10話 頑張り屋さんな美少女Youtuber
長くなってしまったので前後編に分けようと思います。
全国のジルクニフファンには申し訳ないですけど、もう暫くお待ちください。
そして、前話のあとがき効果は凄まじく、1日で評価ポイントが1000ポイントを超えました。本当にありがとうございます。そしてこれからも、どうぞよろしくお願いします。
黒くておっきなPCの角に頭を叩きつけられた厄日から、ちょうど一週間ほどたった日曜日。
俺は朝から電車を乗り継いで、一時間半ほどかけて東京と埼玉の狭間にある街、清瀬に来ていた。
少し歩くと、畑がちらほら見えて、東京とは思えないほどのどかな景色が広がっている。
俺はそんな雰囲気の中、待ち合わせの場所であるバス停の前でぼーっとしていた。
何故、日曜日の朝からこんな場所にいるかというと。
「タロイモせんぱぁ〜い、お待たせしましたぁ〜。動画撮影の準備に手間取っちゃってぇ〜」
今日俺を呼び出した猫かぶりモードのベル子が現れる。
淡い水色のシャツに、露出の多いデニムのホットパンツ。ちょっぴり高価そうなバッグも相まって、カリスマギャルっぽい雰囲気のファッションだ。
俺のチームに加入してもらうにあたって、俺はベル子から一つの条件を提示されていた。
BellK channelのRLR動画に、出演すること。
反省用に動画をとったり、非公式大会のプレイ動画を晒されることはあっても、自ら動画配信することは無かった俺が、そんな大役を務められるか不安だけれど、ベル子をチームに入れる為の条件であるならば仕方がない。
「なぁ、本当に俺なんかでいいのか?」
「大丈夫ですよぉ〜。むしろぉ、先輩じゃなきゃダメですぅ。ほら、炎上商法的な?」
「事実を告げるにしても、もうちょっと言葉を選べよ……それと、俺とお前は同い年だろ。先輩じゃねーよ」
冷静にツッコミを入れると、ベル子は表情をガラッと変えて、淡々と答える。
「……同い年の人にも先輩って呼ぶとウケがいいんですよねー。ほら、ゲーマーって自己顕示欲強い人多いじゃないですかぁ? そういうのを満たしてあげるといろいろ使え……助けてくれるんですよねぇ」
出会って2秒でベル子の猫かぶりモードは解除されて、本来の計算高い腹黒モードに戻る。
声も表情も180度変わる彼女を見て、俺は逆に感心する。女は生まれながらにして女優とはよく言ったものだ。
「私が本音をぶつけるのは先輩だけなんですよ……? ト・ク・ベ・ツですっ」
あざとく人差し指を立てて、俺を指差すベル子。腹黒さを差し引けば普通に美少女だから困る。
「はたして俺は何番目の特別なんだろうな」
そう適当に流すと、ベル子むすっとした顔になる。
「……なんですかその反応。超絶美少女Youtuberである私が、こんなにサービスすることなんて滅多にないんですからね」
「……残念ながら美少女には耐性があるんでな」
10年以上、美少女の隣に住んでいた俺は、ベル子のぶりっ子なんかに騙されない。
大体、美少女は結構難アリな子が多い気がする。
件の俺の幼馴染だって、ベル子と動画を撮りに行くと言っただけで、何故か機嫌を悪くして眉毛を吊り上げている。
美少女というより、女の子自体わからん。男とつるんでいた方が楽だ。
「そーですか……」
ベル子はあからさまにしょんぼりした空気をだして、捨てられた子猫の様な瞳で俺を見つめる。
騙されんぞ。
ここで『大丈夫?』なんて言おうものなら、お願いという名の何かしらの強制労働が待ち受けているのだ。
「それじゃあ、こういうのはどうですか?」
「っ……!」
むにゅり。
この世のモノとは思えないほど柔らかな感触。
奈月には無くて、ベル子にはあるもの。同じ美少女なのに、決定的に違う部分。
そう、おっぱいだ。
彼女は俺の右肘におっぱいを押し付けていた。
「な……なななな何をしゅるんだ!?」
「何ってぇ、道案内ですよぉ?」
「道案内にパイオツを押し付けるなんて素敵文化はこの国にはないはずだ!」
「女の子って、自分に貢いでくれそうな男にはおっぱいくらい普通に押し付けますよ?」
「お前マジでそんなこと言うな……! いろいろと危ないだろ……!」
「ま、私は先輩が初めてですけどねっ」
キャピキャピしながらベル子は俺の腕を引っ張る。表情は余裕有り気なベル子だけれど、耳は火が出そうなくらい、真っ赤になっていた。
恥ずかしいならやらなきゃいいのに……。
「今日はどんな動画を撮るんだ?」
少しでも意識をおっぱいから逸らすために、俺はベル子に質問する。
これ以上、おっぱいに意識を持っていかれると、本当にベル子の傀儡になりかねん。
「まだ秘密ですっ」
終始あざとくキャピっているベル子を尻目に、俺はこれから来るであろう受難に対して、胃をキリキリと痛めていた。
* * *
「………」
ベル子に連れられて5分ほど歩いた先には、ボロボロで、半ば廃屋とも呼べる様な木造建築のアパートが建っていた。
近所の小学生が見れば『うわーっ! お化け屋敷だーっ!』とはしゃいじゃうレベルでボロボロだ。
「さ、入ってください」
「えっ……肝試し動画でも撮るの?」
俺の質問に対して、ベル子は衝撃の事実を告げる。
「何言ってるんですか……? ここが私の家ですけど」
「……へ?」
ファッションや性格から鑑みるに、ベル子はお金持ちの家で育ったお嬢様だと勝手に思い込んでいた俺は、そのギャップに少し面食らってしまう。
「……ボロボロで驚きました? 今は、家庭の事情でこんな家ですけど、あと3年くらいYouTubeを頑張って、超でっかい豪邸に住んでやるんです」
彼女は笑っていた。
ベル子はすでに登録者180万人の超人気Youtuberだ。
年収で、数千万の単位で稼いでいるはずなのに、このボロボロのアパートに住んでいる理由を、俺は軽々しく聞けなかった。
家庭の事情という五文字に、きっと、俺が簡単に触れちゃいけないような何かがあるのだ。
「ちょっとびっくりしたけど、まぁ味があっていいんじゃねぇの?」
ギシギシなる階段を上がって、安全性に問題がありそうな手すりにつかまりながら、俺はそう答える。
「こんな所でも、住めば都です。どうぞ」
そう言いながら、ベル子は立て付けの悪い玄関を開けて、俺を中に案内してくれた。
外観と違って、内装はそこまでボロボロじゃなかった。
それでも、床には修繕の跡がたくさんあるし、壁には穴を塞ぐためのシールがたくさん貼られている。
玄関から直通のリビングには、小さなちゃぶ台やら年季の入った食器棚、衣装タンス、必要最低限の家具しかなかった。
「ベル子って、妹とかいたりする?」
部屋の一番目立つ壁に、小学生くらいの女の子が描いたような絵がたくさん貼ってあった。
「えぇ、とっても可愛い妹がいます」
壁に貼ってあった絵を眺めながら、ベル子は今までで一番優しい顔をして、そう呟いた。
「へぇー、今日はいないのか?」
「……タロイモくん、まさかロリコン?」
「なわけねーだろ。まぁ子供は嫌いじゃないけどな」
「私の超可愛い妹に手を出さないでくださいね。……あ、私ならいつでもオーケーですよ? 月に300万円でどうです?」
「……金とるのかよ」
「当然です、私、高い女なので」
彼女はけらけらと笑いながら、奥のふすまを開ける。
六畳二部屋のアパート。その奥の部屋にゲーム部屋兼編集部屋があるらしい。
ふすまを開けきると、古い机にはあまり似つかわしくない、2年前くらいに出たモデルのゲーミングPCが見えた。その隣にあるのは編集用のPCだろうか。やはり登録者数180万人のYoutuberの仕事場だけあって、機材はキチンと揃えているようだ。
「左にある編集用のPCで、私はゲームにログインしてあるので、タロイモくんは右のやつを使ってください」
「おう、サンキュー。……てか、そろそろ何を撮るか教えてくれてもいいだろ?」
「……あ〜、そういえば飲み物とか準備してませんでしたね! 買って来ます!」
「ちょっ! おい!」
強引に話を変えて、ベル子は床をギシギシ鳴らしながら外に出て行った。
あいつまさか……まだ何も企画を考えてないとかそういうオチじゃないだろうな……。
「はぁ……」
俺は大きなため息を吐く。
そういや、奈月以外の異性の家に来たのは初めてだな。
急にそわそわしだした俺は、あたりをきょろきょろと見回す。
ベランダには干してある洗濯物。綺麗にアイロンがかけられた制服。手作りであろうぬいぐるみ。
ベル子の母親はずいぶん器用で几帳面なんだろうな。
家事をほとんどしたことない俺が分かるくらい、部屋は綺麗に整頓されていて、掃除も手を抜いた様子が無い。
「……ん?」
ふと視界の端に写った、右隣の押入れに、視線が吸い寄せられる。
押入れの隙間から、ピンクの布切れが顔を覗かせていた。
「なんだこれ」
俺はなんの気無しに、その布を強く引っ張る。
「きゃあっ!!」
「ッ!?」
布を引っ張ると、押入れの中から何故か幼女の声が聞こえた。
ま、まさか……。
俺は恐る恐る、押入れふすまに手をかけて、ゆっくり開ける。
「うぅ……っ!」
スカートが半分脱げて、パンツが丸見えになっている小学生くらいの女の子が、そこにいた。
目には、うるうると涙を溜めている。
ベル子に良く似た亜麻色の髪の毛、クリクリとした瞳、あと10年もすれば世の中の男共を骨抜きにするであろう、未完の美がそこにあった。
おそらく、この子はベル子の妹だろう。
何故、押入れに芋っていたかは分からないけれど、いまここにある現実は、18歳男性が、幼女のスカートを脱がして泣かせているという事実だけだった。
「た……頼む、お姉ちゃんには内緒にしてくれ、なんでもするから……」
俺は情けない声をだして、女子小学生に土下座していた。
ロリコンダメゼッタイ!