00 異世界・ヴァルレオ。
青い空。緑の森。それが地球。
この世界は、空が緑。森が青。
この物語は、一つの欠伸から始まる。
ヴァルレオという名の世界で、とある少女が大きく口を開けて欠伸をした。
少年の名前は、りょうた。黒髪に丸い瞳、無邪気でどこにでもいるゲームと車好きの小学生。
突然、下校していたその少年に何かが襲った。
そして、りょうたの足元が歪んだ。七色の影が。
「うわっ!?」
包み、中へと引きずり込んだ。
りょうたの姿は、帰り道の道路から、跡形もなく消えてしまった。
パシャン!
水溜りの中に、りょうたは落ちた。
「う、ん?」
そこは別世界。様々な形をしている植物は青色。空は緑色をしている。
これでもかと目を丸めて輝かせたりょうたは、立ち上がって駆け回った。
バシャンバシャン、地面から水が跳ねる。濡れるのもお構い無し。
大きなキノコも通り過ぎていけば、青い森を出た。
そこには低く飛ぶ白い雲。地面から浮き出る水玉。
幻想的なそれにりょうたは、また目を輝かせた。
「すげぇー!? 雲にのれる! うわっ水玉だぁー! うわーあースゲー!」
声を上げて駆け回るりょうたは、低く浮かぶ雲に飛び込んだ。弾むそれはふかふかのベッドのようだった。
地面から出てきた水玉が弾けて、りょうたは全身びしょ濡れだ。
そんなりょうたを見つめる同じくらいの少女がいたが、りょうたは気付かない。何故なら木の枝に座って息を潜めていたからだ。
バサバサ、不意に羽の羽ばたく音が聞こえて、顔を上げる。そこにいたのは、翼を広げる生き物が見えた。
「ど……ドラゴンだっ!! っお姉ちゃん! ドラゴンがいるよ! お姉ちゃんに見せたい!」
起き上がったりょうたは、すぐさまドラゴンと思われる生き物を追いかけていく。
バシャバシャ、と走って行くにつれて、ドラゴンを見失ったりょうたは歩く。
そして見つけた。人影を。
洞窟の横に、腰をかけた白銀髪の青年が一人。白銀の髪は短くところどころはねている。だが首の後ろの襟足の髪は長く、三つ編みに束ねられていた。マントにくるまって、眠っているようだ。
りょうたはまじまじと眠っている青年を見たが、起きなかった。不思議なことに、とんがった耳を持っている。首には十字のデザインがある首飾りをつけていた。
起こそうとしたが、それよりも洞窟が気になって足を踏み入れる。招かれるように、誘われるように、進んでいく。
「……あ」
奥の天井には、小さな穴があってそこから光が差し込んでいて、真ん中にある白い卵を照らしていた。
「(タマゴ…………ドラゴンの!?)」
その卵からドラゴンが生まれるかもしれない。そう思うと心が踊った。
りょうたは思わずそのドラゴンの卵を抱えて、外に出る。
青年を起こさないように、そっとその場を離れた。
雲が浮かぶ場所に戻ってきた途端。
「おいそこのお前!!」
声をかけられてビクリと震え上がる。振り返れば、あの青年が立って睨んでいた。
「そのタマゴをどうする気だ!? 返せ!」
「ごめんなさい!」
怒鳴ってくる青年に怯えてりょうたはすぐに謝り、返そうとした。
だがその瞬間、また七色の影が足元に広がって、りょうたを包んだ。
「っ待て!」
青年が呼び止めたが、手遅れ。
りょうたは、その世界から消えた。
「くっ……! お前か!!」
青年はスンと鼻を鳴らすと、木の上にいた少女を見付ける。
ビクンと少女は震え上がった。