺が知っておかなければならない。

 茂みから飛び出して、明後日の方向に向いていたら、即、完全自動照準(オートエイム)の餌食になる。

 立ち上がった瞬間に、俺のレティクル(スコープを覗いた時に見える十時線)が、敵の頭にピタリと合うくらい、正確な情報が必要だ。


 伏せているベル子の上に、覆いかぶさって、ベル子が構えている銃の向きと、俺の銃の向きをまったく同じにする。


「目標の位置……近いです。NE方向、73、高さは少し低め、おそらく直立してます。……包帯の音、回復してます……」

「オーケー、手榴弾、投げるぞ」

「お願いします」


 敵のはるか後方に、俺は伏せながら手榴弾を投げる。

 この手榴弾は、攻撃の為じゃない。

 敵の注意を、俺たちとは反対方向に向ける為。


 敵の無防備な背後を、こちらに向けさせる為。


 手榴弾が爆発して、あたりに爆音が轟く。


「目標! 動きました! 今です!」

「ッ!」


 すぐさま立ち上がる。

 右クリック、ADS。

 少しでもずれていれば、エイムを修正しなければいけない。

 ジルや奈月のようなエイム力は俺には無い。

 必ず、大きな隙が生まれる。

 その大きな隙は、完全自動照準の格好の餌食。

 俺は瞬く間に蜂の巣にされるだろう。


 祈るように、


 3倍スコープを、



 覗いた。







 レティクルは、寸分違わず、敵の急所(ヘッド)を捉えていた。




「やっぱお前、世界最高の観測手だよ」


 俺はそう呟きながら、引き金を引いた。

 .45ACP弾が、小気味好い音をたてて、敵の急所に吸い込まれていく。


 血飛沫をあげて、敵のヘルメットは吹っ飛んだ。


 それでも俺は引き金を緩めない。


 回復チートの可能性を考慮して、絶対に引き金を離さない。


「嘘だろ……ッ!」

 

 けれど、それでも敵は死んでいない。



 少し経って、カチンと音がした。

 弾が切れたのだ。

 すぐさまAKMに持ち替えて、腰ダメで敵目掛けて引き金を引く。


 敵はまごついていた。おそらく、自分の返り血で俺の位置を確認できなかったのだろう。


 僥倖。


 .45ASP弾よりも威力の高い、7.62mm弾が、敵の全身を貫く。


「ベル子キルログッ!」

「目標! まだ死んでません!」

「無敵チートか!?」

「回復はしていました! 体力増幅系のチートだと思います!!」

「弾がもう無くなる! 閃光弾頼むッ!」

「了解ッ!」


 ベル子が閃光弾を投げると同時に、敵の弾が、俺の肩と腹部を捉える。

 流石に俺の位置を把握したらしい。


「クソッ!!」


 ジャンプで横に飛んで、HPバー、ギリギリで持ちこたえる。ベル子の閃光弾に救われた。


 けれど、俺の視界も真っ白。


 ベル子の閃光弾の有効範囲に俺もいたのだ。


 けれどあきらめない。あきらめる必要がない。


 迷わず、銃をリロードする。敵に鉛玉を撃ち込む為に。





「敵の位置は!?」


「E方向105ッ! 高さ直立ッ! 横っ飛び分の距離修正した上での数値です! 撃ってください!」



 視界が真っ白だとしても、関係ない。




 ウチのチームには、世界最高の観測手がいるんだから。





 リロードした40発の弾丸が、敵の全身を貫く。


 血飛沫の音が聞こえた。




「………キルログ、確認、目標……死んでます……」




 ベル子の報告を聞いて、俺はようやく、引き金から手を離した。








 


 

 

 

バイト終わるの遅くて、めちゃくちゃ急いで書きました……けれど、毎日投稿滑り込みセーフのはず! 誤字脱字が多いかもしれません。すぐに修正します。

戦闘シーンが長くなりすぎて、ジルの出番遅くなってしまいました。すみません。

次回、満を辞してメインヒロインの登場です。



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