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ここから全てが始まった

暗闇の中で目が覚めた。

 寝起きで頭がハッキリしない。今の時刻を確認したいが、時計の場所も分からない。


 それから、やたらと頭の中で、主張してくるこのぐるぐる途方もなく回る不快感。いっそこのまま、なにも気にせずに永遠に目を閉じていられたなら、どれだけ楽になるのだろうと、つい考えてしまう。


  ぐぅうう〜

 うとうと目を閉じかけていたルマロだったが、それもお腹の中の虫が、腹の足しになる物を寄越せとうるさいばかりに邪魔をされてしまった。それも、無理のない事だ。なにせ、昼からなにも口にしていないのだから。


 お腹がすいた、何か食べたい。

周囲を確認する。よく目を凝らして見ると、ぼんやりとしか見えないが机の上になにかが乗っている。手に取ると、手触りからして、なにかの果実だということまで分かった。

 ここで、少しルマロは考える。これは、食べても良いのだろうか。


もしかすると、正しい手順で食べないと急激に味が変化して不味くなるかも知れない。それに、果物を置いている本人に、一度断りを入れないと、もしかしたら、後から食べようと楽しみにしているかも知れないし。かといってここでなにも食べずに夜が更けるのを、待つのは出来そうにない。


ぐぅうううぅ〜

お腹の減りも限界だ。皮ごと齧り付く。シャリシャリとした食感に桃の甘さとミカンの酸味を足して2で割った様な味が広がる。うん、なんだか不思議な味だがうまい。

2口、3口と食べる内に手の中の果実は無くなってしまった。


 どうやらまだまだお腹の虫は満足してはくれないらしい。それどころか、もっと量を求めてくる。


 

果実の乗っていた机の上をもっとよく見てみるとまだ二つなにかが乗っている。


  手に取り確認する、一つは小さな置時計、もう一つは、また別の果実のようだ。

 こちらも皮ごと齧り付く。さっきのやつとは打って変わって、すごく酸っぱい。しっかりと噛みしめる、すると味が噛む度に変化してきてマスカットの様な味に変わった。一度に二度おいしい。そして、なんだか不思議と力が湧いてくる。さっきまで頭を支配していた感覚はいつの間にか消えていて、逆に凄く頭が冴えてきた。きっとこれを置いていてくれたのはミリーネなんだろう。後でお礼を言わないとな。

 お腹の虫は、「取り敢えず満足した!」と、ご機嫌のようなので、ルマロは、ゆっくりと目を閉じた。

 

 しかし、いくら目を閉じていようと寝返りをうとうと、欠伸の一つも出やしない。おかしい。それどころかさっきまで眠い眠いと訴えていた自分が、これから運動を目一杯して来ても一切疲れやしないのではないかと思う位、体が軽い。どうやらさっき2つ目に食べた果実は、食べた人の体を限界を超えて稼働させられるすごい物の様だ。ミリーネの気遣いが、かえって自分を、苦しめているとは、当の本人は、知らないだろう。(一言聞けば良かった。)この夜は、長くなりそうだ。

 


─────────────────────


──これは、とある少年の昔の話。

「おとーさん!」タッタッタッと靴で地を蹴る軽快な音が鳴る、そのまま大好きなお父さんの体に飛び込み、一瞬、大きな父親の体がぐらついて庭の芝生に倒れ込む。


 それを受けて、未だ芝生に倒れ込んでいる父親は、口を開いた。

「ルマロ、お父さんに少しは遠慮してくれてもいいんだぞ?」

「えんりょってなぁに?」首を傾げる。

いいか、人を思いやる心の事だ。おもいやるこころってなぁに?人に優しくしたり、なにかいい事を自分で気付いてしてあげることだ。ふーん、分かんない。おいおい。


 父親の言う事にお構い無しな息子に、どうしたものかと考えていると、どこからかお菓子の焼けるいい匂いがして来る。庭の時計台をみると、もうすぐ、おやつの時間の様だ。ルマロと呼ばれた少年は、匂いに気付くと直ぐに「おかーさんのくっきーだ!!」と反応しお父さんを放ったらかして家に駆け込む。お父さんも、変わり身の早い息子に頭を掻きながら、愛する妻のクッキーを食べに家へと駆け出した。


─────────────────────

 

 窓から射し込む光で、目が覚めた。中々昨日の夜は大変だった。果実を食べた後にさぁ寝ようとしていたら、水分を摂ったせいか、トイレに行きたくなった。しかしこの家の地図をまだ把握していなかった為に、トイレに行けず、ずっと我慢するしか方法は無く、かれこれ長い時間を過ごした。それに、下手に動いて病室が分からなくなったら大変だと思ったし、これだけ大きい建物なんだ(因みにここは3階で、外には、普通の民家十個分位の庭がある。)侵入者撃退用のトラップだって沢山あるだろうし…それからそれからー


 長々と自分に対する言い訳をしていたら、ガラガラと病室のドアが開いた。

「ミリーネ、おはよう。」

「おはよう、その…昨日は大丈夫だった?」


 ゆるりとしたワンピースを着たミリーネが、昨日の事を心配して聞いてくる。

なんだか、昨日の事を話すのは凄く情けないので、「うん、特に。身体の方は大丈夫みたいだ。」とだけ言う。

 それを聞いたミリーネが、凄く安心したように笑うので心がちょっと痛い。


「それと…ごめんなさい。」


さっきの表情とは一変し、俯いて申し訳なさそうに「きっと、なにか思い出したくない事でもあったんでしょう?」と聞いてきた。


「別に気にしなくてもいいよ。それに僕の方こそ、君に心配をかけさせてしまったからね。それで、おあいこだ。」

 ミリーネは、それを聞いて「でも、それじゃあ君に不公平じゃないの!」と、声を荒げた。


 お嬢様は、責任感も強い反面、罪悪感も感じやすいようだ。………人を轢いても、ケロッとした感じではあったが。慣れてるのかな?(慣れているなら、すごく怖いんだけど。)


 ミリーネに対して、犯罪常習者を見る目を向けると、俺が、考えている事が少し伝わったのか、「轢いたのも…勿論悪いと思ってるわよ?」と、目が泳ぐ。どうやら事故<<人の過去らしい。大きめな溜息をわざとらしくついて、

「じゃあさ。俺のお願いを一つ聞いてくれないかな?」と、提案してみた。


 ミリーネに、笑顔が戻る。それから、元気良く「任せてよ!なんでもするわ!」と胸を張る。


 なんでも…?

 かなり悪い考えが浮かんでしまうが、そんなに俺はクズじゃない。今考えた事をゴミ箱に、捨てて他にして欲しい事を考えた。


 そして、今お腹が空いているという事にふと気付き、それから「じゃあさ。」ぐぅうぅうぅ〜。タイミング良くお腹が、証拠を見せた。我ながら良くできていると思うタイミングだと、ルマロは、感心する。


「お腹が空いたから朝ご飯、食べさせてくれる?」


 ミリーネは、ニッと笑ってみせると、「分かった!腕によりを掛けて作ってあげる!」と、自信満々な笑みをルマロに向けたのだった。


────────────

 カツン、カツンと廊下に足音が響き渡る。

廊下を歩くだけで分かるお金持ち感に、ミリーネと自分では住んでいる世界が違うということが嫌というほど分かる。


 それにしても、広い家だなーとか、あの絵画とかどれ位の価値があるんだろーとか、考えながら、ルマロは、ある一種の不安を抱えていた。そう、問題は、【ミリーネは、料理が出来る人か、出来ない人かと言う所だ。】


 ここで、ちょっと下手なぐらいだったらまだ良い。なんとかなるだろう。だが、極限的に下手ならば…覚悟を決めないといけないかもしれない。(もう下手だという確信はある。)くそっ!あまりリサーチもせずに、ご飯を作ってなんて言わなきゃ良かった!


「ルマロ~?聞いてる?」


「うん?ああ聞いてる聞いてる。」


「着いたけど。」


「もう?意外と近いね。」


 ミリーネが身長よりも大きい扉を、力を込めて開ける。キィーッと高い音と共に部屋に満ちる陽光が射し込んできた。


「まあいいわ。適当な所座ってて、ちなみにだけど、何が食べたい?」


ここは、無難な奴にしといた方が良さそうだな…。


「トーストと、ベーコンエッグ。あと、スープとか?」


「じゃあ、急いで作ってくるからちょっと待ってて。」


 足早に調理場に向かうミリーネを見届けて、一人感慨に耽る。


 まあいいやゆっくりと料理が出来るのを待とうじゃないか。


       ♠

「お待たせ。私特製モーニングセットになります。」

 ふわりっと鼻をくすぐる朝の香りに、不思義と笑顔が溢れる。ふむ…見た目は、悪くない。匂いも変な物が入ってそうな感じはしない…。


 まずは一口スープから頂くとしよう。

 ズズズッとスープを啜ると、じんわりと優しい味が、口いっぱいに広がって、そこから、野菜や鳥の出汁が身体を労るように、喉を伝っていく…

 ヤバイ。メッチャ美味い!意外にも料理上手なミリーネの事を、下手だと決めつけていた点については、心の中で謝ろう。


 お次は、表面をカリカリに焼いてあるトーストに、卵を半熟とろとろにしてあるベーコンエッグを、乗せて食べる。すると、トーストのカリふわっとした食感と、ベーコンの塩気、さらに半熟玉子にかぶりついたときの、とろりとした旨味の爆弾が、丁度よく味を整えている…この味を一言で言うならば…!


      【最高でした!】


         ♥


「いや~にしてもビックリ。ミリーネって料理上手なんだな。」

 

「まあ、この屋敷の中って実は私以外住んでないから。昔から自分でなにかをする事が多くなって、そしたらいつの間にか。」


「ここに、一人で住んでたのか。両親は、どこに居るんだ?」


「ちょっと分かんないかな…。」

 一瞬、ミリーネが少し寂しそうな顔をしたのを見て、今の質問をした事を後悔した。


「そっか…。なんか、ミリーネって意外と…?」

「いきなり何よ。言ったって何も出ないわよ。」

「そんな事は、別に考えてないよ。──ただ、ここで一人寂しく誰かの帰りを待つぐらいなら。」

 笑顔で、先程まで自分が持っていた彼女のイメージを全て払拭して、今抱いている感情をそのまま言う。この子となら、この旅も楽しくなりそうだし。

「───俺と、旅に出てみないか?」


 

 

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