5話 厄介なドーピングアイテム
リベンジって爆裂ポーションで殺せる様な相手じゃないわ! 無理よ無理無理! まったく、一度死んでも分からないアンポンタンだわ。この女神様が教えてやるか。
「ノブスケよ。そもそも、爆裂ポーションのLサイズなんて八百本も持ち歩けないと思うのですけれど」
「台車でも買うか、借りるかして運ぶから問題ない」
「ガラガラって? そんな勇者聞いた事ないわ!」
ダメだコイツまた殺されるわ。
あーもう、こんな死にたがりの為に羞恥心にも耐え、サニーに手伝って貰ってあのえぐい量の書類を提出しなきゃいけないの? マジ後悔だわ! こんな分からずやだったとは……もう知らない! 街でも眺めよ。
私は水晶をイライラしながら触り、街を俯瞰するとノブスケから西の方角、街はずれの荒れ地に何やらモンスターに襲われている人達がいるのが見えた。やだ大変! でも女神の仕事じゃないのよね……でもでも知ってしまった以上ここで見なかった事には出来ない。あーーもう! クソメガネに向かわせよ!
「勇者ノブスケよ! 西の方角にモンスターに襲われている人達がいます! 助けるのです!」
「何!?」
弾かれたように走り出したノブスケを誘導する。街を俯瞰出来る私には近道など手に取るように分かる。
右だ左だ壁をよじ登れだのと指示してモンスターに襲われている人達のいる所へ最短ルートで誘導する。
「後はそのまま真っ直ぐです!」
そうノブスケに告げ、一足先にモンスターに襲われている人達の様子を水晶で覗く。
モンスターに襲われているのは小さい女の子とそれを庇う女騎士だった。
「お姉ちゃん……」
弱々しく、怯えながら絞り出すように言う小さい女の子。
「大丈夫お姉ちゃんが守ってあげるからね!」
そう言う女騎士だが、鎧はボロボロで、剣も折れている。そんな折れた剣をグッと構えてニョロニョロした草のモンスターを睨む。
毒々しい色をした丸い胴体に大きな口、目は無く、長くて強靭そうなトゲトゲの蔦を体の上の方からニョロニョロと動かしている。まるで巨大な植木鉢の化け物だ。
私がこんなのに出会ったら気絶するわ。
「ギギギ!」
声と言うにはあまりにも不気味な音を上げ、鞭のように蔦を地面に打ち付けて女の子達を威嚇している。
「来るなら来い! 妹だけは守ってみせる!」
そう言う女騎士の首にかけられているプレートをよく見るとBランクと書かれている。
Bランクの者をここまで追い詰められるこの魔物は相当ヤバい奴だ。始まりの街近辺の魔物にしてはやけに強くない? あの縛りプレイ野郎じゃ勝てないんじゃ?
やがてニョロニョロした草のモンスターは口を大きく開けて攻撃の体勢に入る。
もうダメだと思った時ノブスケが走って来た!
「遅い! 早く早く!」
ノブスケは走ってきたそのままの勢いで女の子達が背にしている岩を飛び越えてモンスターに飛び蹴りをかました。
数十メートル吹っ飛び爆散するモンスター。
目をまん丸にして驚いている、女の子達。
それ以上に驚いている私!!!
「ええええええ!? 縛りプレイはどうした!?」
「フン! 人命に関わる緊急事態には縛りプレイの範疇ではないらしいな。驚きだ」
自分の両手を眺めて瞠目しているノブスケ。なんだその言い草自分の体だろ!
「あ、ありがとうございます。助かりました」
小さい女の子を抱きしめながら、言う女騎士。このメガネを少し警戒している風だけど。
ああそうか、女神である私の声はノブスケにしか聞こえてないから、彼女達からしたら独り言を言いながら、モンスターを爆散させた奴に映っているのか。うん、それはキモイわ……
「もう! 門の外へは出てはいけないと言ったでしょ!」
女騎士は小さい女の子に向かって言う。
「ごめんなさい」
小さい女の子は女騎士に抱きついて泣いている。さぞかし怖かったのだろうな。
「あ、ありがと、お兄ちゃん」
女騎士の陰に隠れながらに小さい女の子がノブスケに言う。
「はぅ! お、お安い御用だ」
口元を抑えてプルプル震えているノブスケ。コイツ、さてはお兄ちゃん呼びに感動してやがるな。
……これは天罰だ!
喰らえ!!
タライをノブスケの頭に落とすがサッと横にずれて交わされた。
「貴方は何者なのですか? ジャイアントプラントを一撃で倒すなど」
「ただの通りすがりの勇者だ。勇者ノブスケ」
「勇者ノブ……」
緊張の糸が切れたかのように、女騎士はバタンと倒れた。
見れば、何かの毒にでもやられているようで毒っぽいアザが身体中に出ている。こりゃえらいこっちゃ!
「な!? おい! 大丈夫か! おい!」
「お姉ちゃん!」
大変大変! どうしましょう! どどうしましょう!
私は慌てて水晶を操作して街を俯瞰する。毒なら一刻を争う。
毒や怪我人を治す所……治す所……あ! 教会があった! 確かこの世界の教会は回復魔法が使える人達が常駐している所だったはず。
教会の場所は街の東。この荒れ地の反対側だ。
「勇者ノブスケよ! 教会に連れて行くのです!」
「わかった!」
小さい女の子を後ろに担ぎ、女騎士をお姫様抱っこしてノブスケは走り出した。
右だ左だ急げアンポンタンと言いながら私はノブスケを教会まで親切丁寧に案内する。
普通女神はここまでやらないからね?
ノブスケは教会の扉を蹴り破り転がり込む。
教会の中はやたらと豪華でシャンデリアやら、謎の絵画、成金が好みそうな趣味の悪い椅子があった。よくある教会をゴージャスにした感じだ。
え? 入る所間違えてない? と言いそうになる。
「おー死んでしまうとは情けない!」
教会に着くや否や。金ピカの品々を身に纏っている神父は女騎士を見て言う。
それを聞いて小さい女の子は泣き出しそうなる。
「よく見ろ! まだ死んでないだろ!」
「ホンマやな。せやかて、このセリフ言う決まりになってるんや。ふむふむこれは毒やな。ほい『フルキュワワ』」
神父の回復魔法で女騎士の全ての怪我が跡形もなく治って行く。毒も綺麗に消えたみたいアザが引いていく。人間にしてはまあまあな回復魔法ね。
「う、私は……」
「お、お姉ちゃん!」
「アルエ。ここは? きゃ! あの、もう下ろしてもらっても?」
お姫様抱っこをし続けるノブスケに顔を赤くしながら言う女騎士。
「ああ、すまん」
「あのね、ノブスケお兄ちゃんが頑張って走って助けてくれたんだよ。びゅーんってすごい速かったよ」
「そうか。本当に何とお礼を言ったら」
妹の頭を撫でてノブスケに向き直る女騎士。
「ほな、フルキュワワ代、百六十万ルーナの所、今月キャンペーン中で八十万ルーナになりますねん! ローンも組めまっせ!」
空気の読めない神父がお金を請求してきた。
凄い! 半額じゃない! って高すぎるわ!
「一括で」
クリスタルにプレートをかざして普通に払うノブスケ。金銭感覚バクってるのかな? って当たり前か、魔剣売ったお金が後九億二千万ルーナ程あるもんね。
「毎度! 儲かってまんなー」
「「「ぼちぼちでんがな!」」」
神父の掛け声で周りのシスター達が唱和する。どこがぼちぼちなんだ! ぼろ儲けでしょ!? 客の足元見やがって! 女神の天罰でも与えてやろうか!
「あ、あのお金まで、私払いますから!」
慌ててノブスケに言う女騎士だか、女騎士が払える金額とは思えない。ノブスケは必要ないと首を横に振る。
「で、でもそんな高い金額を払ってもらう訳にはいきません!」
「いや別にいい。金ならいくらでもあるんだ」
そうね九億ほど……
「いやダメです! 少しずつでも必ず返しますから!」
払う、要らないというお金のやり取りを小難しそうに聞いている妹アルエ。
おーい子供の前だぞー。
「分かった。返すのはいつでもいい」
ノブスケの方が折れたみたい。
「ありがとうございます」
胸に手を当ててほっとした表情を浮かべている女騎士。
ま、そうね。後でどんな事言われるか分かったもんじゃないものね。こんな高い金を払ってやったんだぜ? ぐへへというのが簡単に想像できるわ。
「あ、そうだ。私の自己紹介がまだでしたね。私はアリスです。西の門兵をしています。ランクはBです。レベルは23」
門兵って、東門を通って魔王幹部のキースの城に行く時、なんだコイツこんな軽装備で外を彷徨く気か? ってノブスケを見てた、鎧を着たかっちりした人達だよね。
確か、街にモンスターが入って来ないように戦う人達……だったかな。
「門兵か、東西南北の門にそれぞれ居る人達だろ?」
「そうだよ! えりーと、ってやつだよ」
ノブスケの足元でぴょこぴょこ跳ねて教えてくれている妹アルエ。かわええ……。
「こ、こら! アルエ!」
えへへと無邪気に笑っているアルエ。
和むわー。お茶が進む。ずるずる。
「あのジャイアントプラントを一撃で倒せるノブスケさんは一体何レベルくらいなのですか?」
いつの間にか教会の人から出されたお茶を飲みながら、アリスは言った。
大丈夫だろうかそのお茶。後でぼったくられそう……
「俺はレベル1だ。ランクはF」
「ハハ、またまたご冗談を……ってええええ!?」
見せられたプレートを見て目をまん丸にしている女騎士のアリス。
「ど、どうして? レベル1でジャイアントプラントを倒せるのですか!?」
「たまたまだ。アリスが弱らせていたからだろう?」
「そう……でしょうか?」
チートスキル全部乗せで思いっきりキックしたからだよ。私があげたスキルってめっちゃ強いからね?
ツンツンとローブを引っ張りノブスケを呼ぶアルエ。
「お兄ちゃん。ホントにありがと。お姉ちゃんを助けてくれて。お礼におまじないしてあげる!」
小さい女の子アルエがそう言ってポッケから折り紙を取り出して教会の椅子を机代わりにして何やら折り始める。
ノブスケは微笑みながら見守る。
ふふ小さい子が頑張って折り紙しているのは萌えるわねー
「出来たよ! ほら幸運の紙で出来た紙鳥さんだよ!」
アルエの手元にパタパタと紙で出来た、精巧な小さい鳥が羽ばたいている。
何これすご!
想像を超えたものが出来上がって目を丸くするノブスケ。
「この紙鳥さんがね、止まった人にね、幸運をもたらすの! お姉ちゃんに教わったんだー」
「ふふ、簡単な動物模倣魔法を教えたんです」
動物模倣魔法? 名前の通り動物の能力を真似する魔法かな?
「なるほど、つまりバフ系の魔法か。アルエはすごいな」
バフ系魔法。ステータスを一時的にアップする魔法よね。でもこれは……違うような?
「紙は運が少し上がるだけのアイテム見たいなんですけど。ノブスケさん受け取ってやってください。触れれば紙鳥さんは溶けて消えますから」
「さあ、行って! ノブスケお兄ちゃんに幸運を」
紙鳥はパタパタと羽ばたいてゆっくりとノブスケの方へ向かう。
ノブスケは紙鳥さんを迎える為腕を出した。
「ん? まてアイテム? まさかこれは! ドーピング系アイテムか!?」
ノブスケは腕を出していた腕を引き紙鳥さんを身を屈めてかわす。
ドーピング系アイテムって俗にいうレベルアップなしにステータスを永続的に上げるアイテムの事よね。
レベル最大の人が更なる強さを求めて使うやつ……あ。
「あ、えっと。紙鳥さんを止まらせてあげないと幸運を貰えないよ!?」
紙鳥はパタパタ羽ばたいてノブスケを追うがノブスケは教会内を縦横無尽に動き回り回避する。
おい。コイツまさか。
「あ、ありがとう。アルエ。これは大切にするよ。触れて壊すのはもったいないだけだ」
間違いないコイツ絶賛縛りプレイ中だああああ!
「え? お兄ちゃん?」
アリスと逃げ回るノブスケを交互に見ながら、困惑するアルエ。
「あの、ノブスケさん? その紙鳥に危険は無いのですけど」
「ああ分かっている。別に受け取りたくないわけじゃないんだ。嬉しい。これは最高の贈り物だ。本当に嬉しいぞ! ありがとうアルエ!」
あまりに嬉々としているので何も言えないアルエ。
「うん。喜んでもらえて嬉しいよ……」
紙鳥さんをかわしながら教会を飛び出すノブスケは振り返って。
「それじゃあ、アリスも元気になった事だし俺は行く! またな」
パタパタとノブスケの後を追う紙鳥さん。
「え? あ。本当にありがとうございましたあああ!」
「あ、ありがとう。お兄ちゃん!」
自身に課したルール、縛りプレイを守るために新たな縛りプレイが追加された瞬間だった。
「いい加減縛りプレイとかいうのやめろおおおおお!!!」
現在の縛り
レベルアップ無し
スキル使用無し
魔法使用無し
防具なし
武器木の枝のみ
紙鳥さんから逃げる ←NEW