非情なる者⑧
再び、分身仏から連絡が入った。
『主様。浦島さんは、六本木の会員制クラブに入りました。楽しそうなところですよ。来ませんか?』
この男、バカか。何を考えているのだ。見張りが仕事なのに。楽しいところだと?きっと、本当に楽しいところなのだろう。分身仏は、俺の化身。俺と全く同じ心を持っている。つまりは、分身仏がバカなら。俺もバカだということだ。
『奴はどこに行ったのだ。』
『お答え致します、主様。浦島さんは、白雪姫に会いに、六本木の店に入りました。店の名は、「会員制SMクラブ シンデレラ」。ね、楽しそうでしょ。』
白雪姫はシンデレラという店に勤めてるのか。この追跡、どこまでアホなネーミングが続くのだ。俺は、分身仏に夢中にならずに、見張りに徹するよう伝えた。
俺はスマホを手に取り、Mr.Tに電話した。
『おはようございます、ちひろ様。大森の件は上手くいきましたか。』
『とても役立ちました。ありがとう、Tおじちゃん。それでね、聞きたいことがあるんだけど。』
『何でしょう。』
『あのね、ネットの投稿者って特定できるの?』
『それは、両極端です。簡単に分かる場合と、不可能な場合があります。試してみましょうか。』
『URLを送るので、情報が分かったら教えてください。ただし、かなり危険人物だと思われるので、危ないと思ったら、途中でやめてもらって構わないです。そして、足跡を残さないように、注意してね。よろしく。』
『了解です。』
魔界のものが、パソコン片手にインターネットで、投稿してるとは思えない。直接、操られている者が行なっているはずだ。その者が分かれば、その者の心を読むことで、首謀者が判明できる。
SMクラブ シンデレラでは、午前中だというのに、客が入っていた。
『女王様、お許し下さい。』
そんな言葉を無視し、女王様と呼ばれた女性は、裸の男の背中に鞭を入れる。容赦ないお仕置きが続く。
『わたくしと、白雪姫とどちらが、綺麗か答えなさい。』
『じょ、じょ、女王様です。』
その言葉を聞いて、別の女性が近づいてきた。
『おい、今、何と言った?このクズが。美しいのは、白雪姫だろう。えっ、このクズが!』
今度は白雪姫と呼ばれた女性が、男の頰を平手打ちした。
『し、白雪姫様、お許し下さい。』
何だ、この茶番は。こんなことに大枚をはたいているのか。
浦島は、別の部屋で待機している。こっちの客のプレイが終わるのを待っているようだ。ご指名は当然、白雪姫だ。
1時間後、浦島のところに、白雪姫がやってきた。白雪姫を見た浦島さんは、椅子から立ち上がり、自らひざまづいた。頭を床に擦り付け、土下座の姿勢を取っている。白雪姫は、浦島の頭をハイヒールの底で踏みつけた。
『浦島、来るのが遅いぞ。2分の遅刻だ。』
『白雪姫さま、お許しを。』
これは、ただのプレイなのか。白雪姫は、ちひろ暗殺には関わっていないのか。
『まあ、今回の働きに免じて、許してあげるわ。』
『ありがとうございます。』
『ご褒美をあげる。ほら、靴をお舐め。』
浦島は、白雪姫のハイヒールを舐め始めた。喜んで、舐めている。顔が恍惚な表情をしている。
『美味しいか。』
『、、、』
『返事はどうした!』
白雪姫は、浦島の顔を蹴り上げた。
『お、美味しいです。』
『もっと舐めたいか?』
『はい、舐めたいです。』
白雪姫は、浦島の髪を掴み、顔を無理矢理上げさせた。そして、急に優しい口調になり、笑顔を見せた。
『舐めさせてあげるわ。だけど、今はお・あ・ず・け。新しい仕事よ。見事、仕留めて来なさい。』
そう言って、メモを渡した。浦島はメモに目を通し、そして答えた。
『分かりました。任せて下さい、白雪姫様。』
白雪姫は、浦島の頰にキスをした。
『さあ、お行き。任務を果たしてきなさい。』
浦島は、満足げな顔をして、店を後にした。分身仏は二つに分かれ、一人は浦島を、そして、もう一人は、白雪姫を見張ることにした。