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06 薬の調達。




 異世界お泊り会は、眠れなかった。

 この世界の大きな疑問を考えていたら、なかなか寝付けなかったのだ。

 それがなくても、異世界で無防備に寝るのは私にはまだ無理かもしれない。

 りょうたとレックスはぐっすりと眠ってしまったが。羨ましい。

 私はポニーテールを白いリボンで結んで、ニーソを履いた。

 それから村の人に借りた毛皮を返しに行こうと、革のブーツを履く。余っていないかと訪ねに行ったら、喜んだ様子で貸してくれたのだ。

 カーテンを捲って外に出ると、人がたくさん集まっていたものだから、ギョッとしてしまう。


「おっ! 出てきだぞ! 『正義の女戦士』様だ!」

「『正義の女戦士』様!」

「お、おはようございます……」


 私に気付くと歓声が上がる。

 この反応はいつか慣れるだろうか。

 引きつり気味な笑みを浮かべて、手を振る。

 私に何か用があるのだろうか。首を傾げつつ、はしごを降りようとしたら。


「お助けください!! 『正義の女戦士』様!」


 バシャンと水浸しの地面に平伏した。

 またもやギョッとしてしまう。一同がびしょ濡れとなった。

 濡れることなんて、この世界の人達は抵抗ないのだろうか。


「何の騒ぎだ」


 アギトさんがカーテンを捲って顔を出した。

 りょうたも起きて、レックスを背負って覗く。


「皆さん、立ってください。お話は聞きますから」


 私が役に立てるとは約束出来ないけれど、とりあえず話を聞こうと促す。

 サラマンダーの村から噂を聞いて、捜しに来た別の村人達。

 今その村はやまいが流行っていて、死にかけている者もいるそうだ。

 その病を治すためには、とある薬草が必要だというのだけれど、それが危険な場所にあるという。


「キリンの群れの地を横切り……」

「キリン、ですかっ」


 キリンってあれか!? 幻獣のキリンですか!?

 興奮していることは絶対に悟られまいとポーカーフェイスを保つ。


「ハーピーの棲まう崖に……」

「ハーピーっ」


 ハーピーもいるのか、この世界!

 鳥の翼を持つ女性が頭に浮かぶ。


「咲いている花なのです。鈴の形をした花で、リンと鳴る花だけが薬草となります。なのでリンと呼ばれている花です」

「なるほど、リンの花ですか。……!」


 それを取ってきてほしい。それだけの話。

 簡単そうだけれど、世界を救うと言い伝えの私達に頼むほどだ。

 道のりは険しいのかもしれない。

 アギトさんに聞こうとしたら、彼は険しい表情で腕を組んでいた。


「ア、アギトさん?」

「……ハーピーは危険だ」

「ハーピー、ですか?」

「キリンの群れを無事越えられても、ハーピーに阻まれるだろう」


 アギトさんは首を横に振る。断れという意味だろうか。

 でも死人が出そうだというし、断れない。


「なんとか行けないですか? アギトさん」

「……」


 アギトさんがいないと行けそうにないし、私は問う。

 彼は黙って考え込む。


「お願いしますっ、『正義の女戦士』様! 村にあるものは全て差し出します」

「いえ、差し出すとかはしなくていいので」

「ええっ!? では何を望まれますか!?」


 さらりと応えると、今度は村人達がギョッとした。

 私は困ってしまう。言っちゃ悪いけれど、村というのだからきっと貧相。何もかも差し出されても、異世界人の私には価値があるとは限らない。困るだけだと思う。


「そう言わないでください。あの、アギトさん……」

「……君が行くと言うなら案内しよう」


 まだ険しい表情をしているアギトさんは、しぶしぶと言った様子で頷く。

 私は笑みで応える。


「では行きます。リンの薬草はどのくらい摘めばいいのですか?」


 行くと言うと歓喜の声が上がって、続きの言葉を掻き消されてしまった。


「『正義の女戦士』様が村を救ってくださる!!」

「ありがとうございます!」


「おい、薬草はどのくらい摘めばいいんだ?」とアギトさんも尋ねてくれる。

 女の人から薄茶の袋を渡された。バレーボールが入るくらいの大きさ。

 これくらい詰めればいいらしい。


「僕も行っていい?」


 りょうたが期待の眼差しを向ける。


「レックスも行くなら、りょうたも一緒の方がいい」

「まぁ置いていくより一緒がいいですが……」


 危険だと言うなら、私はりょうたをシエルちゃんと残ってほしかった。

 でもアギトさんが連れて行くと言うなら従おう。


「えりな……」


 シエルちゃんが私に何かを差し出す。

 ベルトに見えたけれど、どうやら剣を差すホルダーみたいだ。


「これ作ってくれたの?」


 夕食のあとから何か作っているとは気になっていた。

 私のためだったのか。


「ありがとう、シエルちゃん。使わせてもらうね」


 頭を撫でると頬を真っ赤に染めた。

 あ、可愛いなぁ。

 私はホルダーに剣を差し込み、背負った。軽い。

 いくら軽くても、ずっと握って持つのは無理だもの。


「なんかクエストみたいだね!!」

「りょうた、ゲームみたいだと言わないの。人助けなんだから」

「まだ言ってないよーお姉ちゃん」


 りょうたが言うようにゲーム内のクエストみたいだけど、人の命がかかっている。ゲーム発言はよろしくない。

 これも人助け。

 朝食をとって、すぐに出発をした。

 もちろん村中の人達に見送られて。


「キリン、そんなに危険なんですか?」

「……気性は荒い。十分気を付けて通るべきだ。問題はハーピーだな」

「ハーピーですか……そんなに危険な生き物なんですか?」


 雲が浮かぶ森を歩きながら、アギトさんと話してみる。

 ブーツを履いているから、すんなりと歩けた。


「……オレは嫌いだな」


 アギトさんはそう呟くように答える。

 オレは……?

 意味深だ。それっきり口を開かないアギトさん。

 そのままついていった。青い青い森を抜ける。


「キリンの群れの地だ」

「キリン!? んっ」


 アギトさんが言ったから、期待一杯で見た。

 でも期待は裏切られる。

 幻獣のキリンかと思いきや、動物園で人気のキリンだった。

 それも青紫色の皮膚をした長い首のキリン。


「わぁ! キリンがいっぱい!」

「うん、キリンが……いっぱい……」


 本当にキリンの群れがあった。

 広い水浸しの大地に、四十頭はいる。ところどころある木の葉をむしゃむしゃと食べていた。温厚そうだけど、気性は荒いという。


「避けながら通るぞ。睨まれたら厄介だ」

「はい」

「うーわー」


 レックスを背負っているりょうたの手を引いて、群れの途切れを進む。


「ねぇお姉ちゃん、なんでこの世界のキリンはあんな色なの?」

「お姉ちゃん、キリンが黄色い理由もわからないから、わからないなぁ。青い葉っぱを食べているせいかしら」


 りょうたの質問に、そう返す。

 キリンに睨まれることなく、その群れの地を横切れた。


「……この世界のキリンは人間も食らうぞ?」

「「!?」」


 新たに鬱蒼とした森に入ると、アギトさんは衝撃的なことを言い放つ。

 人肉を食べるキリンなら、早くに教えてもらいたかった。

 もっと気を付けて横切ったのに。安全のためにも迂回したかった。


「迂回すると一日経ってしまう。急いだ方がいいだろう?」

「はい……でも教えてもらいたかったです。ハーピーも人間を食べるのですか?」

「……いや、ハーピーは違う」


 ホッとする。ハーピーに食べられたらどうしようかと思った。

 ハーピーが人肉を好むなら、りょうただけでも引き返すところだ。

 想像では、鳥の化け物になった。牙を生やしたもの。


「じゃあ、何故アギトさんは嫌うんですか?」

「……向こうもオレを嫌っている」


 また眉間にシワを寄せて、アギトさんは言った。


「嫌い合っているってことですか? もしかして知り合いの種族?」

「……まぁ、顔見知りではある」

「なんだ。話が通じるなら、お願い出来ますね!」

「……」


 苦虫を噛み潰したような表情をするアギトさん。

 え? 通じないの? どっちなの?

 そこでガサガサと物音が聞こえた。


「剣を握れ!」

「っ!」


 アギトさんの鋭い声を聞き、反射的に背負った剣の柄を握る。

 りょうたを庇うように立った。

 葉を揺らして現れたのはーーーー。


「ぎゃあ!? 何あれ!? ムカデ!?」


 三つ目の真ん丸と太ったような巨大ムカデ。

 家よりも大きく、鋭利な牙のような足がずらりと並んでいる。

 緑色の身体をしているからイモムシに見えなくもない。


「気を付けろ。奴は獲物を締めてから食べる。人間もな」

「ど、どうしますか!?」

「奴は三つ目に見えるだろう?」

「え、ええっ!」

「だが、奴の目はたった一つ、額にあるものだけだ!」


 地面の上にあった石を拾い上げると、ぶん投げた。

 額にあった丸い目に命中。その目を閉じた巨大ムカデは、バタバタと暴れた。水飛沫が、こっちまで飛ぶ。そのまま、慌ただしく去った。

 

「……一つ目ムカデ、覚えておこう」

「捕まらなければ、簡単に追い払える」


 アギトさんに頷いて見せてから、私達は再び進んだ。

 森には雲が浮いていなければ、水玉も浮き上がっていない。

 ただの青い葉を生やした森だ。暗い印象を抱く。

 木の根っこをくぐれそうなほど浮き出た木々は、様々な形に成長をしている。時には、登って越えた。

 どのくらい歩いたのだろうか。やがて「ハーピーの崖が見えてきた」と鼻を押さえてアギトさんが、指差した。

 顔を上げれば、山が見える。その崖にリンの花があるらしい。

 そして、ハーピーがいる。

 どんな姿をしているのだろうか。ワクワクしながら、歩みを進めた。


「ーーーーあらあらあら」


 聞こえてきたのは、女性の声。歌うように楽しげで、笑いを含んでいる。

 もう崖が、あと少しという距離。

 どこから声がするのかとキョロキョロ探しつつ、りょうたの手を握り締めた。


「誰か来たかと思ったら、竜人族じゃない」

「やだわ」

「何しにここに来たのかしら」


 上にいる。木の上にいた。

 バサッと羽ばたく。バサバサと羽ばたく羽根は、緑に艶めいていた。

 ウェーブのついた長い髪も同じ艶めきをしている。

 ギシッと一本の枝に降り立った。それは鳥足だ。

 薄緑色の肌がある。細いウエスト、ヘソ、胸。胸元は絶妙に羽毛で隠されている。魅惑的な女性の身体付き。顔も人間の女性のものだった。不敵に微笑んでいる。青いアイシャドウが、瞼についているようだった。美しいハーピーだ。


「クスクス」

「クスクス、覚悟は出来ているのかしら?」

「待て。争うつもりはっ」

「ええいっ!」


 ハーピーの女性は左腕ーーーーではなく、羽を大きく振るう。

 途端に風が巻き起こり、私もりょうたも吹き飛ばされないように屈んだ。

 だがもろに受けたアギトさんは、私達の後ろに飛ばされてしまう。


「ぐっ!」

「アギトさん!」

「あーら?」


 アギトさんを振り返った私の背後から、声がして震え上がる。


「やぁだぁ! 可愛い女の子がいるじゃない!」

「あらぁ本当! かーわーいーい!」

「!?」


 固まっている間に、ハーピー三人に囲まれてしまった。

 翼で触れられる。頬を、髪を、お腹を触られた。


「え、えっと、ええっと」

「なんて名前なの?」

「え、えりなです」

「えりな? かぁわぁいー」

「うっひゃあ!」


 胸まで触られた!


「あ、あの、お姉様方……っ!」

「お姉様だって」

「ますます可愛い」


 ハーピーにちやほやされているこの状況なんなんだ。


「お触りはおよしになって、うひゃあっ!」


 もうどこを触られているのか、わからなくなってきた。


「お、お姉ちゃん!」


 りょうたの声がするけれど、見えない。

 もふもふの羽にそこら中を触られている。


「あら! 可愛い男の子もいるじゃない。でもドラゴンとくっ付いてる」

「引き剥がしてしまいましょうよ」

「よせ!!」


 レックスを嫌がっているようで、離そうとしたハーピー達に、アギトさんの声が轟く。


「気安く触るな! 予言のドラゴンと少年と女戦士だぞ!!」

「ぷっ! 予言の子達ですって!」

「やだ、竜人ったら、予言の『青空の子達』だって言うの?」

「もっと上手いこと言いなさいよ」


 冗談だと思ったハーピー達は、吹き出した。


「触るなと言っている!!!」


 咆哮が飛んできたものだから、ビクンと震える。耳を押さえた。

 ハーピー達は羽ばたき、離れる。

「お姉ちゃん!」とりょうたが抱き付く。


「大丈夫?」

「う、うん」

「キュー」


 レックスも心配してくれたらしい。

 りょうたとレックスの頭を撫でた。


「ありがとうございます、アギトさん」

「全く……やはり来るんじゃなかった」


 アギトさんは不機嫌な顔をして、私の肩をはたく。スンスンと鼻を鳴らして私の匂いを嗅ぐ。どうやら今ついたハーピーの匂いが気に入らないようだ。


「あ、あの! ハーピーの皆さん。お願いがあるんです。崖に咲いているというリンをいただきたいのですが」

「……」


 さっきの賑やかさはなくなり、すっかり黙ってしまったハーピー達は、上空で顔を合わせた。


「えりな、一人で摘むって言うなら、許可するわよ」

「なっ!」

「我々の崖に踏み入れていいのは、えりなだけ」

「ドラゴンは入らせないわよ」


 ハーピー達は相談して、そう告げる。

 嫌い合っているのは、本当のことのようだ。

 ハーピーとドラゴンは、犬猿の仲らしい。


「バカを言うな!! そんなことを許すものかっ!」

「あ、いいんですよ。行きます」

「なんだと!?」


 アギトさんに凄まれてしまった。


「敵意はないみたいですし、行きますよ。急がないといけませんし。あ、剣、預かってください」

「敵意がないからと言って、丸腰でハーピーと行こうとするな!」


 アギトさんは言い返しながらも私から剣を受け取った。

 手にした途端に剣が重くなったかのように下がる。


「あら、話がわかるじゃない。ほら行きましょう、えりな」

「おいで」

「待っててください。すぐに摘みますので、りょうた達をお願いしますね」

「傷一つつけるなよ!? ハーピーども!」

「うるさいわよ! 竜人!」


 アギトさんって、過保護だな。

 そう思いつつも、心配そうに見るりょうたの頭をポンと撫でてから、崖の方へと歩き出す。ハーピー達も飛びながらついてきた。

 崖の目の前まで来たが、下を隅々まで見てもリンらしき花は咲いていない。


「あの、リンはどこにあるんですか?」

「上よ」

「じっとしていなさい」

「は、はい」


 がしっと大きな鳥足で両肩を掴まれた。

 バサッと羽ばたいて二人のハーピーが、私を持ち上げる。

 飛んでる! 飛んでる!

 内心大喜びで、離れていく地面を見送る。

 亀裂が開いた崖のところ。足場があったのでそこに降ろされた。

 亀裂の中にはたくさんの花が咲いている。リンの花だ。


「あれを摘んでもいいんですか?」

「ええ、いいわよ」

「ありがとうございます!」


 改めて許可をもらって、私はリンの花を摘んだ。


「リンの花を何に使うのかしら? えりな」

「流行り病の治療に使うそうです」

「なぁに、使うそうですって。えりなが使うんじゃないの?」

「実は頼まれたんですよ」


 私は愛想良く笑って見せた。

 いつの間にかハーピー達が上の崖に留まって、覗き込んでいる。


「アギトさん、あの竜人族の人が言ったように、私は言い伝えの『正義の女戦士』のようです。それで村の人間に頼まれて、来たんです」


 ハーピー達は、どよめいた。


「えっ……嘘でしょう?」

「本当に青い空の世界から来た言い伝えの?」


 そばにいるハーピー達が確認する。


「私が預けた剣。どうやら『正義の女戦士』である私にしか扱えないようで、事実のようです」


 まだ信じられないけれど、事実らしいからそう答えた。

 ハーピー達は、また顔を合わせる。

 それから私に顔を向けると、がばっと抱き付いてきた。


「!?」

「やぁだぁ! 本物の『女戦士』!! きっちょー!!」

「言い伝えの『女騎士』! 可愛い!!」


 二人のハーピーの翼に包まれる。もふもふだ。

 お手入れが行き届いているのか、なんだか花の香りがする。

 もふもふでくすぐったい。


「ちょっと私にも触らせて!」

「いえ、私が先よ!」

「あたしも!」


 上からも翼が伸びてきて、私はもみくちゃにされた。


「お、おやめください、お姉様方ぁ」


 ハーピー達のちやほやをやめてもらい、再び私はリンの花を袋一杯に詰め込んだ。


「これにて失礼しますね。ありがとうございました」

「もう行っちゃうの?」

「あーん、また来てくれる?」

「はい、また今度来ます」


 また来ると伝えると満足した笑みを溢して、私を地上に降ろしてくれた。

 私もまた来たい。ゆっくりおしゃべりを楽しみたいもの。


「あ、お姉ちゃん!! おかえり!」

「ただいま。リンの花一杯詰めたので早く戻りましょう」

「……待て」


 りょうたとレックスは無事だった。

 来た道を引き返そうとしたが、アギトさんに止められる。

 鋭く細められた瞳に、見つめられた。

 すると、アギトさんは私を抱き締めたのだ。

 あまりにもいきなりなことに私の時は止まった。

 じゅわりと遅れて熱く火照る顔。


「ハーピーの匂いだらけだ」

「あ。ハイ」


 またハーピー達にもみくちゃにされたから匂いがついているのだろう。

 それを消すために抱き締めているだけのこと。

 目を点にしたけれど、それでも魅力的な異性に抱き締められている事実は変わらない。胸が高鳴りそうだ。


「ちょっと! 私達の『女戦士』にドラゴンの匂いをつけないでちょうだい!」

「そうよ! 私達のものよ!」

「喧しい! お前達のものではない!」


 まだいたハーピー達からブーイングが巻き起こるが、アギトさんは吠えて追い払う。


「オレの背に乗れ。えりな。飛んで戻ろう」

「え? 飛ぶ?」


 飛ぶならさっきしたばかりだが。


「お姉ちゃん! 見て見て!」

「何?」


 離してもらえたので、私を呼ぶりょうたを見てみれば、レックスを羽交い締めにしていたりょうたがーーーー飛んだ。

 ビュウッ。

 レックスが羽ばたいて、りょうたを緑色の空へと連れていく。

 私は驚きのあまり絶句した。


「っ! りょうた降りなさい! 落ちたらどうするの!? 怪我したら痛いわよ!?」

「大丈夫だ。オレ達も行くぞ」


 身を低くしたアギトさんが、ぶわりと煙を撒き散らして巨大なドラゴンへと姿を変える。私はその背に倒れ込んだ。艶めくもふもふに埋もれた。


「しっかり掴まれ」


 アギトさんの声が告げると、白銀のドラゴンも飛んだ。

 私はしがみ付いて、強風に飛ばされないようにした。

 安定した頃に顔を上げれば、目に飛び込むのは大海原のように広がる青い森。

 サファイアのように青く輝く森が、地平線まで続いている。

 ドラゴンに乗って異世界を飛ぶ。

 夢のようなそれを経験した私は、きっとこの光景を忘れないだろう。

 目を輝かせて、息を呑み込んだ。 



 


次回で最後にします。

20181107

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