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1話 勇者の奇行

やけに物分かりのいい青年だったなぁ

 まあ例え、泣き喚いたり、質問をやたらとぶつけられたとしても、問答無用で異世界へ放り込むんだけども


 私はせんべいを頬張り、また一人ニートを勇者にして異世界へ送り込んだという達成感と充実感に浸る。


「ククク、今日もニートを異世界に送り込んでやった。あたしって働き者だなぁ」


神々しくそれでいてチャーミングな女神の椅子に座りながらクルクル回って遊ぶ。が、まだやる事があった。


「そうだった。最初は少し天界から助言してやらなきゃいけないのよねー

あーめんどくさい。どうせチート持ってるからって油断して魔物に殺されるか。街から出ずにグータラして天命を全うするかするだけの連中だけど規則だから一応見なきゃねー」


 私は水晶を取り出しす。

「テレレー! この水晶は下界を覗けたり声を届けたり出来る、女神の凄いアイテムなのだ!」


 私は丸い水晶を覗き込み、さっき送った男を探す。

 異世界へ転生させる時に自動的に服装はローブを身につけさせられる。


 確か色はランダムだったっけ? はぁーこの謎システムのせいで送り込んだ転生者を探すのに苦労する。服装じゃ探せないし、まぁ、最初の街にいる事は間違いないのだけれども。あ、そうだ。確かメガネをかけていたんじゃない?



「メガネ、メガネ、メガネ あ! いた!」


 街を歩いている。資料の写真と同じ顔間違いない。


 メガネ男子ノブスケは茶色のローブを着て、魔剣ダークエクスカリバーを背中に挿している。


「まあまあ似合っているけど、勇者って感じじゃないわね」


 するとノブスケは店の前で立ち止まり、店内へ入って行った。


「お! 意外と飲み込み早いな早速装備屋さんに入ったのね。ま、武器は最強だし、防具でも買うのか。デフォルトのローブに防御力は無いしね。あれれ? 待てよ。そういえばお金渡してないや。お金も無く装備屋さんに何しに?」


 顎に手を当てて考えてみる。


「あーそっか! 異世界転生したばかりで混乱しているんだな」


 私は水晶を軽く撫でて、天界からの声を届けられるようにした。


 コホンと咳払いを一つ。


ククク、仕方ないな。私の的確かつ完璧なアドバイスを聞き女神の有難さにむせび泣くがいい! などと思いながら呼びかける。



「勇者ノブスケよ。聞こえますか? あなたはまだお金を持っていないようですね。まずはギルドへ行くと良いですよ」


 はい! 百点のアドバイスゥ!


 女神である私の美し過ぎる声が聞こえてびっくりしているようすのノブスケだ、店内をキョロキョロしている。


 頭に直接語りかけているから、ノブスケ以外には私の声は聞こえない。


 するとノブスケの声が返って来た。

「この声は女神様か。なるほど、ギルドか……だか金の方なら大丈夫だ。今作った」


 ん? 転生開始まだ30分も経ってないはずなのにもうお金を作ったの? どうやって?

 そう思って店から出てきた勇者ノブスケをよく見てみると、魔剣ダークエクスカリバーが無い!


「ちょ! ええええ!? 魔剣はどうしたのよ!?」


 ノブスケはパンパンに膨らんだ袋を空に掲げて言う。


「売った!」


 バカなの!?その袋の中全部お金!? わなわな震える手をぎゅっと握って、女神らしさを保つためいったん深呼吸して言う。


「勇者ノブスケよ。魔剣を今すぐ買い戻しなさい。アレが無いと魔王を倒す事が大変難しくなります」


 そう言うと、ノブスケはニヤリと笑いながらメガネを掛け直し。


「それは楽しみだ!」


 と言った。


 な、何を考えているのかわからない。


「女神様、俺は縛りプレイで魔王を倒す予定だから、お構いなく。それでは」


 律儀に空に向かってお辞儀をして、歩き出すノブスケを呆然と眺める私。え?縛りプレイって?何?


「ちょ! あなた! あんまり舐めてかかるとすぐ死んじゃうんだからね! この世界はとーーーても!危険な世界なのよ! ちょ、聞いてるの!?」


 いかん! 女神らしさが崩れてしまう。

 この女神である私を軽く無視してスタスタ歩く勇者ノブスケの姿を水晶越しに睨む。


 ふん! こ、これは見ものね、舐めた態度でどこまでやれるか見てやろうじゃない! 普段は適当に異世界へ放り込んだらノータッチな私だけど。コイツの最後を見て見たくなった。絶対そのうち泣きながらごめんなさい女神様助けてくださいと言って女神である私にすがりついてくるわ!


 私は少し乱暴に水晶を操作して街を見渡す。

 ふーん、行き先はギルドね。アドバイスは一応聞こえてたか。




 街の大通りを行くノブスケ。

 石畳みの道にレンガや木造の建物。流れる川に架かる橋。異世界、お約束の中世風の街というやつだ。

行き交う人々の中には獣の耳や尻尾のある獣人族や二足歩行のトカゲのような人リザードマン、身長三十センチも無い小人族など様々な人種の人々がいる。


「随分とこの街は繁栄しているんだな。魔王は何をやってるんだ?」


 辺りを物珍しいそうに見渡しながらそう呟くノブスケ。


 女神のお仕事の範疇じゃない気がするけど、これくらい答えてやるか。

 私はお茶を一口飲み、喉を潤してから水晶に女神ボイスで語りかける。


「魔王の城から遠い所の街だからってのもありますが、魔王討伐を辞めて俺TUEEEな人生を謳歌しているチート持ちの転生者が多い街なので魔王軍も簡単には攻められないのでしょう。もう随分長い間ここに魔王軍が攻めて来た話は無いのです」


 完璧な説明をして椅子の背もたれに羽根のように軽い体重を預けて踏ん反り返る私。


「なるほどな。でもなぜ転生者は魔王討伐を辞めたんだ?」


 随分と気軽にこの女神様に話しかけるな。まあいい。


「辞めたというより行き詰ったって感じです」

「行き詰った?」


「突如魔王が消えたのです。魔王の幹部達だけを残して。長い間、魔王の居場所を掴めない事により転生者達から『魔王とかどこにも居なくね?』や『もういいや! 魔王なんて他のチート持ちの人が適当に探し出して倒すでしょ!』って言う感じの空気が漂ってしまっているのです。まぁ、別に魔王を倒したからって女神からはご褒美も無いですしね」


「フン! チート持ちを送り過ぎて転生者がだらけたってだけか。杜撰ずさんな仕事だな。ちゃんと仕事したらどうだ?」


 は? はぁーーーー? 確かにちょっとチート持ちを送り込み過ぎたかな? とは思うけど、ちゃんと仕事しろなんて元ニートに言われたくないわ! と思ったけど、反論したら女神らしさが崩れかねないから、聞かなかった事にして無視した。





 が、やっぱりイライラしてノブスケの頭にタライを落とす事にした。


 くらえ!天罰!


 狙いを定めて、水晶をぺちんと叩きタライをノブスケの頭上に投下した。が、ヒョイッとかわされて空を睨んでくるノブスケ。


 ぐぎぎ! なんで交わせるのよ!



 しばらく歩いてノブスケはギルドに着いたようだ。


「プレートの更新受付はこちらでーす! 新規のお客様はこちらからになりまーーす!」


受付のお姉さんが手を挙げて呼びかけている。ノブスケはギルドに着くや行列に並び出した。

やがてノブスケの番になり、ピンク色の制服を着た受付のお姉さんと話し出す。


「希望職はありますか?」

「勇者で」

「はい勇者ですね。ではこちらのエントリーシートに名前をご記入いただきあちらの受付へ」


 エントリーシートを受け取ったノブスケは少しキョロキョロし空いてるスタンディングデスクへ行き名前を記入する。

 自分の書く文字が異世界文字になるのに少し驚いて、おおと小さく声を漏らしている。異世界に送り込む最低限の特典として異世界語を習得させていたのだ。女神である私の仕事は完璧なのだ。


「次の方どうぞ! はい新規プレート作成のノブスケさまですね。受理されました。こちらのFランクのプレートを持ち歩いて下さい。ギルドでこちらのプレートと受けたいクエスト用紙を見せランクに見合ったクエストなら受けられますので」


 そう言って渡されたプレートを、首に掛けるノブスケ。まーこれで駆け出しの勇者に正式になったのか。


「ランクはクエストをこなしていけば上がります。最高ランクのSSSランクにもなれば、様々なサービスが受けられます。例えば飲食や、宿代が無料だったり、武器防具やアイテムの価格が安くなったりします。と言うのも魔王の幹部や魔王の討伐クエストを許可されているのがSSSランクの方のみなので、我々ギルドとしても協力は惜しまないという訳です」


「ふむなるほど、魔王関連のクエストを受けるにはランクSSSにしなければいけないのか。面倒だな」


 この異世界ではランクと言うのが存在する。そして誰しも最初はランクFのプレートだ。まぁ、魔剣を捨てたとは言え数々のチート級のスキルがあるし、ステータスもレベル1とはいえ、かなり高めに設定している。今現在でもランクAくらいの実力は優にあるし、すぐにランクは上がるだろうな。



 説明の最後に小声で受付のお姉さんが言う。

「あ、それと魔王の幹部や魔王にかかった懸賞金は莫大ですよ? ふふふ、頑張ってくださいね」




「勇者ノブスケだ。クエスト持ってきた」

 ノブスケは掲示板に貼られていたクエストを剥がし、緑の制服を着た受付のお姉さんへ持って行ったみたい。


「難易度F。スライム大量発生の駆除クエストですね。受理されました」


 なるほどね。まず簡単かつ効率の良さそうなスライム大量発生の駆除クエストでレベル上げってわけね。チート能力の数々を適当にくれてやったわけだしソードマスターや拳闘スキルに、他にも色々試運転するのに悪くないチョイスなんじゃないかしら。



「一つ質問していいか? モンスターを倒せば、その、レベルとか上がるのか?」


 あらま! 変な事言うノブスケだ事。あったりまえじゃない! とたぶんあの緑の制服を着た受付のお姉さんも思っているはず。


「はい、モンスターを倒しましたら、経験値がそちらのプレートに貯まります貯まった経験値をご自身に還元するにはあちらのクリスタルへプレートをかざして頂くと事になります」


 巨大なクリスタルがギルドの真ん中に置いてある。

 あれね、私も触ってみたい。


「ふむ、あのクリスタルにこのプレートをかざせば、貯まった経験値分レベルが上がるわけか」


「はい! レベルが上がれば上がるほど、必要経験値を多くなり、レベルが上がりづらくなります。プレートに貯められる経験値に上限はありませんがこまめにご自身に還元する事をお勧めします。他に質問はありますか?」


 こんな質問にも笑顔で答える緑の制服の受付のお姉さん。私もこれくらいの愛嬌が必要かもなぁ。


「いや、ありがとう。クエスト行ってくる」


 軽く会釈してギルドを出て行くノブスケ。受付のお姉さんにご武運をと、笑顔で見送られている。



 クエストの場所は森の中だ。木々の合間から水色のスライム達がうようようごめいている。

 ノブスケはクエストの場所に着くなり。木の枝を探して拾い、ブンブンと木の枝を試し振りしたかと思ったら、奇声を上げながらスライムの群れに突撃して行った。


「キェーーホホーゥホーーー!!!」


 初めての異世界での戦闘でテンションが壊れたのかしら?ドン引きだわ……


 スライムに木の枝でぺちぺち叩くがダメージの入りがあまり良くない。当たり前だ。木の枝ではソードマスターのスキルも使えないし、拳闘スキルも使えない。木の枝なんかを使うより拳闘スキルのある拳を使った方が一億倍強い。あ、そっか彼は自分のチートスキルを把握していないんだった。仕方ないここは女神の助言でもくれてやろう。


 ん、んと喉をならして水晶をポンと叩き、呼びかけOKモードにしてから下界でウホウホ言っているノブスケに呼びかける。


「勇者ノブスケよ。拳で戦いなさい。もしくは、今すぐ剣を買ってきて剣で戦いなさい。そうすればチートスキルが使えるわ。さすがに木の枝では厳しいでしょう?」

 女神ボイスで有り難い啓示をくれてやるが、それどころじゃないっといった感じのノブスケだ。

 スライム達が次々とノブスケに体当たりしている。

 数が多いとは言えスライムごときに大苦戦する勇者ノブスケ。


「はぁ、はぁ、女神様。大丈夫だ。この木の枝最高だ。キェーーイヤオウオウ!」


「いや!? キェーーじゃなくて! ねぇ!? なんで!?」



 奇声を上げながら一心不乱に木の枝を振るいボロボロになりながらも何とかスライム数十体をほふり、ギルドへ戻って行く。ギルドに着いた頃にはもう辺りは夕方になっていた。



「お、お疲れ様です。乱入モンスターでも現れたのですか?」


 そりゃ心配されるわ! 数が多いとは言えスライム如きに何時間かけてんだ。

 

「いや、ただの縛りプレイだ」

 メガネをクイっと上げるノブスケ。

 意味分からんと言った感じでコイツを好奇の目で見ながら、報酬を渡す受付のお姉さん。


「で、ではこちらが報酬の250ルーナです」


 お金の価値は日本円と大体同じくらいの価値だ。女神である私の名前がお金の単位になっている。ふふまったく可愛い連中め。


報酬のお金を受け取り

会釈してギルドを出ようとするノブスケを私は慌てて呼び止める。


「ゆ、勇者ノブスケよ!? 水晶にプレートをかざすのを忘れていますよ。レベルを上げましょう」


 女神である私の言葉を無視してギルドを出て何やら街を見渡すノブスケ


「ちょいちょいちょい! 聞こえてるでしょ? レベル! レベル上げ無いとだよ!」


 ため息が聞こえた。


「女神様。俺は縛りプレイ中なんだ。レベル何て上げない」


「え? じゃあ何でクエスト受けたの? お金も魔剣を売ってたくさん持っているのに」


「どれほど動けるのかと、戦う事への恐怖を断ち切る為さ」


 あの奇声は恐怖心と戦っていたのか。


「それより今日はもう疲れた。宿を探して寝る」


え? 待って? 魔剣も早々に売り、防具も付けず、チートスキルも使わない。レベルも上げない? 

 舐めんな!!





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