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夢の浮橋

作者: 薪槻 暁

たったの2500字程度の短編小説なので読んで下されば嬉しいかな。。と。


最後まで読んでいただいて、謎を感じていただけたら幸いです。。。。

 「眠る」とは不愛想なものである。こう語るのには寝ることに対して不信感だとか昔眠ったことで嫌な経験があったから嫌悪感を抱いているとか別に個人的な主観のためじゃない。何も自分が「眠る」ということに対してデメリットや、勿論損することなど無いのだが逆に良い所もない。俺にとってはそこにあるだけのものにしか成り得ないし、人間の営みに入り込んでいる仕方のない現象なのだ。いい夢を見れるから「眠る」ことが素晴らしいなんて執拗に語り掛けてくる自称睡眠家のような輩もいるわけだが、大抵そんな奴らは悪い夢を見るという確率を減少傾向にあるなどと論じようとする。まあいえば悪い夢の確率が50%ととして高いか低いかって話だ。


 つまりそんな「眠る」ということを語ろうと、論争しようとしてもそれ自体が『夢物語』ということだ。何だって寝ること自体、自分に意識があるわけでも無いのに良い夢、悪い夢があるなんて語ること自体も変な話だが、俺はどちらも信用しない。なぜならどちらも「夢」だからだ。


 だから俺が今こうやって何の変哲もないベッドの上で起き上がったことには途轍もない驚嘆だった。


 俺が起床したとき、つまり意識が覚醒したとき、俺の体が下にあったのだ。壁を向いて寝ている姿を自分で見るという行為はどことなく新鮮味を感じたのだが、自分の部屋に自分以外の立場として居座っているというのもみずみずしさがあった。居座っているという表現もあまり適しないようでもう一度言わせてもらうと、「浮いている」または「浮遊している」との方が良い。


 今、覚醒している体は半透明で部屋の壁をすり抜けることも可能らしい。隣の妹の部屋を覗くことも出来るようだが、特段したいという衝動もない。身内以外だとか関係が無い他人ならば覗き込んだのかもしれないが、そうではないので興味も何もわかなかった。


 簡単な話だ。これは幽体離脱である。


 幽体離脱などどこのフィクションのお話だろうか、そもそも自分がそこにいるのにその意識がこちらにある。ならばその肉体を動かすのは一体誰であろうかなんて考えれば一目瞭然、それは「夢」でしかありえないのだ。


 時刻は朝日迎える頃であろうか、地平線からはみ出す陽光が俺を照らし始める。鶏の鳴き声も聞けたらば、なんて清々しい朝なのだろうと思うのだが、ここは東京23区。有り得ない。


 ならば、と他の眩しい朝を迎える要因を探そうと思っても中々見つからない。するとジリリという人工的で干からびたアラームが部屋中に鳴り響いた。


 どうやら俺の体の方は仕方なく上体を起こしたようで、毛布から伸びた腕はアラーム音を停止させたようだった。酷く重たそうな腕と肩をベッドから起こし、下半身を床に着陸させる。一つ一つの動作が遅く、まるで何かにとりつかれたかのようにのそりのそりと動き始めたのである。



 それからの俺は朝食を取り、高校に行く身支度を済ませる動作は見慣れたものだった。なるほど、今の俺は排泄要素がない代わりに食欲も当然ながらないようだ。


 登校して高校に到着するまでは何も起こらず、ただ呑気な男子高校生の生活やら現状を客観的に見ているだけのような場景だった。


 だが、到着してからである。


「お前って天絵さんと仲良かったっけ?」


「モテ期来たじゃん!!」


 俺の席の周りが何やら噂話を持ちかけてくる生徒で溢れかえる……なんてのは言い過ぎだが、廊下や教室を通り過ぎる際に呼びかけられることが多々あった。


 早見天絵。俺が中学一年の頃から気になっていた人物。好きという感情が唯一ある女性。


 ともかく俺はそんな噂話を聞くに堪えないものだと、どうでもいい話のようにさらりと受け流しながら授業が終わる六時間目まで過ごした。そう、人の噂も七十五日といつしかありもしないことであるように信じ込んでいた。


 それがこの有様である。机の引き出しにそっと入れられた一つのピンクの封筒、星のシールで貼られ綴じられている。


「今日図書室で 早見天絵より」


 か弱くてパッと見て女の子のような文字。俺にはどうしてもそれが俺を騙すために男子が書いたように思えないし、悪巧みしている女生徒が書いたような文字でも無いと不思議と予想できた。


 俺はそのまま放課後が訪れるにつれて、図書室で待機することにした。都合よく図書管理委員もおらず、読書や自習する生徒もいない。まさしく二人きりになるには絶好のシチュエーションだった。


 摩擦が多そうな扉の開閉音が背後から聞こえると気づくと、やはりそこにいたのは早見天絵だった。


 「今日はありがとう」と俺の方を見据えて言うと、俺自身も「こちらこそ」と返答した。少なげな日差しが俺と早見の間を照らすことで隔壁を生み出すが、それを埋めるように彼女の口が開いた。


「あ、あの」


 自分が好かれること自体が珍しいからか新鮮さを感じた。


「もし良かったら…………つきあってくれませんか……」


 いつしか目線があちらこちらにせわしなく動いているようで、彼女の唇も震えていた。小さく絞り出したような声は、それ相応の意味合いを持っていたということなのか。


「いいよ」

 

 俺は躊躇なく了承した。ここで躊躇いなく返答していては尻軽だとか軽い男なんて言われるかもしれないがそんな感情など一切無かったことに等しい。つまりはこの人と付き合いたかったのだ。


 それからは連絡先を交換し、翌日の土曜にショッピングモールで買物に行こうなどと提案した。ちょうど時計が壊れていたし、その代替品を買うついでにだ。


 俺は有頂天のまま帰宅し夕食、風呂を済ませてからチャット式の会話アプリで早見と会話した。明日はどこで集まろうかとか、何時に集まろうだとか、取り敢えず明日に関わることを話し合うためだ。知りたいことは山ほどあったが明日のプランについて考えることを優先したのだ。


 そうやって明日へ期待しながらも寝落ちすることになり、翌日。



 それは金曜日だった。


お読みくださりありがとうございました!


「夢」、「眠る」。私としてはこれ以上に興味深いものはありません。。もしかしたら「死」よりも気になるかもしれない概念かと。。。


久しぶりの短編小説でしたが、また機会があったら書こうかと考えています。


では。。。


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