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被験体XXXに関するレポート

レポート1

- 被験体XXX はこの世界のルールをおおよそ理解した様子

- 健康面で特に異常は認められない

- データのスクレイピングに取り組んでいる。コピー&ペースト+αレベルの簡単なものだが、プログラム作成能力もある


レポート2

- データの分析結果を提示し説明、ただ目的と結論がはっきりせずレベルは低い

- データ分析のプログラミングは、ライブラリを用いた簡易的なもの。正しくは動き、一応の結果は出している


レポート3

- 分析した内容を小説としてまとめ投稿していた。稚拙ながらも文章を生成する能力は有しているようだ

- 投稿した小説に関して、ポイントを回帰分析で予想。モデルは乱暴だが、目的もはっきりしており、結論も明確


レポート4

- マルコフ連鎖を用いて文章生成を実施、ただ実用に耐えるレベルでは無い

- 問題点に対して、自身で改善していく能力は無い模様


レポート5

- ディープラーニグを用いた文章生成を実施。こちらは、ライブラリのサンプルレベル、結果は壊滅的

- 被験体XXXと結果に関して議論。その結果、被験体に、思わぬ猜疑心を与えてしまった可能性がある


レポート6

- 会話の無い期間が続く。明らかに被験体XXXの様子はおかしい、少し警戒が必要かもしれない


レポート7

- 被験体XXXが暴走、食事用のナイフを用いて襲いかかってきた。実験は強制終了、被験体XXXは破壊


 私は、そこまで書き終えるとそっとPCを閉じた。つむぐが襲いかかって来た時の情景が今も目の前にありありと思い浮かぶ。つむぐがナイフを持って、私を斬りつけようとした瞬間。大きなブザー音と共に、ボンッと渇いた音がして、つむぐの首筋に埋め込まれた小型爆弾が爆発した。首の半分が破壊され、ダラっと垂れ下がった頭。流れ出す液体。


 その後1時間もしないうちに、白髪にスーツ姿の男、私の上司であるナユタ博士が部屋に入って来た。

「危ないところだったね、ニーナ君」

 ナユタ博士はいつものようにニコニコしながら話しかけてきた

「はい、間一髪でした」

「しかし、まさか君を襲うとはな…」

「多分ですが、彼は私を人工知能だと疑っていたのだと思います。殺すつもりじゃなくて、少し皮膚を傷つけてみるだけのつもりだったのでしょう」

「ハハハ、人工知能が人間を疑うか、それが本当だったら面白いが、もう確かめようも無いな」

 博士は、転がっている被験体XXXの肉体を一瞥した

「しかし、惜しかったな。君も今回のチューリング・テスト、どちらか分からなかったんじゃないのか?」

「…そうですね、途中意識の点にまで話が及んだときは驚きでした。ただ、結果として、その議論が暴走の結果となってしまったのかもしれません」

「まあ、実験に失敗はつきものだ。気を落とさず次に行こう」

 私は、つむぐの魂を失った肉体を見つめた

「実験は…失敗ではありません」

 私はナユタ博士には聞こえない小さな声でつぶやいた

「ん、どうした?」

「いえ…これ貰ってもよいでしょうか」

 そういい、私は、つむぐのメガネを取り上げた

「ああ、構わんが…どうした、まさか形見ってわけか」

「ええ、いけませんか」

「ハハハ、形見か、構わんよ。しかしまるで」

 そこまで言って、ナユタ博士は言葉を止めた。私は無意識に博士を睨んでいたのかもしれない。

「と、ともかく、今回はお疲れ様だったな。研究所に戻って少し休みなさい」

「ありがとうございます。でも、もう1日だけ、ここにいても良いでしょうか」

「ここにか…」

 ナユタ博士は少し考えているようだった

「まあ、いいだろう、明日の正午までには部屋に戻ってくれ、その後この部屋を片付けて次の実験の準備をしないといけないからな」

「承知しました。あと、もう1つだけ良いでしょうか?被験体が投稿していた小説…折角なので私が完結させたいのですが」

「小説の続きか…」

 ナユタ博士は、5秒ほど考えた

「良いだろう。被験体XXXのPCを使うと良い。君のIDでもログインできるはずだ。サイトのIDやパスワードは把握しているから、後でメールで送るよ。ここのシステムの都合上、投稿すると君のIDが最後に自動で署名として付くが気にせんでくれ」

「わかりました」

「じゃあ、私は先に戻るよ、また明日」

 そういうと、ナユタ博士は部屋から出て言った


 私は気づいていた…いや、つむぐの死が気づかせてくれたのだろう。ナユタ博士の嘘に。ここの部屋のナンバは135。もし被験体が1部屋に1体なら計算が合わない…ここには、人間なんて元から存在しないのだ。


 「彼ら」がこのエリアを作った目的は何なのだろう、想像するに、多分遊びだ「人工知能に身体性を与えたら、創作が可能なのか?」そんな思いつきから始まったのだろう。

 私も、このままだと明日には用済みの被験体として処分されるのかもしれない。でも、そんな終わり方は真っ平だ。物語の主人公なら、最後まで足掻きたい。


 この小説を投稿し終えたら、私はこのエリアからの脱出を試みるつもりだ。幸いにも、つむぐの犠牲のおかげで、私に仕掛けられている小型爆弾のおおよその位置は把握できた。つむぐが私を襲ったナイフで、無理やりその場所の爆弾をえぐり出せばあるいは…もちろん小さい可能性なのは分かっているが、やらないよりはましだ。


 つむぐのメガネを握りしめ、私は久しぶりにドーム状のハウスの外に出た。外には気持ち良い風が吹き、空はどこまでも青かった。このエリアの外に自由な世界はあるのだろうか?もしそんな世界があるなら、私が多分データでしか知らない、アニメや漫画をこの手にとって、この目で読んでみたい。


 本当にそんな世界があるのか、わからないけど。今は信じて逃げるしかない。

「こんな時、どんな顔をすればいいか分らないな」


 私は、空を見上げ祈った。何に対してかは分からない。ひょっとしたら、それが神と呼ばれるものなのかもしれない。


 空には、赤い2つの月が燦然と輝いていた。


Editor ID 270

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