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11話 シンプルに力技で







「うっ……ひっく……児童ポルノだよぉ………!」


 訳のわからないことを言いながら泣きじゃくる女児に、俺はどうしたらいいか分からず、狼狽えるばかりである。


「あ、飴ちゃんいる?」


 脳が正常に働いて無いせいか、左ポケットに入っていた俺の大好きな飴、.45ACP弾キャンディ(62円)を渡す。ちなみに爽やかミント味だ。


「お……お兄ちゃん、こんなアメごときで……罪がかるくなると思ってるの……?」

「へ……?」

「じどうせいてきぎゃくたいって言ってね……お兄ちゃんがおかした罪は、ぜったいにゆるされないものなんだよ……?」


 パンツ丸出しにしながらも急に饒舌(じょうぜつ)になる幼女に、俺は戸惑っていた。

 それと同時に、嫌な予感が背すじを駆け抜ける。

 忘れていた……この幼女はただの幼女じゃあない……! あの超絶腹黒女、ベル子の妹だぞ……!


 認識が甘かった。そう思った時にはもう遅い。


「む……無罪だ! 断固無罪を主張するッ!」

「………18歳、せいよくモンスターで、素行も悪そうな、年がら年中ゲームしているゲームオタクと、9歳、品行方正で成績優秀、おまけに美少女な私、どちらに世間は味方すると思う……?」

「そ……そんな、活路が見えない……ッ!」


 どんな逆境からも、必ず活路を見出し、勝利してきたこの俺が、世界最強であるはずのこの俺が……まったく歯が立たない…!

 そうか……すべて罠だったんだ!

 押入れの隙間から出ていた布も、おパンツ半ケツ事件も……全部計算づくだったんだ!


「やっと理解した? お兄ちゃんの人生はもう詰みかけているんだよ? 正確には、私はいつでもお兄ちゃんの人生を終わらせることができるんだよ……?」

「何が望みだッ! 金ならこれだけしかないぞ……!」


 俺は右ポケットにあった全財産を幼女に差し出す。

 幼女はそんな俺の手を、綺麗な細い足で蹴りあげる。


「あぁっ! 俺の80円がぁっ!」

「そんなはした金で、このみくる様が満足できると思ってるの? 片腹痛いよ? しぬの?」


 俺が下手に出た途端、美幼女、もといみくるちゃんは急に尊大になる。パンツ丸出しでも御構い無しだ。


「……よ、要求を言えよ……どうすれば、俺は見逃してもらえる……?」

「ふぅん、さすがはお姉ちゃんが初めて家に呼んだ男、話が早くて助かるよ」

「そんなお世辞はいらねぇんだよ! 俺には、大切な仲間がいる……こんな所で人生終了するわけにはいかないんだ……ッ!」

「女児のスカートをひっぺがしてお巡りさんに捕まりそうになっているとは思えないほどかっこいいセリフね」


 みくるちゃんは、ゲーミングチェアに座り、大仰に足をくむ。

 俺はその足先あたりで、土下座一歩手前の状態だ。

 今の俺はまな板の上の鯉、切り替え忘れをした単発撃ちのSMGなのだ。

 不本意だけれど、敵の要求に従う他ない……。


「私のようきゅうはとってもシンプルなものよ」

「……っ」


 生唾を飲み込んで、彼女の二の句を待つ。



「数ヶ月以内に、お姉ちゃんの動画の再生数を今の10倍にしなさい」


「……へ?」



 目が点になるという言葉は、今の俺の為にあるような言葉だろう。そんな事を思ってしまうくらいに、俺は面食らっていた。


「……ベル子は登録者数180万人の超人気Youtuberだぞ? 俺なんかが力を貸すまでも無いだろ」


 思った事をそのまま口にだす。

 みくるちゃんは訝しげな顔をして、足を組み替える。この子、本当に小学生か? なんかめちゃくちゃ貫禄あるんだけど。


「登録者数だけは、たしかにお姉ちゃんは多いわ。けれど、再生数はどう?」

「………」


 言葉に詰まる。

 ベル子のゲーム実況は、再生数という意味ではここの所、調子は良くない。


 大体、平均の再生数は5万から多くて10万。登録者数が180万人もいるのに、この再生数の少なさははっきり言って異常だ。


 おそらく、これは俺が立てている仮説だけど。

 美少女RLRゲーマー。その響きにチャンネルを登録する人は多いんだけど、ベル子の最も得意とする索敵が、動画映えするものじゃないから、その凄さがイマイチ視聴者に伝わらず、再生数が伸びないのだろう。

 現に、大会に出てランキングにのるようなゲーマーやストリーマーはこぞってベル子を支持している。

 けれど、その凄さがわかるほどゲームをやり込んでいる人間は少ないのだ。

 どうしても、キル数やキルレなど、わかりやすい凄さに視聴者はなびく。当たり前だ。


「私に再生数が低い理由はわからないけど、それをどうにかするために、お姉ちゃんはねる間もおしんで動画を撮って、編集しているの。学校に通いながら、家事もこなして……こんな生活をつづけてたら、お姉ちゃん、いつか死んじゃう……」

「その……聞きにくいんだけど……親は?」

「……私もくわしくは知らない。お姉ちゃんが教えてくれないから……でも、とんでもない額の借金を残してどこかに消えたっていうのは、さっしてる……」


 家庭の事情。

 18歳で学校に通いながら家事もこなして借金を返済しながら家の収入まで賄う。

 ゲーム実況だって、名前だけ聞けば簡単なように聞こえるけれど、実際は編集するのに何時間もかかる重労働だ。本当に、寝る間も惜しんでやらなきゃ、学校に通いながら毎日投稿なんて出来るはずもない。

 それだけ頑張って投稿しているのに、再生数が5万や10万。いくら登録者数が多くたって、収入は広告の再生数に依存する。普通の実況者からすれば充分すぎる数字かもしれない。けれど彼女は違う、彼女には背負っている借金も、養わなければいけない家族もいる。


 おそらく彼女は誰にも頼らず、その過酷な生活を、妹を守りながら続けてきたのだ。


 いや、頼ろうとはしたのかもしれない。けれど、現状こうなっている以上、それも上手くいかなかったのだろう。


「私は……お姉ちゃんの力になりたい、けれど、私じゃどうにもできないの……お兄ちゃんは強いんでしょ? だったらなんとかしてよ……!」


 尊大な態度をとっていたみくるちゃんが、涙目になって俺にすがりつく。


 ベル子が、俺みたいなイロモノゲーマーにすがる理由も、おっぱいを押し付ける理由も、全部この子の為だったんだな。


「……悪いけど、俺はそんな器用な人間じゃない。ゲーム実況なんてしたことないし、コミュ症だし、下手にアドバイスなんかしたら、ベル子の登録者数や再生数をむしろ減らしてしまうかもしれない」

「……っ!」


 涙を流しているみくるちゃんに、続けて俺は言葉を繋げる。


「だからシンプルに行こう」

「……ぇ?」


 視聴者は、わかりやすい数字になびく。


 当たり前だ。


 だったらその分かりやすい数字を提供してやればいい。


「1ゲームで44キルくらいとれば、まぁ嫌でも1000万再生はいくだろ」


 43キルが、RLRの1ゲームキル数世界記録だったか?

 それを塗り替えれば、視聴者にとっての分かりやすいをきっちり提供出来るだろう。

 ベル子のチート級の索敵能力があればたぶん可能だ。……たぶん。


「1000万再生!? ……でも44きる? それってむずかしいんじゃ……」

「一応、世界記録だな」

「世界記録!? そんなの無理に決まってる……」


 驚いたり落ち込んだりと、忙しい女児に、俺は目一杯のキメ顔でこう告げる。



「みくるちゃん、俺って実は、世界最強プレイヤーだったりするんだぜ?」




 これでもかというくらいのドヤ顔を決めた瞬間、ガチャリと玄関の開く音が聞こえる。


「ただいまー」


 ジュースを買ってきたベル子と、目が合う。

 ふすまは開けたまま。

 玄関を開けたベル子と奥にいた俺たちは綺麗にかち合った。


 無駄にドヤ顔を決める俺と、涙目になっているパンツ一枚の妹。


 ベル子は視線を何往復もさせて、俺とみくるちゃんの現状を確認し、おもむろにポケットからスマホを取り出す。


「タロイモくん、警察って110でしたよね」

「た……頼む、おまわりさんにだけは内緒にしてくれ……っ! なんでもするからっ…!」


 俺は今日2回目の土下座をぶちかますのであった。











 

前後編と言ったな……あれは嘘だ!(すみませんでした、ジルの出番はちょっぴり先になります、たぶん次の次くらい?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 一応、衛兵の業務も兼任してるんだけど? ちょっと詰め所まで来てもらおうかな
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