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Re:The End《レジェンド》  作者: フィルゼ
第一章
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05 再びベッドは叫ぶ

 書いているといつの間にか朝ですよ、おはようございます。

では、どうぞ。


「さて、ここまでで何か質問しておきたい事はあるかの?」


 火球が消え、ランタンだけの薄暗い光に目が慣れてきた頃に、ヨークシャ爺さんが尋ねてくる。


「色々驚きはあるけど、この際これは夢だと割り切るとして、とりあえずは4つの質問。

 まず1つ。今の話だと、俺はあんた達の敵になるはずだ。それなのに何故未だに殺されていない? それどころか、『異種世界間戦争』とやらについてまで話したのはどうしてだ?」


 捕虜にしたって待遇が良すぎる。知っている限りの捕虜の扱いは、こんな軽いものでは無かったと思う。


「ふぅむ、良い質問じゃの」

 

「2つ目。もしかしたら1つ目の答えと被るかもしれないけど、ニミュを身体の上に乗せたままにしていた事。

 さっき見たところ、魔法を消す加護みたいだったけど、俺たちの世界の人間に魔法は使えない。なのになんでそんなに危険な事をさせたままにしておいたんだ?」


「これは1つ目の疑問の答えとニミュの加護が分からぬ状況ならば、当然出てくる疑問じゃの」


 ヨークシャ爺さんに向かって頷き、更に続ける。


「3つ目。どうしてそんなに異世界人の俺を受け入れるのが早い? 魔法か加護であんた達が呼び出したからか?」


「呼び出した訳ではない」


 すかさずロンドが否定した。


「答えについては後ほど。4つ目の質問を先に聞こうかの」


「んじゃ最後に。加護ってそもそも、なんだ? どうやって得たものなんだ? んで、なんで解決策になれた?」


「こいつぁたまげたなぁ使徒殿、頭のキレが半端じゃねぇ!」


「ガラックの、頭が、弱いだけ。酒の飲み過ぎの、せい」


「おぅよなんか言ったかい、無口なエルフさんよぉ!」


「やめいやめい、また話が進まなくなるんじゃて。

 さて、使徒様の質問に答えていくぞい」


 尽くづく仲悪いな……。


「さて、1つ目の質問の答えじゃが、これは簡単じゃ。

 世界の頂点である神達が対立しているのはさっき話した通りじゃが、だからと言って世界丸々が神――こちらの世界の神は「セグト神」と呼ばれておる――と同意見と言うわけではない。

 いきなり神達の代理戦争をやれと言われて、はいそうですかと戦争を始める奴はそうおらん。しかも見ず知らずの異世界人と、じゃ。故にこちらの世界では勢力が分裂した。賛成派と反対派でな。そして、儂等は反対派に属しておる」


「つまり、俺たちとコンタクトをとって、戦争をせず話し合いで解決しようとした、って事か」


「そういう……事」


 何を思ったのか、無口なシャーラさんが真剣な眼差しで喋り始めた。自然と全員がシャーラさんの方を向いて、彼女の声を聴くことに集中する。


「私は、セグト神から言われたままに、争いをするのは……馬鹿げてると思う。意思は、尊重すべきもの……。だから、この戦争には反対。絶対に」


 過去になんかあったのか、その言葉はとても強い意志が込められていた。

 なんだ、やっぱりちゃんと芯の通ったいい人じゃないか、シャーラさんは。


「うむ、儂等一同、そういう思いで反対派に付いておる。無論、そちらの世界に戦争をふっかける様な賛成派とは戦うがの、それは儂等の意思を儂等が尊重しているという事じゃて。

 この話はここまでにしておいて、次の質問の回答に移ろうかの。

 2つ目の質問の答えじゃが、これはニミュの加護について知れば納得するじゃろうて」


「ニミュはね! 触れば何でも消せるのー!」


 自分の話題が出た途端に右手をはいはい、と挙げながらニミュがそう言った。

 アバウトな説明ありがとう、ぜんっぜん分かんない。でも可愛いからいいや。

 笑みが溢れそうになる仕草をするニミュから目を離しつつ、周りを見渡す。

 ニミュに変わって説明、誰かお願い!

 最初に発言してくれたのはリーゼだった。


「ニミュの加護は、触れたもののある概念を消す、ってものよ」


「どういうことだ? さっきのは魔法を消してたんじゃ?」


「違うわ」


 と、リーゼ。


「さっきニミュが消したのは、私の中の、【魔力】という概念そのものよ」


「魔法に魔力は必須。魔力が無くなれば魔法が使えないのは必然じゃて」


 なるほど。劣化イ○ジンブレイカーって事か。いや、使いようによっては越えるかも?


「とにかく、分かった。例えばニミュが俺に触って【臓器】を消せば、俺の中にある心臓から膵臓まで、全部が全部消滅するんだな」


 一人で勝手に頷いていると、ヨークシャ爺さんが首を横に振った。


「厳密に言うと違うの。ニミュの加護は、触れたものの中からある一つの概念を、「消す」加護じゃ」


「違いが分からないんだけど」


「無くなりはせんと言う事じゃよ。リーゼが再び魔法を使えるように、な」


 そう言ってリーゼの方を向いたのでつられて同じ方向を見ると、リーゼが再び火球を生み出していた。


「熱で消えて冷やせばまた出てくる、あのボールペンみたいな物、って事か……」


「ぼーるぺん? 食べ物ー?」


 寄ってきたニミュの頭を撫でながら、違うぞーと答えて更に考える。


「……俺に触れて、俺の中の【加護】の概念を終始消してたって訳だな。何するか分からないんだから、それも当然か」


「ちなみに、物理的に攻撃するようなら儂が使徒様の首を掻っ切る手はずじゃった。そうならんで良かったんじゃて」

 

 あっけらかんと言い放つヨークシャ爺さん。

 その態度に、夢と分かっていても顔が引きつる。


「パニクらなくて心底良かったよ……。それでヨークシャ爺さんは自分達が悪い、って言ってたんだな」


「じゃ、次は3つ目ね。私達がここまで落ち着き払っている理由、よね?」


 左手で髪を掻き上げ、視線をこちらに移しながらリーゼが話を再び進める。


「ああ、そうだな。さっき否定されたけど、あんた達が呼んだんじゃないなら、どういう理屈があるんだ?」


 少し悩んだ素振りを見せる少女。

 正直、何をしても絵になるくらいで恐ろしい。将来は魔性の女とかになるのかなぁ。


「ま、ここまで話したんだし、私の加護についても話しても良いわよね?」


 彼女は周囲に同意を求め、ニミュと俺以外の全員がそれに応じた。


「限定的な未来予知。それが私の加護よ」


「あー、大体察した」


 所謂チート能力、もとい加護。不確定な未来を見透す事によって得られるメリットは計り知れない。限定的であろうと、だ。

 そもそも未来が、行く末が分からない人間達が信仰し頼ったのが神だ。そんな力を人間が持つなんて、


「最早神の領域だよ……」


「使徒さん、察しが良すぎやしねぇかい?」


 ガラックが突然そう言った。


「え、なんでだ?」


「それが4つ目の質問の答えに限り無く近い、と言う事じゃよ。

 加護の力、これの正体は正に神の力。神が保有している能力を、人類に割り振ったものが加護なのじゃからな」


 だから加護、なんて他人行儀な言い方をしていた訳だ、合点がいった。


「神の力はそちらの世界の方が少し上。しかして儂等の世界の民は魔法を使える。加護という強力な力が付与されたことによって、数という埋め難い差も解消されたんじゃて」


「かくして代理戦争の舞台設定は整った、って訳か」


 俺がした質問全てに答えが返された事で、一旦部屋の中が静けさに包まれた。

 返答を聞いて更に出てきた疑問を解消させようと、再び口を開きかけたその時。


「わぁー、使徒様から光が出てるー!」


 ニミュの歓声に言葉を詰まらせ、刹那、自分の身体を見る。確かに、極小の泡のような光が俺の身体のあちこちから出ていた。


「どうやら、夢はこの辺で覚めてしまう、ってことみたいだな」


 ふぅ、と目を瞑って一度ため息をつく。

 なんだかんだで面白い経験をさせてもらった。そのお礼を言おうと、再び瞼を持ち上げる。


「ありが……。おい、どうした?」


 下から上がってきた視界に飛び込んできたのは、焦燥の隠しきれない4つの顔と、臨戦態勢に入った一人のオオカミだった。

 直ぐにリーゼが何かに突き動かされたように素早い動きで廊下に消え、シャーラとロンド、そしてニミュを抱えたヨークシャ爺さんもそれに続く。


「なぁ、使徒さんよ。帰らねぇ、なんて事はできねぇかい? ずっと、なんて事は言わねぇ。あと数分で良い、どうにかここに留まってくれや」


 さっきまでの態度と一変、青ざめた顔をさらに引きつらせながら一人残ったガラックが言う。

 無理だって、ただ目覚めるだけなんだから。夢だと、起きたくないと意識すればするほど現実に浮き上がる力が大きくなるのが夢なんだから。


「すまん、何を焦ってるのかは分からないけど、帰らないようにするってのは無理だ」


 明らかに落胆した顔を見せたガラックが、これまで片時も離さなかった酒瓶をしっかりとした木製のテーブルに置き、決意に満ちた表情で


「だったら力ずくでも止めてやらぁよ! 使徒さんすまねぇな!」


 と言って、俺の腰に巻き付く。


「ガラック! 既に使徒様があちらに呼ばれてる時点で手遅れよ! さっさとここを発つをしたらどう!?」


 廊下から再び顔を見せたリーゼの手には、彼女の瞳の色とよく似た黄緑色の球のようなものが柄に付いた杖らしきものと、おそらく最低限の物だけを入れた布カバンが握られていた。

 あとに続いて入ってきた他の皆も、似たようなカバンと、それぞれの使用する武器らしきものをもっていた。

 ロンドは人間大程もある大きな黒光りした両刃斧を。

 シャーラはよくしなりそうな木材で作られた精巧な弓と数十本の矢入りの矢筒を。

 ヨークシャ爺さんはニスのような光沢をした、ただの木の棒にも見える杖状のものを。


「酔っ払っておるのか、ガラックよ! 早く引き上げ無ければ追い付かれるぞ!」


 ヨークシャ爺さんも見かねたのかガラックを急かす。

 

「だぁー、クソが! 逃げてばっかで情けねえ!!」


 言うが早いか、俺の抵抗虚しく中程まで下がったズボンをおっぽり出して廊下に消えた。より一層激しくなる光の泡に包まれて、もう目の前があまり見えなくなってきた。


「儂等はこのままここを出る。達者での、使徒様」


 どこからか、ヨークシャ爺さんの声が聞こえた。


「ああ、何があったのか分かんねぇけど、気を付けてな」


 また、この夢を訪れるよ。

 光があまりに強くなって、開けられなくなった目を瞑りながら心の中でそう、思った。


 



 ――次に目を開いたときには、いつの間にかカーテンの閉まった保健室のベッドの上に立っていた。







     ―――――――――――――――――――



「と、いうのが夢の出来事だ。いやぁ、夢にしては内容が詰まりすぎてて、正直寝たのに疲れが取れたんだか取れてないんだか分かんねぇよ」


 話し終えた千草がそう言った。


「…………これ、夢だよな?」


 あまりに詳細な事まで話す千草を見ていると、中身はデタラメなのに、まるで事実であったかのような印象を受けた。

 

「とりあえずそれは気にしないでおくとして、やっぱり問題は、あの子がお前の夢に出てきた理由だよな」


「外人の共通の知り合いなんているっけ?」


「ALTのアンドリュー先生以外に俺は覚えがないな」

 

 だよなぁ。と千草が小さく呟く。

 

「俺が見たのも、多分……夢の中なんだよ。異世界じゃなく、現実でだけど」


「もしかするとディスマンみたいに、集団で同じ人を夢の中で見たんじゃねぇか?」


「あったな、そんな都市伝説。まぁそれは置いといてだ。俺のも現実じみた夢だった。今日の放課後にそのリーゼ?って娘が空から降ってくる、っていう……」


「お前も大概俺と変わらねぇな」


 そう言って千草はまたケタケタと笑う。


「よし、とりあえず結論が出ねぇし、一旦教室に戻ろうぜ。あと少しで数学も終わるだろうしよ。あと、放課後お前の見た夢の場所に行ってみようぜ。何も無いって確認した方が精神的に楽だろ?」  


 千草の意見にそうだな、と同意する。千草に話を聞いた事で、残りの手がかりは現場に行くこと以外に無くなった。否定する理由も無い。問題は彼女が死にかけていたという事だが、事前に分かっているのだから救急車を先に呼ぶ事だってできる。彼女を助けることはできるはずだ。


「んじゃ、教室に帰りますか」


 言って、千草はベッドから立ち上がり、古ぼけたドアへ向かう。慌てて俺もそれに続いた。


 ガチャ 

 キィィ

 バタン


 ようやく少し進展した。

 保健室から出た俺は、そんな感動とも言える気持ちと共に教室に向かう。


――その刹那。

 

 保険室内から、ギシッというベッドの軋む音が廊下まで響いた。

 先を歩いていた千草が踵を返してこちらへ戻ってくる。返ってきた千草と顔を見合わせて頷きあうと、さっき手を離したばかりのドアノブをガッと掴み、勢いよく開ける。そこには――





「んだよ、飛ばされちまったのか。まぁ良いわ、手慣らしがてらこっちの人間狩ってりゃそのうち迎えも来るだろ」


 よく手入れがされているだろう曲刀を片手に持った、こちらの知識で言うところの盗賊の様な風貌の男と。

 




 件の少女。血と傷にまみれた、身じろぎ一つしないリーゼがいた。



 




 



 

 




説明パートが終わりました。やっと物語自体を進められる……!


 ブックマークや感想、評価等頂けると励みになります!

ここが良かった、ここが分かり難かった。ここはどういう事?などなどあれば、それも是非感想で言って頂けると有り難いです。


それでは、また次回も宜しくお願いします。

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