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2話 魔王幹部討伐クエスト



魔剣を売って得た豊富な資金で最高級の部屋に泊まり、グースカ寝たかと思ったら、泊まった宿屋の一階にあるバーで朝から一杯やり始める勇者ノブスケ。


「マスター。ドラゴンスクリュードライバーを」


 また随分とややこしいお酒を注文して何やらシブい顔をしている。昨日自分のやった、魔剣を売り払うというバカな事に今更ながら気がついたのかな。


「どうぞ」

 ダンディなマスターがカシャカシャやって作ったお酒が出てきた。ノブスケはグラスを時折傾けながらちびちび飲んでる。私は朝から何を見せられているのだろう?

 いい加減痺れを切らして、私は水晶をぺちぺち叩いて操作し、呼びかけOKモードにする。ノブスケに嫌味の一つでも言ってやろうというわけだ。


「勇者ノブスケよ。朝からお酒とは随分と余裕ですね。もっと他にやるべき事があるのではないですか?」


 フッ。と鼻で笑われた! 女神のこの私があああ?!?

 するとカランコロンと、宿屋に誰かがやって来た。私には程遠いけどそこそこ美人な大人の女性だ。長い黒髪と赤いドレスが似合っていて、ボンキュボンでそこそこセクシーだ。私程ではないが。

 一つ椅子を離してその女がノブスケの横に座った。


「マスター、私も彼と同じのを」

「頼んだ例の物は用意出来たか?」

 ハードボイルドを気取っている見たいにやたらとシブく言うノブスケ。バーの雰囲気とお酒で頭でもイかれたのかしら?


「ええ、苦労したわ」


 すると小さくて持ちづらそうなカバンから、袋を取り出して、ノブスケの方に滑らせる。袋の中身をチラッと確認して、ノブスケは懐からお金の入っているであろう袋を取り出して、女の方へ滑らせた。


「いいの? 身に着けて効果を確かめて見なくて?」

 女が袋に手を置きながらノブスケの横顔をうかがう。


「ああ、いい。見れば分かる。それに俺はお前を信頼している」


 フフッと女が笑い。グラスに口をつける。ほぅ?まあまあセクシーじゃん?

真似して私も湯のみに口をつけてみる。

「あち! あち! ふぅー私の勝ちだな」


「俺はそろそろ行くぜ」

 そう言って、ドラゴンスクリュードライバーを一気に流し込み。席を立つ。


「毎度。また何かあったら、よろしくね」

「ああ」


 机に数枚の金貨を置き、カランコロンと宿屋のバーを後にするノブスケ。気になる。一体何を取り引きしたの? ていうか、いつの間に知り合った!? あの女と!! ダメだ気になり過ぎる!


 私は水晶を使って天界から話しかける事にした。

「勇者ノブスケよ。その袋は何ですか? あまり感心しないですよ? その……前途多難の旅路だからと言って悪事に手を染めるなど!」


 街行く勇者ノブスケは立ち止まって袋から小さい箱を取り出して開けて見せた。中には赤い宝石があしらわれた指輪が入っていた。


「な、ななな、指輪!? 手が早すぎない!? 前世ニートでしょ? ほんのちょっと目を離した隙に!!?」

 あまりの事に水晶を覗き込み過ぎておでこと水晶がごっつんこしてしまった。痛い……


「何を勘違いしている? これは魔力や、スキルを封じるマジックアイテムだ。なかなか高い買い物だったな」


 指輪を右手中指につけて、天にかざしながら言うノブスケ。


「あーなーんだ! マジックアイテムか……いやいや! 封じるなあああああ!」


「さてと魔王の幹部がいる城があるらしいじゃないか」

 懐から魔王幹部討伐クエストの紙を取り出しノブスケはニヤリと笑う。


 昨日行ったギルドでかっぱらってきたのか。


「魔王の行方は分からないって話だったからな、当然魔王討伐のクエストは無かった。だが魔王の幹部とやらのクエストならあった。ならばどこに魔王が居るのかコイツに聞こうと思う」

 そう言ってクエストの紙をぺしぺし叩く。


「ついでに幹部も倒してくれば一石二鳥だ」


「でも魔王の幹部討伐クエストはまだあなたのランクじゃまだ受けられないはずでしょ?」

ノブスケのランクはFランク魔王幹部討伐クエストが受けられるのは最高ランクのSSSランクからって昨日受付のお姉さんが言ってたはず。


「ここに直接行けば関係ない。それに幹部の首でも持ち帰れば一気にランクも上がるだろう?」


 自信たっぷりで世迷いごとを言っているノブスケ。

 レベル1で、防具無し、武器木の枝、魔力、チートスキルを封じて魔王の幹部を倒しに行く? あははは! 自殺志願者かよ!


「勇者ノブスケよ。この世界も死んだら終わりですよ? 分かっていますか?」


「分かっている」

 いや! コイツは何も分かってねーー!




 街から西へ少し行った所に古びた城があった。クエストの紙に書かれた情報通りだ。


「フン。ここが魔王の幹部の城か」


「ゆ、勇者ノブスケ! やっぱり無理だよ!? もっと準備してさ? それから挑んだ方がいいよ!?」

 女神だからこそ分かる。この城に居る奴はヤバい。半端ない魔力が溢れているのが水晶越しにも分かる。思わず水晶を握りしめて言うが。


「たのもー!」


聞いちゃいない!


城の巨大な扉を開け放ち叫ぶ。薄暗い広間の奥に何かいる。


「おう? なんだお前? ここがどこだか分かってんのか?」


 巨大な二本のツノにノブスケの何倍もの大きな体、二足歩行する牛型モンスターだ。筋肉隆々でデカイ斧を持っている。一歩踏み出す度にドスンと石畳みの城内を踏み鳴らす。


「『女神アナライズ』」

私はこのモンスターのステータスとレベルを水晶越しに調べてみると……


名モーギュス レベル48

HP8956

力9650

防御6543

素早さ 3021

魔力 1054 

運 890

スキル 斧乱舞

好きな食べ物 干し草。

趣味 筋トレ。


 あわわわわわ。つ、強すぎいいい! たぶんノブスケのステータスの軽く十倍以上はあるはずだ! つ、伝えなきゃ!


「ノブスケ! 逃げなさい! 今のあなたでは絶対に勝てない相手よ!」


 私の忠告をガン無視で、木の枝を構えるノブスケ。


「お前が魔王の幹部か?」


「幹部? ふ、ふはははははは! 俺様は幹部ではない! 第一階を守護する。モーギュス様だ!」


 な!? 嘘でしょ!? このステータスで幹部じゃない!?


「そうか。ならば、体力を温存して戦うか」


 そう呟いたのが、モーギュスにも聞こえたようだ。


「モウ? お前この俺様を相手に温存すると言ったのか? そんなふざけた木の枝を構えて? フハハハ! 舐めるなあああ!!!!」


 怒号が部屋全体に響き渡り空気を揺らす。

 ごめんなさいごめんなさい! この子頭おかしいんです!


 モーギュスは怒りのままにスキルを使用した。


「『斧乱舞』」


 巨大な斧から繰り出されたとは思えない程の凄まじい速さの連続攻撃だ。一瞬で轟音と土煙が上がる。


「ふん! 舐めたガキだったな。跡形もない!」


 満足そうに言うモーギュス。ノブスケがさっきまで立っていた場所がバキバキのぐしゃぐしゃで大変な事になっている。


「そんな、ノブスケは……」




「あぶねー! 初見殺しかよ。死ぬかと思った」


 ノブスケはモーギュスの足首に抱きついている! そうか! スキル使用の一瞬の隙をついて後ろに引くのじゃなく、前に走ったんだ! ホント頭オカシイ! だけど、その頭のおかしさで何とか助かった。


「チッ! まぐれは続かねーぞ!」


 足を蹴り上げノブスケを吹っ飛ばす。吹っ飛ばされたそのままの勢いでクルンとメガネを抑えながらバク宙してスタイリッシュに降り立った。

 そうだ。身体能力向上もあったんだった!


「チッ、なんだ今の動きは!? いらん! 後で封じる術を探さなければ!」


 自分の驚異的な身体能力に苛立つノブスケに思わず。

「バカチン! 身体能力は残しなさい! マジで!」

 と怒鳴ってしまった。私は女神だと言うのに。私は女神……私は女神……


モーという叫び声が水晶から聞こえてきた。見ると斧をクルクル回してノブスケに近づくモーギュス。


「テメー如きにスキル何ていらん! 純粋なパワーとこの斧で殺してやる!」


 怒り心頭といった感じのモーギュス。スキル斧乱舞程ではないが、それでも凄まじい速さと威力の斧を振るう。

 ノブスケはそれをギリギリで交わしている。その合間合間に木の枝をモーギュスの右足首に打ち込んでいく。


「チョロチョロと鬱陶しい! 死ね!」



「ああ危ない! きゃーー! 避けてー!」

 などとハラハラする事数十分。


 慣れた。うん。慣れちゃった。


「うーんまだしばらくかかるかな? おやつでも取ってこよっと」


 爆煙と怒号、斧が空を切る音をもうかれこれ一時間くらい聞いたかな。


「うお! ふん! モウ!」


 部屋の石畳みを斧が粉砕する音が響く。煙りで戦いが見え辛いが、耳をすませれば小さくぺち! と音が聞こえる気がする。


「はぁーいつまでやってんだろ? スキル使えばいいじゃん」


 すると、ついに音が鳴り止み、うめき声が聞こえる。


「うぉおぉ……おのれぇ!!」


 モーギュスが右足首を抑えて膝まついている。


 まさか!? 私は水晶を覗き込み土煙が立ち込める中、何が起きたのかを把握しようと努める。


「はぁ、はぁ、はぁ、しんどい!」


 土煙の中、汗だくで息を切らすノブスケの姿が見えた。木の枝も葉っぱが完全に無くなり、余計な枝も無く、まるで木刀か如く変形している。


「貴様! 同じ所を何度も何度おおお! 性格が悪いぞおおお!」

 右足首を痛そうに抑えながらノブスケを指差して言った。


「バカ言え! 木の枝でお前を倒すにはこれしかないだろうが!」

 ピシッと木の枝をモーギュスに向けて言い返すノブスケ。


「剣とか使えばいいだろう!?」


 その通りです。もっと言ってやって!

 

 苦しそうにぐぉーと言い右足首を抑えて痛がっているモーギュス。まさか本当にチートスキル無し、魔法も無し、レベル1、防具無し、武器木の枝で勝っちゃった? レベル差47に!




「何やら騒がしいと思って来てみたら、何て無様な姿だ。モーギュス」



 途端に辺りの空気が冷たく変わった。


 モーギュスが怯えた表情になり振り返るその視線の先を私も見ると、バスローブを身につけ、顔色の悪いイケメンの男がワイングラス片手に広間の奥にある階段を降りて来た。

 その男にまとわりつくように人間の女達の姿もある。あからさまに、私の男凄いでしょ? オーラが何だかムカつく。


「き、キース様。こ、これは無様な姿をお見せして申し訳ありません今すぐ、この侵入者を消しますので!」

慌てて立ち上がろうとするモーギュスだか、上手く立てない。


「もう良い。雑魚は消えろ! 『フルドレイン』」


 イケメンの男がめんどくさそうに片手を振ると、赤い煙のような光がモーギュスを包み込んだ。


「うがあぁああぁああ!」


 モーギュスはあっという間に干からびて地面に伏した。


「うそ!? あのモーギュスを一撃で!?」


 キース……まさか! 私はろくに読んでない異世界マニュアル本を引っ張り出しペラペラめくってみる。『異世界へ観光に行くなら避けよう! 異世界ヤバい奴リスト!』にでかでか乗っている男ヴァンパイアの王キース=アルフレッドと水晶に映し出されている男を見比べる。間違いない! 魔王の幹部はヴァンパイアの王キース=アルフレッドだったんだ! まずい! ノブスケが死ぬ!


「ノブスケ!逃げ……」


 と呼びかけた時には、ノブスケは干からびて地面に転がっていた。




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