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03 青空の子達。




 カーテンの隙間から漏れる光が、目元を照らすから起きる。

 見慣れた天井があった。光から顔を背けて、寝返りを打つ。

 夢だった。ドラゴンが生まれたのも、異世界に行ったのも、サラマンダーから女の子を救ったことも、ちょっとリアルな夢だったのだ。

 なんだ。夢か。

 ちょっと残念に思って、二度寝をしようとした。

 けれども目を閉じる前に見えたものを、確認するように瞼を開く。

 寝室のクローゼットに凭れて、マントにくるまる白銀髪の青年が座って眠っていた。神々しいほど朝陽で輝く彼を見て、ぼんやりと惚ける。

 なんて美しい青年だろう。

 それが幻じゃないと理解した私は、目を真ん丸に見開いた。

 バッと飛び起きる。

 私の寝室に、夢の中に出てきた青年がいる!?

 いや、夢じゃない!?

 じゃあ、現実だったの!?

 異世界も、ドラゴンも!


「……あっ! りょうたは!?」


 弟はどこだと焦ったけれど、リビングのソファーにいた。

 いつものようにブランケットを被ってそこに眠っていたりょうたは、レックスと名付けた小さな白いドラゴンを抱いている。

 よかった。冷静になって思い出す。

 あのあと、影が虹色に輝いて、私の部屋に戻ったのだ。

 何故か青年・アギトさんもついてきた。

 運動不足なのに、駆け回って全力疾走して剣を振り回した疲れで、作り置きした料理をアギトさんとりょうたとレックスと一緒に食べたのだ。美味しい云々は覚えていない。もう休みたかったのだ。

 食べ終えたら、私はシャワーをひと浴びしてベッドに寝た。

 元々小説を書き切ったら、早寝をしている。そんな習慣をりょうたも知っているので、りょうたも就寝した。


「……あの、アギトさん?」

「ん? なんだ、朝か……。久しぶりに長い時間眠れた。伝説のタマゴを守る任に選ばれてからというもの、まともに眠れた日はなかった」

「それにしては、クマがないですね」


 そっとアギトさんに近付いて声をかける。

 目覚めたアギトさんが寝不足発言をするけれど、クマは浮き上がっていない。透き通ってしまいそうな色白の肌。間近で見れば、より美しい。


「クマ?」

「いや、なんでもないです」


 アギトさんは、クマとは縁がないようだ。

 羨ましい。美肌を保つ秘訣が異世界にあるのだろうか。

 教えてもらおう。

 いや待て。私。先に聞くことが山のようにある。


「……ちょっと待っててください」


 それよりも先に着替えなくてはいけない。

 こんな魅力的な男性の目の前でパジャマ姿。よろしくない。

 クローゼットから退いてもらい、着替えを持ったら、浴室の前の脱衣場で着替えた。キャミソールにニットのオフショルダーを合わせ、フリル付きの短パンとニーソを履く。

 癖っ毛の茶髪をポニーテールに束ねて、顔と歯を洗う。

 リビングに戻ってみれば、壁に寄りかかってアギトさんは待っていた。律儀だ。


「あ、座ってください。どうぞ」

「……」


 アギトさんはカーペットの上に腰を落とした。

 りょうたの肩を揺らして起こす。


「んぅ、もう学校の時間?」

「違うけれど、アギトさんから説明を聞こう」

「んー、うん」


 眠気たっぷりの声を出して、のっそりと起き上がったのはりょうただけではない。レックスもだ。金色の瞳がクリンとしたレックスは、前足で顔を拭う。猫か犬みたいな可愛い仕草だ。


「えっとアギトさん。改めまして、私はえりなと申します。こちらはりょうたです。それからレックスです。なんでついてきたのでしたっけ?」

「オレはドラゴンの番人、アギトだ。レックスと呼ぶ、そのドラゴンを守る番人……いわば保護者。だからついてきた」

「はぁ……」


 私はとりあえず納得をする。レックスを面倒見なくてはいけない立場にいるから、異世界へついてきた。昨日も聞いた気がするけれど、おぼろげだ。


「……異世界……いえ、ヴァルレオっていう世界は、世界から世界を移動する手段を持っているのですか? あの影が虹色に光って包む現象のことです」

「いや、あれはドクロ族と呼ばれる種族の中でも希少な能力のものだ」


 アギトさんが、首を横に振る。


「ドクロ族?」

「そうだ。君達が救った少女がドクロ族」

「え、あの子が?」


 頭に浮かぶのは、水色の長い髪をした女の子。

 無口な子で、全然話さなかったっけ。


「ドクロ族は、転移の術を身に付けている種族。普通ならば異世界へ移動することは無理だが、三百年に一度ほど、その希少な能力を持って生まれる子がいると聞いた。その子がそれだろう」


 転移の術。テレポート。トリップスキル。

 すごい種族がいるものだ。


「その子の能力でりょうたや私を……転移いえ、召喚をしたのですかね。理由は?」

「……『青空の子達』だからだろう」


 きた。

 そのワードを待っていた。


「予言の『青空の子達』ってなんですか? 女戦士とかドラゴンと繋がる少年とか……詳しく教えてもらえませんか?」

「ああ」


 アギトさんが頷く。

 後ろを見てみれば、レックスを抱き締めてうたた寝している弟がいた。

 肝心なところを聞き逃すなと、りょうたを軽く叩いて起こす。


「『青空の子達』がヴァルレオの危機を救う。千年前から語り継がれる言い伝えだ。空が青い世界で生まれ育った子達が、ヴァルレオに召喚されるとな」


 アギトさんはこう続けた。

 『心繋がる少年』

 『正義の女戦士』

 『心優しい戦士』

 『黒馬の黒騎士』


「少年は、伝説のドラゴンと心が繋がる。正義の女戦士は、正義を貫く。心優しい戦士は、優しさを注ぐ。黒馬の黒騎士は、衝動を駆ける。その昔、黄金のドラゴン、バハムートが姫に告げたのだ」

「黄金のドラゴン?」


 フッと頭に浮かんだのは、泡沫の夢のように消えた巨大な巨大なドラゴン。眩いほどの黄金色のドラゴン。


「もしかして、とても巨大なドラゴンのことですか?」

「! っまさか……見たのか!?」


 アギトさんが立ち上がって、私の肩を掴んだ。


「え、ええ、一瞬でしたが……バハムートですか?」

「……やはり、君達は間違いなく予言の『青空の子達』だ。バハムートが姿を見せることは……恐らく千年ぶり。オレでも目にしたことはない」

「そんな、あんな巨大なドラゴンを目撃していないなんて」

「……」


 アギトさんは口を閉ざした。

 その真面目な顔からして、冗談でもないらしい。

 本当にあの巨大なドラゴンを目撃した者はいないようだ。


「あのドラゴンがバハムート!? すげー!」


 りょうたは目を輝かせた。

 バハムート。ゲームでもよく聞く名だ。

 えっと確か、神様的な存在だったような。


「そのバハムートは、ヴァルレオではどんな存在なんですか?」

「世界の神として崇められている。地上の神としてベヒモスが崇められている」


 ベヒモスまでいるのか。モンスターとしてよくゲームに出てくる名。

 りょうたをチラリと見てみたが、目を輝かせたまま。

 ドラゴンもサラマンダーもいる世界だ。私はどんな存在がいると聞いても、もう驚きそうにない。実際に目にしたら、どんな反応をしてしまうかはわからないけれども。

 他にどんな生き物がいるかを尋ねたい気持ちが疼くけれど堪えた。


「あっ!! りょうたの学校の時間だ! 今朝ご飯作る!」

「うん、ありがとう。お姉ちゃん」


 もう時間が迫っていたから、慌ててカウンター向こうのキッチンに立つ。

 玉子焼きとウインナーで我慢してもらおう。ソファー前のこたつテーブルに並べる。

 文句も言わず「いただきます」とりょうたは食べた。


「アギトさんとレックスもどうぞ」

「ああ」

「キュー」


 レックスの分もウインナーを焼いたけれど、食べれるかしら。

 心配で見ていた。でも杞憂だったようで、あっさりレックスは食べ終える。満足げにお腹を前足でさすった。

 食パンを添えたアギトさんの方も、別に珍しげに見ることなく食べる。

 私は食パンとコンスープで済ませた。


「じゃありょうた、いってらっしゃい」

「んーぅ、レックス……」

「明日は休みでしょ、今日頑張って行きなさい」

「! そうだね! じゃあまたあとでね! レックス!」


 レックスを連れて行きたそうにしていたりょうたを上手く説得し、ランドセルを背負わせて学校に送り出す。ドラゴンを外に出す行くわけにはいかない。

 日本が、パニックになりかねないからね。

 レックスはドアにしがみ付き、りょうたを呼ぶように「キュウ」と悲しげに鳴く。そんなレックスを抱えて、あやしながらリビングに戻る。


「よしよし、ちょっと待っててね」

「キューゥ」


 自称保護者のアギトさんに、レックスを渡す。

 りょうたは今日一日、集中出来るだろうか。私なら高揚が治らなくて無理だ。りょうたもそうに決まっている。


「落ち着くんだ、レックス」

「ところで、何故……言葉が通じるのでしょうか?」

「? 言葉が通じるのは普通だろう」

「えっ」


 言葉が通じるのは常識だと言わんばかりに返される。

 いや、普通通じないだろう。日本語を話しているわけじゃないはず。


「ああ、人の姿をした生物はある程度成長すると魔力を持ち、意思疎通が出来る。約一歳から言葉が理解出来るし話せるものだ」

「ま、魔力! じゃあ、魔法が使えるのですかっ?」


 意思疎通で言葉が通じることよりも、魔力に食い付いた。


「魔法が使えるのは、魔法を学んだ魔法使いだけだ」


 魔法使いが存在する!

 もう興奮しないと思ったけれど、胸が高鳴ってしまう。

 魔法使いに弟子入りしたい!


「誰しもが魔力を持つとされている」

「そ、そうなんですか……」


 私は机から紙を取り出して、アギトさんから聞いた話を箇条書きにして書き留めた。


「……流石に文字は読めないが」

「え? そうなんですか……」

「ああ」


 覗いたアギトさんは文字が読めないようだ。

 考えてみればこうして異世界の人と話しているだけで、魔法が使えているようなもの。ちょっと、誇らしい。


「何を書いているんだ?」

「アギトさんが教えてくれたヴァルレオに関することです。私は小説家……」


 アギトさんの顔色を伺ってみれば、小説家というワードに首を傾げた。


「物書きなんです。このノートパソコンという道具で書いて本になるものを書いているんですよ」


 横にあったノートパソコンを見せて、照れつつ微笑む。

 小説家と名乗るのはあまりないことだから、照れてしまう。

 物書きで通じたようで、アギトさんは頷くと興味深そうにノートパソコンを見つめた。間違いなく、ヴァルレオの世界にはない代物だろう。

 そう言えば、アギトさんと二人きりになってしまった。

 ドキドキするな、私の心臓よ!

 あ、レックスがいるんだった。二人きりではない。


「こっちはテレビと言って、映像が観れるんですよ。天気予報とか国で起こった事件とか情報を得ることが出来る道具です」

「ほう、国中の情報を得ることが出来る道具……」

「まぁほとんどはゲームに使っているんですが……あ、ゲームしてみませんか?」


 またカーペットに座ってもらって、私はゲームに誘った。

 コントローラーを持たせて、説明しながらゲーム機をつける。

 りょうたが帰ってくるまでの暇つぶし。

 アギトさんは飲み込みが早くて、すぐにプレイを楽しんだ。

 レックスも動き回るテレビの画面に興味津々な様子で見つめている。

 放っておいても大丈夫だと判断した私は「私は物書きの仕事してますね」と一言断った。

「ああ」と短い返事が返ってくるだけ。アギトさんは集中してしまっている。

 ちょっとクスリと笑いそうになることを堪えて、私は椅子を引いて座った。ブルーライトカットの黒縁眼鏡をかける。

 昨日の続きを書こうとしたけれど、それより昨日の出来事が頭を過ってしまう。

 新しくページを開いて、私は昨日の出来事を書き留めることにした。

 こう気持ちが何かに急かされるように、カタカタとキーボードを叩いていく。昨日味わった興奮や驚きが、書き切れているだろうか。いや、まだ足りない。

 文才よ、舞い降りてこい!

 これはいつも思っていることだ。

 十二時を報せるチャイムが外から聞こえて、私は手を止めた。

 お昼ご飯の時間だ。

 冷蔵庫を開けて見てみたけれど、大したものはない。お米も炊いてないから、またパンで我慢してもらおう。

 レックスはパンも食べれるのだろうかと疑問に思ったけれど、もぐもぐと食べてしまった。

 アギトさんにはバターを塗ったトースト。ゲームの続きが気になって仕方なさそうに、テレビを何度も振り返った。

 またゲームに戻ってもらい、私は洗い物を済ませたら、インスタントコーヒーを片手に持ってノートパソコンと向き合う。

 数時間して、やっと昨日の出来事を書き上げた。


「んー」


 背伸びをすると、気持ちいい風が吹く。

 見てみればベランダが開いていた。ひらりと揺れるカーテン。

 開けた覚えがないそれを見つめた。いつもなら換気の習慣で開いているけれど、ドラゴンのレックスがいるから今日は開けなかったのだ。

 それでハッとする。

 アギトさんを見れば、ゲームに夢中になっていた。

 レックスの白い姿が見当たらない。


「アギトさん! レックスは!?」

「!? しまった!」


 私が声を上げれば、レックスがいなくなったと気付き、アギトさんはコントローラーを置いてベランダを出た。


「あなたはうっかりさんか!!」


 タマゴを見張っている番人なのにうっかり居眠りしてりょうたに盗られるは、保護者だと言っておきながらうっかりゲームに夢中になりすぎて逃げられるなんて!

 可愛いなもう!!

 ときめくな私の胸よ!


「外に探しに行きましょう!」


 私はアギトさんの腕を掴み、玄関へと引っ張る。

 私はパンプスを履いて、アギトさんは昨日脱いだブーツを履いた。

 二人でマンションを出るけれど、すぐにアギトさんが足を止める。

 ポカン、と空を見上げて口を開く。


「空が、青い……」


 そうか、空が青いことは珍しいのか。

 こっちは緑の空が珍しいけれども。


「美しいな……」


 私も空を見上げる。いつもと変わらない。今日は雲一つない秋の空。


「空に森があるようだ」


 アギトさんにとったら、逆の色。でもこっちの方も逆の色だ。


「見惚れている場合ではないです! レックス!」

「あ、ああ」


 レックスを探さなければ。

 誰かに飛び付いて騒ぎになっていないといいけれど。


「レックス! おいで!」

「おい、レックス!」


 私とアギトさんは青い空を見上げながら呼んだ。

 するとスンスンと鼻を鳴らしたアギトさんが「こっちだ!」と私の手を掴み走り出した。

 何、犬なのか、この人。異世界の人は嗅覚が優れているの?

 手を握られたことにドキマギしながらついていけば、青空に白い生き物が飛んでいる姿を発見した。


「レックス!」

「キィー!」

「頼むから静かに!」


 追いかけっこを楽しむような鳴き声を上げるレックス。

 この世界でドラゴンと追いかっこなんてだめだ!

 しかもここは住宅街!

 幸い道には、人がいない。でもその声で出てきたら大変だ。

 シュッと駆け出すアギトさんは、塀の上に飛び乗った。そのまま駆けるものだから、その身体能力の高さに驚く。そしてジャンプをして、レックスを捕まえようと腕を伸ばした。

 しかし、レックスは回転をして避けてしまう。

 道路の上に、アギトさんは着地をした。

 まずいまずい! このままではSNSで拡散した写真がテレビで放送される!

 そこまで悪い想像をしていたら、レックスが下の方に飛んだ。

 かと思えば、先方から来た人に飛び付いた。

 きゃあー!! と悲鳴を上げかける。


「うわぁ! レックス!」


 しかしそれはなんとりょうただった。

 レックスは、下校中のりょうたを迎えに行ったのだろうか。

 私は脱力する。でもまだ安心は出来ない。


「アギトさん、マントを貸してください!」

「これか」


 アギトさんから薄茶のマントをもらった私は、それでレックスを覆い隠した。すっぽり白い身体を隠せていることを確認して、ホッとする。


「ほら、帰ろう!」

「うんっ!」


 皆揃って私のマンションの一室に移動した。

 アギトさんは銀製の網シャツを下に着ている。結構細身だ。腕当てをしてある。

 なんて観察している場合ではないか。


「レックス、だめだよ。勝手に飛び回っちゃ。あなたを見てびっくりしちゃうわ」


 マントから顔を出させて、私は諭す。


「だめだって、レックス」

「ウキュン……」


 りょうたも言うと、“だめ”を理解したみたいにしょんぼりと俯くレックス。


「わかってくれればいいの」


 問題は本当に誰も目撃していないかどうか。

 明日SNSを確認しよう。ドラゴンでググったら出てきたりして、ゾッとした。


「あ、ゲームしてたの!? 僕もやる!」

「先ずは宿題をしなさい、りょうた」

「はーい……」


 げんなりしつつも、こたつテーブルでりょうたは宿題を始める。

 私はアギトさんにマントを返して、食料の買い出しに出掛けた。

 戻ってきたら、四人分のご飯を作ってあげる。

 夜になるまで、アギトさんとりょうたはゲームをした。

 ご飯を食べてまたゲームをするので、見ていたけれど寝る時間。


「おやすみ、お姉ちゃん、アギトさん」

「おやすみ」


 りょうたをレックスと一緒にソファーに寝かしつける。


「アギトさんも布団敷きましょうか?」

「いやオレは座ったまま眠らせてもらう」

「あーそうですか」


 私が気になるけれど、それがアギトさんのスタイルならしょうがない。

 電気を消して、私もベッドに潜る。


姉弟きょうだいなのか?」


 アギトさんから今更な質問をされた。


「ええ……急に、何故ですか?」

「いや……匂いが随分と違うから、気になってな」

「匂い?」


 本当にこの人は犬なのだろうか。


「ああ、それは多分……父親が違うからですかね」

「種違いか」

「はい。私はシングルマザーで……母親一人手で育ててもらって、私が幼い頃に結婚した相手と三人の子どもを授かったのですが、二年前にりょうたの父親が亡くなってしまいましてね……」

「そうか……気の毒に」

「……」


 りょうた達の父親とはいい関係とは言い難い。

 その言葉は飲み込んだ。


「母も働いているので、まだ小学生のりょうたは私にべったりで……でも多分父親が違うことは知らないと思います。まだ聞いてなかったと思うので」


 声をひそめる。

 ちらりと暗くなったリビングの方を見た。

 りょうたは、背を向けている。


「伝説ではあと二人いるんですよね? 『心優しい戦士』と『黒馬の黒騎士』。私達、姉弟きょうだいのことでしょうか?」

「いや……そうとも限らない。きょうだいだとは言い伝えにないからな」


 それっきり会話は途切れた。

 りょうたが聞いていたことに、気付きもせず眠ったのだ。



 

20181104

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