8話 面接会場
魔王幹部キース=アルフレッド。ヴァンパイアの王と言われるめちゃヤバい奴……のお城にガラガラと荷台を押してやって来たレベル1の勇者ノブスケ。一度瞬殺されていると言うのに……
「ん? 扉に張り紙があるな。『第一階層の守護者募集中! 和気あいあいの楽しい職場です!』だと?」
あーモーギュスの代わりか……和気あいあいとか嘘でしょ。クビ=死だったじゃん!
ノブスケはお城の扉を少し開け、その隙間から中を覗く。私は水晶でお城の中の様子を見てみる。
何やら沢山の強そうな魔物達が居る。あ、キースにベタベタくっついてクネクネしてたあの女の姿も見える。
キースは居ないな。
「次の方どうぞ!」
女が声を張り上げている。
「うむ、俺か」
「えーではお名前と種族、レベルをお願いします」
「はい。俺の名前はゴレゴーレ。種族は岩ゴーレム。レベルは44だ、です」
「えー、ゴレゴーレさん、同じようなお城はありますが、なせ当城なんのでしょうか?」
「え? あ、はい。第一階層の守護との事で俺にも出来るかなと思ったからだ、です。はい……」
「そうですか。随分と空白期間がありますね。この間は何を?」
ん? なんかノブスケが震えているんですけど!?
「な、ななな、何が空白期間があるだ。別にいいじゃないか! 空白期間があれば犯罪者か!? ちくしょうが!」
ノブスケのトラウマスイッチがオンになったみたい……
コホン!
「ノブスケよ。今日の目的を忘れていませんか?」
「そ、そうだった。フハハ。早速準備をしなければ!」
ノブスケは落ち着きを取り戻し、お城の周りに爆裂ポーションの束を置いていく。
「一、二、三、四…………」
お城の壁伝い歩き何か測っているみたい。
「よし! ここだ」
次々とお城の周りに爆裂ポーションを置いていくノブスケ。おいまさか……
「ゆ、勇者ノブスケよ。まさか……」
「フッ。そうだ。城ごと爆破する!」
ええええええええええええ! 勇者としてどうなの!? それ!!! キース戦で使うのかなって思ってたのに! 城!?
「各爆裂ポーションの中央の一瓶だけ蓋を開けてある。そしてこのロープを強く引けば一瓶を割る事ができる仕掛けだ。一瓶割れば十分。爆発は一瞬で連鎖し、城の柱を破壊。ククク、守護者諸共討伐完了って訳だ!」
「で、でも人間の女の人も中には居るみたいよ? その人達はどうするの?」
「フフフ安心しろ。俺の計算では第一波で城は少し崩れる感じに止まる、その間に女共をチートスキルの超スピードで救出する。人命救助にはチートスキルも使うと……ゴフッ。はぁはぁ決めたからな。うぐ……」
何の葛藤だよ!?
「そして救出したのち、本命の第二波で幹部連中をあの世に送る。ククク。完璧な作戦だ! 我が愛刀『草薙カリバー』の出番はないかもな!」
いつの間にか木の枝に変な名前を付けている……
でもいい作戦かもね、二回に分けて爆破するってのは。
「よし、行くぜ! 爆破後二十秒後突入する!」
ゴクリ。
「レッツパリぃぃぃぃぃー!!!」
ノブスケはロープを思いっきり引いた。
カッと水晶が真っ白に強い光を放つ。その一瞬後にとてつもない轟音がドカーーーーンと響き、熱風と火柱がお城を包む。衝撃波が離れて起爆したノブスケを襲う。
「ふごごごごごご!!!? ぐわああああ!!?」
ノブスケが回転しながら吹っ飛んで行くのが見えた。
物凄い広範囲に黒い土煙を巻き起こし辺りが暗い。
あわわわわわ……何これぇぇ……
「の、ノブスケ生きてまーすーか? っておい! ノブスケえええ! コラ!! 第一波ヤバすぎるんですけど!?」
「ゲホゲホッ! ミスった。 第一波の爆裂ポーションが第二波の爆裂ポーションに引火してしまったようだ」
城跡形も無いんですけど……救出とか言ってなかったっけ?
面接に来ていた他の魔物達の黒焦げた死体はそこらに転がっている。あ、ゴレゴーレが……
こ、これでは、普通の人間は生きてないよ……絶対。ついに罪のない人を殺めやがった。
「まさか……ここまでとはな……人生とは上手くいかないものだ……にゃ!!? しまった! もう来たか!」
このタイミングで鳥いいいいいい!
ん? 黒煙の中お城跡地に何か動いた。
「うぐ、一体何だ? これは?」
あああああ! キース生きてるううううううう!!!!
「のぶのぶぶぶぶぶ! ノブスケさん!? 幹部生きてるんですけど!?」
「何!? 嘘だろ!?」
「もう、痛ったーーーい! 何? ああキース様ご無事ですか?」
人間の女も生きてる?? どういう事!?
「ん? お前は確か殺したはずの……」
見つかったあああ! 紙鳥さんから逃げているからだ! バカたれ!!
「フン! 地獄から舞い戻って来たぜ!」
天界からでしょ!! 地獄を見たのは私とサニー!!
「やってくれたな。人間! 我が城をここまで……クソ! 残酷な死をくれてやる!」
終わったわ……ノブスケ。幹部がガチで殺しにかかろうとしてる。今回はバスローブ姿じゃなくちゃんと鎧を着こんでいるし、紫色の刀剣を抜いてもうガチじゃん! 詰んでる。
「キャーーキース様! カッコいい! 早くあんなメガネやっちゃって! !? うぐ!? があああああああ!」
え? なんか急に苦しみ出したぞあのキースの取り巻き女!? なんか体から煙が出てるんですけど!? まさかノブスケの爆裂ポーションのせいで!? 今度こそ罪のない人をやったか!? あいつ!
「うぐ、しまった!!」
「キース様……まずいです……日が! 太陽がああ!」
あっという間にボッと火だるまになり灰になった取り巻きの女。 うっわ! 何これ!?
ノブスケはメガネをクイっと上げてドヤ顔で言う。
「フッ城内が異様に暗かったからな。もしかしたらと思ったら、どうやらベタベタな方のヴァンパイアだったようだな」
煙を上げながらキースも苦しんでいる。そっか、取り巻きの女はキースに血でも吸われてヴァンパイアになっていたのか。
「貴様……!」
黒煙が徐々に晴れて日の光が差し込んでいく。更に苦しみだすキースの顔が見える。体中から煙と火が出て手足が灰みたいになってる。
「死ぬ前に教えてくれないか? お前らのボス。魔王はどこにいる?」
「フフフ。アハハハハハゴフッゴフッ。はぁ、はぁ。知らない! この私にも……いや他の幹部連中も魔王様の行方は知らない」
手がかり無くなりました! ノブスケが凄い顔して虫の息のキースに詰め寄る。
「おい! こら! いい加減なこと言ってんなよ!」
もう胴体しかないキースの胸ぐらを掴んで恫喝してる。
「だ、だが、魔王様が居なくなる直前にこう仰っていた。「7人いる幹部全て倒されたらビビるね。そんな奴いたらちょっと見てみたいわ」と」
ノリ軽いな。これが強者の余裕なのかしら。
「ああ? じゃあなにか? 7人いる幹部連中全員倒すまで出てこないつもりか? めんどくせー」
「かもな……だが他の幹部クラスを倒す事など不可能だ。私の様な弱点など無いからな……はぁ、はぁ」
もう頭しか無いキース。こうなればもうノブスケでも簡単に倒せる。
「フン! まあいい。続きはギルドに行ってから聞こうか? 何か思い出すかもしれないからな」
そう言うとノブスケは袋を取り出してキースの頭にかぶせた。
「ふごぉ!? 何をする!?」
「ギルドまで来てもらうぞ?」
ノブスケはお買い物の帰り道のような風貌でギルドへ向けて歩き出した。